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犬頭の探偵は黄昏に沈む世界で明日を夢見る事ができるか  作者: せんこう
騎士はその問いの果てに自らの進むべき道を見つける事ができるか
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騎士はその問いの果てに自らの進むべき道を見つける事ができるか⑪

「きたきたきた!犯人は現場に戻る、基本中の基本よね!」


時間にして十四時間、独断専行の為時間外手当も付かないこの苦労が報われた瞬間であった。

行政本部の様子を伺える距離に駐車した、無許可で持ち出した局のバンからその動きを確認し、寝息を立てていた運転手兼カメラマンを叩き起こし、急ぎ撮影の準備を整える。ファーストであってもこの周囲はオフィスビルの多い一帯で、時刻も午前三時とあってかなり暗いが、念の為に暗視装置付きの機材を用意しておいて良かった。これで、問題なくこれからの記録を残すことが出来る。

当局の規制が何だ、局の方針がなんだ。生放送で映像をネットに流してしまえばこっちのもの、視聴者さえ味方に付ければ文句は言われまい。上手く行けば、朝のニュースタイムに特集が間に合うかもしれない。夢は膨らむばかりだ。


「皆様、ムニンTVが衝撃のスクープを現場から生中継でお送りいたします。昨夜、行政本部を襲撃したと思われる犯人が、当局の捜索を逃れて逃亡中という事はご存じだと思いますが。現在午前三時、再度現場に現れました!しかも今度は共犯者と思われる人物を伴い、こうして堂々とカメラの前に姿を映しているのです!」


道路越しの建物の影から様子を伺う怪しい二人組。望遠で、暗視装置越しなので映像は荒いが、あの時代錯誤な甲冑姿は間違いない。対して伴う人物は比べるとラフな格好であるが、背嚢を背負い大荷物である。

さて、普段なら夜間で人は少ない筈だが、現在行政本部では襲撃事件後の対策本部が立ちあげられており、特に正面入り口の警備は厳重だ。そんな場所に、危険を承知で現れるという事はただ事ではない。

ならばその目的は何か?ニヴルヘイムの権力の象徴と言ってもいい行政本部ビルに対する破壊活動でバルドルの権威を失墜させる、または何らかの政治的な主張が?

もしくは対策本部で陣頭指揮を執る、ニヴルヘイム総督であるヴォルコフ氏の身柄を狙っての事か?


「可能性は複数考えられますが、我々取材班は陣頭に立って記録を続けます。真実を皆さまにお届けするのが我々報道に携わる者の使命なのですから!」


決まった、完璧だ。局長賞は確実、場合によっては年間最優秀賞も狙えるかもしれない。

そもそも近頃のニヴルヘイム総督には何かと悪い噂が立っていたのだ。それこそ荒唐無稽な類ではあるが、火のない所に煙は立たないという。その噂が、今回の襲撃者と関係しているというのなら、より話は面白く、では無く複雑になってくるだろう。むしろ、そうでなくてはならない!


「って、あれ?あの人たち何処に行ったのかしら?」


流石に厳戒態勢で、正面玄関などは装甲車も配置されている正面から乗り込むだなんて馬鹿な事を諦め裏口にでも回ったのだろうか?ならば良い画角を確保するためにも移動しなければと思った次の瞬間、その考えが間違いであった事を知る。

ラフな方、覆面を被った多分男が何を思ったのか急に物陰から立ちあがり、すたすたと歩き始めたのだ。あの特徴のある犬の輪郭が目立つ頭部の形から、犯人の一人は変異者なのかもしれない。


「ち、ちょっと!何してるのよ、アイツ!」


予想を違わず無謀な行為は、すぐさま歩哨の保安部隊員にその姿が捕捉さてしまう。彼らは夜通しの厳戒態勢で殺気立った様子で小銃を向けながら、その間抜けさ故に警告なしの射撃は控え、それ以上近づけば云々とお決まりの台詞を告げている様だ。


「銃撃の瞬間だなんて流石にショッキングすぎて不味いわ。そもそも放送どころかネットにも乗せられない、ああ、でもでも。当局の傍若無人な振る舞いを証明する記録にはなるけれど、どうしたら」


