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犬頭の探偵は黄昏に沈む世界で明日を夢見る事ができるか  作者: せんこう
騎士はその問いの果てに自らの進むべき道を見つける事ができるか
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騎士はその問いの果てに自らの進むべき道を見つける事ができるか⑤

極限まで集中した視界は、僅かに、しかし確かにその力の起こりを捉える。

全力であるが故に生じる起点、完璧な構えであるからこそ、演武の型の様に。細部まで無意識に、繰り返してきた体が最適解の動きを始める、一瞬の始まり。

人体を剣を振るう機関として捉えたならばその点火の瞬間、抹消から中枢へ。足先から大地を蹴り、反発力を足裏、下腿、大腿、腰部、体幹と順を追って。更にその膂力を追い風に加速するベクトルが剣を握る肩、上腕、前腕、最後に指先へと最高速へ加速していく刹那。

この初動である足の動きを観測すると同時に此方も動く。放たれる一閃は、気が遠くなるほどに繰り返され、類まれなる修練によって実現した、完成された一。その先手に比べてしまえば、後手の此方は随分遅い。

しかし初めからそうすると決めていたからこそ、マグノリアの完璧な、神速と言える一撃にどうにか間に合う。

距離にして頭頂部から数十㎝、刃が到達するために必要な所要時間は千分の一秒以下。彼女の全力が故の、型通りである綺麗な一撃に対するに、此方も型通りに対処する。全力が故の、実践で行われる二人掛かりの、例えるならこれは、やはり命がけの演武である。

ベオの選択。その技は何時だか時代劇か何かで見ただけで実践ではとても試した事の無い、両の掌で白刃を掴み取るという常軌を逸した行為である。技の名は動作のそのままに、真剣白刃取り。

達人同士であっても、決して全力などでは行わない。そういう技術がある、こういった逸話があるという話で、達人の伝説を誇張するエピソードであったり、アクションの脚色として分かりやすいそれであったり。間違っても、実践でそれを用いようなどとは誰も思わないだろう。

良くあるフィクションの中で実行可能とされる技は、リアルにはとうてい実行不可能な技であった。

結局、ベオが間に合ったのは、打ち下ろす動作に合わせて両の手を頭上に構える所まで。その間を高速で通過する刃を、タイミングを完璧に合わせ、その上で掌で挟み込んで受け止めるなどという事は、当の本人が一番理解していて、やはり不可能な事なのだ。


「今、だ!」


そう、自分の技量だけでは、運に頼ったとしても、神に祈ったとしても絶対に不可能。であれば、単純に有るモノを使えばいいというだけの話。

両の掌の間、炎の形をした刃が通過する瞬間。まるで打ち合う剣戟の音の様に、神速を、雷光が捉えた。





「何ですって!?」


自分の一撃に対してベオが両手を掲げ、刃を挟み止めようとしている事は理解出来た。それが不可能な事も、その結果として多分、彼を殺してしまう事になるかもしれないという事も。熱に浮かされなんて馬鹿な事をしてしまったと今更ながら自覚して、自分もそうだがベオもなんて馬鹿な事を、と考えたのも一瞬、複雑な感情の積み重ねは、それが阻まれたという一点の衝撃で全てが上書きされる。

信じ難いが現に、ベオは自分の放つ一撃を受け止めた。剣は両の掌で挟み止められ、しかし打ち込みの勢いは殺しきれず鈍い音と共に挟み込んだ両手ごと肩に逸らし、担ぐ形にはなっている。

が、事実として刃はベオの身に届いてはいない。


「・・・あいたた、肩外れたぞオイ」

「一体、それは、どうやって、今の技を」

「ちょっと卑怯だが、有るモノは使わないとな。こいつも、君の知りたい俺の一部には変わりないだろ」


そう言うと吸い付く様に剣を挟み込んでいた両手は容易く離される。指し示す彼の手を見れば掌の金属部分には、まるで落雷に撃たれたかのように黒く焦げた跡が残っていた。


「ネタを明かすと、この手袋は電気を扱う力がある。まあ簡単に言うとだな、君の剣がこの間を通る瞬間に、金属部分に電気を流し、磁力を発生させて両側から挟み込ませてもらったんだよ。情けないが道具に頼らなきゃ、俺の技量で、時代劇に出てくるような剣聖の真似事なんて不可能だ」


ぶっつけ本番で、出来る保証も無かったけどさ。などと外れた肩を戻し、言いながら笑うベオ。

いや、理屈は分かる。だが、成功する可能性は限りなく低いものだ。ゼロと言っても良い。


第一に磁力を発生させるタイミング、第二に手袋がその様な無理をして破損しないという可能性、更には全力の一撃で発生するエネルギーを、刃越しでは無くとも結局その体で受け止めねばならないという事実。

