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犬頭の探偵は黄昏に沈む世界で明日を夢見る事ができるか  作者: せんこう
騎士はその問いの果てに自らの進むべき道を見つける事ができるか
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騎士はその問いの果てに自らの進むべき道を見つける事ができるか⑩

「で、今からやる事は至ってシンプルだ。連盟のニヴルヘイム支部に突入し必要な物資を回収して、即撤退。勿論、周囲に展開する警備局の職員から妨害を受けるだろうが、見たところ装備も殺傷能力の低い警邏レベルだろうから制圧は問題ないだろう。ただ、上から命令されているだけの彼らを極力傷つけたくは無い。顔見知りも居るかもしれないしな」

「それは同意ですわね。私も、意味も無く善良な市民を傷つける趣味はありませんの」


まだ夜も浅い時間帯、あの場でのゴタゴタを片付けてセカンドに戻り、今は連盟ニヴルヘイム支部が確認出来る近隣の空きビルに忍び込んで周囲の状況を確認している。

シロウも言っていたが、ニヴルヘイム総督の命によって既に警備局によって抑えられている支部へと今更戻る理由は、其処に在る武器がこれから必要だからだ。

何しろこれから俺たちは神様を相手取る事になる。その為には長年そういった相手と戦ってきた連盟の、対伝承体に特化した伝承兵装がなければそもそも勝負の土台に上がれないという訳で、今はその下準備に取り掛かろうとしている。

散々捜査という名の家探しで支部には何も残っていないんじゃないかとは思ったが、それらが警備局に接収されている可能性は低いらしい。持ち出し防止の為の防犯装置と言うのが破られていればマグノリアに伝わるらしく、それが未だに無いというのが理由だ。便利だな。

さて、ニヴルヘイム支部である低い二階建てのビルに配された警備の人員は、正面に車両と軽装の職員が二人。明かりの灯る内部に見えるだけで三人程、人影が動いている。

昨日事務所を出る前に見たよりはかなり数は少ないが、此処はバルドルの庭。警報一発で数分後には数百人の重装捜査官が押し寄せる事は間違いない。

保安部に比べて顔見知りも多く、どちらかと言えば話が通じる相手も多いが、彼らもサラリーマンだ。流石に目下指名手配中のテロリストを伴い、悪い神様が総督府に居座っているからぶち殺しに行くので邪魔しないでくれと言っても、はいそうですかとはいかないだろう。

残念ながら、俺には防犯のプロたる捜査官に勘付かれずに忍び込む様なスニーキングのスキルは無い。一縷の望みを託して尋ねるが、そういった手合いに使う道具は全部支部の中、そして唯一自分の苦手な分野だとマグノリアも苦笑いで。二人して悩んだ結果。

もう、こうするしかないよね。という結論に至った。


「ふん!」

「うぐッ」


本当にすまない。アンタらはただ、仕事をしているだけなのにな。

昏倒し倒れ込んで頭を打つ前に脇を支え、そのままずりずりと建物の影に引きずっていく。隣を見ればもう一人の職員を同じくマグノリアが抱えていた。この光景は誰がどう見ても危険な凶悪犯にしか見えないだろう。いや、暴行を加えた時点で立派に前科一般だ。笑顔で有罪と断ずるアヤナの姿が目に浮かぶ。

そもそも今、二人して頭からマスクを被り、顔を隠してはいるが俺なんか輪郭でバレバレである。今知り合いに、特に妙な仇名を付けて来そうなアキトにはこの姿を見られたく無いな。

内部に人員を配しているせいか入り口は鍵もかかっておらず空いていて、難なく入り込むことが出来た。丸一日マグノリアが戻ってきていないので暇をしていたせいなのか、二階フロアに詰める三人の職員は呑気に雑談などしている。


