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犬頭の探偵は黄昏に沈む世界で明日を夢見る事ができるか  作者: せんこう
犬頭の王様は黄昏を越えた未来で何時でも明日を夢見ていられるか
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犬頭の王様は黄昏を越えた未来で何時でも明日を夢見ていられるか①

長く時間が空いてしまいましたが、本日より最終章、六章の投稿をはじめたいと思います。

本文は完成していますので、問題が無ければ今月中の完結となる予定です。よろしくお願いします。

その始まりは、純粋な願いから始まった。


せめて、こう在ってほしいという祈り。そして、そう在れという願いの果て。そんな夢物語を叶えるためにソレは生まれて、実際にそれら全てを叶えてしまった。

理不尽でなく、本来であれば、そのたった一つの願いを叶えた後に。ソレは、其処で他の全てと同じく、共に終わりを迎える筈であったのだが、そうならなかった理由は一つ。それもまた純粋な、心からの善意という、そんな一つの祈りという始まり。

その求められ、遂げられた終焉の淵で。最初に、最後に残った誰かは祈ってしまったのだ。そう、願ってしまったのだ。


ああ、どうかこのような終焉が。他の全ての者たちにも訪れますように、と。


そうして、祈りに応える為に生まれたソレは、その世界に残った最後の願いによって、永い旅を始める事となる。

定着し、選択し。回収した後は再演して、やがて収穫の時を迎える。それを終えると、ソレはまた次の場所を目指して旅立つ。

そんな風に繰り返す永劫。数多の世界、数多の命の祈りを叶えるために、その願いに応える為に。


とある世界は、大地が腐り果て、生ける家畜が病で死に絶えて。分け合う物も、奪い合う物すら無くなって、満たされぬ飢えの苦しみの果てに。其処に在った者たちが互いを糧にする事で僅かに腹を満たす事を選び、そうして残った最後の一人がやはり、飢えて終わる。


とある世界は、流星がその大地を砕く事を知って、成す術が無いと知っても足掻き。その最後まで行った試行錯誤の全てが徒労に終わり、流星が大地の表面を焼いて砕き、奇跡に縋る様に地中深くに設けた鋼の棺桶に籠った最後の一人が、やはり砕けて終わる。


とある世界は、光り輝く天の御使いが空より舞い降りて、主たる主が全てをやり直す事にしたのだと一方的に宣言して。その言葉通りに丁寧に一人一人が首を刎ねられ、砕いて大地に撒かれ、地虫の餌食になるをまかせた後、自分がその新たな世界の糧になるのならと、自ら首を垂れて、最後の一人が、やはり幸いの中で終わる。


ああ、そうなのだ。最も幸いな事は、一秒でも早く終わる事。その次に幸いな事は、己が想像できる方法で終わる事である。


そんな祈りと願いを託されて繰り返した幾度かの終わり。ソレは、その場所へと辿り着いた。


その時代、その世界。そのほしは未だ己の輝きを定める観測者の選定を行っておらず、またそれ故に可能性を秘めた世界が、存在する事を数多許したという、稀有な大地を持っている。

それ自体は良い事だ。何時もと変わらず、世界を収穫する。しかもその間が狭い為に、次々に世界の収穫を行える。


そうして選んだ一つの世界、その世界で選ばれた終焉は、全てを洗い流す大水。

何時もの様に、収穫は行われた。何時もの様に、正しく再演も行われた。


ああ、けれど。これまでに一度として無かった、唯一の例外が其処には在ったのだ。

それはこれまでの永劫、数多の世界、数多の命がその終わりまで知る事の無かったソレの存在に、気が付いた誰かが在った事である。


そうして、世界の収穫は延期されたまま、新たな終焉の再現が行われるという、これもまた今までに在り得なかった事態に至る。しかしそれで終わりだと、ソレは考えていた。


最早自らのルールを崩せる存在は此処に居らず、ならば後は同じ事。

九界の底、第九の階層。その広がる紅の海で、ソレは終焉をもたらすカタチを得る。沸き立つ波間より伺うは黒き炎のカタチ。其れは回収された物語においては、世界の全てを焼き尽くしたという、炎の巨人、そして最後の巨人。


