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犬頭の探偵は黄昏に沈む世界で明日を夢見る事ができるか  作者: せんこう
二つの月は自らを照らす太陽に共に在りたいと求める事ができるか
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二つの月は自らを照らす太陽に共に在りたいと求める事ができるか④

目覚めと共にそれを自覚する。体が、酷く重い。

今日もやらなければならない事が山積みだというのに。動かない体に引っ張られる様に、頭が良く回ってくれない。


「・・・う、あ」


鉛を全身に流し込まれた様に。指の一本を、関節の一つを動かす事にさえ、酷い労力を強いられていた。

普段であれば、一瞬で行える体を起こす動作を、何度も試み、その度に失敗で終わった。

何かを掴もうと伸ばす指はたぶん空を切っていて、それに合わせて芋虫の様にベッドの上で蠢いている。おれは、どうなってしまったのだろうか。

こんなにも体がうごかないのは、もしかすると本当に、うでも足もなくなってしまって、ぼんやりとした意識だけが、最後にこの役立たずのにくかいに、へばりついているからなのだろうかとさっかくする。


とんとんと、音がする。こつこつと、音が近づいてくる。


「ベオくん」


呼んでいる。

だから直ぐに飛び起きて、その声に応えなければいけないのに、どうしてもそれができない。

きっと、何時もの起床時間を大きく過ぎて、彼女が心配して様子を見に来てくれたのだろう。

なんだかここ数日、こんな調子で迷惑を掛け通しだ。ああ、これ以上、なさけなく彼女の足を引っ張りたくは無いというのに。


「具合が悪そうだね。最近無理をしていたから、少し疲れが溜まったのかもしれない」


最近、とは何時からの期間だろう?

確かに、ボルソルンと戦ったその翌日にこんな事になって、彼女の言うように多少無理はしていたのかもしれない。

けれど、そんな事は何時もの事だ。その後は、少なくとも此処へやって来てからは、怪我をするようなことも、誰かと争う事も無かった筈だ。

昨日、そう昨日は、何時もの様にマナに指示された地点に偵察に向かい、その場の土と雪のサンプルを採取し、帰って来て、待っていてくれたマナと、保存食を食べて。


きのう、それは、えっと、いつの昨日の事だっただろうか?


きおくは酷く曖昧で、何故だか、その出来事はなんねんも前の事のような気がしている。

そんな錯覚を起こすくらい、同じことを繰り返していたような、酷いかん違い。

そんな筈は無い。全部、マナの指示でやって来たことだ。似たような事でもきっと全て違っていて、その全てにいみはあって、この状況をかいけつする手段に繋がっている筈だ。今までだってそうだったじゃないか。彼女を信じて、まちがっていた事なんて一度も無かった。


