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犬頭の探偵は黄昏に沈む世界で明日を夢見る事ができるか  作者: せんこう
商人はその永き旅の果てに求めていた安心を得る事ができるか
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商人はその永き旅の果てに求めていた安心を得る事ができるか①

スカンジナビア半島、某所。地中深くにその石室は在った。

入口を塞いでいたのは重く分厚い自然石を加工した蓋であり、封印が施された当時の技術と作成に必要であった労力を考えれば、それは石室に存在する何かが、人々にどれ程に恐れられ、忌避されていたのかを示すかのようであった。

五枚の石の蓋を重機で除き、最後である六枚目には、どれだけの時が過ぎたとしても消える事のないよう、深く刻まれた言葉が墓荒らしに告げる。


『六つの結び目、その六つ目に手を掛ける者に告げる。この内に在るモノは恐怖と絶望しかもたらさぬ、全ての終焉を呼ぶ呪われた獣である。世界を滅ぼした愚か者と誹りを受けたくなければ、今直ぐに封を戻し、永遠にこの場所を忘れ去るべし』


「それで、これがその終焉の獣ですか。何と言いますか、その」

「うん、控えめに言ってボロ雑巾のようだね」


問題の六つ目の封を外した内側には、その警句が示す様な恐ろしい獣はおらず。辛うじてそれと分かる、黒くくすんだ毛皮の塊のようなモノしか残ってはいなかった。


「残念ですが、此処も外れのようです。これで六か所目、その内でも最大の規模と古さだと期待していたのですが」

「仕方ないさ。次に期待して・・・ん?」


微かに、息を吸い込む音が聞こえる。それは久しぶりに石室を満たす新鮮な空気と匂いを確かめるような。小さく、そして確かな呼吸であった。


「おい、おいおいおいおい。まさか、まさかだね。大当たりだよ、これは」


続けてもう一度。それが間違いではない事を知り、男はソレに急ぎ問いかける。


「古き獣、全てを呑み込む終焉の狼。いや、呼び名は関係ない。どうでもいい。ただの獣であった筈のお前がこうして千年の時を越え今に至ったのは。お前を、数多の人がそう求めたからだ」


