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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
強者としての時間
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大都市アルカリス 気配と暗殺

自分の特技は何か?


トリスにとってそれは剣術でも魔術でもなかった。剣術に関しては友人のイーラから褒められたことは無かった。魔術に関しても師匠のウォールドから眷属粘性動物(ファミリア)以外は褒められた事が無かった。


そんなトリスの唯一他人よりも優れていると自信を持っている言えるのが気配察知である。長年『迷宮』で生活していた経験と四肢を失った事により開花した特技だ。


トリスが四肢を失った当初は何も出来なかった。動けるようになるまで身の回りの世話は師匠のウォールドがしていたが、食糧の確保などでトリスから離れる事もあった。


その時は結界用の魔術道具をトリスに渡すが、それは強力な結界であったが持続性に難があった。魔物が近づいてきた時のみ使用するため、トリスは四六時中魔物の気配をいち早く感じ取れる様に訓練した。


その結果、トリスの気配察知は目で見るよりも、耳で聞くよりも、鼻で匂いを嗅ぐよりも優れものになった。更に探索魔術覚えそれと組み合わせるとトリスに死角は無くなった。




「トリスさん、どうかされました?」


商談に来ていたラロックは突然黙りこんだトリスを心配して声をかけてきた。


「すいません、少し休憩しましょう。どうも少し疲れたようです。」

「そうですか。確かにこれだけの物をお作りになったのですからお疲れ様でしょう。」


トリスは部屋においてある小さな鐘を鳴らした。鐘を鳴らすと扉をノックする音が聞こえトリスが返事をするとフレイヤが部屋に入ってきた。トリスはフレイヤにお茶の用意をするように伝え、フレイヤもその指示に従った。


フレイヤが部屋を出ていくとトリスは窓の前に立ち一点に意識を集中した。そこにはトリスの予想通りの人物がいた。


数日前からトリスはこの人物に周囲を探られていた。気が付いたのはこの人物がトリスに敵意を向けたからだ。トリスはそれを感じ取り警戒をするようになった。


ラロックとの商談中にもこの人物は家の周りを探索して侵入出来る場所を探していた。トリスはそれが気になり、ラロックとの商談中にも関わらず意識をそちらに向けてしまったのだ。


(直接の被害はないが、家を探索されるのはいい気はしないな。事が起きる前に対象するか。)


トリスは物陰に潜んでいる()()を排除する方法を考える事にした。




ラロックがアルカリスに来てトリスに逢いに来たのは理由は二つある。

一つはトリスから任されている魔鉱石の販売とその資産の管理についてだ。トリスが長年溜め込んでいた魔鉱石の量は膨大で金額にすると小国が運用する国家予算並みの金額になる。その一部をトリスはラロックに預け換金して貰っていさらに資産運用までも任せていたので、ラロックは現状の魔鉱石と資産運用の報告の為にきていた。


もう一つは事前に連絡した通り、大量にある魔鉱石を只売るのではなくこれを使って新たな事業を立ち上げる事は出来ないかを相談しにきたのだ。

トリスはフレイヤとローザが薦めた洗濯機をラロックに見せた所ラロックも覆いに興味を持ち作り方を聞いてきた。外側の箱の部分は水圧や風圧に耐えれれば壺や樽でも代用できる。水を排出する排水口も難しい造りではないので量産する際に支障はない。重要なのは魔鉱石の加工と動力の持続性になる。


魔鉱石の加工についてはトリスが既に構築しているので専門の職人を雇えば問題は無い。問題は動力になる魔鉱石だ。魔鉱石には魔力が蓄えられているため暫くは魔鉱石の魔力で洗濯機は動く。しかしいずれは魔力が無くなってしまう。そうなると交換が必要で、その度に加工した魔鉱石と交換するのはコストがかかってしまう。裕福層なら問題はないがラロックは出来れば一般家庭にも普及させたいと考えた。


トリスにはそれを解決する案はあったがそれを行うには大規模な事業になってしまう。しかも下準備に多額の費用と手間がかかる。費用についてはトリスが持っている資産で賄えるが問題は手間だ。この事業を行うにはトリスが率先して動く必要になり、そうなった場合トリスの目的に支障が出てしまう。それを懸念してトリスはあえて解決案についてはラロックに提示はしなかった。


物を売ることに長けているラロックは作る方には疎いためこれ以上は案が出ない。ひとまず洗濯機の量産体制を整える事と他にも実現が可能な魔術道具のアイディアをまとめた書類をトリスから受け取ったので今回の商談はこれで終わった。