「ベオくん」


また、声が聞こえる。このままじゃ駄目だ。なにか、応えないと。ほんとうにみすてられてしまう。


「ごめ、ん。まな、おれ」


ようやく、掠れた声を絞り出す。要領を得ない、意味のない謝罪。


「大丈夫。君を見捨てるだなんて、そんな事は絶対にしないよ。うん、やっぱり疲れが出たんだろうね。無理は良くないよ」


ああ、流石はマナだ。頼りない、おれの具合を察して、そんなていあんをしてくれる。

けれど、早く帰らないといけない。皆に心配を掛けているだろうし、何より、マナをあんぜんな所に連れて帰らないといけないのに。


「ふふ、その気持ちは嬉しいけれど、今日はお休みにしようか。ちょっと待ってて、薬か、何か食べるものを持って来るよ」


なぜか弾むような調子で、そう言われて正直あんしんした。こんなぶざまを晒しても、マナは辛抱強くおれを待ってくれる。


「ほんと、に。ごめ、ん」

「ううん、良いんだよ。じっとしていて、何かあれば遠慮しないで。私が、側に居るからね」


絞り出す泣き言に少しも気をわるくすることも無く、去っていくマナの音を聞きながら、ひどくさみしかった。


「・・・だめ、だ。やすま、ないと」


まなが帰ってくるまでの少しの間だけでもと、しずかに眼を閉じる。

ああ、ほんとうに疲れているみたいだ。まなのいう事は、ほんとうに何時もただしい。


襲ってくるすいまに抗おうとして、だくりゅうに吞まれていくすなの城の様に、いしきは千切れてながされてゆく。

芋虫に成ったなんて言うのは只の勘違いで、実在していた、伸ばした指先はそのまま落ちて、何かが触れて、床に落ちた。

それはあの手帳で、その拍子に開いたページは文字で黒く染まっている。

その黒はインクの黒。反射的に目を凝らし、そして、何度も何度も書き記された文字が同じで有る事は何となく分かったが、その意味が何だったのか。自分で書いたモノなのに、どうしても思い出せなくて。


そのくろがにじむように、しかいがくろく染まり、いしきは深いねむりの海にしずんでいった。





「で、尻尾巻いて逃げ帰って来たってワケ。色々試してみたけど只でさえ警戒する子機がブンブン飛び回ってるのに、そもそも月夜見が立て籠もる『天骸』の拒絶障壁には現状打つ手無し。唯一何とか出来そうな会長は静観決め込んでるし、星見のおっさんに至っては月夜見に拐かされるのがベオにとって一番優しくて苦痛の無い終わりだってさ。まあ、予兆を気付けなかったのはボクが悪いけど、シズルにはお前がなんとかしろって鬼詰めされるし、困ったモノだよ」


突然の訪問者は、文句を言いながら本当に良く食う。

アキトが持参したビニール袋には、めいっぱいに食料が詰め込まれていた。その殆どはカロリーの高いものばかりで、先程一口で飲み込んだ菓子パンなどは二千キロカロリーを優に越えている。


「で、最後に打開策を求めて此処に辿り着いたのさ。ねぇアヤナ、何かいい方法ないかなぁ?」

「食べるのを一度止めて下さい洞木!貴女の『影渡り』は生体由来のエネルギーを消費する能力という事は分かっていますが、食べこぼしをまき散らしながら会話を続けるのは汚すぎる!」


アヤナの叱責を受け、それでも暫く食事を止める事無く、清涼飲料水で満たされた2Ⅼのペットボトルを一気に空にして、ようやくアキトは一息ついた。


「それで、アキト。お前はその、女でいいのか?」


アリスは未だ、目の前の光景を疑わしく感じている。

アキトの姿は、何時か見たアヤナがあの機動甲冑を纏う際に身に着けていた体のラインを浮かせる黒のボディスーツにフライトジャケットを羽織っている。特に目立つその線は緩やかだが、しかしどう見ても男のそれでは無いゆるやかな曲線が確認できた。

だが、アリスはアキトを知っている。月夜見探偵事務所に通うようになってからは何度も言葉を交わし、共に行動した事も有る。そしてその際に、アリスはアキトの事を女と認識してはいなかった。