呪いであっても、畏れであったとしても。語り継がれた時が、その信仰がこれを形作り、今に繋いだ。

これで最後の欠片が揃い、全てが始まる。

それもこの商談が成立すればこそ。その為にも商人は、この狼をどうにかして言いくるめなければならない。


「そして、僕はお前が求めるモノを知っている。お前を裏切り、お前が憎み、呪い、永い時の果てで。それでもなお求めるモノの存在を、僕は知っているぞ」


ぴくりと、商人の言葉が届いたのか、辛うじてかつてはその獣の耳で在ったのだと分かる三角の先端が揺れる。


「さあ、どうする狼よ。時間は無いぞ、この古い空間を満たしていた神代の空気に今のそれが流れ込んで薄まれば、お前の存在は塵へと帰るだろう」


ちりちりと、只でさえボロ布のような毛皮の端が崩れていくのを狼は感じていた。

痛みは無い。それを感じるための機能は当の昔に腐り果てている。だから今、唯一感じているモノは存在の消滅という冷たさに似た何かだった。

しかしそれよりもその、長い時の間に、ずっと虚ろであったこの心を動かすのは、目の前の男の言葉であったのだ。


「手を伸ばせ、求めて見せろ。お前が失ったと、偽りであったと諦めたソレを取り戻すのは今だ」


理由は分からない。けれど狼は、遠い昔。自らの四肢で地を蹴り、走り抜けたあの日に、傍らに在った存在を思い出していた。

だからだろうか、狼は最後の毛皮のひとかけらが崩れ去る前に男の求めに応え、商談は成立。此処に、契約は結ばれる。


「ギリギリだけど、何とかなったかな」


金色の紐が毛皮を繋ぎとめる。それは自分を縛っていた結び目と同一のモノであったが、同時に違うモノでもあると狼は感じている。


「此処に契約は結ばれた。先例に倣い、コレを約束と言えれば良かったのだけれど」


その男、黄金の王は随分と小さくなってしまった狼を抱えて言う。


「・・・僕は約束というやつを、まともに守れた試しがなくてね。まあ、君とソレを結ぶのは僕じゃないのだから安心してくれ」


それから間もなく、遠く極東の地において。狼の故郷で謳われた、今は誰も覚えてはいない彼を終焉と畏れる神話の再現が始まる。

そして今、その日結ばれた契約が果たされるか否か。その最後の選択の時が訪れようとしていた。





「この光景をご覧下さい!此方が今回、バルドルによって行われた初の試みでもある階層の融合。いえ、分かたれた大地を元の一つへと戻す為の、超大規模異界開発技術の結実なのです!」


小さなテレビ画面の向こうには抜けるような雲一つない青空。その下には地平線の彼方まで広がる広大な大地が広がっている。


「今回は先んじて、特に元々の開発が進んでおり、人口の多い階層都市であるアールヴヘイム、ミドガルズ、ヨトゥンヘイムの三つが一つの巨大階層となりました。これにより今まで必要だった各階層間の人と物の移動が簡略化され、経済の大いなる活発化が期待されています。そしてその基盤となるこの階層の人口は九界でも最大規模の、現在二百万人に至ると言われているのです!」


リポーターと思われる女性が語る地点は、その空間の中心に存在しているユグドラシルのターミナルと思われる。そして手前から、少なくとも視認できる範囲には人口の構造物が立ち並び、かつての光景を知っている者ならば皆、元に在った境界の無い大地を幻視するだろう。


「そう、これはまさしくこの九界が成立する前、本当の空と、本当の太陽の元に広がっていた、今は失われたこの国の大地の再生と言っても過言ではない大事業なのです!」


かつてのそれよりも、より高度な技術と計画性の為か、人がその一生を過ごすに過不足無いと謳う都市はその言葉を違うことなく全てを揃えている。

商業、工業、食糧生産加工プラント、階層の全人口が過不足なくその一生を快適に生活できる住環境。二百万の人口を、外部からの助けを全く必要とせず、養うに十分な豊かさは、最早一つの国と言っても過言では無かった。


「そしてこれらは、始まりでしかありません!現バルドルグループ会長、ベル・バルドル氏は最終的に九つの階層を一つに統合し、より広大な、正しく世界と呼べる超巨大都市領域を構築すると宣言しています!そしてその始まるとなる、この三界融合都市。その名は」


さて、その告げられる名を、知っている者なら首をかしげる事だろう。

本来であればそれは、館につけられる筈の名前である。神々が住まうと言えば、広く強固で広大なモノだろう。城とも呼べる、古くは人の手が届かぬ山々、現在であれば要塞などにその名が付けられていてもおかしくは無い。

だかそれが都市ならば、国にも等しい広大な大地であれば、間違いなく首を傾げる筈であった。

しかし、その事実を知る者の存在は、今この世界では片手で足りる。

だからこそ、誰もそれを不思議に考えない。思いつく事もない。


「その名も『ヴァルハラ』!何時か我々は、この九界の全てをそう呼ぶことになるでしょう!」


さて、一枚の書置きを見ながら横目に見るニュース番組から流れるそれが、その日の始まりを告げる鶏の声であり。

続く音は、ジリジリと音を立てて響く事務所の固定電話が発する呼び出しベルの音であった。


「はい、月夜見探偵事務所」


その受話器から聞こえる声が、終わりの始まりである。


『やあ、ベオ』


気安い調子でその男は告げる。俺の、終わりの始まりを。


『契約を果たしてもらう時が来た。迎えをやるから、招待に応じてくれるかい?』


言葉の終わりを待っていたかのように。二階の事務所の窓から差す朝日を遮り、続いて大気を揺らす振動がガラス戸どころか事務所事態を大きく震わせていた。


「・・・ああ、良いぜ。俺としても、そろそろと思っていたよ」


外の光景を見ると、セカンドという土地柄故か、無謀にもこの巨大な鷲に銃撃を仕掛けた馬鹿を百倍の反撃で殲滅し、微動だにせぬバルドルの次元潜航艦フレスベルグ。それが大口を開けて、内包していた兵員を展開しつつあった。