ああ、炎という終わりは良い。実る麦穂の畝を、その黄金に波打つ数多の命を、悉く燃やし尽くすのに、これ程に適したカタチは他に無いだろう。

これならば、一つ前の様に取り残す事もあるまいと、そう考える事も、やはり純粋な善意から生まれた願いである。


ああ、そうなのだ。最も幸いな事は、一秒でも早く終わる事。その次に幸いな事は、己が想像しうる方法で終わる事である。


一万年のまどろみから覚めて、ソレは。

『黄昏』は、収穫の開始を言祝ぐ様に鳴り響くギャラルホルンの角笛の音を聞きながら立ち上がる。

今度こそ、何時も通りに。この世界に在る、遍く全てのヒトに、終焉という安心をもたらす為に。





「会長が、ベル・バルドル氏が亡くなられた、だと・・・!?」


バルドル北米支部。長年その支部長を務めた彼は、本社経由にて伝えられたその驚愕的な訃報を受けて、普段の聡明さで知られた思考をすっかり硬直させてしまい、情報が本当に事実であるかどうかについてすらまともに検討する間も与えられず、十分に心構えさえ出来ないままで急ぎ緊急会議の場へと向かっている。


「本当に、何かの間違いなどでは無いのだね?」

「メールのセキュリティは本社規格ですし、同じ通達が世界各国の支部に同時に、しかも本社社長、三上氏の署名付きです。ほぼ、確定で間違いないかと」

「そうか。しかし、俄かには信じがたいが・・・」


あの会長が、ベル・バルドルが死んでしまうなどとは、そんな事が本当に在り得るのだろうか。

もしかすると、何らかの意図があって流布された偽装情報である事も考えられたが、会議室へ向かう僅かな間に秘書より報告される情報は、この通達が事実である事を補強し続けている。

ともなれば、それが事実であるとして。


「・・・荒れるな、これは」


故人が一代で立ち上げた巨大企業グループ、バルドルとは良くも悪くもベル・バルドル氏の存在が在ればこそ成立していた群体である。

バルドルは概ね、世間一般にはここ数十年で興った新興企業として知られているが、その本質は長らくその業界を牽引していた古い企業群が束ねられ、バルドルという新しい名でまとまった姿に過ぎない。

その発足の正確な経緯は未だに謎に包まれているが、それでも事実として、ベル・バルドル氏という巨大なカリスマが在ってこそ、此処までその巨体の足並みをそろえて、一つの企業としての状態を維持できていたのだ。

そんな氏が失われたという今、良くて分裂、最悪は空中分解の体で、分裂した会社が相互いに喰いあう血みどろの抗争へと発展する恐れがあった。


つまりどうあっても、バルドルは今までのカタチを維持したままではいられまい。

それが北米支部長である彼の結論であり、会議室の扉を開けるまでには、彼の最優先目標は形態としての北米支部の維持、もしくは独立と、一刻も早くこの重大な情報を、彼の協力者へと伝える事に有るとして結論を出した。

故に、この会議の場では日和見を装いつつ、注意深く各支部の動向を探り、有益な情報収集に努めねばならないだろう。そう考えながら、支部長専用のオンライン会議室に入室し、一つ息を吐いてからホログラム投影の起動パネルを押した。

同期して照明が落ち、立体映像で各支部長の姿が投影される。現在確認できるのは極東アジア支部、ロシア支部、中央アジア支部、中東支部、アフリカ支部、そして自身が所属する北米支部の計六名。残す支部はユーロ支部、南米支部だが、それぞれの支部長の姿は見えず、他の者に尋ねると、どうやら彼らは何か理由が有って遅れているらしい。


