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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
拘う者としての時間
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大都市アルカリス 悪女策謀

先週は休日出勤のために更新できませんでした。

仕事があるのは嬉しいですが、個人的にはお休みが良いです。

メルスがフレイヤの死についてが笑っていると部屋の扉をノックする音が聞こえた。メルスは上機嫌で扉を開けると夫のモンテゴが立っていた。


「あら、あなたいらっしゃい。何かようかしら?」

「珍しく上機嫌だな。何かいいことでもあったのか?」

「先に質問したのは私なのに...でも、気分がいいから答えるわ。」


メルスは満面の笑みを浮かべて答えた。


「フレイヤが死んだの。これがその証拠です。」


メルスはフレイヤの名前が彫られた櫛をモンテゴに差し出した。モンテゴは櫛を受け取るとそれを興味深く観察した。櫛にはフレイヤの名前が確かに彫られ、何度も使われた形跡があった。


「確かにフレイヤの名前が彫られ、随分と使い込まれている。だが、それだけで決めつけていいのか?」

「それは大丈夫。私はこの櫛に見覚えがあるの。これはフレイヤが大切に持っていた愛用の櫛で間違いないわ。」

「メルスがそう言うなら確かなのだろうが...」


モンテゴは櫛をメルスに返し、机の上に置いてあった報告書に目を通した。医者の男が調べた報告書はよくできており不可解な点はなかった。気になることと言えばダリスの街で似た母娘おやこが給仕の仕事をしていたと言う点だ。


この母娘は既にダリスを離れこのアルカリスに来ると書かれている。その後の調査ではこのアルカリスで似た母親の目撃情報はない。同姓同名が何人かいるだけで容姿が一致する者は誰もいなかった。報告書には他の街でも目撃情報がないか調査したが母娘を探し出すことはできなかった。そのことを除けばこの報告書にあるとおりフレイヤとその娘のクレアは死んだとみて間違いない。


モンテゴはメルスと同様にこれ以上の調査は不要だと判断した。メルスの義姉であるフレイヤは死んだのだと彼も結論づけ、報告書を机の上に置いた。


「フレイヤは死んだ。この報告書を見る限りな。」

「やはり、あなたもそう思うよね。」

「ああ、だが義理とはいえ姉が死んだのがそんなに嬉しいのか?」


上機嫌で話す妻に態度にモンテゴは少し眉をひそめる。


「だって、ようやくあの忌まわしい女が死んだのよ。嬉しくて仕方がないわ。」

「なら、十年前のあのときにどうして生かすよう言ってきた? 当初の予定ではイーラとその家族は全員殺す予定だったのだぞ。」


十年前、モンテゴがイーラを殺害した際に後で問題が起きないようにフレイヤとクレアも殺す計画だった。しかし、計画を聞いたメルスはフレイヤをわざと生かし、借金を背負わせて娼婦にするようモンテゴに頼んだ。モンテゴは不穏分子は消しておきたかったがメルスが熱心に頼み込むので承諾した。


「だって、死ぬのは一瞬です。フレイヤには絶望を味わいながら死んでほしかったの。自分がどんどん汚れていき、最後は愛する娘すら自分と同じように娼婦になったらフレイヤはどうなってしまうのかと興味があったのだもの。」


メルスは残忍な笑みを浮かべてそう言い放った。一般家庭でも義姉に対して不仲な者は少なからずいる。

しかしメルスの態度は一般家庭における義姉に対する不平不満にしては度を超していた。




メルスは自分の母親の顔を知らない。家にある姿絵や肖像画では見たことがあるが母親を直接見た覚えはなかった。メルスの母親はメルスを産んだ後に身体を壊し半年後に亡くなったからだ。母親の代わりにメルスを育てたのは父親方の祖母だった。


祖母はメルスが母親がいないことに負い目を感じないようにたくさんの愛情を与えた。父親や祖父、三人の兄たちも皆メルスを愛し大切に育てた。その甲斐かいあってメルスは母親がいなくても寂しい思いをしないで育つことができた。


それにメルスは祖母が話してくれる昔話が大好きだった。祖父は近衞騎士の隊長だったので王族や貴族が主催する招宴に呼ばれることが多かった。護衛や警備はもちろんのこと招待客としても招かれた。近衞騎士は王族や国賓の護衛をすることが多く、国の守護者とされている。


他国へのけん制や自国の戦力をみせるために出席するのだ。出席するさいは同伴者も必要になるので、妻である祖母も何度も祖父の付き添いで主席をした。祖母はそのときの内容や宴で起こった出来事をメルスによく話してくれていた。


