大都市アルカリス 策士欲望
過去の文章の手直しを始めました。そのため少し更新が遅れるかもしれません。
長年の痼りがなくなったことに喜ぶ妻を見ながらモンテゴはメルスとの出会いを思い出していた。
メルスと出会ったのはモンテゴがリューグナーに籍を置いて間もなくのときだった。
伴侶を見つけるためにアルカリスに住むことにしたメルス。偶然に父親もアルカリスに留まることになった。メルスとは別の意味でアルカリスの生活に魅了された。冒険者たちの生活を目の当たりにして昔の血が騒ぐのか冒険者となって『塔』に挑むと言うのだ。もっともそれは道楽としてで、イーラのように本気で『塔』の攻略を目指す訳ではなかった。
父親はメルスと数人の使用人とともにアルカリスで生活することにした。メルスの身の回りの世話は使用人がしてくれるので王都にいたときと生活は変わりはしなかった。父親も『塔』に挑むのは七日に一度の割合なので普段は父親と楽しく生活していた。
唯一王都の生活と変わったことはメルスは積極的に婚約者を探すようになった。メルスは成人を迎えているので家柄を考えると婚約者がいてもおかしくない。身分と家柄のことを考えると今まで婚約者がいない方が不自然だった。もちろん婚約の話は何度もあったがメルスは乗り気にはなれず今までは見送っていた。そのメルスが積極的に動き出したのだ。
メルスは自分の婚約者の第一条件として冒険者若しくはアルカリスの要人になれる人物を探した。自分の夢を叶えるには実力者の伴侶となる必要がある。しかし、冒険者は平民出身者が大半で、また職業柄のためか粗野で横暴な者が多く、貴族のような気品や礼儀を持っている冒険者はほとんどいなかった。
メルスにとって礼儀作法を知らない者は今まで会ったことがない。粗野な態度にどうしても嫌悪感が出てしまう。冒険者は『塔』に挑むのが本来の目的なので、礼儀作法を身につけているのはほんの一握りのしかいない。
なら、アルカリスの要人になれる人物も見つけ出すと言う選択肢もあったがそれはそれで困難だった。そう言った人物は既に婚約者がおり、仮に婚約者がいない者がいたとしても性格や家族に難がある者しかいなかった。自分の思い描く夢とそれを叶えてくれる伴侶を探し出すのはメルスが思っている以上に大変だった。
そんなときにメルスの目に留まったのがルセーヌだった。ルセーヌはモンテゴが改名する前の名前で兄のイーラが創設したリューグナーの一員だった。父親のお使いでイーラに届け物をしたときに、メルスはルセーヌと出会った。ルセーヌは貴族の次男だったので最低限の礼儀作法を習得しおり、それがメルスの目に留まったのだ。
届け物をしたときにイーラは留守だったために暇つぶしの相手にルセーヌがメルスの対応をした。リューグナーに入って日の浅いにルセーヌは雑務を押しつけられたのだがそれが二人を結びつける切っ掛けとなった。
メルスがイーラを待つ間、二人はたわいのない会話をして時間を潰した。会話の流れでルセーヌが趣味で軍人将棋をしていることを知った。メルスの父親も軍人将棋が好きで家にいるときは棋譜を並べて過ごしたり、手のすいている使用人に相手をさせていた。メルスもルールは知っていたのでたまに父親の相手をすることがあった。
話の流れから二人で軍人将棋をすることになり、軽い気持ちで勝負を始めた。その結果、メルスの惨敗だった。盤上では接戦でメルスの勝利だったがそれはルセーヌが手を抜いていたからだ。ルセーヌはメルスの技量に合わせた打ち方をし接戦になるように仕向けたのだ。
メルスがそれを知ったのは数日たった後で、その日は勝利に酔いしれながら家に帰った。夕食のときに昼間あった出来事を父親に話すと父親は大層驚いた。父親はメルスの腕を知っており、メルスの技量は決して弱くはない。そのメルスと接戦を繰り広げたルセーヌに父親が興味を持った。
後日、父親は自分の軍人将棋の相手をしてもらうためにルセーヌを家に招待した。ルセーヌの実力を知るために父親は最初から本気でルセーヌに挑んだ。その結果、またしても接戦の末にルセーヌが負けたのだ。際どい勝負で軍人将棋に自信があった父親は大いに満足しルセーヌを賞賛した。しかし、これもルセーヌの策略だった。