『全員、揃っておられる様で』


さて、会議が始まる前にこれからどうすると他の支部長と意見を交わす間も無く、本社社長である三上の姿が現れた。事態の震源地である本社は今頃混乱の極みである筈だが、一見いつもと変わらぬ鉄面皮であり、彼女には動揺した様子はない。


『それでは、バルドル会長、ベル・バルドル氏の訃報を受けて、この場でのバルドル各支部へ通達を行わせていただきます』

『あの、社長。まだユーロと南米の支部長が出席していないようですが』

『ええ、重大案件なら特に、彼らを待った方が良いのでは?』


それは正しい指摘である。少なくとも、次に三上が言葉を発するまでは、その場の誰もがそう考えていただろう。


『その心配は無用です。この場に存在しない支部長二名は既に処分が決定、そして処理されておりますので』

『・・・は?』


映像越しであるが、他の支部長が全員凍り付く様子がはっきりと分かった。自身も背中に氷柱を突っ込まれたかのように感じて、意味も無く背後に視線を送りそうになり、ソレを悟られぬようにと必死で平静を取り繕う。


『ユーロ支部長は予てより嫌疑の在った過激派組織に関連する内通、背任行為にて。南米支部長には、混乱に乗じて他支部へバルドルからの離反の同調を促した嫌疑にて、既にその席から抹消、拘束済みとなっております』


実際、始めに崩れるのはその二ヵ所からだと予想はしていた。だからこそ、この場にその姿が無かったことからその準備か、既に行動に移していると考えていたが。それに関しては、バルドル、というより三上が一手も二手も先を行っていた、という事らしい。


「・・・では、社長。その通達、というものは?」


他の誰もが石の様に黙ってしまって、自分から注目される事は嫌で仕方なかったが。少しでも穏便に、早急にこの場を凌ぐ為に会議を進める言葉を告げる。


『ユーロ、南米に充てる後任人事は後にするとして、まず決定事項を通達いたします』


そして三上はやはり、少しも表情を変える事無く、バルドルがこれから迎えるであろう想定していた、幾つかの末路とは全く異なる、斜め上の宣言を一方的に述べた。


『バルドルは現体制を維持したまま、氏が所有していた全ての現有資産、権利、地位のその全てをベル・バルドル氏が指定した個人へと受け継ぐ事とします。通達は以上でございます』

『はぁ!?』

『なんですって!?』


これには今度こそ、本当に言葉を失った。ベル・バルドル氏、個人が保有していた全て、というのは殆ど、比喩でなく世界の半分と言っても良い。

金、物、土地、様々な権利云々。バルドルという帝国の崩壊とともに、分散されると思われていたその全てを、一個人が受け継ぐなどとは、とても理解出来る事ではない。


『しゃ、社長!ベル・バルドル氏の個人資産はともかく、地位というのはもしや、その指定した個人がまさか、バルドルの会長職を引き継ぐというのですか・・・!?』


そして、これが一番の問題である。


『本社では既に、バルドル最高幹部を兼ねる九界各階層総督の総意として承認を得ています。略式ではありますが、後は各支部からの追従承認を今、この場でいただければ、形式としては何も問題はありません』

『そんな、今すぐだなんていくら何でも横暴が過ぎませんか!バルドル本社、取締役会からの承認を得たとはいえ、バルドル総グループ全ての承認となると、少なくともある程度の時間が。関係各所は勿論の事、各国政府への根回しも無しには不可能な事ですわ!』


中央アジア支部、最年少の支部長である彼女は、取り乱しつつも至極真っ当な意見を述べている。

財産資産などという目に見えたモノでなく、一番の問題点とはなにか。それは、ベル・バルドル氏の地位を継ぐ、つまりバルドルを受け継ぐという意味にある。

現在、バルドルの保持する力、その強大な権力は、一般に周知されているイメージの、いわゆる巨大複合企業グループというだけではない。

経済は勿論、政治にも深くその根を張り、主要国家は勿論、幾つかの国家はバルドルが無ければ存在できない程に依存し切っている。

その、即ち世界の王の座を、例え先代となるベル・バルドル氏が指名したとはいえ、こんな場では易々と決められる筈は無かった。


『問題はありません。既に、各国からの承認も得ていますので』


三上の声に続いて、スクリーンに投影される映像は驚嘆すべきモノであった。それは一番難航すると思われていた主要各国を含めた、首脳陣の署名入りの委任状である。その全てには、文脈は異なってもバルドル本社の決定を全面的に受け入れ、承認するといったモノであった。


