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戦闘スキル無しの元・狂戦士 ~案内人は最短の矢印で最強の異世界騎士団を導き現代ダンジョンを無双する~  作者: くるまAB
第1章:再起の矢印と霧晴れる迷宮

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7. オグリ家騎士団、上級を蹂躙してホルモンを喰らう

 翌朝、悠馬は朝から近所のクリーニング店を訪れていた。


 店主に「次からはもっと普通の服を持ってきてくれよ」と苦笑いされながら受け取ったのは、見事に汚れが落ち、パリッと仕上げられた黒と白のメイド服だ。


「……ま、とりあえずこれで装備は揃ったか」


 悠馬が帰宅し、玄関のドアを開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。


 昨日渡したエンジ色のジャージ姿と、整えられたポニーテール姿のノーラが、鼻歌まじりにキッチンでフライパンを振っていたのだ。


 トントントン、と軽快なリズムで野菜が刻まれ、昨日悠馬が教えたばかりの調理器具を完璧に使いこなしている。


「おかえりなさいませ、悠馬様。朝食の準備、整っております。 この、ダブ〇ソフトという白パンは、焼き加減1つでこれほど表情を変えるのですね」


「……お前、もう調理道具の場所把握したのか。 おまけにトースターまで使いこなしてやがる」


「メイドたるもの、主の生活環境を最適化するのは当然の務め。……エッヘン、と言うのはアリスお嬢様の役目でしたね。あの方は庭におります」


 視線を庭に向ければ、青いジャージの袖を捲り上げたアリスが、愛剣を振るっていた。


 ただの素振りではない。


 1振りごとに空気が爆ぜ、衝撃波で庭の雑草が根こそぎ刈り取られている。


 振りかぶる毎に光を反射する金髪をなびかせ、ジャージ姿で絶世の美女が剣を振るう姿はシュールだが、その実力はやはり本物だった。


 朝食を済ませ、それぞれが本来の装備――純白色の甲冑と、クリーニング後のメイド服に着替えを完了させる。


「よし、行くぞ。……上級ダンジョン『牙の回廊』だ」


 悠馬の言葉に、2人の表情が戦士のそれへと切り替わった。


 ダンジョンの入り口には、多くの探索者がいたが、3人が現れた瞬間にざわめきが広がった。


「おい、見ろよ。あのプラチナプレート……本物か?」「メイド服だと……あれ、案内人の小栗だろ? あんな接待パーティで上級に潜る気かよ」


 周囲の視線や嘲笑を無視し、悠馬は迷いなくゲートを潜り抜ける。


 千葉市にある上級ダンジョン『牙の回廊』は、30階層構造の険路だ。


 中級とは比較にならない数の魔物が、組織的な群れを成して侵入者を食い殺そうと待ち構えている。


「アリスリア、左30度からウルフが12。ノーラ、天井に氷槍を3本固定して待機。俺の指示した座標へ落とせ」


「了解です! ガードルドの名に懸けて――!」

「仰せのままに」


 悠馬の視界には、既に無数の【青い矢印】が交差している。


 アリスリアが踏み込み、一閃。

 中級では過剰だったその破壊力も、上級の群れを相手にすれば「効率的な殲滅力」へと変わる。


 爆圧で吹き飛ぶ魔物。漏れた個体は、ノーラが天井から落とした氷槍によって寸分の狂いもなく急所を貫かれた。


 5層、10層、20層……3人は文字通り「駆け抜けて」いく。


 悠馬の指示は、もはや予言。

「アリスリア、次は右。そのまま回転斬り。ノーラ、足元を氷魔法で固定」


 アリスの放つ剣圧が、群れをまとめて塵へと変える。


「……完璧だ。これならいける」


 悠馬は頭を掻く暇もないほどの速度で、ついに最下層、30層の『主の間』へ辿り着いた。


 そこに待ち構えていたのは、階層主の『ラージウルフ』とその配下、100体を超えるワーウルフ軍団だ。


「数が多いですね……。悠馬お兄さん、どうしますか?」


「アリスリアは中心を突破しろ。ノーラ、広域魔法の準備だ。……俺が指す『道』を通れば、ダメージなど受けない」


 悠馬の視界に映る【青い矢印】それを正確に伝える。


「アリスリア!左へ回り込め。 そこから45度の角度で15メートル跳躍! そのまま振りかぶれ」


 アリスがその声をなぞるように突進した。

 敵の鋭い牙も、爪も、彼女の数センチ横をかすめるだけで1発も当たらない。

 

 「はぁぁぁぁぁっ!」


 中心に辿り着いたアリスが、ラージウルフに向け大剣を振りかぶる。

 同時に、ノーラが悠馬の指示した座標へ最大火力の魔法を叩き込んだ。


「『氷界の処刑場アイシクル・エグゼキュション』!!」


 ノーラの魔法で凍りついた敵軍を、アリスの大剣が発生させる衝撃波で粉々に砕く。

 同時に、主のラージウルフが咆哮を上げる暇すら与えず、アリスの大剣が一刀両断した。


 ――静寂。


 かつてこれほどまでに「作業的」かつ「圧倒的」に踏破された上級ダンジョンは存在しない。


 悠馬は、今回は消し飛ぶ前にアリスリアを釘を刺しておいた。

 おかげで、素材と装備品を無傷で回収する事できた。


 そのまま地上へ戻り管理局の窓口へ向かう。

 