とても道具に頼った卑怯などとは言えない。避けるでもなく、逸らすでもなく。

何よりもベオは前言通りに自分の、誤魔化しなく、正面からの本気の一撃を受け止めた。この事実は、マグノリアにとって、余りにも衝撃的であった。


「ベオ様」


だから、一先ずは言葉にせねばならない。


「試すと言った事、先ずはお詫びを。貴方は、紛れもなく私が想定した以上の勇士ですわ」

「そうか、まあ満足してくれて良かったよ」


ならさっさと帰ろうと、ベオは踵を返す。マグノリアが試した理由も聞かず、どういった意図で自分に近づいたのかさえも大したことでは無いかの様に。


「ベオ様」


だからこれは、自分の本心から願う行動なのだろう。

連盟から派遣された身としては軽率で、この行為が後々どう響いてしまうかは分からない。それでも、そう望んでしまったから。どうしようもない事なのだ。

当地における協力者の確保と、情報の開示については一切を一任する。との総代からの言葉を、今更ながら心から感謝して、彼に問う。


「少し身の上話などさせていただいても、宜しいでしょうか?」


その問いに、ベオは少し考えた様子で。


「・・・じゃあ、そろそろ暗くなるし焚火でも炊いてコーヒーでも淹れるか。俺は道具を取って来るからさ、君は火種になりそうな物を拾って来てくれるかい?」


あんな事が有ったばかりなのに少しも嫌な顔をせず、了承の代わりにそう提案したのだった。





騎士修道会連盟。その起源は、中世最も大きな宗教戦争、十字軍遠征にまで遡る。


「当時、聖地奪還を名目に行われた、同じ神を仰ぐ連合軍の大遠征による対外戦争。実際は経済的な理由や諸侯の勢力争いの結果もあっただとか、一応は宗教的な理由で結成された軍隊と言うのが一般的に知られている歴史ですわよね」

「という事は、実際は違うのか?」

「はい。その戦いは、国家同士の争いでなければ、聖地を奪い合う宗教戦争ですらない。とある災害に対する、当時を生きる人類が総力を結集した末に、どうにか勝利という名の時間稼ぎを成功させた、それはいわゆる生存闘争だったのです」


当時の人類が総力を以て当たったその災害の名を、終末伝承という。

例えばとある村に住む住民を虐殺したという怪人の話や、国を滅ぼしたという怪物の話。

そして例えば一度、世界の悉くを洗い流したという洪水の話。

何かに終わりをもたらすという伝承は数多ある宗教観であっても何故か通じる所があり、それは人類に共通する物事には何時か終わりがやって来るという共通認識と聞いた事が有る。


「いいえ、当時顕現したソレはその様な曖昧なモノでは決してありません。人だけでなく、全ての生命に共通する、命の終わりという名の、終末という共通認識。この星に幾度も起きた絶滅も、そして人類がこの星の霊長と成ってから幾度も繰り返され、どうにか退ける事が出来ている、一説では星が其処に生きる命に与えるという試練。その内で最大のモノがその時代、実際に発生したのですわ」


その名は、四人の乗り手という災害だったらしい。

この災害に対抗する為に、それまで争い続けていた異なる宗教を掲げる東西が一時的に手を携え、幾つもの国と、数百万の人命とを消費する事により、最終的に乗り手の内一体を討滅、一体を封印。そして二体の逃走を許した。


「この結果は衝撃的でした。何故ならば、逃走した二体の伝承災害だけでも、この星に生きる全ての命を滅ぼすに足りる権能を誇っていたからです。これに対抗する為に、その争いを生き残った国家、宗教組織から独立した騎士たちが結成したのが十の騎士隊。それらは合わせて、騎士修道会連盟と呼ばれる事になるのですわ」


掲げる神も、国家も。民族も異なる彼らが唯一同じくする目的は、人類の生存。

彼らは決して人間同士の争いに関わる事が無い。対象とするのはその陰で起こる事象、例えば行き過ぎた魔術を行使するメイガスの粛清や、伝承体と呼ばれる人に語られた末に発生するという実体の討伐、そして連盟発足の原因となった終末伝承を調査、捕捉し討滅する事に在る。


「成程ね。その騎士修道会、連盟ってのがどうやらあそこが怪しいからと、九界に送り込んできた調査員、騎士が君って事か」

「はい。元々、その発生当初から幾度も日本政府に対して調査申請は行われていたらしいのですが、この異界は実質的にバルドルという一つの企業が支配する閉じた領域でした。たった一つの入り口を抑えられている上に、外界においても強力な権力と経済力を持つバルドルに拒まれている以上、今の今まで我々は指をくわえて見ているしか出来なかったというのが現状ですの」


