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『ラウンド1から世界へ。』  作者: 龍崎
* 第2章 挑戦者、ラスベガスへ向かう

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第1話 第三の武器

REVOLT JAPAN終了から三週間。


大会が終わり、界隈の熱狂も少しずつ落ち着き始めていたが、天野湊の日常は思ったほど変わっていなかった。


朝起きて、昼からコンビニのアルバイトへ向かい、帰宅したらCHRONOS STRIKEを起動する。


基本的にはそれだけだ。


ただ以前と違うのは、自分の名前を知っている人が増えたことだった。


「おはようございまーす。」


バックヤードへ入ると、先に出勤していた佐藤が振り返る。


「おう、おはよう。」


そこまでは普通だった。


問題はその次だ。


「MINATOさん。」


「やめてください。」


反射的に返事が出る。


佐藤は楽しそうに笑った。


「いやー、今や有名人だからな。」


「違います。」


「REVOLT JAPANベスト4。」


「違います。」


「ランク一位。」


「違います。」


「MINATO。」


「それです。」


佐藤が吹き出す。


湊も苦笑するしかなかった。


大会期間中に正体がバレて以来、ほぼ毎日のように同じ流れを繰り返している。


「今度サインくれ。」


「いりません。」


「俺が欲しい。」


「なんでですか。」


「将来高く売れるかもしれない。」


「最低じゃないですか。」


二人とも笑った。


仕事はいつも通りだった。


レジを打つ。


品出しをする。


清掃をする。


特別なことは何もない。


だが時々、以前にはなかったことも起きる。


「あの。」


レジへ来た客が遠慮がちに声を掛けてくる。


「MINATOさんですよね?」


一瞬だけ戸惑う。


だが隠す理由もない。


「あ、はい。」


すると相手の顔が明るくなる。


「応援してます!」


それだけ言って帰っていく。


そんな出来事が少しずつ増えていた。


不思議な感覚だった。


数か月前までは誰にも知られていなかった。


ただゲームが好きなだけの大学生だった。


それが今では応援してくれる人がいる。


期待してくれる人がいる。


嬉しくないわけがなかった。


そして夜。


帰宅。


夕食。


シャワー。


時計を見る。


二十二時。


ここからが本番だった。


パソコンを起動する。


CHRONOS STRIKE。


タイトル画面が表示される。


そしてキャラクター選択画面。


そこには見慣れた景虎と神楽シン。


そしてもう一人。


アップデートで追加されたばかりの新キャラクター。


LEX。


韓国テコンドー。


超高速ラッシュ。


超高難度コンボ。


攻撃継続能力特化。


実装からわずか数週間にもかかわらず、世界中で研究が進められている話題のキャラクターだった。


Nexを開けばLEX。


動画サイトを見ればLEX。


プロ配信でもLEX。


誰もが研究している。


だが誰も完成形を知らない。


湊は画面を見つめる。


景虎。


神楽シン。


そしてLEX。


「やっぱり気になるな。」


自然と呟いていた。


元々は使うつもりがなかった。


景虎がいる。


神楽シンもいる。


十分だった。


だがLEGACYが近付くにつれて考えが変わった。


世界と戦う。


世界四強と戦う。


そのためには新しい武器が欲しい。


景虎は絶対のメイン。


神楽シンは信頼できるサブ。


そしてLEX。


完成すれば第三の武器になる。


湊はトレーニングモードを開く。


LEXを選択。


画面が切り替わる。


まずは歩く。


走る。


飛ぶ。


通常技を振る。


フレームを確認する。


一つずつ性能を調べていく。


そして十分後。


「難し。」


思わず笑った。


想像以上だった。


コンボが難しい。


操作量が多い。


判断も忙しい。


少しでも遅れると全て落ちる。


SNSで超高難度四天王候補だと言われている理由がすぐに分かった。


だが嫌ではない。


むしろ面白かった。


新しい発見がある。


知らない技がある。


まだ誰も正解を知らない。


その感覚が楽しい。


気付けば時間は過ぎていた。


コンボ。


崩し。


起き攻め。


連係。


実戦を想定した研究。


時計を見る。


深夜一時を回っていた。


湊は軽く肩を回す。


画面にはLEX。


まだ未完成。


実戦投入には遠い。


景虎の完成度とは比べものにならない。


神楽シンにも届いていない。


それでも。


少しだけ手応えがあった。


「間に合うかな。」


LEGACYまで残り一か月。


長いようで短い。


短いようで長い。


決して十分な時間ではない。


だが不可能な時間でもなかった。


湊は再びコントローラーを握る。


ラスベガス。


LEGACY。


世界中の怪物たちが集まる舞台。


景虎だけでも戦える。


神楽シンもある。


だが、それだけでは終わりたくなかった。


もっと強くなりたい。


もっと勝ちたい。


もっと上へ行きたい。


そのための新しい可能性。


LEX。


誰も完成形を知らない怪物を見つめながら、天野湊は静かにコンボを繰り返す。


世界への挑戦は、もう始まっていた。

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