幼いメルスにとって祖母の昔話はどんな物語よりも楽しく美しい話だった。何度も祖母におねだりして話を聞いた。そして、いつか自分も祖母のようになりたいと幼いながらそう願うようになった。


そんな幼少期を過ごしたメルスがフレイヤと出会ったのは五歳のときだった。使用人の娘と紹介されたフレイヤだったがその容姿はとても美しかった。貴族の娘と言われても納得できるほどだった。


質素だが清潔感のある服装だったが、それがフレイヤの本来の容姿を引き立て、数十年経っても今でもメルスの印象に残している。そんなフレイヤがドレスに身を包んだら誰よりも美しくなるに違いないと当時のメルスは感じた。フレイヤならどんな宴でも主役になれると幼いメルスは感じ取り、始めて他人が羨ましいとも思った。


羨望はすぐに恐怖に変わった。余りにも綺麗なフレイヤを目の当たりにしてメルスは自分の夢をフレイヤに取られると思ってしまった。恐怖を抱いたメルスはその恐怖から逃げるためにフレイヤを遠ざけるよう父親にもお願いした。父親としてはメルスと歳の近いフレイヤが互いの遊び相手になればいいと思ったが逆効果になってしまった。


フレイヤの母親は住み込みの使用人なのでフレイヤも敷地内にある使用人の館に住んでいる。ある事情からフレイヤの母親は外に出すわけにも行かないため、フレイヤとその母親はメルスがいる本館には来ないように指示し、極力合わないようにした。


それから数年間はメルスは穏やかな日々を過ごした。メルスも自分の夢を叶えるために礼儀作法や社交ダンス、一般教養など専属の講師を雇ってもらい日々勤しんだ。フレイヤとは時折顔を合わすだけで、鉢合わせてもフレイヤはお辞儀をしてすぐに視界の外に出ていく。成長したメルスも必要以上にフレイヤを気にするのはやめた。


成長したことで自分とフレイヤの立場を理解たからだ。フレイヤが幾ら容姿が良くても結局は使用人の娘で貴族の自分とは違う。フレイヤは貴族と結婚できるとしても愛妾止まりで正妻ではない者を社交場に連れてはこない。だからメルスはフレイヤを気にすることをやめた。結局は自分とは住む世界が違う人間なのだから。


こうしてメルスがフレイヤを意識するのを止めたのだが、メルスが成人する前の年に兄のイーラからとんでもない話を聞かされた。イーラは他の兄のように騎士団に入らず、冒険者になると言い数年前に家を出た。イーラはずっと騎士になるより冒険者になることを夢見ていた。


イーラが冒険者になることは家族の誰もが心配はしたが反対する者はなく、イーラは数年前からアルカリスに行き冒険者として生活していた。家には冒険者家業が暇になる冬に帰省し、年明けまで共に過ごすのがここ数年の恒例だった。


そんな寒い冬のある日イーラがフレイヤと結婚すると家族に報告した。イーラはメルスとは違いフレイヤと幼い頃から遊んでいた。メルスがフレイヤを嫌っているのを知っていたのでイーラからフレイヤに会いに行き二人はメルスの目の届かないところで遊んでいた。


話を聞かされたメルスは最初は驚いた。フレイヤが自分の義姉になる。その事実に嫌な思いをしたが、イーラとフレイヤの二人はアルカリスに行きそこで暮らすので、目をつぶることにした。二人が結婚し、子供が生まれれば今のように冬に帰省するのも困難になる。冒険者家業がすっかり板についたイーラが今更実家に戻り騎士団に入ることもない。そう考えるとフレイヤとは今まで以上に希薄な関係になるので納得したのだ。


こうしてフレイヤとはもう関わることはないと思っていたメルスだったが、とんでもない転機が訪れた。それはイーラが婚約を発表してから二年たった年に起こった。家族全員がアルカリスに行くことになったのだ。


今まで将軍として激務をこなしていた父親が、将軍の座を後人に譲ることにした。将軍を辞めた後は御意見番として軍に残るが、それは肩書きで事実上は退役だった。兄達は長年の父の功労を労うために旅行を計画しアルカリスに行くことになった。




家族でイーラがいるアルカリスに行くとそこはメルスが想像よりも人と物があふれかえる場所だった。世界各地から『塔』から発掘される鉱石や魔物の素材を買い付ける為に訪れる商人や冒険者とつながりを持とうとする役人。冒険者の武器や防具を作る職人。そして『塔』に挑む冒険者で大勢た。