『初めに宣言しましたが、次代会長の就任に必要な手続きは、既にこの場の承認を残すのみなのでございます。という事でございますので、さあ、皆さま。どうぞ承認に署名を』


続けて目前に大きく移された委任状には、各支部は本社の決定に同意し、新たな会長の就任を喜んで承認するという文面と共に、ご丁寧に署名まで済んでおり、後は生体認証による承認を終えるだけとなっていた。

これはもう、始めから彼の思惑通りという事だろう。既に全ては決定事項、今は先代となったベル・バルドル氏は、死後でもまた傑物である。

結局、その場の支部長たちは皆青い顔をしつつも、全てが承認に同意して、ようやく、酷く永く感じた、経過時間としては数分の会議は終わる。

ああ、残る問題が有るとすれば。一人自分が居残る事を命じられ、こうして映像越しではあるが三上と対峙している事になるのだが。


「・・・私一人残されたという事は、本社には全て、知られているという事なのでしょうな」

『はい。用件は二件ございますが、まずは手短に終えられる方から。バルドル北米支部支部長、クリストフ・バナー様。貴方が秘密裏にバルドル内部情報を外部へと漏洩させている、騎士修道会連盟の内部協力員である事を、既に本社は把握しております』


身の破滅を自覚しても、少しも悔いは無い。私は裏切り者となる事を承知で、彼らと協力する道を選んだ。だから今、疑問に思う事は一つしかない。


「ならば何故、ユーロや南米の様に事前に私を拘束なされないので?」

『理由は二つございます。先ず一つ、貴方が連盟に漏洩した情報は全て、バルドルの情報部や、各支部が収集、観測した伝承体、メイガスの情報のみであり、本社の特別機密、直接的に経営に関するモノが含まれていなかった事』


先の通りに、バルドルは広く、深く世界に根付いている。そしてそこから汲み上げる事の出来る最新の情報は非常に貴重であり、金銭に変えられぬ宝であった。

実際北米支部にクリストフが支部長として就任し、その情報を共有し始めてからの効果は特に顕著で、連盟は以前の三割も被害発生率を低下、そして代わりに作戦成功率を二割も上昇させていた。


『そして二つ。単純に、貴方の支部長としての能力を評価し、現在後任を選出するよりも、続けてその席で職務に充てさせた方が効率的、と判断したためでございます。勿論、監視は付けさせていただきますが、基本的に待遇は変わりませんので安心して業務に励んでください』

「それは、文字通りに、今まで通り。という、事ですか?」


これまでの内通を見逃す、という事もそうだが。これからも見逃す、とも取れる三上の言葉は、クリストフにとって容易に信じられる言葉では無かった。


『ええ、それは今回就任成された、現会長の意志でもございますので』

「は、はは。それは、何と言えば良いのか」


将来はともかく、この場では生きながらえた。そう一息ついていると、その間も無く三上はこれもまた、既に決定事項であるかのように告げる。


『さて、それでは本題に入らせていただきます』

「本題、ですと?」


そういえば、三上は二件、用件があると言っていた。先のそれが一つ目なら、残る一つ。それも彼女の言う所の本題とは。


『現在九界において、バルドルで言えば最優先対処案件。連盟で言えば、特別討滅目標が発生しております』

「と、特別討滅目標!?」


特別討滅目標とは、連盟においてはその討滅を最大目標とする世界を滅ぼす伝承体、『終末伝承』。またはそれに匹敵する被害を出すと目される、メイガスや組織に付与される目標である。