「オイ、別に抵抗しねぇよ」

『ああ、万が一という事もあるからね。安全を考えて、大切なお客を丁寧にエスコートするように彼らには伝えているから。それじゃあ、後でね』

「目標確認!周囲の脅威排除、終了。制圧完了です、社長」

「ご苦労様です」


護衛の何人かには見覚えがあった。その内で特に親しい男は、申し訳なさそうに此方に頭を下げている。

そしてそれらに守られるように現れた彼女は、何時か見た以上に、それこそ本当にその内から光輝くような美しさをたたえ、俺に微笑みながら言った。


「お久しぶりですベオ様。会長のお言葉どおりに、これより御同道お願いいたします」


こんな場末の小汚い事務所には似合わない美女、バルドルNo2、三上は告げながら俺に同行を促す。


「新たなるバルドルの城にして心臓、『統合階層都市ヴァルハラ』へ」

「うん、それはいいさ。なあ、三上さん。失礼じゃなければ一つ、言っておいても大丈夫かな?」


無礼にも彼女にそんな風に気軽に聞いたのが意外だったのか、問われた本人はともかくこの場においての絶対者へ、了承以外の返答を想定していなかった周囲の護衛達が殺気立つのを感じた。特に顔見知りの彼、石動シズマは倒れそうになっている。


「ええ、構いませんよ。拙でよろしければなんなりと」


他はともかく特に友好的に、本人から気さくに許可を得たのだから仕方ない。

という訳で、久しぶりに見た彼女の顔を見た瞬間に浮かんだ言葉を口にしてみよう。


「自分の事だから分かっていると思うけど、おめでとう。貴女には助けてもらった事もあるし、今は多分、まだお互いに敵じゃないだろ?だからそうなってしまう前に、お祝いは言える時に言っておきたくてさ」


こういう伝え方が正しいのかは分からない。けれどきっとそれは、言祝ぐべきことであるし、そう思ったのなら、伝えられる内に伝えておくのが俺の主義だ。


「おい、コイツ今すぐ拘束するぞ。情報漏らした内通者を探し出して粛清するのはその後で良い」

「手荒にしないというのなら了解だ。君、どうやってソレを知ったのかは分からないが、客人として考えてもその情報について知り得ているという事実は安全上、とても看過出来ない。すまないが拘束させてもらう」

「待て、待たんかお前ら!」


殺気立つ部下を必死に抑えるシズマをよそに、俺から無礼にもそう言われた彼女は一瞬だけ、幼い少女の様に驚いた顔をした。


「・・・ありがとうございます。実感はまだありませんが、言葉にしていただけると、何だか嬉しいものですね」


しかし直ぐにより強く、所謂社交的ではない、本当に輝くような笑顔を作って。


「何よりも、ベオ様。貴方にそうおしゃっていただけた事は、慮外の幸運です」


そう言って三上は言いながら改めて同行を求めたので、今度こそ断る事は無く。何時もとは違って随分と静かな、誰も居ない事務所を一度だけ振り返って、鉄の鷲へと搭乗した。

浮上するその内側で、そういえば、外から見る事は何度かあったが、中に乗るのは初めてだなと思いながら、未だ俺に向けて猜疑心と敵意を飛ばす何人かの視線を無視して、モニタ越しではあるが、遠ざかり小さくなっていくニヴルヘイムの街並みを眺めていた。





「待て、犬野郎」


ヴァルハラ、バルドル新本社ビル。中腹にあるフレスベルグの専用格納庫に到着して、何か準備が有るのか先に行った三上から、後に続くように進んでいるとそう声を掛けられる。

