大都市アルカリス 困惑と叱責
いつも誤字脱字をして頂き感謝しています。この場を借りてお礼を申し上げます。
また、幸いなことにコロナに感染しておらず体調に問題はありません。
トリスは困惑していた。目の前に倒れている二人の少女に対してどのようにすればいいか判断を決めあぐねていた。
ロバートを捕らえた二日後、突然目の前の少女達が襲撃してきた。昼間なのに家の壁を乗り越え、家に侵入してきたのだ。幸か不幸かクレア達は『塔』に行き、朔夜達も今日は来ていなかった。家に居たのはトリス、フレイヤ、ダグラス、ローザ、そして監禁しているロバートの五人だった。
トリスは直ぐに襲撃者に気が付きフレイヤとローザの傍に行き、二人を守ることに徹した。襲撃してきた二人の少女に対しては迎撃をダグラスに命じた。ダグラスはトリスの命に従い二人の少女と相対した。
少女達は襲撃してくるだけあって二人の戦闘技術は素人ではなかった。訓練された兵士の様に動き、得物の小剣を巧みに操りダグラスを追い詰めていった。素手のダグラスは追い詰められながら冷静に二人の動きを観察した。観察している間は幾つか攻撃を受けたがどれもかすり傷程度なので問題はなかった。
五百を数えるくらいの時間が過ぎた時にダグラスは反撃にでた。片方の少女が小剣を突き出してきたタイミングでダグラスは己の拳を小剣の先端にぶつけた。普通ならダグラスの拳に小剣が突き刺す筈が鈍い音を立てながら小剣が砕けた。
思わぬ出来事に小剣を砕かれた少女は驚き隙を作ってしまった。ダグラスはその隙を見逃さずに少女の顎の先端を強打した。顎を強打された少女は脳震盪を起こしその場に崩れ落ちた。直ぐにもう一人の少女がダグラスを斬りかかるが、ダグラスは既に少女の動きを読んでおり、少女の小剣を躱しカウンターで少女の腹に蹴りを入れた。
ダグラスの蹴りを食らった少女は吹き飛び壁に激突した。壁に激突した際に後頭部を打ったのか気を失いその場に崩れ落ちた。脳震盪を起こしている少女は意識はあるのか立ち上がろうとするが、足に力が入らず立つことが出来ない。ダグラスは少女に近づき薬を滲み込ませたハンカチを少女の口と鼻にあて、少女は暫くして意識を失った。
手傷を負ったが襲撃者達を無力化できたのでダグラスはトリスに知らせた。トリスはフレイヤとローザを引き連れてダグラスの下に駆け付けた。ダグラスが手傷を負っていたのでトリスはローザに治療するように言いトリスは襲撃者を拘束することにした。
そして、襲撃者の顔を見てトリスは困惑した。彼女達の顔がリーシアに似ていたからだ。一緒にいたフレイヤも何かを察したのか襲撃者の顔を何度も見ていた。
「リーシアさんには双子の姉妹がいると言っていたな。」
「はい、リーシアさんよりも年齢が下と言っていました。ロバート君を助けに来たのでしょうか?」
トリスの疑問にフレイヤが答えた。フレイヤもリーシアから色々聞いていたので事情はよく知っている。部屋で監禁しているロバートには直接会ったことは無いが、ロバートを監禁していることは家に住む全員にトリスが話していた。
「そう言うことならロバートに会わせて見るのもいいが、止めておこう。」
「どうしてです?」
「もし、他人だった場合は面倒なことになる。ロバートに関しても自ら名乗った訳ではない。ラロックさんが確認しただけで赤の他人の可能性も捨てきれない。それなら後、数日でリーシアさんも来るし彼女に確認してもらおう。」
トリスはそう言うと襲撃者の少女達を担ぎ上げそれぞれ別の部屋に監禁した。勿論ロバートとは別の部屋にだ。少女達を監禁したトリスはもう一度リーシア宛に手紙を書くことにした。今からサリーシャに手紙を出しても行き違いになるので、今度の宛先ははリーシアがアルカリスに来る際に使う宿に向けて今起きた事を紙に書き始めた。
「気持ち悪いね。傷を見ながらにやけるなんて。」
ダグラスはローザに怪我の手当を受けている最中ずっと自分の拳を見ていた。その拳は襲撃者のナイフを砕いた拳でナイフを受けた箇所に傷が出来ていた。その傷は縫う程の大怪我では無く少し切れた程度の小さな傷だった。
「辛辣だな。」
「女房が献身的に傷の手当てをしているのに、旦那はお礼の一言も言わないで傷を見ていたら愚痴も言いたくなるよ。」
「すまない。だがそれでも嬉しいんだ。自分に可能性があることを実感するのは。」
ダグラスは襲撃者と対した時に如何に敵を無傷で捕らえるかを考えていた。今までのやり方なら相手が大怪我をしようが、死亡しようが主人を守る為ならなりふり構わず撃退していた。だが、襲撃者の顔が先日トリスが捕縛したロバートと雰囲気が似ていた為にダグラスは最小限の怪我で捕縛することにした。