その状況が変化したのが、あのニザヴェリルでの騒動の前後と時を同じくする。


「異例の事ですが、それまで頑なに拒んでいた連盟との会談を、バルドル会長であるベル・バルドルが承認したのです。連盟の代表者たる総代を敵か味方かも分からない相手が待ち構える本拠地に呼びつけるという暴論ではありましたが、当の総代がそれを承諾し、単身九界に赴いた」


それでアルトがあの場にやって来たという訳か。並の人物では無いと思っていたが、まさか国際的な武装組織の長であったとは。

いや、思い返すとなんかヒーロー映画の主人公かってくらいすごかったな。うん。


「会談の結果、特例として一名のみ、連絡員として騎士の駐留を認めるとバルドルは言いました。どうしても九界の情報を必要としていた連盟はその条件を呑む他無く、協議の結果派遣されたのが私という訳なのですの」


話しが一区切りしたのか、マグノリアは一呼吸ついたようだ。

とりあえずはと黙ったまま此処まで話を聞いておいて何だが、この話を鵜呑みにするに今の俺には余りにも判断材料が少なすぎる。

取り敢えず今の間で嘘の匂いは少しも無いし、本人の性質を疑わしく思う考えは既に無い。この九界、それもニヴルヘイムにおいても珍しいくらいに善良というか馬鹿正直な彼女が、此処までやった相手を今さら謀ろうとは思えないからだ。しかしそれ故に、一つだけ分からない事が有る。


「事情は分かった。目的も、真偽はともかく概ね理解したよ。その上で、何故君は九界の中でも其処まで重要でないニヴルヘイムにやって来て、更には俺を試す必要が有ったんだ?」


バルドルの調査という事であればもっと上層の、それこそバルドル本社の存在するアースガルズを拠点とすればいい。潜入という訳でも無く、バルドルが許可したという事なら今更嫌がらせでニヴルヘイムを指定する事は無いだろう。

そういえば何故だかマグノリアは、答えを問う為に俺を試す事が必要なのだと言った。

確かに俺はベルには妙に目を付けられているし、バルドルには悪い意味で名を知られているが、実際は属するどころかその関係者ですらない自分を試す理由は何処にあるというのか。


「それは、非常に曖昧な言い方になってしまいますが」

「何だよ、急に歯切れが悪いな」


今更になって自分の暴挙を自覚したのか、冷汗をかきつつ、変にまごまごとした言い方でマグノリアは答える。


「その、総代の勘、というやつらしいですの」

「はぁ?勘?」

「ええ、その。総代がご自身の勘で、善悪は分からないがベオ様に何かあるらしいと、そこから探ってみろとおっしゃられたのです」


という事は何か?俺は勘という理由で、頭をカチ割られそうになったという事か。


「ごごご、ごめんなさいですの!私ったら昔からこうなのです!総代も慎重にとの事でしたが、ベオ様とお話をしてみて、どうしてもあの悪名高いベル・バルドルに与する様な悪い人には思えませんでした。日中歩く中での所作から相当の技量をお持ちなのだという事も分かりまして、ですので、貴方を知る為には、この方法が手っ取り早いと・・・」


言いながら頭を抱えて沈黙してしまったマグノリア。先程までは凛々しく剣を振るっていた騎士も、今では怒られている子供の様に見える。


「と、当然怒っていらっしゃいますわよね?どうしましょう、お詫びをしようにも手持ちの現金は少なく、お渡しできるような貴重品もありませんの。私の様な無骨な女に出来る事などたかが知れていますし。ああ、やはり連盟に直接抗議なさりたいですわよね?損害賠償をなさりたいですわよね!?どうしましょう、どうしましょう!」


おろおろと心配している所悪いが、少し呆れてはいるものの、俺は少しも怒ってはいない。それどころか慌てて右往左往する彼女の姿を見て、何だか堪えきれずに笑ってしまっていた。


「あの、ベオ様?」

「ああ、悪い。取り敢えず、アリスの新しい友人が悪い奴じゃ無かった、って事で安心したよ」


不思議そうな顔をするマグノリアに、俺は丁度湯が沸いて、淹れたばかりのコーヒーが入ったカップを差し出す。


「どういった基準か分からないけどさ、俺は君の問いには良い方で答えられたって事でいいのかな?」

「はい、それは勿論。事態が許すなら、貴方を連盟にスカウトしたいくらいですの」


素直にカップを受け取りながら頷くマグノリア。うん、それ程見込んでくれたのなら問題は無いだろう。


「なら何も問題は無いさ。初めに言っただろ?月夜見探偵所はアフターサービスもバッチリってな。まあちょっとした運動に付き合って少し予算オーバーした分は、今から君が、その騎士として経験した面白い話でも聞かせてくれながら一杯付き合ってくれれば、それで都合が合うよ」


