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元・狂戦士のオッサン案内人。〜俺の指す先を斬るだけで最強。最短の矢印に従う異世界女騎士とメイドが、特級ダンジョンを蹂躙する〜  作者: くるまAB
第1章:再起の矢印と霧晴れる迷宮

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6. し〇むらと、戦士の休息

 翌朝、悠馬の愛車である年季の入った白い軽自動車は、かつてないほどの緊張感に包まれていた。

 後部座席に座るのは、胸元に『小栗』と書かれたジャージに身を包んだ、絶世の美女2人だ。

「悠馬お兄さん、この鉄の箱は何ですか!? 生き物じゃないのに動いてます! 」

 アリスリアは、ダボダボの青いジャージを揺らしながら身を乗り出した。


「……いいから大人しく座ってろ。ノーラ、あんたも窓を開けすぎるな。風圧で髪がえらいことになるぞ」

 流れる街並みや、一定間隔で切り替わる信号機にいちいち悲鳴を上げる2人をなだめつつ、悠馬はハンドルを握る。


 道中、ノーラの汚れたメイド服をクリーニング店へ預けた。

 過去2日のオーガ戦で返り血を浴びたフリルは、家庭用の洗濯機では到底扱えない代物だったからだ。店主が嫌そうな顔をしていたが、昔馴染みのおかげか何とかなった。

 代わりに、アリスリアの純白色の甲冑と大剣は、自宅の玄関に立てかけてある。


「アリスお嬢様の装備には自動修復の魔法が施されていますから、汚れも傷も時間と共に修復されるのです。副団長以上にのみ下賜される業物です」

 エンジ色のジャージ姿のノーラが誇らしげに語るのを横目に、悠馬は「現代のクリーニング代よりコスパがいいな」とボリボリ頭を掻いた。


 到着したのは、庶民御用達の衣料品店『ファッ〇ョンセンターしま〇ら』。

「な、なんという巨大な神殿……。ここが、オグリ家の御用達なのですか?」

「ただの服屋だ。……おーい、おばさん。ちょっといいか」


 悠馬が声をかけたのは、レジ奥でテキパキと値札を付けていた同級生の母親だった。

 彼女は悠馬の顔を見るなり、その背後に控えるジャージ姿の2人を捉え、獲物を見つけた猛獣のような目を向けた。


「あら悠馬くん、珍しいじゃない! って、何この子たち!? モデルさん? まるでお人形さんじゃないの!」

「知り合いだ。悪いけど、この2人に合う服、上から下まで全部選んでやってくれ。予算はそこそこでいい」

「任せなさい! ちょっと、みんな来て――!」

 おばさんの号令と共に、奥からさらに数人の店員が集まってきた。


「ちょっとアリスお嬢様!このっ……何をするのですか、離しなさ――」

「やだぁー、この子お肌プルプル! こっちの青いワンピース絶対似合うわよ!」

「こっちの子はモノトーンね! このセットアップ着せてみて!」

 最強の武力を持つ騎士と、冷徹な暗殺術を心得ているはずのメイド。

 そんな2人が、近所のおばさんたちの「可愛いものへの執念」と「圧倒的な声量」の前に、なす術もなく更衣室へと連行されていった。


 1時間後――。

 そこには、戦場でも見せたことのないような、疲れ果てた表情で店内のベンチに座り込む2人の姿があった。

 アリスは淡いピンクのパーカーにデニムのショートパンツ。

 ノーラは落ち着いたネイビーのカットソーにロングスカート。

 どちらも『し〇むら』価格とは思えないほど見事に着こなしているが、魂が口から抜けかけていた。


「悠馬お兄さん……戦場よりも過酷でした……。あのお姉さんたち、魔力がゼロなのに圧がすごいです……」

「……同感です。殺気がない攻撃ほど、防ぎにくいものはありません」

 しおれたアリスのアホ毛、輝きをうしなったノーラの眼鏡を横目に、悠馬は山のような買い物袋の会計を済ませた。それなりの出費だが、これでようやく外を歩ける。

 

