大都市アルカリス 歴史と再会
インフェリス王国はまだ五百年の歴史しかない国であった。大陸の中央にある国は千年の歴史を超える国が殆どで中には四千年の歴史を持つ国もあった。
インフェリスの初代国王は大陸の中央にある国の出身で傭兵として活躍していた。彼は彼の仲間たちと共に様々な国に仕え日々の生活を送っていた。
それだけなら普通の傭兵と変わりなかったが彼らは国に仕えた際に報酬の一つとして大陸の南西への立ち入りの許可を貰っていた。
当時大陸の南西は未開の地として恐れられていた。大陸の中心から南西へ行くには山脈を越えなければならなかった。しかしその山脈は険しく、とても人が乗り越えることは出来なかった。
山脈を避けていく場合は南東へ迂回しなければならない。南東から山脈と海の間にある森を抜けて行くしか大陸の南西に行く方法は無かった。
また、大陸の南西の地は年中大きな雲と霧に覆われており人が住むには適した土地では無いとされていた。人が住めずまた行くにも困難な土地を好き好んで開拓する国は無かった。
インフェリス王国の初代国王は当然そのことは知っていたが彼は傭兵と言うより探究者としての性質が濃かった。
彼は未開の地をこの目で見たくまた、どのような土地なのかを知りたいだけだった。志を同じくする者達を集め傭兵団を立ち上げ彼らは未開拓の土地を目指した。
傭兵団を立ち上げておよそ十年経った頃に大陸の南西に足を踏み出す準備が出来た。今まで貯めていた資金に各国からの許可も取れ念願の地に向けて行動を開始した。
最初は森を開拓するだけで五年もかかった。安全に大陸の南西に行くにはまず森を開拓して行くしかなかった。彼らは五年の月日を掛け森を切り開くとそこは霧の濃い湿地だった。迂闊に進んでしまうと沼や小さな池に足を取られてしまう。彼らは慎重に湿地帯を抜け、今の王都がある場所までさらに二年もの月日がかかった。
傭兵団を立ち上げてからおよそ十七年の年月をかけて彼らはようやく大陸の南西に訪れることができた。
彼らがのちに王都となる場所にたどり着くと奇妙な事が起こり始めた。今まで濃い霧に覆われていた辺りが日を追うごとに少しずつ霧が晴れていった。それに同じく上空にあった分厚い雲も少しずつ薄くなった。
彼らがこの地に来て十日経つ頃には霧も雲も全て無くなり太陽の光が辺り一面を照らしていた。
彼らはなぜがこのような事が突然起きたか不思議でしょうがなかった。だがそれよりももっと驚くべく事が彼らの目の前で起きた。いや、存在していたと言った方が正しい。彼が滞在する場所から西の方に巨大な『塔』が建っていた。
今までは濃い霧や分厚い雲のせいで視認出来なかったが紛れもなく巨大な『塔』が彼らの前に姿を表した。『塔』を目にした彼らは驚きとも歓喜ともつかない感情に支配いされた。
未知への好奇心が彼らの原動力だ。そんな彼らの前に人知を超える巨大な建造物が姿を見せたのだ。彼らの目的は『塔』を目指すことに変わった。今まで計画した内容を全て見直し一日も早く『塔』にたどり着くことに心血を注いだ。
その甲斐があって『塔』を確認してから僅か三十日で『塔』にたどり着くことに成功した。
彼らはのちにこの地に王国を築いた。初代インフェリス国王はこの『塔』の真下に都市を作り、『塔』を始めて見た場所に王都を作った。
『塔』がある都市の名前は自らの名前にし、王都の名前は長年彼を支えてくれた妻の名前、初代王妃の名前が付けられた。
初代インフェリス国王アルカリス・インフェリスとリサリア・インフェリスの名はこの時から歴史書に刻まれることになったのだ。
北に伸びていた一本道が三つに別れていた。一本は北西に、一本は北東に、一本はそのまま北に伸びていた。港街サリーシャから続くこの道が三つに別れるには大都市アルカリスが目前にある事を示している。
アルカリスは五つの区画に別れている。サリーシャや他の街に物を運ぶ南門がある南区画。行政を取り仕切る役場がある西区画。一般人が多く住む東区画。要人や貴族が住む中央区画。そして塔へと続く道があり冒険者が最も集まる北区画がある。
その別れ道にトリス、フレイヤ、クレア、フェリスの四人はたどり着くことが出来た。春になり商業都市ダリスを出てアルカリスに向かったのはおよそ十五日前。乗り合いの馬車でくればもう少し早くたどり着いたがトリスの提案で徒歩でここまで来たのだ。
「ここまで来ればもう着いたと言っても過言では無いですね。」
