大都市アルカリス 手紙と双子
トリスがロバートを拘束して眠らせた後、彼を運ぼうとしたところ家の敷地に誰かが入ってきた。ロバートの増援かと思い警戒したがが見知った気配だった為にトリスは直ぐに警戒を解いた。
「どうしたこんな時間に戻って来るなんて。」
「気になっていたので戻ってきました。」
家に入ってきたのはダグラスだった。トリス程直ぐに気が付いた訳ではないがダグラスも先日から家の周りをうろつく不審者に気が付いていた。トリスが家を出て行くように言ったのはその不審者を捕らえる為とダグラスは予想していた。その予想は的中しダグラスが家に戻って来るとトリスは不審者を捕縛していた。
「私が運びます。この少年をどういたしますか?」
「普通なら憲兵に引き渡すところだが気になることがある。空いている部屋に監禁してくれ。それと悪いが今から手紙を書くからそれを届けて欲しい。」
「承知しました。では、この少年はことが終わるまで私の部屋の隣に監禁します。」
「頼む。」
ダグラスはそう言うとロバートを担いでリビングを出て行った。トリスは戸棚から紙とペンを取り出しラロック宛の手紙を書き始めた。今、起きた出来事と捕らえたロバートについて簡潔に書き、手紙を作成した。
トリスは侵入者のロバートを見た時にリーシアに似ていると感じた。それと彼を捕縛しようとした時に発した言葉も気になった。その言葉はこの国の言葉では無く他国の言葉だった。咄嗟にでた言葉なので母国語だったのだろう。そしてその言葉はリーシアの母国語でもあった。もし、彼女が探している親族だった場合はこのまま憲兵に引き渡すのは得策ではないとトリスは判断した。
トリスが手紙を書き終えると頃にはダグラスは既に戻って来たのでトリスは手紙をダグラスに渡し、ダグラスは渡された手紙をラロックに届ける為にラロックが泊まっている宿に向かった。トリスはダグラスを見送りリビングでダグラスの帰りを待つことにした。
ダグラスが戻って来てくれたのは僥倖だった。酒を飲んだ状態で眷属粘性動物を遠隔操作するのは思った以上に気力を消費した。さらにロバートが毒を飲むことも予想していたので常に毒耐性と解毒に魔術を使用していたのも意外と負担になっていた。
トリスは家に戻った後にソファーに眠るふりをして眷属粘性動物で自分の変り身を作った。夜なので明かりが無いために精巧に作る必要はない。トリスと誤解出来る程度の身代わりをソファーに設置して、自分はロバートに気が付かれないよう部屋の隅で気配を殺していた。
ロバートが部屋に侵入して行動を起こした際に眷属粘性動物を遠隔操作してロバートを捕獲した。その後は毒を飲んでも死なないよう毒耐性と解毒魔術を使用し続けた。計画通りにロバートを拘束出来たのは良かったが、まさかリーシアの親族と思われる人物だとは思いもよらなかった。
(偶然か、必然かは判らないがいろいろな事が起きるな。)
トリスはアルカリスに来てまだ一ヶ月しか経っていないが様々な事が起きていると痛感している。自分が望んでいたこともあったがそれでも多くの事柄が起きていると。トリスはそんなことを考えながらダグラスの帰りを待った。
翌朝、ラロックは目覚めると直ぐに身支度を整えてトリスの家を訪れた。昨日ラロックは飲み過ぎてしまいダグラスから手紙を受け取ることが出来なかった。ダグラスは宿の従業員に手紙を預け帰宅し、ラロックは朝起きて宿の従業員からトリスの手紙を渡されたので大急ぎで来たのだ。
「トリスさん、おはようございます。朝早くから来てしまい申し訳ない。」
「いえ、こちらからお願いしたことなのでお気にならさず。それよりも早速会って頂きたいのですがよろしいですか?」
「はい。お願いします。」
トリスはロバートを監禁している部屋にラロックを案内した。部屋の扉を開けるとベットにロバートは寝かされていた。魔術で眠らされているため静かな寝息をたてている。
ラロックはロバートに近づき寝ている顔を確認した。顔を一通り確認するとラロックはロバートの左耳の辺りを確認した。
