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第8話 朝の光が崩れた石壁の隙間から差し込み

編集朝の光が崩れた石壁の隙間から差し込み、封鎖された貯水槽の表面を白く照らしていた。私は村人たちとともに、その周囲に積もった土と瓦礫を少しずつ取り除いていた。昨日までの調査で、第二分岐へ続くはずの水路が、この貯水槽の裏で途切れていることは分かっている。ただし、なぜここだけが意図的に塞がれているのかは分からなかった。以前、水路の下で見つけた死骸のように、水路そのものが汚染されている可能性もある。不用意に壁を崩せば、濁った水や溜まった泥が一気に村へ流れ込むかもしれない。「湊君、ここ、昨日より線がよく見えるぞ」隣で土を掻き出していた村人に呼ばれ、私はしゃがみ込んだ。貯水槽の側面には、自然な亀裂とは違う、細くまっすぐな溝が走っていた。槌で軽く叩くと、同じ石壁のはずなのに音がわずかに違う。中央は重く鈍いが、右端だけが乾いた音を返した。私は手袋を外し、石に触れた。視界の隅に、淡い文字が浮かぶ。〈補修壁。後年に追加。内部圧力を逃がす空隙あり〉「壁そのものが貯水槽じゃない」思わず呟くと、村人たちが手を止めた。「どういうことだ?」「元の貯水槽の外側に、あとから石を積んで塞いであるみたいです。中に空洞がある。ただ、すぐ壊すのは危ない」私は壁の下部を指でなぞった。ところどころ、石材の色が違う。灰色の古い石に混じって、少し赤みを帯びた石が三つ、縦に並んでいた。「この三つだけ材質が違います。目印かもしれない」村人の一人がつるはしを持ち上げた。「なら、ここを割ってみるか?」「待ってください」声が思ったより強く出た。相手は驚いたように手を止めたが、すぐにつるはしを下ろした。以前なら「役立たずの鑑定に何が分かる」と笑われていたかもしれない。今は誰も急かさず、私の次の言葉を待っている。「封鎖が罠なのか、壊れた設備を止めるためなのか、まだ判断できません。先に構造を確かめます」私は細いのみと小槌を受け取り、赤みのある石の周囲に詰まった土を削った。腕はすでに痺れ、槌を振るたびに指先が震える。それでも、石を傷つけないよう力を抑えた。午前の半ばを過ぎた頃、三つ目の石の下から、指一本ほどの隙間が現れた。中へ細い棒を差し込む。すぐに何かへ当たった。壁の奥行きは思ったより浅い。「板みたいなものがあります」「取り出せそうか?」「周りを広げれば」村人たちは黙って土を運び、私が削りやすいよう足場を整えてくれた。昨日まで私のやり方を疑っていた年配の男も、何も言わずに先の欠けていないのみを差し出した。それを受け取り、私は軽く頭を下げた。石を一つ外すと、冷たい空気が隙間から流れ出した。腐臭はない。水音も聞こえない。慎重に穴を広げると、奥に薄い石板が立てかけられていた。表面には、図書館で見た古い水路文字が刻まれている。泥で半分ほど埋もれていたが、線の形には覚えがあった。私は石板を布で拭き、日光の下へ運んだ。「読めるのか?」「全部は無理です。でも、図書館で写した対照表があります」鞄から折り畳んだ紙を取り出し、文字を一つずつ照らし合わせる。似た形が多く、焦ると読み違える。私は何度も石板と紙を見比べた。やがて、いくつかの語がつながった。「満水時……開放するな。先に上部の排気口を開ける。次に下部の水抜きを確認……」周囲の空気が張りつめた。「やっぱり、ただの壁じゃなかったのか」「はい。中に水か空気が溜まっていた場合、正面から壊すと一気に噴き出します」私は残りの文字を追った。石板には、封鎖の手順だけでなく、解除の順番も刻まれていた。上部の排気口、側面の確認窓、下部の水抜き。その三つを確かめてから、中央の留め石を外す。ただし、最後の一行だけは対照表にない文字が混じっていた。〈第二分岐、異常時は閉鎖を維持せよ〉私は石板の裏側も確かめた。表ほど深くはないが、細い線で貯水槽の断面が描かれている。上部の排気口から伸びた線は中央の空洞へ、下部の水抜きは村の外れにある古い排水溝へ続いていた。「この溝、まだ残っていたか?」私が尋ねると、若い村人が首を振った。