ルセーヌはこのときもわざと負けていた。父親には気がつかれなかったが手を抜いたときが何度かあった。メルスがそれに気がついたのは勝負が終わった後にルセーヌの表情が余りにも普通だったからだ。勝負に負けたのに悔しがる訳でもなく、逆に勝ったような雰囲気をルセーヌは醸し出していた。
メルスはルセーヌが帰る際に誰にも知られないようにそのことを指摘するとルセーヌの顔がこわばった。その顔を見たメルスは自分の推測が間違っていないことを確信した。ルセーヌはわざと負けたのだとメルスは気がついた。
一方メルスに自分の心情を悟られ顔に出てしまったルセーヌは焦った。勝ちを譲ったことがバレてしまった。せっかくイーラの家族とできた繫がりがなくなってしまう。このことに恐れたルセーヌはメルスに口止めをし、後日二人で会う約束をした。メルスが他言しないよう手を抜いた理由を全て話すために。
ルセーヌはリューグナーで実績を作るためにいろいろな人脈を広げている最中だった。入ったばかりのルセーヌに実績はない。実績がない者に重要な仕事は任せることはできないためルセーヌはリューグナーでの地位は低かった。
ルセーヌは前線で戦うよりも戦略や部隊を指揮するのが得意だった。数人でも自分の手足となって動く者がいれば簡単に実績を上げることができたのそれが叶わずにいた。部隊を指揮できる人材だとアピールできればリューグナーでの立場はもっと向上するルセーヌは入った当初から思っていた。
だからあらゆる手段を使ってチャンスを摑もうとしていた。メルスや父親との軍人将棋の対戦をしたのはイーラの家族に自分を印象づけ、家族からイーラに口添えしてもらうためだった。その話を聞いたメルスはルセーヌに興味を抱くようになった。
目的に向かって突き進むルセーヌにどこか近親間を持った。日々を無為に過ごすのではなく自分の目的のために勇往邁進するルセーヌに好感を持った。メルスはイーラにルセーヌのことを話しルセーヌを推挙した。その後イーラはメルスの推挙からなのかルセーヌを一時的に相談役に任命した。
それからイーラは『塔』を攻略する課程で相談役のルセーヌに意見を聞くようになった。ルセーヌは相談役に任命されたことに臆せず積極的に意見を言い作戦の立案や改善案を提示した。当然反感は少なからずあったが、ルセーヌの指摘する内容は的確で目に見えて成果が出ていった。
相談役に任命してから一月もたたないうちにルセーヌの評価が上がった。元々リューグナーは力押しで物事を解決する傾向があった。ルセーヌはそこを指摘して戦闘時の効率化を行い見事にイーラの期待に応えたのだ、リューグナーの仲間から一目置かれるようになったルセーヌにイーラは小隊を割り当て指揮官としての技量を試すことにした。
リューグナーのメンバーは全部で三十人ほどいるので、大規模な戦闘以外は五人前後の小隊を作り、日々『塔』の攻略を進めていた。ルセーヌはそのうちの一つの小隊を任せられた。小隊のメンバーは実力的には下位の者たちで構成されていた。
普通の指揮官であれば今までの同じように他の小隊に後れをとるはずだったがルセーヌは違った。ルセーヌが指揮した小隊はどの小隊よりも戦果を上げた。イーラが指揮する先鋭隊よりもルセーヌが指揮した小隊の方が戦果を上げたのでこれはイーラも驚きを隠せなかった。
イーラは正式にルセーヌに小隊を預け、複数の小隊が必要な中規模な戦闘。リューグナーのメンバー全員で行う大規模な戦闘。このような戦闘の際は必ずルセーヌが作戦の立案をさせるようになった。そして、ルセーヌがリューグナーに入ってちょうど一年が経過したときにイーラはルセーヌを参謀に任命した。武のイーラ。知のルセーヌとリューグナーの仲間からはそのように称されるようになった。
メルスとの関係も男女の仲に発展していた。メルスはリューグナーでのルセーヌの評価はイーラを通して聞いていた。次第に大きくなっていくリューグナーでルセーヌはイーラと並ぶ実力者になっていた。