男は警告に対して我関せずと、歩みを止めない。緊張は頂点に達し、ついに保安部隊員は射撃体勢に入り、次の瞬間には引き金を引くと、そう思われたが事態は急変する。


「これでもくらいやがれ、ですの!」


所在の分からなかったもう一方、甲冑の襲撃犯が何時の間にか死角から現れる。その声から、意外にも中身は女性らしい。

あの間抜けを囮にしていたのか、いくらか接近していた声の方向へカメラを向けると、既に何やら丸い物を投げつけている。爆発物か、と思えば手榴弾などでは無い。よく見れば瓶のように見える、ならば火炎瓶、でも無い。そもそも火がついていない。

反射的にその投擲物に視線が集まる。危険物である事は間違いなさそうだが、ハッキリ言ってその程度で重武装のゲート警備に襲撃とは無謀だ。それは仲間であろう間抜けな男を道連れにした、テロリストらしい自爆行為なのだろうか?

急な展開に保安部隊員の反射的な当てずっぽうな射撃は掠ることなく、そのまま丁度男と、保安部職員との間に投擲物が放物線を描きながら到達、落下する。しかし激しい音も、爆発も。立ち上る火炎すら其処には無く、投擲物はぼんやりとした青い光を放って自壊するだけであった。


「え?」


原理は全く分からない。分からないが、その自壊によって発生した淡い光は、物理的な法則を全く無視して波打つように一定の範囲に伝播した。そして、触れた装甲車も、保安部職員の持つ小銃も、機械式の装甲服すら例外なく。

まるで初めからそうであったかのように。言うなれば組み立てる前の材料にまで時間が遡ると言えば良いのか。ばらばらなネジと鉄片に分解されながら弾けて、爆発の代わりに周囲へと構成物だったものを全てまき散らされていた。





「はは、決まったな!原理は全く分からないが完璧じゃないか!」


突然の事に慌てふためく下地のインナー姿になってしまった警備員を二人ほど続けて殴りつけ昏倒させ、持参したテープで拘束して隅に転がしておく。マグノリアも同じように残り拘束し、此方へサムズアップを見せていた。

投擲した瓶、これに込められていたのは火薬でもガソリンでも無い。荒唐無稽に聞こえるが、逆行という概念そのものらしい。近代的な製品は特に様々な部品を組み立てて造られるが、これに先程の光を当てる事でネジ一本、プレートの一枚になど工場で組み立てる前の素材レベルまで状態を戻す事が出来るそうなのだ。

勿論便利な分、その効果は限定される。半径十メートル強、これは存在の強度というやつが低い、金属製の比較的最近造られた製品にのみ作用し、そして幸いに生物には効果がない。だから戦闘用というよりは近代兵器で武装した相手を無力化する為にこの瓶を使用する訳だ。その特性の為に、今回はスコルとハティも効果対象になってしまうので留守番である。


「ですが効果に比例して製作コストが馬鹿高いのです。生産量も専門の錬金術師が頑張ってどうにか年数十本ほど、貴重な消耗品で、私の手持ちも残り二本しか有りませんわ」

「一番警備が厚い正面ゲートを突破出来たのなら問題無いさ。まあ、シロウの言っていた話をそのまま信じればって事だけどな」


嘘を言ってはいない事は分かる。が、俺達に内部情報を漏らした本当の真意は分からない。

けれど、あの場でのニヴルヘイム保安部隊長、浅木シロウは何かを護ろうと必死だった。





「成程ね。警備の穴と、総督の執務室への最短ルートはよく分かった。しかし腑に落ちない。今更だが、俺達の話は結構荒唐無稽だと思う。だってのに、アンタが此処まで協力してくれている理由は分からないな」

「分からなくて結構だ。貴様らの話の真偽はともかく、俺自身も思い当たる点が幾つかある。それに総督が上級執行官を無視して、本社の意向に反したまま暴走している事は確かだ。テロ行為に対する対処に、警備局への対応。特に、嫌疑不十分の一般市民を不当に移送、消息不明にしている行為は看過出来ない」