「保安部のクソ共が。理由も知らせずこの様な場末の警備を押し付けてくるなど、エリート様はいい身分だな。精々慣れない市内で走り回って、手痛い歓迎でも受ければいい」

「痛い目といえばさ、又聞きだが昼頃に佐々木のおっさんに分隊が壊滅させられたって聞いたな。あの人、怒らせると怖いから」

「殺されなかっただけでも御の字だろう。バルドルが治安維持の名目で容認している、清水興業に次いで有力なセカンドの顔役に喧嘩を売るなど馬鹿な話だ」

「探索も難航しているらしいですよぉ。街の事なんにも知らないのに、おバカな人達ですよねぇ」


女が二人、男が一人。声には聞き覚えがある。

三人とも良く見知った相手だ。逆に、これは不味い。彼らには、踏み込めば確実に俺だとバレる。つまりそれは、応援を呼ばれるどころか、今の状況を直属の上司であるアヤナに直接報告されるという事である。

流石に昨夜のあの応対を見ていると、今まともに彼女をマグノリアと会わせるわけにはいかないだろう。アヤナの立場もあるし、早々に事態に対処しなければならない今などは尚更である。

一瞬考え、一つ博打を打つことにする。これは彼等だからこそ成功の可能性がある博打で、下手を打つと逆上されかねない諸刃の刃であるのだが。


「ええい、出たとこ勝負か」


考えている暇はない。敢えて勢いよく、その扉を開く。

余りにも堂々と、正面切って現れた侵入者に一瞬彼らも躊躇するが、俺の正体には直ぐに気が付いたようだ。この覆面はやはり意味がない。


「おいおい、堂々と正面切ってって、いくら何でも無謀な。ってあれ?アンタ、ベオの旦那じゃ」


はい、それじゃあ。その場の全員に聞こえるようにはっきりと大きな声で。


「タクミ、先週は楽しかったな。あの後真っ直ぐ帰れたのか?」


そう言われた顔見知りの一人、タクミの顔が石化したように固まる。男の約束で絶対に口外しないと言ったが、すまん。今は脅しに使う事を許してくれ。その内容までは絶対に言わないから。


「何を、ベオ、貴様!入り口を警備していた者達はどうした!?」

「働き過ぎじゃないか?今頃疲れがたたって居眠りしていると思うぜ三島。所でタチアナに作ってもらった例の霊薬の効果はどうだった?タクミは気にしないと思うんだがなぁ」


言われた女、三島は俺の言葉にタクミと同じく硬直している。頼まれて調達した薬なんか彼女には必要ないとは思うのだが、当人の悩みなのだから仕方ないだろう。


「ベオ氏。私は何も見ていませんし、知りません。だから、だから・・・!」

「安心しな、御巫。俺だって何も見てないし、そもそも忘れちまったよ」


最後の一人、御巫は早々に頭を抱えて降参の姿勢だ。彼女は特に、一言でもその隠し事に繋がる情報を漏らしてほしくないようだった。

よし、博打には成功した様だ。三者三様に自らの職責に対する葛藤の様子は見られたが、一先ずこの場での主導権はこちら側に有るらしい。弱みを握っているみたいで後味が悪いが今は非常事態である。埋め合わせも含めて、フォローは後回しにしておこう。


「此方ですわベオ様。保管庫は特に厳重な封印を施していましたので、思った通り、どうやら暴かれてはいないようですの」


何もない壁面にマグノリアが指で何かを書き込むと、幾つかの図形がそこへ現れて、やがて真っ直ぐに伸びた亀裂が扉となり、当たり前のように隠されていた部屋へと開いた。


「俺は何も見てない、見てない見てない、見てないからな・・・!」


頭を抱えてタクミが現実逃避している。見ないふりをして隠されていたスペースへ入ると、成程。昨夜警備局が運び込んでいた荷物の正体がこれらだった、という事なのだろうが。