ラロックと商談を終えたトリスは後日夕食にラロックを誘った。丁度フレイヤ達使用人が休みの日を指定し、ラロックもその日の夜は空いているので快く承認してくれた。もっともラロックもトリスを食事に誘うつもりだったので店に関してはラロックが手配することになった。


ラロックが帰った後、トリスはフレイヤ達を呼び寄せ次の休日は家から出るように指示した。フレイヤ達が休日の日はクレア達も冒険に行くことが無いので基本家で過ごす事が多い。外出するのはダグラスとローザだけだがこの日は皆を家から出し外泊させることにし、次の日の昼まで戻らないように言いつけた。理由としては家の設置している結界を完成させるためだ。


トリスの家はトリスがウォールドから学んだ結界が施してあった。既に稼働はしているが実際は八割までしか完成していなかった。トリスはこれを期に結界を完成させるためと皆を家から出した。フレイヤ達は快く承認したが、クレア達が家を出るのを渋った。


理由は単純で金銭面の問題であった。クレア達は冒険者として生活を始めたばかりなので金銭面に余裕がない。しかも前に起こした不祥事の為に冒険者が利用できる宿に泊まる事が出来ない。そうなると治安の悪い安宿か警備がしっかりしている高級宿に泊まるしかない。安宿は身の危険から候補にすら上がらないので必然的に断腸の思いで高級宿に泊まるしかない。


クレア達はあまりにもその事に気を落としていたので今回はトリスが資金援助することにした。宿屋については常識的な範囲であれば後日トリスが支払うことになり、その日はトリスを除いて外泊することになった。




数日後。トリスは約束通りラロックと夕食を共にしていた。店はラロックが良く利用している西区画にあるレストランでわざわざ個室をラロックが予約していた。


「こんな良い店に連れてきて頂きありがとうございます。」

「いえいえ、こちらこそトリスさんのおかげで儲かっているのでこれくらいさせて下さい。」


トリスと取引を始めてラロックは既に前年の売り上げ額よりも五割も増しで利益を上げていた。まだ今年が始まって半年も経っていないのにだ。


「それに領主のデイル様や御父上のガゼル様からもよろしくするように言われていますのでこれくらいはさせて下さい。」

「ガゼル様はその後のお加減は?」

「病もすっかり治り、以前よりも精力的になっています。デイル様に後を継がせたことを後悔している程です。」

「それは良かった。」

「それとリーシアを通じて裏組織の人達も感謝していました。今のサリーシャは住みよい良い街になりました。これも全てトリスさんのおかげです。」

「身内のもめ事を解決しただけです。あまり感謝されると恐縮してしまいます。」

「トリスさんらしいですね。」


ラロックはそう言うと自分のグラスにあった酒を飲みほし追加の葡萄酒を持ってくるように店員に伝えた。この店のお勧めの葡萄酒は口当たりも味も良くつい飲み過ぎてしまう。トリスも酒は好きなのでついラロックに合わせて飲んでしまう。


「ふぅ~。美味い酒に美味い肴、極楽ですなぁ。」

「はい、本当にいい店を紹介して頂きました。今度、家の者達と来ようと思います。」

「フレイヤさん達ですか。トリスさんのお宅でお会いした時はびっくりしました。元々お綺麗でしたのにますます磨きがかかっていて。同僚の方もお綺麗でした。」

「帰ったら伝えておきます。きっと喜びます。それよりもラロックさんは少し浮かない様子ですが何かありましたか?」


先ほどからラロックが無理をして陽気に振舞っている様にトリスは感じていていた。商談の時はそんな素振りは無かったが酒が入り少し心の箍が緩んだようだ。


指摘されたラロックは誤魔化すことはせず素直にトリスに胸の内を話した。


「リーシアのことが気になっているのです。」

「リーシアさんに何かあったんですか?」

「無いもないのです。それが問題です。既にご存知と思いますがリーシアは親族のロバートを探しています。手がかりが去年見つかったのですがそれ以来進展が無いのです。その事でリーシアは少し焦っています。」

「そうでしたか。」


リーシアは親族と共にこの国に避難してきた。その時に連れの一人と逸れてしまい二年近くも行方を捜していた。去年にようやく手がかりが見つかり、この都市にいるみたいだがまだ見つかっていないとのことだ。リーシアや他の親族もこの都市に何度も足を運び探しているがいまだに見つかっていない。そのことがリーシアの焦りを生んでいるようだ。


「私の方でも気にはしているのですが、生憎それらしい人物には心当たりはありません。街で見かけることも無いです。」

「ありがとうございます。トリスさんに気にかけて頂ければそれで十分です。近々、事業の関係でリーシアをこの都市に専属にしようとしています。そうすればもっと自由に探すことが出来ますのでその時がきましたら気にかけてやってください。」