「リーシアの親族のロバートで間違いないと思います。目元がリーシアの他の親族と似ています。それと以前にリーシアからロバートの特徴を聞いた時に左耳の辺りに傷があると言っていました。訓練で負った傷です。」
トリスも確認して見ると確かにロバートの左耳の付近に裂傷の痕があった。
「しかし、どうしてロバートはトリスさんを殺害しようとしたのですか?」
「判りません。詳細を聞く前に眠らせましたから。私が直接に聞いてもたぶん答えないと思います。」
「リーシアを呼んで話を聞いて貰った方が早そうですね。それに確実です。」
「お願いします。」
「いえ、元々はうちの従業員の身内の問題なのでトリスさんが気にすることではありません。それよりもリーシアへの手紙はトリスさんが書いて頂いてよろしいですか?」
「どうしてですか?」
「トリスさんが今日中に手紙を早馬で出して貰えれば五日後くらいにリーシアがこの都市に来れます。私はこの後に他の街へ行く予定でして、五日もすれば帰って来れるのですがそうするには直ぐに旅立つ必要があります。」
「なるほど、そう言う事でしたら私が手紙を書きます。ラロックさんは出発の準備をして下さい。」
「ありがとうございます。用事を終えましたら直ぐに戻ってきます。」
ラロックはそう言うとトリスにロバートの事を任せてトリスの家から出て行った。トリスもラロックに頼まれたリーシア宛の手紙を書き始めた。ロバートについてはリーシアが来るまでこのまま家で匿うことにした。
「ロバートなんて奴は知らないな。」
普段なら客なんていないカドルの部屋に今日は珍しく客人が訪れていた。カドルは表の向きは賭博場のオーナーであるが本業は密偵なので人前に顔を出すようなことはしない。しかし、カドルに目の前には双子の姉妹が訪れていた。
双子の姉妹は正式にカドルが招いた客ではない。双子はカドルの店に訪れ、どうやってやったかは不明だがカドルの部屋まで侵入してきた。そして双子はカドルの部屋に入るとあることを要求してきた。
『ロバートを出せ』と。
カドルは直ぐに双子の姉妹の素性を思いたった。ロバートを引き取る際にロバートから身内や交友関係について話しをさせた。ロバートが異国から来たこと、実家が国の諜報員のこと、そして親族の従姉妹達とこの国に来たことをカドルは知っていた。だが、カドルは敢えてロバートは知らないと答えた。
「嘘言わないで。」
「ここにいるって調べはついているのよ。」
「二年前に借金を踏み倒そうと夜逃げしたやつか? それとも数か月前に賭場でイカサマをしようとしたやつか? それとも...」
「とぼけないでそんな奴らじゃない。あんたが密偵で使っている子よ。」
「十三歳くらいの男の子よ。いい加減白状しなさい。」
言い逸らかそうとするカドルに双子の姉妹は苛立った。だがカドルとしてもタダで情報を渡すわけには
行かない。カドルにとってロバートは既に不要な物だとしてもだ。
「判ったわ。受け取りなさい。」
双子の一人が皮袋をカドルに投げた。カドルは慎重に皮袋を開けると中には金貨が入っていた。金貨十五枚。ロバートを助け出すために従姉妹達が工面した金だ。カドルは金貨を一枚一枚確認して全て本物だと判るとロバートについて話し始めた。
「情報料として受け取っておくよ。ロバートは確かにうちで雇っていた。だが今はいない。」
「いない?」
「嘘をつくな!」
「怒るなよ。本当だ。数日前にある男の身辺を調査するように依頼した。だが昨日の夜から帰って来ない。普段なら帰ってくるのにな。」
カドルの言葉に双子の姉妹の顔は一気に青ざめた。ロバートが帰って来ないと言うことはすなわち捕縛されたか、殺されたかのどちらかになる。せっかく見つけたのに一足遅かった。
「まあ、そう落ち込むなって。もしかしたら怪我をして動けないだけかも知れない。もしかしたら捕縛されたのかもしれない。そうなら憲兵に突き出されてる筈だ。そうなったらそうなった時に考えればいいさ。」
カドルは口ではそう言っているがロバートが憲兵に突き出されていないことはロバートは知っていた。憲兵の詰め所にはカドルが賄賂を渡した者が何人かおり、そいつらからはロバートの情報は入ってきていない。そうなるとロバートはトリスに返り討ちにあったと考えるのが妥当だ。