「ああ、後は東門か西門のどちらかに入るだけだ。」
フェリスとトリスはここまで無事に着いた事に安堵しながら二つに伸びる北東と北西の道を見比べていた。北東の道はそのまま東門に繋がり、北西の道はそのまま西門に繋がるようになっている。
「このまま真っ直ぐ北の道に進まないの?」
クレアは北に伸びる真っ直ぐな道を差しながらフェリスとトリスに尋ねた。
「北へ続く道は真っ直ぐに南門へ行きつきます。南門は物流の出入りに使う門なので一般人は使用できません。」
クレアの疑問にフェリスが丁寧に説明した。南門は物の出入りが頻繁に行われるアルカリスは物の出入りが頻繁に行われる。冒険者が採った素材や魔鉱石は勿論、それを加工した物なども輸出している。食べ物や日用品などは輸入に頼っているのでそれらを頻繁に出入りしている。
その為、南門は物質の搬入用として使われている。外部から来る人、内部から出る人は使用出来ない事になっていた。
「だからさっきから荷馬車が多く行き来しているんだね。」
クレアは先程から何度もすれ違う荷馬車の疑問が解りスッキリした表情になった。
「さて、無駄話はこの辺にしてそろそろ行くか。俺は人合う予定があるから西門から入るが皆もついて来るか?」
「はい。僕は今日中に冒険者登録が出来ればいいので。」
「私も!」
「私はトリスに付いて行きます。」
トリスの提案にフェリス、クレア、フレイヤは賛成し一同は北西の道に向かった。
「トリス・S・ノットメークです。通行許可をお願いします。」
「はい、では身分証目のできる物をご提示ください。」
「こちらでお願いします。」
「サリーシャとダリスの身分証ですね。確認しますので少しお待ちください。」
トリスは以前サリーシャで発行した身分証とダリスでシェリーから貰った身分証を提示した。
以前のトリスには名字が無かった。この国では名字つまり家名が無い人はあまりいない。持っていないのは孤児や犯罪者もしくは身分を剥奪された者になる。シェリーはトリスに名字が無い事に気に病み、トリスがダリスを出る直前に彼に授けたのだ。
フレイヤとクレアも同様にエーデ家の家名は名乗れない。既に二人は死人として扱われているのでフレイヤの前の名字プライアの名前にしていた。
暫くして四人は無事に手続きが終わりアルカリスの都市に入ることが出来た。
「さてこれからの事だがさっきも言ったが俺は人と会う予定がるために西区の宿屋に行くがお前達はどうする?フレイヤは俺と一緒に来るとして、このまま冒険者組合に行くのか?」
「僕とクレアさんも着いて行きます。」
「ヴァンさんに会ってみる。」
トリスはフェリスとクレアに今後の予定を聞いた。もうアルカリスの都市に来たから二人と一緒に行動する必要はない。冒険者になるならこのまま冒険者組合に行き冒険者登録をする必要がある。このまま分かれても問題は無いが、二人は以前からトリスから言われた提案に乗ることにした。
トリスの提案はパーティーを組むことだ。もっとも経験者のトリスではなくこれから会うザックとヴァンのことだ。彼らとは手紙で連絡をとっており、トリスがこの都市に来る事は知っている。今日のこれからの予定では西区にある宿屋で落ち合う事になっていた。
パーティーを組むなら力量が同じ者がいい。約一年前に冒険者になったヴァンとならクレアとフェリスとパーティーを組むのが丁度いい。ザックは冒険者と言うより情報屋をメインで今後トリスが雇用する予定だ。ザックが抜けた穴を補うためにヴァンにクレアとフェリスを紹介することを以前から提案していた。ヴァンにもこのことは手紙で知らせていいたので後は本人たちの意思で決めればいいとトリスは思っていた。
「じゃあ、これから落ち合う予定の宿屋に行くから逸れないよう着いて来てくれ。」
トリスは三人に逸れないよう注意しながら西区画にある宿屋に向かった。
「いらっしゃいませ。ご宿泊の方ですか?」
「いや、待ち合わせだ。トリスと言うがここの宿泊客のザックから伝言はないか?」
「少々お待ち下さい。」
トリス達は待ち合わせの宿に着くとさっそく受付の女性にザックからの伝言は無いか確認した。受付の女性はノートを取り出しザックからの伝言を探した。
「ザック様からトリス様宛の伝言は確かにお預かりしています。内容をここで伝えてもよろしいですか?」
「頼む」
「では、『一つ目の昼の鐘が鳴る時に宿に戻る。それまで食堂で待っていて欲しい。』とあります。」