その結果、襲撃者は暫くは動くことは出来ないが後遺症になる様な怪我は負わせずに済んだ。さらに相手の小剣を破壊した時はトリスから教わった身体強化の魔術を初めて実戦で使用した。
拳と小剣がぶつかれば普通なら拳に刃物が突き刺さり拳の方が手傷を負う。だが身体強化の魔術によって拳で小剣を破壊すること出来た。拳に手傷を負ったのはまだ完全に身体強化の魔術を会得していない所為であった。未熟なダグラスにとってはそれは嬉しい事で、この先ダグラスはまだまだ強くなれる証でもあった。
「最近、女房よりも稽古に熱が入っているのは気のせいかね。」
「嫉妬か?」
「そうだよ! トリスさんには感謝しているけど旦那が女房よりも稽古を優先するなら女としては嫉妬するのは当然よ。」
「そうは言うがローザもトリスさんや他のみんなに菓子をよく作るじゃないか。」
「・・・それはその......やっぱり自分の作った物をああまで美味しく食べて貰えるのは嬉しいじゃないか。」
「小麦の種類や砂糖の種類、乾燥果物に砂糖漬けの果物を色々用意したり、吟味したりしていて少し過剰な気がするがそれはどういう事だ? 俺が武術に熱を入れるのと同じじゃないのか?」
「うっ... すいません、私も色々なお菓子が作れて楽しいです。夢中になりすぎることが多々ありました。」
この家に雇われてダグラスは武術、ローザはお菓子作りに熱中していた。少し前まで普通に生活するのにも困っていた二人は今の環境になって自分の趣味にのめり込み過ぎたようだ。この環境が心地良すぎて夫婦の関係が少し疎かになっていた。
「お互い今までの生活の反動かお互い少し趣味に没頭し過ぎたな。」
「ダグラス。」
「反省して、ローザとの生活を大事にするよ。せっかくトリスさんに雇って貰ったのに夫婦仲が悪くなったら申し訳ない。」
「そうだね私も反省する。」
「ああ、お互い少し反省してまた頑張って行こう。」
それから三日後にリーシアがアルカリスに訪れた。リーシアはアルカリスに着くと宿を取り、旅の汚れを落とした後にトリスの家に訪れた。この日はクレア達も家におり、トリス、フレイヤ、ダグラス、ローザ、クレア、ヴァン、フェリス、ザックがリーシアの訪問を歓迎した。
「トリスさん、ロバートを見つけたとの連絡を頂きました。本当にありがとうございます。」
リーシアはトリスに早々にお礼を言い頭を深々と下げた。
「いえ、まだ本人と決まった訳ではありません。リーシアさんに会って頂き確かめてください。それと従妹と思われる人の事ですが...」
「承知しています。途中の宿で手紙を受け取りましたのでその二人についても確認します。」
「そうですか、ならいまから連れてきますのでお待ちください。」
トリスがそう言うとダグラス、ヴァン、フェリス、ザック達がリビングを出て行き監禁している襲撃者の少女達とロバートと思われる人物をリビングに連れてきた。監禁されていた者達は普段なら拘束されているがリーシアと会わせるのに拘束は問題があるので拘束は解いていた。
リビングに連れて来られた面々は驚いた。ロバートは来る途中にルーラとレベッカに会い驚き、ルーラとレベッカもロバートが無事だったことに安心した。部屋から出る時に会わせたい人物がいると聞かされていたのでてっきりルーラ、レベッカ、ロバートの事かとそれぞれ思ったのにまさかその相手がリーシアだとは思ってもみなかった。
「リーシアお従姉ちゃん!」
「お従姉さん。」
「リーシア従姉さん。」
「ロバートにルーラ、レベッカだな。皆元気そうで何よりだ。」
リーシアは二年近くも探していた従弟に出会えたのに淡白な反応だった。淡白と言うよりも冷徹な対応だとリビングにいた全員が思った。その思いはあながち間違いでは無くリーシアの表情が歓喜の表情では無く苦み渋った顔だった。
そのことを察したのかルーラ、レベッカ、ロバートも喜びよりも戸惑いが大きかった。
「ロバート、無事でよかったわ。ひとまず安心したわ。」
リーシアは席を立ちそのままロバートに近づきそっとロバートの肩に手を置いた。
「リーシアお従姉ちゃん!」
「だが、貴様のやった事は許せない。」
「!?」
リーシアはいきなりロバートの襟元を掴むとそのまま投げ飛ばした。ロバートの身体は綺麗に弧を描きそのまま地面に激突した。
「グハァ。」
ロバートはあまりの突然のことで受け身を取れず背中を強打した。周囲の皆は呆気に取られているなかリーシアはさらに追い打ちをかけるようにロバートの胸を踏みつけた。
「痛いロバート? 痛いでしょうね。でも、そんな痛みは一瞬だわ。私が味わった精神的苦痛に比べればまだマシよ。貴様は今まで何をしていたの。それよりもどうして逸れたの。貴様があの時逸れなければ私はこんな思いをしなくて済んだのよ。」
