大都市アルカリス 拠点と思考
本日二回目の投稿です。
互いの自己紹介が終わった後にトリスはフレイヤとクレアの髪と瞳についてザックとヴァンに説明した。
「魔鉱石に俺が開発した独自の幻惑魔術を常時発動するようにしている。魔鉱石が持っている魔力にさらに装着者の魔力が組み合わさって発動する仕組みになっている。」
フレイヤとクレアの髪と瞳の色は変色などではなく、幻惑魔術によってそのように見えるようにしているだけだった。だがそれだけで見た目の印象が変わる。
「ザックは知っているから敢えて言わないがフレイヤの夫もここではそれなりに名が知られている。無用なトラブルを避けるためにフレイヤとクレアは変装している。」
イーラの名前はここ都市では名が知れ渡っている。この都市でトップの冒険者パーティー創設者だ。もしフレイヤとクレアがその家族だと知れ渡ったら面倒なことになるののは間違いなかった。
フレイヤはただの使用人としてトリスに付いてきただけでクレアも父の名前で名声を得ようとしている訳ではない。父のような冒険者になるのが夢なのだ。その為トリスが提案した変装に賛成し容姿を誤魔化しているのだ。
一通りの情報交換と昼食を済ませた後、トリスはクレア達と別れた。トリスはザックに調べて貰った家を見に行くためザックとフレイヤと家を管理している不動産屋に向かった。クレアとフェリオはこれから冒険者登録するためにヴァンの案内で冒険者ギルドに向かう。
その後は冒険者として活動するのでしばらくトリス達とは別れることになる。トリスも家が決まり落ち着いたらクレア達を招待すると言い別れた。
「不動産屋には話は既に通しているので行けばすぐに家を見える手配になっています。」
「いろいろ気を使って貰って助かる。」
道すがらザックはトリスに家についての情報を話した。既に下準備はしており、これから行く不動産屋に話しが通っている。近日中に物件を見ることも伝えてある。
「いえいえ、こんなの大した手間では無いです。でも良いですか?言われた通りの物件を探しましたが結構噂になっていますよ。」
「構わない。」
「トリスさんはそうですが、フレイヤさんはどうなんですか?住み込で働くんでしょ?」
「私は文句を言える立場ではないので。でも噂は気になります。どんな噂何ですか?」
話を振られたフレイヤは興味津々に噂の内容をザックに尋ねた。
「怖い噂ですよ。夜な夜な赤ん坊の泣き声が聞こえるみたいです。」
「赤ん坊ですか?」
「はい、何でも昔住んでいた夫婦の子供で死産だったようです。夫婦は庭に墓を作りそこに赤ん坊を埋葬したのですが、その夫婦もこの街から離れる事になり家を手放したのです。
次の買い取り手がその墓を壊してしまいそれから夜な夜な赤ん坊の泣き声が聞こえるようになったのです。
墓を壊した恨みなのか両親を探して彷徨っているかは判りませんが。」
「まあ、そうなんですか?」
「はい、ってフレイヤさん何で嬉しそうなんですか?普通は怖がるところですよ。」
「私、そう言う話大好きなんです。今度クレアにも話すのでもっと教えて下さい。」
フレイヤは嬉しそうに言いながらザックに話の詳細と他にもそう言う話はないのか問いただした。その様子を見ていたトリスは昔イーラが言った愚痴を思い出した。
『俺の恋人は怪談話が好きなんだよ。聞くのも話すのも好きでよく話をするんだ。娯楽程度に聞くのは言いが冒険者に纏わる怪談も知っていて冒険に行く前に聞くと気が滅入るんだよ。』
冒険者は危険との隣合わせの職業だ。その為『験を担ぐ』だり景気のいい話はよくする。しかしその逆はまずしない。気が滅入る話もなるべくしないようにするのも冒険者の暗黙の了解であった。
ザックに嬉しそうに怪談話を聞いているフレイヤを見ながらトリスは亡き友人の気苦労とこれから冒険者になる娘の気苦労を労いながら道を急いだ。
「こちらがご指定の物件になります。」
トリス達が不動産屋を訪れるとザックの言った通りそのまま不動産屋の案内で物件の家を見に行くことが出来た。案内をしてくれているのは不動産屋の従業員の青年だ。彼の案内でザックが探し出した物件を見に来ていた。
家は西区画で中央区画の直ぐそばにあり、北区画にも近い場所だった。この位置なられる『塔』に行くにも問題はなかった。唯一気になるのは周りに店が無いことだ。
「ここは西区画では一等地になります。中央区画に住む貴族や要人の方の別荘もあります。治安はいいのですが商店街まで行くには不便です。」
この辺りに住む住人はお抱えの商人が商品を持参するか使用人達が買い物行くので持ち主達はそんな利便性は気にしないのだ。治安がよく道や壁が綺麗に整備されていることが重要だ。その為周りの家はどれも背丈をこえる壁があり道路も整備されていた。
トリス達は家の門を開け敷地に入るとそこは大きな庭があった。庭には芝生が植えられて花は無いが花壇もあった。家はその庭に会うように作られている。フレイヤとザックは興味深くその庭を見ていた。当人のトリスは花壇の傍にあった小さな女神像に関心があるのかそれをずっと見ていた。