 悠馬はカウンターに上級ダンジョンの素材と、ドロップした装備品が提出する。

 問題はその量だ。


 山盛りになった素材に、フロアの空気が一変する。


「……はい、これ。今日の分」


 悠馬はいつものように気怠げに言った。


 アリスリアは「どうですか!エッヘン!」と言わんばかりにドヤ顔で胸を張り、ノーラは当然の結果だという顔で控えている。


「……ちょっと、悠馬。あんた、正気?」


 望海は震える手で、提出された素材のリストを3度見した。


「しかも、上級の踏破に3時間?  それもこの人数で?  嘘でしょ、データの不具合を疑うレベルなんだけど……」


「事実は事実だろ。さっさと換金してくれ。腹が減ってるんだ」


 望海はこめかみを押さえ、逃れようのない現実に大きな溜息をついた。


「……わかったわよ。でも、悠馬。あんた、まさかこのまま『特級』に行くつもりじゃないでしょうね?」


 その言葉に、アリスリアとノーラがぴくりと眉を動かした。


「……悠馬お兄さん。 特級って帝国に帰る為に、行く場所のことですよね?」

 

「ああ。 だが、特級は行きたい時に行ける場所じゃない。――そうだよな、望海」


 周囲には聞こえない声量でアリスは確認する、それを受け取り悠馬は望海へ確認する。

 

「そうよ。特級ダンジョンへのダイブは国が管理してる。最低でも『上級の踏破実績10回』、あるいは『公式ランクがA以上のパーティ』であることが条件。今のあんたたちは、まだ実績が足りないわ」


「そんな……! 私たちの実力なら、今すぐにでも行けるはずです!」

 

「落ち着いてください、アリスお嬢様。……郷に入れば郷に従え。 この世界の法に従いましょう」

 

 驚く2人を横目に、悠馬は「知ってたよ」とだけ呟き、換金されたばかりの札束を受け取った。


「さて、実績稼ぎは明日からだ。……今日は豪華に行くぞ」

「豪華! ギュウドンですか!? カレーですか!?」

 

「もっと、良いものだ! ただ……その前に着替えだな」


 ――――


 一度、自宅へ戻りジャージに着替えた、オグリ家騎士団。

 

 目を輝かせるアリスリアを連れ、悠馬が向かったのは、最寄り駅から少し離れた路地裏にある、年季の入りすぎたプレハブ小屋のような店だった。


 看板には『ホルモン焼き・金太郎』の文字。

 

 店内は煙で真っ白に霞み、壁は油で茶色く変色している。その外観に、2人は言葉を失った。

 

「悠馬お兄さん……ここは、戦場の野営地ですか?」

「……主様。失礼ながら、宮廷料理人の末裔が選ぶ店としては、少々独創的すぎはしませんか?」

 

「うるせぇ……いいから入るぞ。見た目はこうだが、味は抜群だ」

 

  炭火の網に乗せた瞬間、激しい煙と共に、暴力的なまでに香ばしい匂いが立ち昇る。


 

「……っ!? な、なんですかこの弾力! 噛むたびに脂の旨味が溢れて、タレの辛さが後を引きます!  カレーとはまた違う、破壊的な美味しさです! お口の中で、お肉のカーニバルが開催されています!」

 

「この『ガツミノ』という部位……。咀嚼するたびに幸福感が脳を焼きます。 悠馬様、貴方の選択に疑いを持った無礼をお許しください。 この『キムチ』との調和が、まるで食欲を加速させるようです」


 2人は煙に巻かれ、顔を火照らせながら、猛烈な勢いでホルモンを平らげていく。

 

 悠馬は『お肉のカーニバル』を開催する2人を見ながら、冷えたウーロン茶を喉に流し込んだ。

 

 本当はもっと小綺麗な店にも行けたが、特級攻略には莫大な準備金が必要になる。

 

 贅沢は、目途が立つまでお預けだ――。


 汚い店内で、笑いながら肉を食らう独身男と異世界の少女たち。

 特級への条件、あと9回……オグリ家騎士団の、本当の進撃がここから始まる。

お読みいただきありがとうございます!


今回は上級攻略……の後の、煙まみれのホルモン焼き回でした。

「お肉のカーニバル」を開催してしまったアリスと、現代日本の食生活に馴染みすぎているノーラ。2人の食べっぷりは書いていてお腹が空きます。

実績解除まであと9回、彼女たちの胃袋はもつのでしょうか。


「ホルモン食べたくなった!」「ノーラのジャージ姿、馴染んでる!」と思って頂けましたら、ぜひ下の評価欄(★)とブックマークで応援をお願いします!

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