第19話 負けられない場所
ルーザーズブラケット。
敗者復活戦。
ここから先は一度負ければ終わりだった。ウィナーズでは許された一敗も、ルーザーズでは許されない。負けた瞬間にREVOLT JAPANは終わり、世界大会本戦への道も閉ざされる。会場の空気は明らかに変わっていた。観客も選手も、その重さを理解している。
実況席でも朝倉翔太がいつもより落ち着いた表情を見せていた。
「さあ皆さん、ルーザーズ準決勝です。」
大型モニターに選手紹介が映し出される。
【MINATO】
【BLADE】
名前が表示された瞬間、会場から大きな歓声と拍手が沸き起こった。
『きた』
『負けたら終わり』
『頑張れMINATO』
『BLADE強いぞ』
『ここが正念場』
コメント欄も緊張感に包まれている。
「MINATO選手にとって初めてですね。」
村瀬が静かに口を開いた。
「本当の意味で負けられない試合というのは。」
その言葉に会場も少し静かになった。
確かにそうだった。
ランクマッチなら次がある。
ウィナーズなら負けてもやり直せる。
だが今は違う。
次はない。
負ければ終わり。
それがトーナメントだった。
選手席で湊はコントローラーを握る。手は震えていない。しかし胸の奥には今まで感じたことのない重さがあった。
世界を目指す選手たちは、ずっとこういう場所で戦ってきたのか。
そんな考えが頭をよぎる。
試合開始。
景虎。
対。
Blade【剣聖】。
FIGHT。
開幕から試合は高いレベルの読み合いになった。景虎が攻めればBLADEが返し、BLADEが主導権を握れば景虎が奪い返す。差し合いもコンボも互角。観客席からは何度も歓声が上がった。
「うまい!」
「どちらも譲らない!」
朝倉も思わず声を張り上げる。
しかし試合が進むにつれ、ほんの少しだけ差が見え始める。
判断。
経験。
土壇場での修正。
その全てでBLADEがわずかに上回っていた。
「ここですね。」
村瀬がモニターを見つめながら言う。
「経験値です。」
「BLADE選手は何度もこの舞台を経験してきました。」
景虎も負けてはいない。差し返しを決め、コンボを繋ぎ、観客を沸かせる場面も何度も作った。
それでも。
返される。
また返される。
少しずつ流れを奪われていく。
一本。
二本。
追い込まれる。
『頑張れ』
『まだある』
『MINATO!』
『諦めるな』
コメント欄には応援の言葉が溢れていた。
湊は深呼吸する。
負けたくない。
今までで一番そう思った。
もっと戦いたい。
もっと強い相手と戦いたい。
優勝したい。
世界へ行きたい。
だが、その想いだけで勝てるほど甘い舞台ではなかった。
最終ラウンド。
会場全体が立ち上がる。
景虎。
Blade。
残り体力はほぼ同じ。
あと一回。
あと一度の読み合い。
その瞬間だった。
Bladeの剣が景虎を捉える。
カウンター。
コンボ。
体力が消し飛ぶ。
KO。
【WINNER BLADE】
会場から大きな拍手が起こった。
歓声ではない。
称賛と敬意の拍手だった。
「BLADE勝利。」
朝倉が静かに告げる。
「MINATO、ここで敗退です。」
観客席からはなおも拍手が続く。
誰も笑わない。
誰も軽く扱わない。
全員が知っていた。
大会初出場。
ランクマッチ一位。
そしてREVOLT JAPAN最終日進出。
ここまで来られる選手がどれほど少ないのかを。
湊はモニターを見つめる。
悔しかった。
本当に悔しかった。
勝ちたかった。
世界へ行きたかった。
だが涙は出なかった。
代わりに心へ深く刻まれる。
もっと強くなりたい。
その想いだけが残った。
「今日の敗北は大きな経験になるでしょう。」
村瀬が静かに語る。
「彼はまだ十九歳です。」
「また帰ってきてほしいですね。」
朝倉も頷いた。
会場から再び拍手が起こる。
その拍手に包まれながら、天野湊の初めてのREVOLT JAPANは幕を閉じた。
優勝には届かなかった。
世界への切符にも手は届かなかった。
それでも彼は確かに見た。
世界へ続く道を。
そして、その先に立つ強者たちの背中を。
届かなかったからこそ分かる。
自分に足りないものがある。
だからまた挑戦できる。
その日、天野湊は敗れた。
だが挑戦者としての物語は、ここから始まるのだった。