「ああ、確かに疑うのは分るよ。少し前に、君とは一緒にプールに行ったよね」


そう。今年の夏の初め頃、アリスはベオを含めて、三人で出来上がったばかりの豪華な屋内プールへと泳ぎに行った。

それはアキトがバイト先から優待券を貰ったとかで、何故か他に誰も居ない貸し切り状態のプールに三人でめいいっぱいにはしゃいで楽しんだことはいい思い出になっている。

だから、その際に眼にしたので間違いない。確かに、あの場でのアキトの体は男であった筈だ。


「今は女って事さ。まあそんな事は些細な問題で、考えなきゃいけない事は別にある」


性別の反転を些細な問題と言い、アキトはくるりとマグノリアを見る。状況を飲み込めない彼女は、急に自分を見つめられてらしくない程に狼狽えていた。


「な、何か?」

「君さ、独自の方法で外部と連絡出来るんでしょ?確認して欲しい事が有る。伝承体の対策と研究なら他の追随を許さない、騎士修道会連盟なら知っている筈だ」

「と、いいますと?」


マグノリアという人物は基本的に物怖じしない。初対面であれ、良く知る友人には図々しいと評される陽のオーラを放ちながら積極的に関わろうとする。

が、そんな彼女がどういう訳かアキトに対して息が詰まる様に感じていたのは、アキトの瞳が何かに似ていたからだ。


「君たちの呼び方でいう所の『R案件』。およそ三千年前から世界中の、特に極東を中心に広範囲に分布する、類似する神性についての情報さ」


急にそんな事を言われて、マグノリアはこの場で唯一目の前の人物の正体を知るであろう、普段は犬猿の仲と言ってもいいアヤナに助けを求めるように見るが。

頭を抱えながらも恐らく大丈夫だからと、苦い顔をする彼女に言われるがまま、自分すら聞いたことの無い言葉について連盟の記録を管理している部門へと確認を取る。


そんな大昔に証明不可として認定され、死蔵されていた情報を何処から知ったのかと怪訝な反応をされたが、自分が総代の命で九界に派遣され、事前に必要な際は最大限協力するようにと指示を受けていた記録管理の司書は、すんなりとその事項について説明してくれた。

しかし、その内容は想像以上に少ない言葉でまとめられ、事情が分からないマグノリアはそのままをアキトへと伝える事しか出来ない。

マグノリアからその報告を受け、暫しアキトはうんうんと唸った後、一度その場の面々を見渡すと、にこやかに告げる。


「大体予想通りかな。これはもう、力業でどうにかするしかないようだ」


そういって、にこやかな笑顔のままとんでもない事を言う。


「よし、じゃあ皆で恋バナしよっか。若い子はそういうの好きでしょ?」


やはり訳が分からない。三人の乙女はアキトの事が、もう何も解らない。


「大丈夫なのか!?なあ、本当に大丈夫なのか!?」

「待って、待ってください。私にも、理解が・・・」


笑顔を崩さないアキトとは対照的に、アリスは利発な彼女とは思えない程にオロオロし、アヤナはますます頭を抱え、マグノリアはようやく自分の違和感に合点がいった。


「に、似ていますわ・・・!」


それは彼女が幼い頃。厳しい騎士としての修行の合間、偶には遊びに行こうと祖父に連れられ訪れたテーマパークでの記憶。


でかでかと入口に掲げられた看板曰く、『脳を揺さぶる激しいアトラクションの衝撃と、眼をそむけたくなる程のドラマチックなショーで一生忘れられない思い出を皆様に!』という今考えると尖りきった謳い文句。

マグノリア達は其処で一日を楽しく過ごす予定だったが、一時間でもう耐えられないと祖父と揃って逃げるように退園し、その逃走とも言える帰り道。ひと心地付くために立ち寄ったダイナーで口にした、涙の混じるしょっぱくて甘いパンケーキの味で、幼い彼女はようやく無事に自分が生きている事を実感出来たのだ。

ちなみに、少し後にその付近を立ち寄った際。そびえたつ巨大な姿はその影も形も無くなっていた事から、あの場所は今思うと何らかの伝承体の神殿だったのではないかと考えている。


そして、最も思い出したくは無かった、その問題の施設で一番人気というマスコット。

祖父の手を引いて入場ゲートをくぐり、浮かれはしゃぐ小さなマグノリアは近づいてくる巨体を目の当たりにして本能的な恐怖を抱き泣いて拒絶し、逃げ帰る際に振り返り見れば入口に佇んで、遠く離れて見えなくなるまで此方へと手を振るその恐怖の権化に、結局その意図通りにトラウマとなってしまった、たった今まで封印していた記憶に残るその姿。

何もかも見通す様な深淵の如き深く黒い眼をした猫の怪物としか言えないそれの姿を、何故だかマグノリアは思い出していた。





「その、私の場合は特に隠してもいないし、お前には話した事があると思うが」


いいのいいの。ほら、このマイクに向かって。じゃあまず、出会いと意識するようになった経緯から。


「本当に、これがベオを救う方法なのだな?まあ、それなら話させてもらう。私がベオと出会ったのは今年の四月、協会に追われた先で母が潜伏していると知り、母を探すため雇った探偵としてだ」


ふんふん、それで?