「ありがとう。では食堂で待たせて貰っていいか?」
「はい、当宿の食堂は酒場も兼ねていますので宿泊者以外でもご利用できます。勿論料理の注文もできますので宜しければご利用ください。食堂はそちら扉を開いたところになります。」
「ありがとう。」
今は一つ目の昼の鐘が鳴る少し前の時間だ。昼食を取りながらザックを待つことにした。トリスは受付の女性にお礼をいいフレイヤ達と食堂に向かった。
「いらっしゃい。何名様ですか?」
食堂の扉を開けると威勢のいい声が飛んで来た。ホールにいた給仕の女性がトリス達に声を掛けてきた。
トリスは待ち合わせを事と人数を伝え給仕女性は奥にあるテーブルにトリス達を案内した。店にはまだ他客はおらずトリス達の貸し切りの状態になっていた。
「さて少し早いが昼食にするか。ここは俺が払うから好きな物を頼んでいいぞ。」
「やったー。」
「ご馳走になります。」
「ありがとうございます。」
トリスの奢ると言う言葉にクレアは喜びフェリスとフレイヤはお礼を言い店のメニューを見た。店のメニューには肉料理や魚料理の他にパスタや野菜料理などの数多くの料理が記載されていた。変わった物では異国の料理も数多くあった。
ここアルカリスは様々な国の人が訪れる。冒険者は勿論、魔物の素材を扱う商人やそれを加工する職人。武器や防具を作る鍛冶師。アクセサリーや護符を作る細工師など冒険者だけでなく様々な職業が集う都市だ。その為他国の文化もこの都市には人と共に流れてきていた。
「私はキノコサラダとお肉料理がいい。あ、でもこの料理も食べてみたい。ママ半分こしよう。」
「あら、良いわね。なら私はこのお魚の料理も食べてみたいからこれと海鮮サラダを頼むわ。」
「僕は魚の蒸し焼きとパスタ。後、野菜スープをお願いします。」
クレアやフレイヤ、フェリスは料理を決め後は飲みもに蜂蜜酒を頼んだ。
「トリスは何食べるの?」
「そうだな。せっかくだから俺は異国の料理を頼んで見るか。」
トリスは異国の料理が書かれている欄を見て幾つか異国の料理と同じく蜂蜜酒を頼んだ。
料理を注文して雑談していると先ほどの給仕の女性が料理を持って来た。その頃になると店には何人か他の客も入り始めていた。
「失礼します。」
給仕の女性はそう言うと料理をテーブルの上に置き始めた。クレア達が頼んだ料理はどれも他の街でよく見る一般的な料理だったがトリスが頼んだ料理は異国の料理とあって異色な形をしていた。
「トリス、黒い紙が巻かれているけど。食べて大丈夫?お腹壊しちゃうよ。」
「ああ、これは海苔と言って海藻を干した物だ。まかれているのは米と言う穀物で一緒に食べると美味いらしい。」
「そうなの?確かに米は白くて綺麗だけど美味しいのかなぁ?」
「師匠は好きだったみたいだぞ。」
トリスの師であったウォールドもこの都市に住んでいたため異国の料理を数多く食べていた。その中で印象に残った物や美味しかった物、好物になった物をよくトリスに話していた。
トリスは運ばれてきた料理、『オニギリ』を食べ始めた。『オニギリ』は米は柔らかく海苔はパリパリとして美味い。塩加減も丁度良く、米の中には魚の身が入れてあり満足する一品に仕上がっていた。
「うん、これはうまい。」
トリスはそう言うと他にも注文した料理を食べ始めた。野菜を糠と呼ばれる物に漬けた料理や豆腐と呼ばれる豆を加工した物と細切れにした肉と炒めた料理などを食べ始めた。最初は見た目に驚いたがどれもとても美味しい。これらの料理はウォールドが生前好きだった料理でトリスは食べたことがなった。
トリスが美味しそうに異国の料理を食べているのでクレア達もその料理が気になり始めた。トリスはそんな皆の様子を見て互いの料理を分け合うことを提案した。クレア、フレイヤ、フェリスはその提案に乗り、お互いに注文した料理を分け合いながら楽しく昼飯を過ごした。
「トリスさん、いますか?」
昼食を楽しんでいると先程トリス達が入って来た扉月勢いよく開いた。それと同時に男の大声が店内に響いた。呼ばれトリスは苦笑しながら手を上げ呼んだ男に声をかけた。どうやら昼食に夢中になっていて気が付かなかったが時刻は昼になっていたようだ。
「ザック、こっちだ。」
ザックに声を掛けるとザックはトリスの声に気が付きトリスの方を見た。ザックはトリスを確認すると嬉しそうにこっちに駆け寄ってきた。その後ろにはヴァンの姿もありザックと一緒にトリスがいるテーブルまで駆け寄ってきた。