振り返る背後には数人。そこから前に立つのは、ニヴルヘイムを発つ前、俺の不用意な発言に因縁を付けてきた二人だった。


「社長と石動の手前、取り敢えず見逃してやったが、いい気になってんじゃねぇぞコラ」

「大概にしろ山城。客人、済まないがこの男は無視して行ってくれ」


男が二人。不機嫌そうな男は、短く刈り上げた短髪に、先程の一件について全く納得がいかないといった不満を隠そうともしていない。

彼の挑むような目線は鋭いが、表情は思ったより幼く十代と言われても納得でき、歳は上限でも二十代だと思われる。しかし何らかの方向性を意図して鍛えられた四肢はスーツ越しにでも、そしてその所作から知る事が可能で、多分特殊な鍛錬によるものだと思われた。


もう一人の男は対照的で、憤る相棒を制しながら、もう俺に対しての敵意は見えない。恐らく大陸系、自分でも見上げるほどの長身である。

長髪を後ろにまとめ、同じく黒いスーツ姿であるが、抜身の斧のように威圧的な前の男と比べて、内に秘めたモノはともかく、それを気取らせない鞘に収まった刃のような印象であった。それでも、黒く丸いサングラスで視線を隠しているが、値踏みするようにこちらを見る視線は僅かに感じられている。

多分不満、というよりは未知に対する備えの為に。迂闊な事を言った俺に、どうやら釘を刺しておきたいようだ。

考えるまでも無く、この場はバルドルの新たな本拠地。此処は、既に敵地である。となれば、当たり障りのない事を言っておくか、忠告通りに黙っておいた方が良い。


「よし、分かった」


そう判断して、それが正しいと分かっていたのに。


「良いぜ、お前の思うようにしたらいいさ」


思ってもいなかった言葉を口にしながら、俺は今、自分で思っている以上に機嫌が悪いんじゃないかと自覚する。


「あぁ?」


警戒を強める長身に比べて、短髪の男には、うん、上手く意味が伝わっていない。まあ、仕方がないな。


「ああ、挑発でもしなきゃ手が出せないか。なら、こう言えばいいか?つべこべ言ってないでさ、いいからかかって来いよ、三下」


追撃する俺の言葉に、冷静にこの場を治めようとしていた長身の男の顔が凍り付く。


「・・・へぇ?」


対して短髪の男からは感心するような声が漏れ、他が止める間も無く、長身を押しのけて地を滑るが如くに走り出すまでに要した時間は一秒も必要ない。

瞬く間に迫る男の両手には空間が歪む様に揺らぎが生じている。成程、初めて見るが、多分アキトの話にあった仏教系に属する術式の使い手。感覚から恐らくは、対象に触れるか掴み取る事で効果を発揮する権能。

先ずは左右から俺の腹を貫かんと揺らぎ纏う抜き手が迫る。躱されればそのまま腹を掴み対象を捉え、そのまま組打つか接近戦で敵を仕留めるという算段なのだとという直感。

まあ馬鹿正直に、その手に乗ってやるつもりはさらさら無い。


「が!?」


マグノリアのあの上段から放たれる打ち込みにも匹敵する恐ろしい速さには、男の頭を踏み台にして反発力を利用しながらの上方向への回避、つまり跳躍開始。速度が乗っていたために大きく態勢を崩し、転がるように前のめりになる男の背を更に蹴りつけて回転しながら高く飛ぶ。