それで何となく、目の前のエリート様の、その言い方が気になった。


「一般市民?話に出ていた魔素変異者の事か」

「ああ、そうだ。明らかにそれらの市民を選別して、襲撃の被疑者として取り調べを行うと。証拠もなく、警備局に正式な手続きを済ませても居ない、馬鹿げた話だ。総督の出した非常事態宣言のせいで、保安部の上層部に報告も出来ない。こうなれば、お前たちがテロリストだろうが只の頭のイカれたやつだろうが、何を使ったとしても揺さぶりをかけなければ現状はどうにもならない」


この時点で俺は、この男は他の保安部職員と何処か違うと感じていた。

同じ階層のニヴルヘイムですら、住むエリア、魔素汚染の程度などで相手に嫌悪感を抱く人間は多く、同じ人間であると思っていない者すら少なくないだろう。それが他階層から派遣されてきた大半という保安部の人間にその様な認識があるとは。

その、俺にとっては当たり前の考え方が互いに共通していた事に、ある意味驚かされていた。


「その結果、アンタ自身が背信行為に問われてもか?」

「ああ、何も問題は無い。先程も言ったが、俺自身に大した価値はない」


少しもためらうことなく、浅木シロウはそう言い切った。


「俺は、十年前に死んでいた人間だ」


この九界の人間は、差はあれど十年前の大異変で何かを失った。それが金であったか、物であったか。それとも命であったか。それらを左右したのは単純な運という事も有るが、少なくとも、彼にとってはそれだけではなかったのかもしれない。


「あの、何もかも滅茶苦茶になった瓦礫の下で。死を待つ事しか出来なかった、まだ子供だった俺と家族を救ってくれたのはバルドルだ」


未だに、あの十年前の大異変発生時に、混乱する日本政府に代わってバルドルがあれ程に迅速に救助活動を行い、崩壊の後に秩序を築き、たった十年で九界を此処まで発展させる事が出来たのか。その理由は公にされてはいない。故に、根も葉もない噂は幾らでも立つ。実際に、その内の幾つかは事実なのかもしれないけれど。


「それでも、あの差し伸べられた手を覚えている。避難所で出されたカレーの味を覚えている。何もかも失って、何も持たない俺達に、住みかと学ぶ機会を与えてくれた事を覚えている。だから俺は、たとえ小さくとも俺のやり方でバルドルに恩を返すと、そう決めている」


警備局の職員でも少なくない人数の被災者が、後に現地雇用されたケースが有る事は知っているが。エリートの保安部に、それも幹部クラスにそういった経歴を持つ人間が存在していたとは。

ベルがこの事実を聞けばどんな顔をするだろうか。いや、アイツの事だ。彼の様な人間が出てくることを予想して慈善活動を行っていてもおかしくは無い、が。

それは余りにも。当時、誰もが恐怖と混乱で右往左往する中、崩壊した現場で必死になって這いずり回って、実際にシロウの手を取ったであろう誰かの善意を貶す考えだと自戒した。


「分かった、信じるさ。どのみち行政本部にはお邪魔する予定だったからな。嘘で元々、本当ならラッキーってやつだな」

「ふん、人の事を言えないじゃないか。貴様らも相当にお人好しだな、簡単に敵だった男の言葉を信じるなど。テロリストが、聞いて呆れる」


浅木は言いながら、何か肩の荷が下りた様な顔をしている。言ってみれば彼は中間管理職というやつだ。会社務めの記憶も経験は無いが、それがバルドル程の大企業となると色々と心労は多いらしい。


「よし、良い機会じゃないか。話の分かるアンタの為に、話の通じ無さそうなニヴルヘイム総督の面を拝みに行ってやるさ。で、そいつが考えていた通りに今回の騒動を引き越した黒幕だったなら」

「だったなら、どうする?」


決まっている。既に喧嘩は売られた後だ。その相手が良く分からなかったのが問題で、そいつが誰なのか、疑問が解決したのならやる事は一つ。


「ブチ殺す。話に聞いた所ではそのお偉いさんは神様がお好きな様なんでな、望みどおりの感動の対面ってやつを手伝ってやるさ」


俺は久しぶりに、怒りから込み上げてくる笑いを隠そうともしない。自分で言うのも何だが、それは中々に凶悪な面構えだったと思う。


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