「トリスさん、お久しぶりです。」
「お久しぶりです。」
「ああ、二人共に元気そうで何よりだ。取り敢えず席に座って飯一緒に飯でもどうだ。ここは俺が奢るよ。」
「ありがとうご座います。」
「ご馳走になりいます。」
ザックとヴァンはお礼を言いながらトリスに進められる席に着いた。給仕の女性を呼び止め料理と飲み物を注文した。
「二人と無事に合流できたからそれぞれ自己紹介でもするか。一応話はしているがみんな初対面だし。」
「「「「「はい。」」」」」
トリスの提案に料理を食べていたクレア達は一旦手を止め互いに自己紹介を始めた。
「では俺から行きます。ザック・マレフと言います。トリスさんとはサリーシャにで会いました。その縁で去年アルカリスに来て冒険者をしています。もともと情報屋なので戦闘よりも情報収集が得意です。」
「もしかして私の事をトリスさんに教えたのはザックさん?私はフレイヤと言います。」
ザックの自己紹介にフレイヤはあることに気が付きザックに自分の名前と共に疑問に思ったことを伝えた。
「はい、フレイヤさんのことはサリーシャで知っていました。失礼ながら昔聞いた話をトリスさんに...!?」
ザックはサリーシャでトリスに話したことを思い出しながら喋ろうとしたが言葉に詰まってしまった。自分が昔得た情報と目の前の女性の印象が違っていたからだ。そんなこととはつゆ知らずフレイヤはザックにお礼を言った。
「それはありがとうございました。こうして私やクレアがここにいられるのはトリスさんのお陰です。トリスに私達の事を教えて下さったあなたにもお礼が言いたかったの。」
そう言うとフレイヤとクレアは頭を下げた。長い銀髪の髪が揺た。
「銀髪?」
ザックはもう一度フレイヤとクレアを見た。二人は顔立ちや年齢は自分の知っている情報と一致していた。だが髪の色や瞳の色などは自分の知っている情報と異なっていた。ザックの情報では金髪で青い瞳の女性だった筈だ。それなのに目の前の二人は銀髪に金色の瞳だった。
「ザックが戸惑うと言うことはうまく誤魔化しが出来ているな。」
ザックの戸惑いにトリスは満足した様子でいた。ザックは気になりトリスに問いただした。
「トリスさん、俺の情報は間違っていました?」
「いいや、合っていたさ。種明かしは後でするから自己紹介を終わらせよう。」
そう言ってトリスはヴァンの方に向き続けるよに合図した。
「ヴァン・オルガルと言います。リズの村に出身でトリスさんとは村で会いました。幼い頃から父から槍を習い槍の扱いには自信があります。私もザックさんと同じ時期に冒険者になりました。」
「ヴァンの槍さばきは親父さんに仕込まれただけあって見事なものだ。あと村では狩りもしていたから弓も扱える筈だ。」
「はい、トリスさんの言うように弓も扱えるので後方支援もできます。」
ヴァンは照れながらそう言い自己紹介を終えた。
「次は僕ですね。フェリス・ウォルスです。出身はダリスですが去年のまで学園に通っていました。学園では主に魔術を習いましたが魔術だけでなく護身術も身につけています。冒険者志望です。」
「彼の親族には俺が世話になった。その人の名前はここでは言えないから後で聞いたらいい。」
フェリスの大伯父ウォールドはこの街では伝説となっている。下手にその名前や出すとトラブルの元になるのでフェリスにはウォールドのことはなるべく伏せるように言い含めていた。
「じゃあ、私の番ね。クレア・プライアです。私も冒険者志望です。剣がメインで小さい頃から自己流で稽古していました。去年トリスに会ってそれから剣の稽古をつけて貰っています。」
「クレアは剣の腕は未熟だが筋はいい。これから伸びると思う。」
「えへへ。」
トリスに褒められクレアは満足した顔を浮かべた。
「最後は私ですね。クレアの母でフレイヤ・プライアと言います。私は冒険者になることが目的ではなくトリスさんに雇われてきました。」
「フレイヤは俺の身の回りの世話をして貰うために雇った。正確に言うとこれから買う家の管理をしてもらうためだ。これで大体みんなの名前と目的が判ったと思う。困った事があったら互いに助け合って行こう。」
フレイヤの自己紹介が終わるとトリスは最後にそう言い皆の自己紹介を終了した。
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