「判りました。」


トリスはラロックにリーシアの親族探しについて手助けすることを再度約束した。ラロックはこの話はここまでと言うようにトリスに食事を進め自分も酒や肴を食べ始めた。トリスもこの話題にこれ以上は触れずラロックと夕食を楽しんだ。




トリスが自宅に戻ると出かける時と同じように誰も家にはいなかった。トリスは部屋着に着替えると水を飲みリビングのソファーに横たわった。ラロックに連れられかなりの量の酒を飲んだ為に酩酊に近い状態になっていた。


自室に戻るのも面倒になり用意してある毛布を被り寝ることにした。




ロバートは息を潜めて家の外壁を素早く乗り越えた。夜の為辺りは人影は無く侵入したところは誰にも見られずに済んだ。

今日は幸運が繋がった。ターゲット(トリス)の家に設置されていた結界は解除され、使用人達は皆外出していた。ターゲット(トリス)も今日は夕食を外で食べかなり酔って帰ってきた。


使役動物(ファミリア)を使い家の中の様子を確認した。ターゲット(トリス)はリビングのソファーで寝ているの確認できた。ロバートはなるべく音を立ってないよう慎重に家の中に入り、リビングに向かった。


ロバートはターゲット(トリス)のことはよく知らない。最近噂になっている冒険者としか認識がない。

元々カドルからの命令は目的だけ知らせれ、動機や理由などは何時も知らされていなかった。


『道具は何も考えずに行動しろ。』


カドルが良く口にする言葉で一部の幹部を除きロバートや他の同僚達もその言葉に従い行動していた。だからどうしてターゲット(トリス)が殺されないといけないのかは知らない。ただ、ターゲット(トリス)を殺すことで自分とベネットは解放される。気の毒とは思うがターゲット(トリス)には死んでもらう。


ロバートはターゲット(トリス)がいるリビングまで静かに近づき、持っていた短剣(ダガー)を抜いた。短剣(ダガー)には毒が塗ってある。急所を外しても毒によって死ぬことになるだろう。ソファーではトリスが気持ちよさそうに眠っている。短剣(ダガー)を彼の胸元に突き立てれば全てが終わる。


ロバートはゆっくりターゲット(トリス)に近づき、ターゲット(トリス)の胸元に短剣(ダガー)を突き立てた。


(よし。)


肉に刺す感触が手に伝わり、ロバートは任務の成功を確信した。後は短剣(ダガー)を引き抜きこの家から立ち去るだけだ。ロバートは短剣(ダガー)を抜こうと手に力を入れたその時、ターゲット(トリス)の身体が崩れた。


「なんだこれっ!」


文字通りターゲット(トリス)の身体が人の形から崩れそのまま液体になった。ロバートが呆気に取られていると液体は生物の様に動き始めロバートの絡みついてきた。ロバートは必死に液体を振りほどこうとしたが抵抗むなしくそのまま液体に拘束された。


光よ(ライト)


ロバートではない別の人物の声が部屋に響くと照明の様に明るい光が出現して部屋を照らした。ロバートは声のした方を見ると光の玉を手にしたターゲット(トリス)が立っていた。


「君がここ最近、この家と俺を監視しているのは知っている。どうしてそんなことをしているんだい? しかも暗殺までしてくるなんて。」


トリスの口調は優しく静かだが有無を言わせない迫力があった。


(ここまでか。ごめんね、ベネット。従姉妹(ねえ)さん。)


トリスがどのような手を使って自分を拘束したかロバートは判らなかったが任務が失敗したことをロバートは悟った。なら、こちらの素性がばれる前にロバートは死を選択した。奥歯に仕込んである毒で自らの命を絶つことにした。


だが、奥歯に仕込んだ毒を飲んだがロバートは死ぬことは無かった。唖然としているロバートにトリスは再度言葉を掛けた。


「君の身体は常に解毒しているから毒で死ぬことは出来ないよ。」

「なっ!」

「本来ならこのまま拷問でもして口を割らせるところだけど君の顔はある人に似ている。確認する必要があるから暫く眠っていて貰うよ。」


トリスはそう言うとロバートの頭に手を置き何かを呟いた。ロバートは抵抗しようとしたが急激な眠気に襲われそのまま意識を失った。


コロナウイルスの関係で職場が大打撃です。もしかしたら四月は休業になるかも知れません。皆さまも感染には気をつけてください。


いつも通り、誤字脱字の指摘や感想などを頂けるとありがたいです。

評価やブックマークをして頂けると嬉しいのでよろしくお願いします。


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