それにロバートに命じたのは身辺調査では無く殺しの依頼だ。普通なら殺しに来た相手は殺すか捕らえるはずだ。捕らえたとしたら憲兵に突き出すのが常識だ。捕まえた者を憲兵につき出す、また殺さずに匿う者はいない。だからロバートは死んだとカドルは推測していた。
逃げる可能性もあったがそれは無いとカドルは思っている。理由はベネットだ。今までロバートには色々な仕事をさせてきた。それは法律に触れる様な荒事で逃げ出した場合や捕まった場合はベネットを売り払うと脅していた。
ロバートがここにきてからロバートの身の回りの世話をベネットにさせている。ベネットには自覚は無いがそれはカドルが仕組んだ足枷だった。孤児のベネットをロバートの世話をさせることでベネットに少なからず親しみを持つように誘導していた。案の定ベネットはロバートを兄の様に慕い、ロバートもベネットを妹の様に慕った。こうしてべネットと言う足枷をロバートに付けることに成功した。
ロバートがカドルを裏切った場合や不利益な事になった場合はベネットを売る。売り先は娼館などでなく、犯罪者が服役する鉱山の施設や一般の趣向と異なる貴族に売ると伝えている。普通の成人女性でも気が狂う場所なのに、幼いベネットがそんな所に売られたらまず人として生きていけなくなる。ベネットを守る為にロバートはカドルを裏切ることも逃げ出すことも出来ないでいた。
(最後に思わぬ金が手に入った。ロバートは最後までよく働いてくれた。)
カドルはそんなことを考えながら双子の姉妹を部屋から追い出そうとしたが面白い事を思いついた。この双子を使えばもしかしたらトリスを殺すことが出来るかもしれないとカドルは思いついた。失敗したとしてもカドルが不利益になることは無いと判断した。
「せっかく金を貰ったのに大した情報を出さないのも失礼だ。ロバートが調査していた相手を教えるよ。」
カドルはそう言うと机の引き出しにあったトリスの情報が書かれている紙を双子の姉妹に渡した。
「ロバートにはこいつの身辺調査をさせていた。もしかしたらこいつならロバート行方を知っているかもしれないぜ。もしくは殺した相手かもしれない。」
「「!?」」
トリスの資料を読んだ双子の姉妹は驚いた。そこには単独で巨大猪を討伐した冒険者のことが書かれていた。巨大猪を倒した冒険者の話は双子の姉妹も知っていたが、そのような大物をロバートが探っていたのであれば連絡が取れなくなることも判る。
「それとロバートの世話係をしていた女がいるが良ければ引き取ってもいいぜ。もしかしたら何か知っているかも知れないぞ。勿論タダではないが。」
「いくらよ。」
「金貨五十枚だ。」
「法外だわ。」
「無理ならいいさ。気が向いたら連絡してくれ。」
カドルはそう言うと双子の姉妹に出て行くように言った。双子の姉妹もこれ以上は聞くことは無いので素直に従った。
店を出た双子の姉妹はそのまま自分達の宿に向かって歩き始めた。歩き始め暫くは無言だったがその状態に耐えきれなくなった一人がもう片方に話しかけた。
「ねえ、これからどうするの?」
「決まっているわ。ロバートを助け出すのよ。」
もう一人が迷いなく答える。死んでいる可能性はあるがまだそうだとは言えない。可能性が低くてもここで諦める訳にはいかなかった。
「判ったわ。リーシア従姉さんには知らせる?」
「手紙を書いて送りましょう。仕事もあるから直ぐには来れないと思うけど。」
「そうね。じゃあまずは宿に戻って手紙を書きましょう。」
「その後はこの冒険者を調査しましょう。きっとロバートは生きている。」
「うん。」
「頑張ろうね、レベッカ。」
「勿論よ、ルーラ。」
ルーラとレベッカは互いに励ましあいながら自分達の宿に戻った。従弟のロバートを助ける為に彼女達はトリスを探るべく策を練ることにした。
コロナウイルスの関係で在宅ワークになりました。小説が書ける環境なので四月は更新が速いかもしれません。感染には気をつけたいと思います。
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