基本的には国家や、その土地の人々の保護、安全を最優先とする騎士修道会連盟が、その物的、そして何より優先すべき人的被害すら度外視して作戦行動を実行する対象が、バルドルの庭である九界で発生している。

その事実は、下手をしなくともバルドルと、連盟との全面戦争にすら発展しかねない重大事項であった。


「そ、それで、バルドルは。これから、どのように対処するおつもりで?」

『はい。現在後任の、いえ、現会長は。先代の意志を引き継ぎ、それに対処する為に連盟との協力体制確立を希望されております。それ故にバナー様、貴方にはその連盟とのパイプを活用していただき、早急に、そして秘密裏に連盟の長、総代騎士長アルトリウス・A・バルクホルン様との緊急会談を取り付けていただきたいのです』


そう言って、三上は誰かを招くような仕草を見せて、暫くの後、一人の青年が現れた。


「社長、もしやそのお方が?」

『はい。このお方こそが、先代ベル・バルドルがその全てを託すべく指名した、ただ一人の御人』


ああ、映像越しでも分かる。ベル・バルドルとは稀代の傑物であり、英雄であり、そして現代における、卓越した本物の王であった。


『紹介いたします。彼の名は、ベオ・バルドル様。先代会長の実子にして、その正当なる後継。バルドルの、そして九界の新たな光の王でございます』


そんな王の後継は、全てがその資質を備えているとは限らない。次代、またはその次には、その資質が不足して、滅んだ国は数知れず。

だがしかし、やはりベル・バルドルは別格の、凡百の王とは隔絶した、王の極みたる王であったのだ。

ならばその彼が、己の後継者として示した男は、間違いなく王であったのだ。


『バナーさん、だったか。急な事で、驚かせてしまって済まない。だけど、それでも必要な事なんだ』


実子という様に、その容姿は故人であるベル・バルドルによく似ていた。


鈍く光沢を放つ銀色の髪に、若い女ならその姿を見れば、皆頬を染めるだろうその整った容姿。だが何処か、それが嫌味にならない様な、そんな不思議な親しみやすさを彼は自然に帯びている。

ベル・バルドルがその推定される年齢以上に若く見えていたせいか、逆に彼の方が少し年かさに見えるが、それは少しの問題にもならない。


一定以上に優れたモノとは、それだけで他と比較する事などできはしない。

月と太陽は互いにそれを称える言葉が違っても、それはつまり、どちらも特別に優れていて、代える事の出来ない唯一の存在であるという事である。


『九界を守る為に、世界を救う為に』


だがどうしてか、バルドルの後継は。

初めてベル・バルドルと対面した時に感じた、ある種の畏怖の様な感覚だけは、彼には欠けていた。

似た容姿でもこれ程に違った印象を受けるのは、唯一ベル・バルドルとは異なる、その広く、深い空の様に穏やかな、青い瞳のせいなのか。

其れともやはり、新たなバルドルの支配者には少しふさわしくない、そんな随分と気さくな口調も含めて。当たり前ではあるが、別の人間であるからなのか。それとも、彼自身の備えている個人的な特質と言うべきか。


『連盟とバルドルの関係は良く理解している。だけど、今はどうか協力してくれ、バナーさん。貴方の力が必要だ』


先代、ベル・バルドルの様に。他者が自らその威光に傅いて従う、それは間違いなく王の資質である。

しかしそれだけが、王足り得るための資質ではない。それは王としての存在の一つの側面であり、それを持たずとも、王は、確かに王足り得るのだ。


自ずから自然と、進んで彼の為に何かをしたいと、そしてその傍らに在りたいという、その資質もまた、別の極地である。

その内から生じつつある静かな感情を自覚しつつも、クリストフは努めて、それでも最優先に。その新たな己の主、新たな王の要請に応える為に今自分が何をすべきかと、そんな事を考えていた。


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