「あら、お姉さんだなんて嬉しいじゃない!悠馬くん、この靴下サービスよっ!」

「おばさん、ありがとう。って、まぁまぁいい金額いったな」

 しまむ〇らしからぬ金額を支払い、悠馬は魂の抜けた2人に声をかける。


「さて、帰るか。……おい、いつまでそんな顔してんだよ」

 

 帰り際、2人はあのオレンジ色の看板を見つけて目を輝かせた。

「悠馬お兄さん、今日もあの『ギュウドン』を食べに行きましょう! お肉ならいくらでも入りますよ!」

「悠馬様、あのベニショウガの調和をもう1度……」

「却下だ。昨日、今日と稼ぎがゼロ……今日は自炊にする」

 悠馬はガックリと肩を落とす2人を車に押し込み、スーパーで安売りの肉と野菜を買い込んで帰宅した。


 古い台所に立ち、手慣れた手つきで野菜を切る悠馬を、2人は不思議そうに見守っていた。

「悠馬お兄さん、それは何を作っているんですか? 具材が飴色の泥の中に沈んでいますが……」

「カレーだ。黙って待ってろ」

 やがて、部屋中にスパイスの香りが立ち込める。昨日の牛丼とはまた違う、食欲を暴力的に刺激する香りだ。


 差し出された皿の上には、白米の山と、とろりと煮込まれた褐色の大地。

 おずおずとスプーンで1口運んだ瞬間、アリスの瞳がこれ以上ないほど見開かれた。


「……っ!? な、なんですかこれ! 辛いのに、甘くて、深くて……口の中で美味しさの大爆発が起きています!」

「悠馬様……これは、キュウドンをも凌駕する完成度です。野菜の甘みと肉の旨みが、この褐色のソースによって完璧に統合されている……そしてこの『ラッキョウ』、完璧な調和です」

 2人は無言でスプーンを動かし続け、一瞬で大盛りの皿を平らげた。


「悠馬お兄さん……本当に貴族じゃないんですか? こんな料理、王宮でも出てきませんよ!」

「言っただろ、ただの案内人だって。これは市販のルーを使っただけだ」

「……悠馬様、わかりました」

 ノーラが神妙な面持ちで眼鏡を光らせた。

 

「悠馬様が貴族ではないというお言葉、一旦は許容しましょう。ですが、この味の構築能力……間違いありません。貴方は貴族そのものではなく、かつて王族に仕えていた『宮廷専属料理人』、あるいはその末裔ですね?」

「なんだそれ……ただの独身男の自炊スキルだ。いいから食い終わったら会議だ」


 居間へと移動し、木製のテーブルを挟み3人は顔を合わせる。

 「今日の服代と飯代、それから特級への準備金を稼ぐ。……明日は『上級ダンジョン』へ行くぞ」

 その言葉に、アリスは身を引き締める。


 「上級……。中級よりさらに厳しい場所ですね」

 「ああ。上級は魔物が『群れ』で現れる。ソロの俺じゃ手が足りないから避けてたが、あんたらの火力と魔法があれば、おそらく余裕だ」


 アリスとノーラは、ジャージの袖を握りしめた。

 悠馬の指し示す『最適解』と、2人の圧倒的な武力。

 オグリ家騎士団の本格的な進撃が、ここから始まろうとしていた。

お読みいただきありがとうございます!


最強の騎士アリスと冷徹なメイドのノーラ。そんな2人が、地元の『しま〇ら』のおばちゃんたちの勢いに飲み込まれる回でした。戦場より過酷な更衣室……。

魂の抜けた2人の着こなしを想像しながら楽しんでいただければ幸いです!


「私服のアリスも見てみたい!」「カレーが食べたくなった!」と思って頂けましたら、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】から評価とブックマークをお願いします!

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