庭を見終わると今度は家の中に入った。家の中は空き家だが掃除が行き届いており塵一つ落ちていなかった。ソファーやテーブルなど日用品は既に配置してありこれらも掃除も行き届いていた。
「家具は購入した際に無料で付きます。もし不要あればこちらで引き取る手はずになっています。」
「調理道具や食器などはどうなっている。」
「そちらは購入して頂く必要があります。食器やティーセットなどは購入者様の好みがありますので置いておりません。ソファーやテーブルなどは大きい物はそのままにしています。調度品で購入が必要な物はリストにまとめてあります。」
案内人はそう言うと数枚の紙をトリスに渡した。そこには生活をする際に必要な物が事細かに書かれていた。不足なのは調理道具や食器の他に清掃道具や寝具、カーペットや洗面用具など事細かに書かれていた。
「思ったより多いな。これは全て街で購入出来るのか?」
「はい、南区画で全て購入出来ます。購入した物も手数料を払えばここまで配達します。」
「判った。買おう。いくらだ。」
「はい?」
「この家を買うからいくらだかと聞いたのだ。何か問題でもあるのか?」
案内人はトリスの言葉に面を食らった。最初に店をザックがこの家ついて聞きに来た時は冷やかしかと思った。見るからに冒険者の装いでとても家を購入できるだけの資金を持っているとは思えなかったからだ。だが詳しい話を聞くと自分は代理人で近日中に雇用主が来るので事前に話しをしにきたと弁明した。
それならばと案内人は活き込んで用意していた。この家は変な噂があるから買い手がつかない。だが家を管理して行くのには金がかかる。家はきちんと管理しないと直ぐに傷んでしまう。噂と傷んだ家に買い手などは付かないのでせめて家の管理は十全にしていた。
オーナーからも早く売る様にと言われていた家に興味を持った人が来てくれる。案内人はいつも以上に入念な準備をしていた。だが実際に訪れたのは只の旅人だった。こんな旅人が高価な家を買うとはとても思えなかった。
案内人の男性は顔には出さなかったが今回も買い手がつかないと諦めていた。それなのに見たその日のうちに購入を決めるなんて案内人は想像も出来なかった。思わぬ出来事に案内人の思考は思いもよらぬ方向へ行ってしまった。
「か、買って頂くには前金が必要です。」
本来なら前金などは要らない。本当に買うなら銀行に行きその場で手続きを行う。一括で支払うのか分割で支払うのかで金額が変わってくるのだ。だが案内人の思考はあり得ない方向に行き、本当にトリスがこの家を買うのか試すことをしてしまったのだ。
「前金か。幾らだ。」
「は、はく、金貨で5枚です。」
金貨五枚と言おうとしたが言葉が詰まり得ない金額を提示してしまった。白金貨など普通持ち歩いている人はまずいない。白金貨は金貨の百倍の価値がある。そんな物を持ち歩く人などまずいない。だが目の前の人物はそんな常識とは無縁だった。
「では前金を払おう。」
トリスは懐から硬貨を数枚案内人に渡した。硬貨を受け取った案内人は今度こそ驚きのあまり腰を抜かしてしまった。トリスは言われた通り白金貨五枚を案内人に渡した。前金としてあり得ない額だがトリスはここで自分の財力を見せることで交渉を有利にしようと考えた。だから案内人が言ったあり得ない金額をその場で出したのだ。
白金貨を受け取った案内人は腰抜けた状態だったがなんとか白金貨を鑑定した。白金貨には番号が記入されている。その番号は国が管理しているので偽造は直ぐにばれる。さらに複製した段階で重罪になるので偽物が出回る事はまず有り得ない。
トリスから渡された白金貨にはきちんと番号が振ってあり番号の振り方も国が提示する規則に則っていた。偽造した物にはとても見えなかった。この白金貨を一枚無くしただけで自分の首は飛んでしまう。案内人は今までの無礼を後悔しながらトリスへの慈悲を乞うた。
「こ、こ、これをお預かりすることは出来ません。銀行で取り引きさせてください。」
不動産屋と家の取引を決めた翌日フレイヤはトリスの部屋で目を覚ました。宿屋は不動産が手配した所でトリスとフレイヤはそれぞれ別の部屋が充てがわれていた。しかし夕食後にトリスに呼ばれそのまま一夜を共にした。
朝が訪れ目覚めた時はトリスの腕の中だった。その時は恥ずかしさと嬉しさでトリスの寝顔を直ぐに見れなかったが一度落ち着いてトリスを見ると彼はまだ眠っており規則正しく胸が上下していた。
トリスの腕に抱かれ彼の温もりを感じる事は今のフレイヤには幸福でしかたがなかった。このままいつまでも一緒にいたいと願ってしまう。
イーラが死んでからフレイヤはクレアのために懸命に生きた。借金を返す事は当然で出来る限りクレアに愛情を注いできた。張りつめた弓のような十年だったと今は思う。