このままリューグナーがトップクラスになればルセーヌは間違いなくイーラに次ぐ実力者になる。そうなればメルスの夢を叶うことができるとメルスは予想した。
一人の女としてもルセーヌに恋愛感情を抱いていた。自分の夢と自分の想いが両立するルセーヌをメルスは手放すことはできなかった。
二人が出会って三年目の秋に二人は夫婦となった。
それからのルセーヌは順調だった。メルスとの結婚を機に彼女の母親の性を継いだ。メルスの母親の性を継ぐ者がいなかったのでルセーヌは自ら性を捨て、名もモンテゴと改名した。子供にも恵まれ、妻の夢を叶えることも達成した。
全ては順調だった。十年前に邪魔になった義兄のイーラを排除し、名実ともにリューグナーのトップになった。イーラを殺めたことに罪悪感はない。そんなものはずっと昔に捨てていた。
イーラを殺す前からルセーヌは...モンテゴは既に親しい者を手に掛けていた。自分と一緒に故郷を出て、五年もの月日を共に過ごしたエデモス。今思えばエデモスはモンテゴにとって最初で最後の友だったのかもしれない。その友を自分の目的のためにモンテゴは殺した。それからはモンテゴは前に進むしかないのだ。
「あなた、どうかしましたか?」
過去を思いだしていたモンテゴにメルスが声をかけてきた。
「少し昔を思い出していただけだ。メルスに出会ったときのことをね」
「そうですか、あの頃に比べると私は大分歳をとったので比べられると恥ずかしいです」
「歳をとったのは俺もそうだ。だが、メルスはあのことと変わらずに綺麗だよ」
モンテゴはそう言うとメルスを優しく抱きしめた。
メルスには過去のことを全て話していた。イーラを殺害した後に彼女に自分のしたことを全て話した。メルスはそのことを非難も肯定もせず、ただ受け入れた。既にメルスも実兄を殺害し、義姉を陥れたことで感覚が麻痺していた。自分の欲望のために他人を犠牲にすることが
清濁を受け入れただ自分たちの欲望を満たすだけになっていた。
「ねえ、あなた。あなたはこれから何をするの?」
「決まっている。俺はこのまま歴史に名を残す。史上初のS階級を獲得する」
冒険者の階級はEからAまでと定められるている。しかし、優れた実績を築き上げた者だけにS階級を付与することも階級の制度が決まったときに定められた。モンテゴの次の野望はまだ、誰も成し遂げていないその所業を得ることであった。
「そうね。そうだったわね。でも、余りそのことだけに固執しないでアルモルの面倒も見てあげてね」
「判っている。アルモルやベルセールの面倒はきちんと見るよ」
モンテゴが子供たちの面倒を見ると言うとメルスの顔が渋った。メルスはモンテゴがベルセールに面倒を向ける分をアルモルに向けてほしいと思っている。メルスは息子のアルモルは溺愛するが、娘のベルセールに関心はないのだ。
ベルセールは子供の頃は病弱で手間がかかっていた。季節の変わり目や少しして天候の変化で体調を崩し、両親や周りの大人たちに迷惑をかけていた。ベルセール本人もそのことは自覚しており、周りに気を遣うようになってしまい引っ込み思案な性格になってしまった。引っ込み思案なベルセールの性格とメルスの性格は合わず、メルスの関心は出来のよい息子のアルモルに行ってしまった。
メルスがベルセールに関心をなくしてしまったがモンテゴはアルモルとベルセールの両方を愛していた。むしろ病弱だったベルセールの方に思いがいき過保護になっていた。そのベルセールが巨大猪に襲われたと聞いたときは心の底から心配した。
メルスがベルセールに関心をなくしてしまったがモンテゴはアルモルとベルセールの両方を愛していた。むしろ病弱だったベルセールの方に思いが行き過ぎて保護になっていた。そのベルセールが巨大猪に襲われたと聞いたときは心の底から心配した。それほどにベルセールを思っていた。
ベルセールを助けてくれたトリスには感謝していた。しかし、今後トリスがモンテゴの目的の邪魔になるなら容赦なく排除する。モンテゴは自分の欲望と家族を守るためなら非常になれるのだ。
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