「私は母の足跡くらい掴めたらとの思いだったが、ベオはその根城である工房の位置まで特定した。本来であれば其処で、仕事は終了の筈だった。けれど、ベオは私を助けてくれると、必ず母の元に連れていくと言い、母からも、協会の追手となった養父からも護ってくれた。詳細は、貴様もバルドルのエージェントいうなら知っているだろう」


フィアナ騎士団を率いるフォルグ氏だね。いやー、戦乙女とガチで殺し合えるメイガスと戦って、よく無事だったよねぇ。


「その際に、命に関わる切り札を使ったとマナから聞いた。けれどベオはそんな事はおくびにも出さず、その後の戦いでも必死に戦って、そして、約束を守ってくれたんだよ。私は、その母の最期の言葉のおかげで、自分が生きていても良いんだと信じる事が出来たんだ。初心な言い方で悪いが、それで惚れるなという方が無理な話だろう」


うん、そうだったね。


「その、これでいいのか?」


あ、大事な事がまだだ。ベオのアニキ、いやもういいか。ベオの好きな所を一つ教えて。


「うむむ、多すぎて絞るのは大変だが、敢えて挙げるなら私を抱き上げる時の仕草だ」


と、いうと?


「ああ、私を連れて何かから逃げるときとか、眠っている私を移動させる時にベオは抱きかかえてくれる訳だが、その時に必ず壊れ物でも扱う様に、急いでいても繊細に扱ってくれる。そして身を盾にしてでも、傷つけまいとしていてくれる事が分かる。それは護られる側としては歯がゆいが、堪らなく嬉しく感じるのだ」


ふふ、どれだけ想いが強いか、君の顔を見れば良く分かるよ。じゃあ次。アヤナの番だ。


「私もですか!?」


そうだよ。てかさ、アリスにこれだけ話させておいて、自分だけダンマリは無いんじゃない?


「うう、仕方、ありませんか。これもベオさんの為と思えば私の恥など・・・」


はい、じゃあ気合入れてどうぞ!


「出会いは去年の冬です。当時追っていた指名手配犯の外見が彼に酷似していて、おまけにベオさんもその人物を追っていたので、偶発的に遭遇してそのまま戦闘に発展してしまいまして」


ああ、それ知ってるよ。ベオがなかなか捕まらないからアヤナがヤケになって、ブリュンヒルデなんて持ち出して大騒動になったって。


「恥ずかしながらその頃は今ほど社交性が無く、加えて武力で制圧出来ない存在に対峙した状況が初めてだったのです。その後、誤解と分かった後は協力してその指名手配犯を検挙して、今に至るという話です」


で、その話でどうやって意識しだしたのさ。恋バナって言ったでしょ?その辺ぼかすのはずるいぜ。


「ああ、もう!私がブリュンヒルデを纏った姿を目の当たりにしても、彼の態度が全く変わらなかったからですよ!街で会ったら気さくに挨拶してくれるし、時間が合えば食事に誘ってくれるし、仕事でも協力してくれるし!しょうがないじゃないですか!そんな事の積み重ねで好きになってしまう、私はちょろい女です!」


それで、トウコに人に好かれやすい話し方とか接し方を熱心に指導してもらったんだってね。昔に比べて随分と性格変わったものなぁ。


「そして先々月、言ってくれたんです。危険な状況に巻き込んだのに、散々足手まといだとか言い捨てたのに。そんな私に向かって、強い君を、弱い俺に護らせてくれって。それが仲間内でさえ化物と後ろ指刺される私達にとってどれだけ嬉しい言葉か、聞きたかった言葉か、貴女だって分かるでしょう!それで私の話は終わりです!」


あらら、真っ赤になっちゃってさ。けどね、昔の君より、今のアヤナの方がずっと可愛いぜ?


「余計なお世話ですよ!後は好きな所ですね。私は、ベオさんが何かを誤魔化す時の仕草が好きなんです」


それってどんな?