王都よりも遥かに賑わうこの都市にメルスは只々驚き、そして年末に行われた祝宴でメルスの運命は大きく変わった。


この旅行でアルカリスを訪れた理由の一つに年末に行わる祝宴に父親は招かれていた。長年に渡り国の為に働いた父親を労うために軍の上層部が手配したのだ。アルカリスで行われる祝宴は年に二回行われ年末と半年後の夏の終わりに開かれる。特に年末の宴は新年を迎える為に盛大に開催されるので退役の記念になると思い手配された。


祝宴は都市全体で行われるが、都市の主要人物や世界各地から国賓が集まる宴も開催される。その宴にメルスの家族も招待されていた。メルスは始めて出席した宴は祖母がどの話よりもずっと華やかで煌びやかだった。


メルスは長年抱いていた夢が思わぬことで叶い、この宴を大いに堪能した。父親の肩書きを使い各国の要人たちとダンスをし、出席している他の淑女達と流行りの服や装飾品の話をした。楽しい時間は瞬く間に過ぎていき宴は終わった。


ほんの一時だったがメルスはこの宴にすっかり魅了され、この宴にまた来たいと思うようになった。だが、アルカリスで行われる祝宴は冒険者やその周囲の者達のために開かれる。今回メルスが出席することが出来たのは、父親が退役してそれを労うためで、いつもなら将軍でもこの宴には参加することは難しい。出席ができるのは都市の主要人物か他国から来る国賓。そして、ほんの一握りの冒険者とその家族達だけだ。


メルスはその事実を知るとある決心をした。それはメルスもアルカリスに住むことを選択し、アルカリスで伴侶を見つけることにした。そして、ついてモンテゴと言う伴侶を見つけた。メルスとモンテゴは己の夢と野望を共有しそれを実現させるために婚約した。


モンテゴがイーラの義弟になったことでリューグナーは破竹の勢いでトップクラスまで急成長をした。モンテゴの戦略とイーラの戦力が上手く噛み合い結果だった。モンテゴはイーラの片腕となり、リューグナーと大きく発展した。そして、メルスは最初の祝宴からわずか五年でもう一度同じ場所にたどり着くことができた。


メルスの夢が叶いその夢は今後も続く幸せなことなのだが、それは一つの悪夢の再来でもあった。リューグナーの創設者はイーラ。その伴侶はフレイヤだ。モンテゴやメルスが出席する宴には必ずイーラ達も呼ばれる。イーラもフレイヤも堅苦しい席は苦手なので辞退することが多い。だがそれが逆に周りの人には魅惑に写り、二人が出席すると必ず注目の的になっていた。


特に着飾ったフレイヤは本当に美しかった。使用人の子供だとは思えないほどの美しさがあり、男は必ず見惚れ、女は嫉妬した。メルスは不快な気持ちでいっぱいだった。自分は小さい頃から憧れてそれに向かって努力もしていたのに、フレイヤは何の苦労もしないでメルスと同じ場所に立っていた。いや、見た目の容姿はフレイヤが上なのでメルスはフレイヤの引き立て役になっていた。


メルスの嫉妬や不快が憎悪に変わるのはそう時間はかからなかった。メルスは何時からかフレイヤを排除する方法を考えるようになった。毒をもって殺すか、人を雇って殺すか。だが、そんなことはメルスにはできなかった。もし、フレイヤを殺したことがバレてしまったらこの生活が終わってしまう。それだけは避けなければならない。メルスには愛する息子が既にいるのだから...




フレイヤを殺したいことを誰にも言えずに過ごしていた日々にまたしても転機が訪れだ。それは愛する夫であるモンテゴがイーラを殺害する計画を立てていた。計画を知ったのは偶然でモンテゴに思いとどまるように進言しようとした。しかし、計画の詳細を知ったときにメルスに悪魔が囁いた。


『フレイヤを一緒に始末して貰え。いいや、死は一瞬だ。もっと長く苦しめてしまえ。』


悪魔はメルスに囁き誘惑した。メルスは悪魔の誘惑に逆らえずモンテゴに「フレイヤを殺さず娼婦にするよう」に願い出た。その代価にイーラを殺害することを黙認すると伝えた。メルスとモンテゴはイーラを殺害し、フレイヤを娼婦にし、リューグナーを乗っ取り今の地位を手に入れたのだ。


感想で過去の投稿に誤字脱字や文章の校正に問題があると御指摘を頂きました。

最近使い始めた文章の校正ソフトを使用してみると酷い有様だったので、修正を行おうと思います。

話の区切りが良いところで実施しますので、その時はお知らせします。



誤字脱字の指摘や感想などを頂けると嬉しい限りです。

評価やブックマークをして頂けると嬉しく励みになります。よろしくお願いします。



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