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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
帰還者としての時間
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大都市アルカリス 登録と階級

今年もあと一日。今日は三話登録して今年の締めとします。

まずは一つ目。

拠点が決まったトリスは家の中のソファーでお茶を飲みながら寛いでいた。お茶は昨日市場で購入した物で深みのある美味しいお茶だった。


家に入った後はフレイヤがさっそく調理場の使い勝手を確かめる為に昼食を作り、フレイヤと二人で昼食をとった。今は昼食後のお茶を飲んでいた。

お茶を飲み一息ついたところでトリスはフレイヤに今日の予定を話し始めた。


「今日はこれから冒険者組合(ギルド)に行って冒険者登録をしてくる。」

「判りました。どのくらいで戻りますか?」

「登録にはそんなに時間がかからないが、武器屋によってくるから戻りは夕方になる。」


トリスの得物である剣は二十年近く使用いている。ウォールドから譲り受けた剣で東方の技術で作られた特殊な剣だ。トリスは出来る限り手入れはしていたがもう限界に近かった。サリーシャやダリスの鍛冶屋に観て貰ったが東方の技術で作られているため何処の鍛冶屋もお手上げの状態だった。


アルカリスには東方の技術を学んだ鍛冶師が少なからずいる。その人たちに見せれば修繕が出来るかもしれないとトリスは踏んでいた。


「では、夕食を作って帰りを待っています。」

「ああ、頼む。もしクレア達に会ったら何か託けることは無いか?」

「ありません。敢えて言えば体に気を付けるように言ってください。」

「判った。」



冒険者組合(ギルド)は北区画の北部に位置している。組合(ギルド)から少し北に行ったところに北門があり門を潜ると『塔』まで続く道となっていた。トリスが家を出たのは昼過ぎでこの時間なら組合(ギルド)は混雑はしていない。組合(ギルド)が冒険者でいっぱいになるのは朝か一番混雑する夕方になる。


『塔』に行く冒険者は朝早く行動を開始する。主に行うのは二つ。『塔』の攻略か依頼の受注だ。冒険者は『塔』を攻略するのが本来の目的である。『塔』の中に入り各階層を攻略し自分達が攻略できる階層をどんどん上げて行く。その際に入手した魔物の素材や魔鉱石と言った物を組合(ギルド)に渡し買い取って貰い日々の生活の糧にする。


攻略とは別に組合(ギルド)からの依頼もある。例えば皮扱う職人が魔物の皮を欲した場合、組合(ギルド)から売りに出される物を買うか組合(ギルド)に依頼する。依頼を受けた組合(ギルド)は冒険者に素材の量と報奨金額を提示し冒険者はその依頼内容を見て依頼を受ける。


依頼が達成できれば報奨金が貰え組合(ギルド)からの評価が上がる。依頼が達成できない場合でも僅かな違約金を払えば依頼を破棄することができる。


このように『塔』に行く冒険者は行動はほぼ決まっていた。その為組合(ギルド)が混雑するのは依頼を受ける冒険者かくる朝か冒険者が返ってくる夕方が一番混雑する。昼過ぎに組合(ギルド)が混雑することは滅多にない。


トリスは二十年前に何度も通った道を思い出しながら冒険者組合(ギルド)に向かった。記憶と異なる場所は幾つかあったが通りの作りが変わっていないため迷うことなく組合(ギルド)にたどり着くことが出来た。


組合(ギルド)の扉を開けると懐かしい気配に満たされていた。冒険者が少ない時間帯と言っても全くいない訳ではない。『塔』の攻略するために情報を集める者、明日依頼を受けるために依頼内容を確認する者、新しいパーティーを組むために人材を募集する者など少なくても二十人くらいの冒険者組合(ギルド)にいた。


トリスはそんな冒険者を懐かしく見ながら受付の列に並んだ。受付の順番待ちは二人しか並んでいないので自分の番は直ぐに来るだろう。トリスはそう思いながら組合(ギルド)を見渡した。


建物は新築されてはいないが至るところが改装されていた。特によくお世話になった受付のカウンターは大きく変わっていた。昔はは酒場のカウンターのような長い机が置かれ十人くらいの組合(ギルド)職員が並び立って対応していた。それが一つ一つ仕切り版で区分けされ冒険者側には椅子が二つ用意されていた。


他にも至る所が変わっておりトリスは新鮮な気持ちで眺めていると自分の番になり受付の職員に呼ばれた。呼ばれた場所に行くと受付の職員は椅子に座る様に言いトリスは椅子に座った。受付の職員は二十歳前後で栗色の髪を肩で伸ばした愛らしい顔つきの女性で新人ぽい雰囲気だ。


