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犬頭の探偵は黄昏に沈む世界で明日を夢見る事ができるか  作者: せんこう
騎士はその問いの果てに自らの進むべき道を見つける事ができるか
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騎士はその問いの果てに自らの進むべき道を見つける事ができるか⑥

ご覧ください。此方は深夜二時頃、ニヴルヘイム行政本部ビルの正面映像です。

ゲート付近に人影が、ええ、此方です。この人影が何らかの爆発物を使用しゲートを破壊、そのまま内部に侵入していく様子がお分かりになられると思います。

内部の映像は機密情報の為公開されていませんが、外部からもビル内部から発せられる光と衝撃で、謎の人物による大規模な破壊活動が行われている事が推察されます。


それから時間にして一時間が経過した頃、ビル上層部に注目してください。大規模な閃光の後、窓ガラスが内部から破壊、火焔と黒煙と共に、こちら、ここです!人らしき影が落下していく様子がお分かりになるでしょうか?

階層にして三十階以上と思われますが、驚くべきことにその人物は地面に落下後、なんとよろめきつつも走って現場から逃走していく様子が映像から確認できるのです。

さて、問題はこの十分後、ようやくバルドル警備局が現場に到着する訳なのですが、この行動の遅さは通常では考えられない事です。警備局本部から離れたセカンドなどとは違い、この場所はファーストの中枢であり、警備局の本部は目と鼻の先という訳ですからね。

この事態に対し、未だに警備局、並びに総督府から明確な説明は行われておりません。それどころか意味不明の報道規制を敷きつつあるのが現状なのです!


こんな面白い、では無く。こんなきな臭い、でも無く。

明らかに複雑な背景が存在すると推察される、数字が取れる、じゃなくて、皆様にとって重要性の高いニュースをローカルとはいえ、我々マスメディアが報道しない訳には行かない!という訳で、今後もこの事件の続報を、我々ムニンTVは追い続けます!

え、警備局から苦情?今すぐ放送を止めろですって?ふっざけんじゃないわよ!

局長命令だ?あんの風見鶏が、皆さん、これがバルドルのやり方です!不当な権力の圧力による不正行為の現場がここにも!

何を、ちょっと触らないで!こら、後で覚えてなさいよデスク!くたばれ警備局!我々は権力には屈しない!





モザイクのかかった中指を突き立て、数人に取り押さえられながらも喚き続ける女子アナの映像が途切れ、長閑な田園風景と暫くお待ちくださいの表示のみを映し出しているテレビ画面に、口の端から盛大にコーヒーをこぼしつつ、目をくぎ付けになりながら暫し思考が停止する。

ニュースにあった、この九界においては自殺行為以外の何物でもない、バルドルにケンカを売るという行為。いや、自殺するならその辺の梁に紐でもひっかけた方がおすすめだが、そんなとんでもない大馬鹿をした、その謎の人物。夜間で分かりにくくはあったが、昨日の今日だ。まさか見紛うはずが無い。

その甲冑はどう見ても、マグノリアと初めて出会ったあの場で、彼女が身に着けていたそれと相違ないのだ。


「・・・何をやってるんだあの女ァ!?」


今回ばかりは所長に気を使って叫ぶことを抑える事が出来なかった。

昨夜のアヤナ達、警備局とのやり取りで、マグノリアが所属している連盟がバルドルとは決して穏当な関係でない事は察していた。しかし、だからといって。昨日今日で、しかもいきなり正面から襲撃するなどとは常軌を逸している。

すぐさま身を低くして、ちらりと事務所の窓から階下を伺うと案の定、正面のビル前を警備局が既に封鎖している所であった。

これは不味い、自分がマグノリアと一緒に行動していた所は多分複数の街頭カメラに写り込んでいる。

というか彼女の荷物とやらを運び込んで来たその場の警備局の職員に、その関係者だと知られてしまっているのだ。

考えてみてほしい。事実かどうかは別にして、もし彼女の依頼である近所の案内が、昨夜の襲撃の下見か逃走ルートの確保とか、そんな何かであると判断されてしまえば。

つまり俺は、彼らにとってテロの共犯者(仮)という事になる訳だ。


「クソ、クソクソクソ!」


に急ぎ裏口に回り、そのまま路地裏を抜けて通りに出る。所長にはと事情を簡単にまとめた、暫く戻らないとメールを送り、昨夜にアヤナに怒られて早々になるが逆探知を避けるためにも携帯端末を事務所の窓へと叩き込んだ。さて、これからどうするべきか。


「先ずは、マグノリアを探さないと・・・!」


その意図はともかく、事情を聞かない事には対策も立てられない。単純に戦争のきっかけとなる鉄砲玉、というには彼女は真っすぐすぎる人間だ。何か、理由があってあんな事をしでかしたのだろうとしか思えない。いや、自分の立場的にはそう思いたい。

考えろ、考えろ俺。彼女はニヴルヘイムに到着して日も浅い。早く探し出さなければ今にも警備局に身柄を拘束されるだろう。しかしそれだけで済むはずはない。

ニヴルヘイムにおけるバルドル権威の象徴の一つでもある行政本部を襲撃するだなんて暴挙を考えれば、それすらまだマシな結末と言えるだろう。個の武力がいくら強くても、補給や応援の望めない敵地での戦闘は結局は数の暴力に抗えない。