「途中までは見える。でも先は土で埋まってる。昔、子どもが落ちないよう塞いだって聞いた」「なら、先にそちらを開けないと。水抜きを外しても出口が詰まっていたら、別の場所へ圧が逃げます」私は地図の端へ排水溝を書き足した。封鎖を壊すことばかり考えていた自分に、遅れて怖さが込み上げる。鑑定で構造が見えても、起きることのすべてが分かるわけではない。判断を誤れば、傷つくのは私だけではなかった。「湊君」年配の男が、外した石を元の位置へ寄せながら言った。「急がなくていい。ここまで来られたのは、お前が止めるところで止めたからだ」短い言葉だったが、胸の奥に重く残った。「異常って、何のことだ?」村人の問いに、私はすぐ答えられなかった。貯水槽が壊れたから塞いだのなら、修理方法が書かれているはずだ。だが石板は、異常が収まるまで閉鎖を保てと命じている。つまり、第二分岐の先に何か問題があった可能性が高い。「まだ開けきるべきじゃありません」そう言うと、何人かが落胆した顔を見せた。「せっかく道が見つかったのにか?」「だからこそです。ここで間違えたら、今までの作業が全部無駄になります」私は地面に広げた紙へ、貯水槽の輪郭と石板に記された三つの位置を書き込んだ。「今日は解除の準備だけします。排気口と水抜きが生きているかを確かめる。安全だと分かってから、中央を開けます」しばらく沈黙が続いた。やがて、年配の男が私の横にしゃがみ込み、地図を覗いた。「上の穴を探すなら、足場が要るな」別の村人が頷く。「水抜きの先も掘っておこう。流れ出しても受けられる溝を作る」「手分けしよう」誰からともなく声が上がり、止まっていた作業が再び動き始めた。昼過ぎ、私たちは貯水槽の上部に埋もれた小さな石栓を見つけた。周囲の石より黒く、中央に指を掛けるための窪みがある。鑑定すると、〈排気栓。固着。破損時、再封鎖困難〉と表示された。無理にこじれば壊れる。私は油を染み込ませた布を巻き、少しずつ汚れを落とした。村の倉庫から持ち出した滑車を組み、縄で真上へ引けるようにする。強い力を一度に掛けず、村人たちと呼吸を合わせて少しずつ動かした。「せーの」縄が軋む。石栓は動かない。もう一度、油を足す。腕の痺れは肩まで上がっていた。掌には水ぶくれができ、縄を握るたび痛んだ。それでも三度目に力を掛けたとき、石栓がわずかに浮いた。細い音がした。空気が抜ける、乾いた笛のような音だった。全員が動きを止める。腐臭も毒気もない。ただ、貯水槽の奥から冷たい風が長く吐き出されてきた。何十年も閉じ込められていた空気が、ようやく外へ逃げているようだった。「これで一つ目だ」誰かが呟いた。私は頷いたが、胸の奥の緊張は消えなかった。夕方までに、側面の確認窓も見つかった。小さな石蓋を外すと、その奥には乾いた空洞が広がっていた。灯りを差し込むと、貯水槽の内壁と、その向こうへ続く狭い通路が見える。第二分岐だ。しかし通路の床には、黒い泥のようなものが帯状にこびりついていた。「水は溜まってないな」「でも、あれは何だ?」私は答えず、確認窓から棒の先を差し入れた。黒いものに触れた瞬間、棒の表面がざらりと崩れた。慌てて引き抜く。木の先端が、焼け焦げたように黒く変色していた。棒を地面へ置いても、黒ずみはゆっくり根元へ広がっていた。水に濡れた形跡はないのに、焦げた木の匂いだけが鼻を刺す。私は布で包み、素手では触れないよう念を押した。村人たちの間にざわめきが走る。私は石板の最後の一行を思い出した。異常時は、閉鎖を維持せよ。「今日はここまでです」反対する声はなかった。私たちは確認窓を仮の板で塞ぎ、周囲に縄を張った。明日、図書館の記録と照らし合わせ、黒い付着物の正体を調べる。それまでは誰も近づかないよう言い含める。日が沈みかけた頃、私は最後にもう一度、貯水槽へ手を触れた。〈封鎖設備。解除工程、一段階完了〉続いて、これまで見えなかった文字がゆっくり浮かび上がる。〈第二分岐内部――汚染源、活動中〉冷たい風が、塞いだはずの確認窓の隙間から吹き出した。

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