「本日は組合(ギルド)にどの様なご用件でしょうか?」


鈴を転がすようなかわいい声で挨拶をしてきた。トリスは要件を伝えた。


「冒険者の登録をお願いします。」

「ありがとうございます。ではこちらの紙に記入をお願いします。もし代筆が必要でしたら言ってください。あと、身分証があればそれも提示してください。」


受付の職員は紙とペンを差し出した。トリスはウォールドに読み書きを一から学んだので書かれている内容は全て理解できた。トリスは渡されたペンで紙に必要事項を書き最後に身分証と一緒に記入した紙を職員に返した。


「ありがとうございます。拝見させて...えっ!」

「どうかされました。」


トリスが記入した紙を見て突然職員が驚きの声を上げた。


「し、失礼しました。字があんまりにも綺麗で、それに年齢が見た目と違っていまして驚いてしまいました。」

「そうですか。書類に何か不備があったかと思いました。」

「いえ、書類に不備はありません。必要な書類を持ってきますので少々お待ちください。」


職員はそう言うとそのまま書類を持って奥の方に行ってしまった。トリスは大人しく待っていると不意に後ろから敵意が感じられた。


「おい、お前ミリアちゃんに何か変な事したのか?」


後ろから図太い男声が聞こえたのでトリスはゆっくり振り返った。そこには大柄な男性が立っており身長はトリスより頭一つ分大きい。風貌から冒険者で間違いなく大きな斧を背負っていた。


「いえ、私は特に何もしていないですよ。ただ私の年齢に驚いたみたいです。」

「本当にそれだけか?」

「はい。」

「・・・判った。だが彼女に変な事はするなよ。」

「彼女はあなたの恋人なのですか。」

「ち、ちげーよ。彼女は俺の恩人の娘さんだ。だから変な虫が付かないようにしているだけだ。」

「判りました。」

「本当に判ったんだろうな。」

「ええ、大丈夫です。」

「あー、ジョン君また、絡んでいる。」


トリスが男と話をしていると先ほどの職員が戻ってきた。彼女はトリスと男が話しをしているのを見てトリスが絡まれていると思ったのだろう。男は狼狽しながら言い訳を言い始めた。


「違うんだ。俺はこの人にちょと注意をしていただけだ。」

「嘘言っても駄目だからね。トリスさんに聞けば判るんだから。」

「嘘ではありませんよ。彼には武器屋のことを聞いていたんです。私の武器は特殊でしてこれを整備できる鍛冶師を探しています。こちらのジョンさんに聞いたところ『詐欺師もいるから注意しろ』と忠告を受けました。いい人ですね。」


トリスは自分の剣を見せながらそう言いい男に助け船を出した。別に男を助ける義理は無かったが恩を売っておくには越したことは無い。それに変な逆恨みを買う可能性もあったのでトリスは男を助けることにした。


「そ、それは失礼しました。ジョン君も疑ってごめんね。」

「き、気にするなよ。」


トリスの言い分に職員は信じトリスと男に謝罪をした。男はトリスに聞こえるだけの声で『恩にきる。』とお礼を言った。


「ジョンさん。またお話しを聞かせてください。」

「おう、あと俺の名前はジョンじゃない。ジョセフだ。」

「わかりました、ジョセフさんですね。私はトリスと言います。」

「おう、何かあったら気軽に声を掛けてくれ。」


ジョセフはそう言うとトリスから離れて二階に上がる階段に向かっていった。トリスは彼を見送った後に改めて職員に向き直ると職員は感心した様子だった。


「ジョン君と初対面で仲良くなる人初めてみました。ジョン君はあの通り大柄だから初対面の人は怖がるんです。」

「確かに背が高く威圧感はありますが怖がることはないと思いますが。」

「いえ、それにとても強いんです。若手ではトップクラスに入る程の実力者です。」

「確かにあの身体で得物の斧を自由に振り回せれば脅威ですね。」

「そうでしょう。」


職員はジョセフのことを自分のことの様に誉めているがトリスにとっては強者では無かった。ジョセフは確かに恵まれた体躯だったが体の芯がぶれていた。それは身体のバランスが悪いことを意味し、今後冒険者をやって行くには致命的な欠陥になる。だがそこを直せば伸びしろがある冒険者になると思う。


トリスはそこまで考え思わず自分の思考に可笑しくなった。最近クレアやフェリスを鍛えていたせいで指導者としての考えが出てしまう。自分はここに冒険者を育成しに来たわけではないというのに。


「それでジョセフさんのことはおいて置いて登録の続きをお願いします。ミリアさんとお呼びしてもよろしいですか?」


トリスは考えを改め冒険者登録を進めるようミリアを促した。


「はい。そう言えば名前を名乗っていませんでした。組合(ギルド)職員のミリア。ミリア・ファームと言います。よろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。」

「ではさっそくご説明させていただきます。冒険者の仕事内容については当然ご存知ですよね?」

「『塔』の攻略を目指すか、組合(ギルド)からの仕事をこなすかですよね。」

「そうです。大きな仕事はその二点になります。では階級(ランク)についてはご存知ですか?」

階級(ランク)ですか?」

階級(ランク)についてはご存じなかったようですね。では階級(ランク)についてご説明させて頂きます。階級(ランク)はEからAまであり、初心者は皆E階級(ランク)からスタートします。このシステムは十五年前から始まりました。」