態度とは裏腹に優しい声で語りかけるリーシアの態度に周囲は引いていた。顔見知りのフレイヤとクレアも普段と異なるリーシアの態度に焦っていた。
「ねえ、ロバート黙っていたら判らないわよ。ちゃんと話して。」
「.........」
ロバートは何とかして声を出して話そうとするが背中を強打した痛みと胸を踏みつけられている痛みで声を出すことが出来ない。そんな従弟を不憫に思ったのかレベッカがリーシアを宥め始めた。
「リーシア従姉さん、少し落ち着いて。そんな事していたらロバートが話したくても話せないわ。まずはその足をどけてちゃんと話をさせないと。」
「レベッカ、そうね。ロバートが話せないようだから先にあなたに聞くわ。どうしてここにいるの?」
「えっ?」
「あなたとルーラはどうしてトリスさんの家にいるの? 教えて頂戴。」
リーシアが急に話を変えてレベッカとルーラのことを聞いてきた。レベッカは嫌な予感がしつつも素直にリーシアの質問に答えた。
「ロ、ロバートを助け出そうとしたのよ。」
「そうなのね。ロバートを助け出そうとしたのは確かに偉いわ。でも人の家に襲撃しろなんて私は指示していない。」
リーシアはそう言い終わるとレベッカの顔を思いっきり叩いた。思わぬ出来事にレベッカは動揺し体勢を崩してしまった。リーシアはその隙を見逃さずにレベッカの足を払い、レベッカはそのままうつ伏せに倒れた。リーシアは倒れたレベッカの背中を容赦なく踏みつけた。
「きゃっ。」
「ロバートを助け出すために何をしてもいいの? どんな理由があっても人さまの家に勝手に入るなんて許されないわ。さらにあなた達は刃物を持って襲撃したんですってね。私そのことをトリスさんから手紙で知らせれた血の気が引いたわ。」
「あうぅぅ。」
「可愛い声を出して駄目よ。ちゃんと説明して。でも、考え無しのあなたよりもルーラに聞いた方がいいのかしら? ルーラどういうことか説明して。」
「・・・・・・」
無鉄砲なレベッカかよりも思慮深いルーラに話が振られた。ルーラも従姉のリーシアがここまで怒っている理由が判らず直ぐに返事が出来なかった。
「ルーラ、どうしたの返事して。」
「は、はい。」
「返事できるなら聞こえたわよね? どうしてトリスさんの家を襲撃したの?」
「ロ、ロバートを一日も早く助けたかったからです。私とレベッカが調べた時にロバートが死んだと言う情報もあったからです。」
ルーラは必死にリーシアに弁明した。
「そう、でもルーラらしく無いと思うの。ねえ、ルーラ。一年前に私が出した手紙の内容覚えている?」
「手紙の内容ですか?」
「そう、サリーシャの街で起きて問題が解決したこと。」
「はい、覚えています。」
「記憶力のいいルーラならきっと覚えていると思ったわ。じゃあ、その時私の手紙にはなんて書いてあった。」
ルーラは必死のその時の手紙の内容を思い出した、手紙に書いてあった内容は街を騒がせていた悪漢達が死んだこと。悪漢達を雇っていた裏組織のトップが死んだこと。裏組織のトップ死んだことにより新しいトップに変わり街が平和になったこと。これらの事柄については極秘だがある人物が全て関与していた。
リーシアはその事を懇切丁寧に手紙に書き、もしその人物を接触があった場合は決してトラブルを起こさないように双子の姉妹に注意をしていた。ルーラはその人物の名前を思い出し一瞬で顔が蒼白になった。
「思い出したようね。じゃあ、その手紙に書いてあった重要人物の名前は誰?」
「ト、トリスさんです。」
「正解。じゃあここの家の主は誰?」
「トリスさんです。」
「正解。じゃあなんであなた達はそのトリスさんの家を襲撃したの?」
「・・・・・・」
「少し調べればわかると思うの? トリスさんの特徴は細かく書いていたからね。」
リーシアに踏まれていたレベッカも手紙の内容を思い出したのか震え始めていた。ようやくルーラとレベッカは自分達が仕出かした問題を認識した。リーシアはレベッカから足をどけてもう一度二人に問いかけた。
「自分達が仕出かしたことにようやく気が付いたようね。」
「「はい。」」
「どうすればいいか判るわよね。」
「「はい。」」
「なら、それを行動に移しなさい。」
リーシアの言葉を受け、レベッカは文字通り地面を這いつくばってトリスの下に行き深々と頭を下げ謝罪した。ルーラもレベッカに倣ってトリスに頭を下げて謝罪した。
リーシアはそんな従妹達の姿を見て満足し、成り行きを見ていたロバートは従姉達の様子に戦々恐々していた。
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