下手をしなくても、彼女は消されるか、もっとひどい事になる。


「ファーストは考えにくい。セカンドなら、昨日紹介して回った辺りか、それとも」


歩き出しながら考える。あれこれ考えたところで、兎にも角にもマグノリアと直接話してみなければ分からないのだ。


「・・・ああ、クソ。暑さは変わらないくせに、背中がやけに冷えるぜ」


背中を流れていく昨日とは質の違う冷汗を感じながら走る。逃亡者が手始めに向かうとすれば幾らか心当たりはあるが、時間的にマグノリアが留まっている可能性は低い。それでも、何か彼女の足取りくらいは掴めるかもしれない。





「・・・総督、その、本当によろしかったのでしょうか。警備局にはマスコミ対策と襲撃者の拠点のみを抑えさせ、犯人の身柄確保は保安部で行うという決定は、その、あまりにも」


暗に自分を非難する意を込めたくせに、恐れて顔色をうかがうたどたどしい言葉に怒りを覚える。

この秘書にはいつも何かと苛立たせられているが、我慢も限界に近い。この事態が収拾した後は永遠に休暇を与えてやろうと、そう考えていた。


「それに、その、再三にわたり上級執行官の鷹野様から状況説明と面会の要請が。今はまだ内々で収められていますが、戦乙女は本来会長より各階層の代行権限を委任された監督官を兼任しています。下手に本社に報告でもされてしまえば、総督のお立場が」


いちいち怯えた様子が更に見苦しい。そんなに、あんな小娘が恐ろしいというのか。

上級執行官の影響力、そして武力について、自分は正しく評価し、その上で判断したのだ。

自身に欠けていた唯一の要素。切り札たる力は、既に手元に存在している。その時点で、単独の武力でどうこうという問題は既に解決済みだ。

それが、こんなちっぽけなトラブルで膨大な時間と資産を投じた計画のスケジュールに乱れを生じさせる事など、到底許容できる筈が無い。


「何も、問題は無いな」

「は?」


やはり使えない。この女は、証拠隠滅も兼ねて今夜にでもコストとして消費してしまおう。


「・・・何度も言わせるな無能め。何も、問題は無い。市内での事件ならともかく、社内で発生した事案は保安部の管轄だ。警備局には引き続きマスコミの締め上げと、容疑者の根城周囲の警備でもさせておけばいい。上級執行官殿には現在状況確認中、多忙故、面会は拒否。新たな情報は精査した後に追って報告すると繰り返せ。これは、ニヴルヘイム総督としての厳命である」


初老の男、肩書はニヴルヘイム総督。この階層における行政の長は微塵も表情を変えず、そう断じた。


「屋内警備に必要な最低限の人員以外は全て市内に展開、例の容疑者の確保と、協力者の逮捕を急がせろ。二度は言わんぞ、これを最優先に、だ」


更に顔を引きつらせる秘書を無言の圧で追い出し、これでようやく一人きりになれた。


「いや、貴方がおられたな、熱砂の王。呼ぶ名と姿は数あれど、恐怖と結び謳われる、我が覇道の切り札よ」


執務室の壁の本棚を操作すれば、それ自体が隠し扉でありもう一つのフロアへと道を開く。

其処にあったモノは、奇妙な神像であった。

背には二対の羽、獅子の頭部に、人の体を持つ異形。これが神像と分かるのは、その威容を見る者に与える、物言わぬ威圧感を像が放っているからだ。文字通り過去、これを神と称える教えが、遠く彼の地において存在していた。


あの襲撃者がどういう訳で此処にこれを運び込んだ事を知ったのかは不明だが、あの場で相当の手傷を負っている筈だ。もしかすると、受けた呪いの影響で今頃はどこぞの路地裏で野垂れ死んでいるかもしれない。

一応襲撃者が単独犯なのか、バルドル本社か、何か別の意を受けたのかを知るために捜索は継続するつもりではあるが。

ああ、そういえば結局、保安部の職員を木っ端の如くなぎ倒していた襲撃者を追い返す事ができたのもこれのお陰だ。襲撃者の抵抗によって量産を始めていた少なくない数の兵隊は失ったが、コストを支払う事で、その補充も容易い。半信半疑で在ったが、これで一番の懸念であった数の有利も、そして兵士の質の差もひっくり返せる。

そうだ。この像さえあれば、戦乙女どころではない。あの男に。

アースガルズに座する、光の王。ベル・バルドルにすら手が届く。


「何時か言ったな、会長。その意志と実力さえ有れば、何時でも自らの席を狙い、そして奪うがいいと」


ならばどちらの条件も、今の自分であれば満たしているとも。

目線の先、名高き王と呼ばれた像。その足元には、黒い泥の様な物が滲み出ている。

聞いた話より大ぐらいだが問題は無い。予定外の稼働でコストを消費した事が理由で、それも補えば良いだけの事。

特にこの像が求める稀人、必要なコストはこのニヴルヘイムにはそれこそ腐るほど存在している。むしろ足元を這いずる害虫が減って、この吐き気のする腐った街も少しはマシになるだろう。

ああ、そういえば昨夜の騒動でコストの予備の幾らかが逃走したそうだが、これもまた集めればよいというだけだ。


男は一人嗤う。これより全てを手にするであろう自らの姿を思い浮かべて。

像は黙したまま。よく見れば獅子の頭と、二対の羽はへばりつく粘着質な赤で濡れて。それも暫くすると、石の肌に沈むように消えて、命の痕跡はもう、其処に何も残ってはいない。

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