トリスと出会ったことで借金が無くなり自由の身となった。クレアは自分の道を歩み始めた。母親としてまだまだ支える必要はあるがクレアはもう巣立ちを迎える若鳥だ。
いつまでも母親の世話はいらない。別行動をする時もクレアはすんなりと受け入れたのは本人も無意識であるが自覚しているのだろう。
イーラへの想いについては既に十年前から決着はつけていた。妻としての生きる道を断たれたフレイヤはただ母親としてクレアを守らなければならない。その為身体を売り、何人もの男達に身を委ねた。
今更イーラの妻だとは口が裂けても言えない。フレイヤ・エーデはイーラ・エーデと共に死にここにはいるのは娼館で働いていた元娼婦でしかなかった。
そんなフレイヤをトリスは何かとクレアと共にを気にかけてくれた。クレアとは毎日剣の稽古で顔を合わす際に必ずフレイヤを気にかけくれた。困っていることがあれば手を貸してくれたこともあった。
アルカリスに来た理由はクレアが心配だったと言うこともあるが、トリスの事が気になるのも理由の一つだった。どうして彼にここまで惹かれているのは自分でも判らないが今は彼と共にいるのがフレイヤにとって幸せなことだった。
フレイヤはもう一度瞼を閉じた。今日は家の調度品を買いに行くがまだ時間に余裕がある。もう一度眠りについてもいいと思い眠りについた。
トリスが目を覚ますとフレイヤは頭をトリスの腕に預け気持ちよく眠っている。正確にはフレイヤが眠ったのでトリスは目を開けた。
長年『迷宮』で生活していた性でトリスは熟睡する事は無い。常に周囲を警戒しなければならない環境だった為に寝ていても周囲の僅かな変化で目を覚ます。
先程フレイヤが目を覚ました事にトリスは目を覚ましたがあえて寝たふりをした。特に理由は無かったが敢えて言うならフレイヤと顔を合わせるのが気が引けたからだ。
フレイヤを傍に置いておくために彼女の気持ちを利用しこのアルカリスに連れてきた。フレイヤは自分の意志でトリスについてきたと思っているが実はトリスによって心理誘導されていた。この手法はウォールドから教わった手法でうまく利用すれば簡単に人を騙し利益をあげることができる。
もっとも今のトリスには莫大な資金があるのでそんなことをする必要はない。ダリスを訪れる前にトリスは一度サリーシャに寄っていた。ラロックに会いその時に自分の手持ちの魔鉱石の三分の一を彼に預けた。その数は莫大で二十年以上トリスとウォールドが迷宮で貯め込んでいた物だ。
実際にどれくらいの利益になるかは判らないが少なくとも昨日購入した家をあと十軒購入しても無くなる額ではない。資金は余裕があるので残るは人材だ。信頼できる人間を身の回りに置いておきたかった。
それにもっと適していたのがフレイヤだった。フレイヤはトリスに少なからず負い目がある。借金を肩代わりしてその金を請求することはしていない。根が真面目なフレイヤはどこかでそのことを気にしている。その隙をトリスは巧みに利用しフレイヤを手元に置いていた。
(もし死後の世界がありそこでイーラと再会したら俺は八つ裂きされるだろう。)
友人の妻すら道具として使っている自分は本当に人でなしだとトリスは自覚していた。だがそれでも構わないとトリスは思っている。死後では無く今生で彼らに復讐すると誓ったのだから。
家を決めてから三日後トリスとフレイヤは不動産に指定された時間い家の前に来ていた。家を見学した日にそのまま銀行に行き支払いはその時に済ませた。だが最終的な引き渡しは三日後になると言われた。家の管理はきちんとしていたが購入者に渡す前に最終確認を行う必要があった。
三日前と比べ確かに至る所が補修されていた。庭の芝生は綺麗に刈り取られ雑草などは一つもない。石畳にあったひび割れや破損も綺麗に修復されていた。二日前に購入した調度品も既に家の中に運び込まれていた。
「この度は購入して頂きありがとうごいました。」
三日前の案内人とは違う初老の男性が深々とトリスに頭を下げた。彼はこの家を管理していた不動産屋のオーナーで先ほど自己紹介された。
オーナーにとって問題を抱えていた物件が定価売れとても満足のいく取り引きだった。せめてもの誠意と思い自ら足を運び最後の引き渡しの手続きを自ら行いに来た。
「一年以内に見つかった不備はこちらで無料で修繕します。また何かお困りのなるようなことがあればご連絡ください。他にも聞きしたいことがあればどうぞご質問ください。」
「今のところ何もないな。何かあったら連絡させてもらう。」
「判りました。では最後にこちらの引き渡し完了の書類にサインをお願いします。」
オーナーは一枚の紙とペンをトリスに差し出した。トリスは紙を受け取り書類の内容を確認してサインをした。これでこの家はトリスの物となった。トリスは最後にオーナーと握手をして別れた。
冒険者としてのトリスの拠点はこうして決まった。
いつも通りに誤字脱字の指摘や感想などを頂けると幸いです。
評価やブックマークをして頂けるととても嬉しいです
1月28日に一部修正しました。