「しっかしこれは武器庫、というよりは美術館ってとこだな」


狭い室内にずらりと並べられた刀剣類、鎧や装飾品など、良く分からないけれど厳つい雰囲気を放つ品々。飛び道具も一応有るが弓やボウガン、火器はあってもフリントロック式という極まりっぷりだ。そのくせ何か、手投げ弾のような物は幾つかある。


「近代的な火器は連盟でも使われますが、現地調達出来る上に伝承体を相手にするには威力が足りません。見ての通りにこれらは全て、伝承兵装に分類される兵器ですの。ほら、ベオ様と手合わせした時に使用した剣もその内の一つなのですわ」


これらは美術品や骨とう品でなく、全て実用性を備えた、神秘を秘めるアーティファクト。その内でも特に武器としての側面が強いモノがこれらであるという。例えば英雄が怪物を屠る物語の中で使用した兵器やそのレプリカ。又は、そのモノに伝承を宿す武器など。

故に同じく伝説から生じる伝承体を相手にする際は、通常兵器よりもこれら伝承兵装の方が効果的であるらしい。それに、昨夜に戦って得た情報から、前提としてパズズと戦うに際して必要なモノがあるというのだ。それを携えていなかったことが、そもそもマグノリアが行政本部の襲撃に失敗した理由の一つでもあったらしいのだが。

その必要な装備とやらも含めて、幾つかの適切な装備、武器を見繕いながら。それを見つけたマグノリアは、ほんの少しだけ、何かを考える様なそぶりを見せた。


「どうした、マグノリア?」

「ああ、その。ごめんなさいまし」


俺の声に振り向く彼女は何故か赤面している。それを握ったまま目を泳がせて、やはり思案を巡らせて。それから意を決したように俺の顔を見つめた。


「ベオ様」

「うん?」


変わらない、彼女の決意の匂い。けれど、これは今までのモノとは種類が違う。


「これをベオ様に。共に戦ってくれるというのなら、必要となると思いますから」


その手に示すのは彼女の剣どころか身長よりも長大で、他を傷つけぬようにと、特殊な厚い布で覆われている伝承兵装である。


「貴方に預けたいのです。どうか、受け取ってくださいますか?」


努めて平静を装ってはいるが、その指が、ほんの少しではあるが、かたかたと震えていたのが分かった。

ああ、そうか。

事前に彼女には、俺には匂いで人の想いを感じ取る事が出来るという事を伝えている。つまりこれは、彼女自身がその想いを知られていると分かった上で、俺に託そうとしてくれているという事。

だから迷わず、躊躇いもせずに手に取って。


「ありがとう、マグノリア。遠慮なく使わせてもらうぜ」


そう笑って、彼女の決意に応える事が正しいのだと俺は信じた。

それがどういう意味なのかは分からなくても。こんなにも澄んだ、今は俺の事を想って結ばれた決意の匂いを拒む理由なんてない。

それを嬉しく想って、これから相手にするであろう神様とやらに対峙しても、今の、俺自身の決意も揺らぐ事は無いのだろうと断じる事が出来る。


「一緒に行こうぜ、マグノリア。俺を信じてくれた事に応える為に、俺はこいつで君の道を拓いてやるさ」


俺のそんな返答に、初めは驚きで。それから堪えきれなくなったように、今度はきっと、喜びの涙で。


「・・・はい、幾久しく。貴方とならば、何処までも」


少し大袈裟だなと俺は笑って、彼女もつられて笑ってくれた事が嬉しかった。

さあ、此処からが反撃の時間だ。

味方は少なく、敵はニヴルヘイムにおける鉄壁の要塞ともいえるバルドル中枢に陣取っている。事前の情報から保安部も妨害に出てくるだろうし、目的である騒動の首魁と、最大の目標である魔神パズズとは、一体どれ程の怪物か。

まあ、その辺りは余り重要ではない。

俺は、彼女と共に、やると決めた。それだけが俺が走り出すために必要な事実で、既にそいつが定まった今はやり遂げるのみである。


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