短い滞空から逆さまに落下しつつ、下方を見れば、既に崩れた態勢を整えて迎撃の姿勢を構える男。揺らぎは全身に広がり、数倍に伸長された四肢が巨像の様に見て取れた。


「ははははは!良いじゃねえか、聞いてた以上だぜ犬野郎!」

「山城!この、大馬鹿者が!」


この長身の男の叱責は俺にではなく、今しがた踏みつけた男に向けての言葉だ。

言いながら何かを投擲、短髪の纏う腕の揺らぎに突き立つ黒い小刀。すると地へと縫い付けられる様に、重さを伴う様子で床へ落ちる腕に引かれ、巨像は態勢を崩す。


「フェイ!邪魔すんな、今良いとこなんだよ!」


不利な状況でも、少しもその威勢は衰えていない。そのガッツは、普段であれば俺も好意的に捉える事が出来るんだが、ちょっと今は無理だ。その戒めを振り切る様に、黒の小刀を引き抜こうともがく短髪には悪いが。


「仲間割れは勝手だけどな、隙だらけだぜ」


今度は殴りつける必要も無い。揺らぎに触れて、その感覚から物理的な攻撃は無意味と判断。ならばと、既に身に着けていた手甲にして魔槌、ミョルニルの雷光が巨像を貫通して、短髪の身体へと爆ぜる音と共に命中する。


「・・・ぐ、くそ、が」


コイツは流石に効いたのか、膝をつく短髪。しかし気絶させるつもりの電撃の出力であったが、意識を保っているのは流石に特務、エインヘリヤルといったところか。追撃を警戒して構えるが、その必要は無かったらしい。

更に一瞬の事である。見れば、短髪は三上と共に先に行っていた筈のシズマによって、揺らぎを貫通して後ろから後頭部を鷲掴みにされ、そのまま顔面で床を割らんばかりの勢いで叩きつけられて苦悶の声を上げていた。


「申し訳ありません。ベオさん、どうか部下の非礼を許していただけませんか?」

「石動ぃ、邪魔すんじゃ・・・!」

「阿呆は黙っとれ」


まだ抵抗する余力が残っているようだったが、再度言葉を遮られるように頭を割る様に床へと打ち付けられ、実際には額でコンクリート割りながら、今度こそ彼はシズマの言うように黙らされてしまった。長身は呆れたように、自分が放った小刀を回収すると、気絶する短髪を抱えて、一度此方に頭を下げた後に去っていく。


「悪いシズマ。俺が、馬鹿だった」

「いいえ、此方の不手際ですので」


本当にそれで大丈夫なのか、気にもしていない様子のシズマの後を大人しく付いて行く。あの短髪は周囲の者たちの中でも実力者だったのか、殆ど不意打ちと二対一みたいな状況であったにも関わらず、他の者の匂いからは敵対心は薄れ、恐れの割合が多くを占めている。

それでこちらとしても少し頭が冷えた。後はただ指示に従い、暫く進み。その構造物の巨体故に複数の区画間の移動の中で、エレベーターに乗り込み、二度乗り換える事で、只でさえ遠い地面は更に遠く。到着した目的のフロアからの眺めは比喩でなく、天上から下界を見下ろす眺めであった。

眼下には彼方まで都市が広がっている。その構造物一つ一つには、其処で生活している人々が存在している。ニュースの言葉が正確ならば、二百万の命がこの視界の中で蠢いているという事だ。

これはそういった景色でしかない。それが分かっていても、それはもう、人間の見るべき視界ではない。

そうして明らかに造りの異なるその最上階に存在するフロアを進み、特に装飾を施された扉の向こうが目的地の会長室で在り、其処に、その男は居た。


「やあ、ベオ」


何時か、こうなるという確信に近い予感が在った。それが何時から感じていたものだったのかは分からないが、そんな事は、それが現実となった今となってはどうでも良い。


「よう、ベル」


だから、自分の鼻には何も届く事の無い、この男の匂いはどんなものだったのかを分からないまま、こうなってしまった事を少しだけ残念に感じながら、そのやけに楽しそうな声を聞く。


「では、始めようか。受けてくれるだろう?何時かの契約、僕からの依頼を、さ」


この依頼がどういった結末を迎えるのかは分からない。けれど、きっと最期の依頼になるのだろう。

それが何にとって、誰にとっての最期なのか分からないまま、何時ものように、終わりの一日は始まる。


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