「その、ばつが悪いのを隠そうとして下手くそな言い訳をしてみたり、此方が怒ってはいないかと伺う様子が甘える子供みたいで可愛いんです!これでいいですか!?」


おっけー、中々いい情報じゃない。なら最後はマグノリアかな。


「私ですの?そうですわね、出会いとその期間はこの中で一番短いかもしれません。ほんの数日前、連盟とバルドル間に結ばれた協定により派遣騎士としてニヴルヘイムに派遣され、重要人物として接触したのが始まりでしたの。その後はご存じと思いますが、行政本部ビルにおける伝承体の暗躍を察知した私は単独潜入し失敗。危うく命を落とすところでしたが、ベオ様に救われたのです」


ああ、ニュースで派手に騒がれてたよね。


「お恥ずかしい限りで、我が身の未熟故にベオ様には迷惑をかけてしまいましたが、それでもベオ様は、私を見捨てず、助けてくれたのです。その後は再度、邪悪な伝承体の待つ神殿へ赴き、一度撤退の後に、皆さまの協力も経まして無事に事態を収拾したという事でございます」


連盟とも戦争寸前で、シズルもボクもてんてこ舞いだったよ。まあその辺りを付け込まれちゃったってのも有るんだけどね。


「後は、ベオ様の好ましい所作ですわね。ええと、少し趣味に偏る所が有りますので恥ずかしいのですが」


大丈夫。趣味って言うなら、アヤナ程じゃあないでしょ。


「黙りなさい!」

「ふふふ、私が好ましく思うベオ様の所作はそう、暗い夜を照らしてくれたかがり火のような笑顔です」


えらく直球だね。


「おっしゃる通りです。ですが、無様に失敗して、情けなく薄汚れた負け犬みたいに、心が折れそうだったあの雨の夜。その笑顔に私は救われたのです。無茶も無謀も笑い飛ばして、ボロボロの私の事をかっこいいと言ってくれたあの笑顔。もう駄目ですの、メロメロですのよ」


メロメロ。ふふ、良いね。


「これでこの場の全員が話を終えた訳ですが、どうですか洞木?貴女の影渡りは、人の縁を繋がりとして手繰り寄せ、その場へと至る能力の筈です。専門外で今の話が役に立つかは分かりませんが、何とかなりそうですか?」

「ふむ、因果と縁を辿る業というと、東洋独自の神秘でそういった術が存在すると聞いたことがあるが。よもやアキト、お前はそういった類のメイガスか?」


さっすが、オーガスタの知見には恐れ入るよ。でもまあ、その辺はちょっと事情があってね。


「む、まあ深堀はしない。教義や流派によっては、秘する事でその力を強めるモノがあるというし、アヤナが信用するのなら私が追及する事は無い」


よしよし、準備は上々。うん、これならボクも諦めがつくかな。

後は、高みの見物を決め込んでる奴らに文句を言ってから、本格的にアニキの救出作戦と行こうか。


「歯痒いですが、貴女に任せるしかありませんか。何か此方で協力出来る事は有りませんか?」


ああ、それならさ。幾つか用意してほしい事と確認しておいてほしい事が有るんだ。このメモに細かい指示は書いているから、頼める?


「分かりました。では、洞木。くれぐれも気を付けて。私も詳細は知りませんが、以前、義父が月夜見とは可能な限り敵対するなと言っていました。あの人は過大評価も、過小評価も絶対にしません。その義父が、自らの最高傑作である戦乙女が機動甲冑を纏っていても、本気になった月夜見には勝てないかもしれないと、そう言っていたのです」


その辺も長い付き合いで承知してるよ。いいから、どーんと任せといて。


「その、アキト」


うん?どうしたのさアリス。


「二人を頼む。どういった経緯が有るか分からないが、ベオも、マナも。私にとっては失いたくない家族だ。無理を言っている事は分かっている。だが、出来れば私は、二人に揃って帰ってきてほしい」


うん、その言葉を、あの馬鹿女に聞かせてやりたいね。まあ、出来るだけやってみるから。


「ありがとう。勿論、お前も無事に帰ってくるのだぞ」


優しい言葉も聞けた所で。さてさて、後は根回しだけか。

実際の所、どうなんだろうね?会長は、本当にこの結末に納得出来ているのかな。

その辺りが、事態を収拾する一番の鍵だと、そう思っているんだけどね。


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