「十五年前?」

「はい、今の組合長(ギルドマスター)。通称ギルマスが創めたシステムです。

階級(ランク)について細かく説明しまと、E階級(ランク)は登録したばかりの冒険者でこの時点ではまだ仮登録で組合(ギルド)ではまだ正式に冒険者として認めていません。」


そうなると今日登録したばかりのトリスはまだE階級(ランク)組合(ギルド)からはまだ正式に認められていないことになる。ミリアは話を続けた。


「D階級(ランク)から組合(ギルド)が正式に認めた冒険者になります。その後C階級(ランク)で一人前の冒険者として認め、B階級(ランク)でベテラン冒険者。A階級(ランク)で特級冒険者になります。」

「D階級(ランク)を上げる方法は?」

「E階級(ランク)がD階級(ランク)になるには組合(ギルド)の依頼を十回達成することが条件です。」

「依頼ですか?」

「『塔』の攻略ですと強いパーティーに同行すれば何層でも行けてしまいます。冒険者として適正を計るのが目的ですので初心者に合わせた依頼なので一人でも達成できるようになっています。」

「なるほど。」


二十年前は冒険者に階級(ランク)は無かった。敢えてつけていたのが下級、中級、上級の三つで分けていた。しかもそれは自分が周りの冒険者達と実力を比べて呼んでいただけだったので明確な区分は無かった。それが階級(ランク)と言う明確な区分に分け、さらに依頼内容も階級(ランク)に合わせて設定しているようだ。


「こちらがE階級(ランク)がD階級(ランク)に昇格するための組合(ギルド)が指定している依頼です。早い方です新人パーティーを組んで十日で依頼を達成します。」


ミリアが差し出した紙には組合(ギルド)が指定した依頼内容が書かれていた。内容をみると薬草採取に魔物の討伐などが書かれ、確かにこれらの依頼は新人にはそこそこ苦労はするが達成できない内容では無かった。


「E階級(ランク)は『塔』の十階層までしか行けませんが、D階級(ランク)になると『塔』の十階層以上を進むことができます。現在塔の攻略は三百二十八階層まで攻略しており、D階級(ランク)は百階層まで行くことができます。」

階級(ランク)によって行ける階層に制限があるのですか?」


この情報はトリスには驚きだった。二十年前は自己責任で初心者でもどの階層に行こうが自由だった。今は階級(ランク)によって制限をかけているようだ。


「二十年前は確かに階層の制限はしていませんでした。しかし冒険者の死亡率や行方不明が多くなっていたためにこのような規則が出来たと聞いています。」

「・・・。」

「それにB階級(ランク)になれば制限は無くなりますから頑張って階級(ランク)を上げていきましょう。」


ミリアは胸の前で両手で握りこぶしを作りトリスを激励した。トリスはそんな事よりもギルドの制度が気になっていた。サリーシャでラロックから制度のことを聞き、ザックに調べさせているがここまで大きく制度を変えたのには何か理由があるのか。本当に冒険者の死亡率や行方不明を下げる為の処置なのかが疑問に残った。


その後はミリアから冒険者の規則や依頼の受け方などの説明があった。だが大体はトリスが知っていた事と大きく異なる点は特になかった。


「今までの説明で不明な点やその他質問などはありますか?」

「特にありません。」

「では、こちらがトリスの冒険者の証明です。冒険者の人はタグと呼んでいます。『塔』に入る際は必ず身に付けてください。」

「わかりました。」

「本日はご登録ありがとうございました。以上で終了となります。」

「こちらこそありがとうございました。」


トリスはそう言うとミリアに挨拶して席を立った。トリスはそのまま鍛冶師を探しに行くために組合(ギルド)を出た。


「よう、無事に終わったようだな。」


トリスが組合(ギルド)を出ると入口でジョセフが待っていた。


「どうしました。何か御用ですか?」

「さっき東方の鍛冶師を探していると言っていたから案内しようと思ってな。」

「なぜ?」

「なぜってさっきミリアちゃんから庇ってくれただろう。借りを作ったままじゃ気持ちや悪いから鍛冶師を紹介してやろうと思っただけだ。」


ジョセフは早口でトリスを待っていた理由を話した。確かにミリアの言う通り悪人では無いようだ。その風貌で少し損をしている善人のようだ。


「ありがとうございます。ではせっかくだから案内をお願いします。」

「おう、任しとけ。と言いたいところだが敬語はやめてくれ。なんか背中がムズムズする。」

「わかった。案内を頼む。」


トリスは何時もの口調に戻すとジョセフは嬉しそうに案内を始めた。トリスはジョセフの案内で鍛冶師を探しにアルカリの街を歩くことになった。



いつも通りに誤字脱字の指摘や感想などを頂けると幸いです。

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