そんな風に提案した頃、日は既に沈みきって、空には星が輝き始めていた。

あまり遅くなり過ぎてはいけないから、このカップが空になるまでの間だけ、彼女の話を聞かせてもらう事にしよう。それに現代でも活躍する騎士だなんて、何だかかっこいい。わくわくするような冒険譚を聞ければ儲けもの。

実際俺の提案に、大きな身振り手振りできらきらと目を輝かせながら語るマグノリアの話は、自分が知らない外界の、様々な土地と人にまつわる興味深いもので。

コーヒーは一杯どころか何度も湯を沸かし直す事になってしまったが、これもまた、俺の忘れたくないと思える記憶になったのだから、十分すぎる報酬だと言えるだろう。





「ええ。私は何時もこう、口うるさい事を言いたいわけじゃあないんですよ。細かいとか、融通が利かないとか、心が狭いとか、あと単純に怖いとか。まあ言われ慣れているので、他の誰かにそう思われるのは別に良いんです。だけど、たった一人、そう思われたくない相手に、その相手を思えばこそこうして苦言を呈さなければいけないこの心境を、僅かでも察してくれればどれ程に救われるか。分かっていますか?分かっていればこんな事はしませんか。どうして分かってくれないんでしょうか。ねぇ、ベオさん」


所長に告げていた帰宅予定からは大分遅れて、あと二時間もすれば日付が変わるという頃に事務所に帰り着くと。複数の警備局の車両と人員、そしてそれらを従えるように、仁王立ちで待ち構えている彼女が待っていた。

他にも顔見知りの捜査官などが居るが、薄情な事に皆、自分への飛び火を恐れてか遠巻きに事態を眺めているだけである。


「アヤナ、サン?何か、君と約束してたかな。あはは、待っていてくれてたなら連絡してくれれば良かったのに」

「ふふふ、そういう心配をしてくれるつもりがあるのなら、せめて連絡がつくように携帯端末くらいは持ち歩いてもらいたいですね」


近所を案内するくらいだからと置き忘れた端末をそのままにしておいたのは間違いだったらしい。

最近何かと壊す事が多いので、少し勿体なくて持ち歩く事が無くなってきたそれの存在を今さらながら思い出した。


「まあ、残念ながら今回要件があるのは貴方では無く、隣の彼女にです。この忙しい時に名指しで連絡を受けて、何事かと思えば運び屋まがいの雑用ですって?どうも何か、勘違いしているお客様のようですね」


つかつかとマグノリアの目前まで迫るアヤナ。マグノリアに比べてると小柄だが、彼女を知っていても、知らずとも誰もが道を譲る、見上げる格好になっていても少しも怯む様子のないその全身から放つ、普段は抑えられている強者特有の威圧感を真正面から受けてなお、マグノリアは微動だにしていない。


「赴任の御挨拶が遅れまして。失礼いたしましたわ、鷹野アヤナ様。いいえ、蒼の戦乙女とお呼びした方がよろしくて?」

「形だけの礼節は結構ですヴァレンシュタイン卿。しかし、騎士とは名ばかりの武装集団が白々しい。その内でも切り札とされる隊長格、十の剣の一振りが一体何の用件でこのような場末に?しかし、会長も偉そうな割に存外頼りないですね。連盟の長に一睨みされただけで、こうしてその手先を庭先に招き入れてしまうのですから」

「おほほ、財力と権力で世界を牛耳るバルドルにそう評価されているのは心地いいですわね。あなた方には我らが護り続けてきたモノに、自分たちが含まれている事も知らないでそうおっしゃられているのですわ。ええ、それで良いのです。無辜の民に知られずとも、その行く先を拓き護るのが騎士の務めなのですもの」


アヤナは牽制のつもりなのだろうが、マグノリアはその刺すような嫌味にもなんのその。答える言葉も自然で特に意識している様には見えず、それがかえって逆に痛烈な返礼となっている。


「何が騎士の務めですか、時代錯誤も甚だしい。とにかく、弁えていただきましょう。貴女はこの地ではあくまで客分、外交官とはいえ外界と同じ勝手で振舞われれば、即座にこの九界の法によって裁くことになりますので。どうぞ、無事に騎士の責務とやらを全うしたければお忘れないように」


不愉快そうな舌打ちを隠そうともしない彼女の姿を目の当たりにして思う。よし、数時間前のマグノリアとのあれこれは無かった事にしよう。

俺の方をちらりと見て、知ってか知らずかまた大きくため息を吐いたアヤナは遠巻きに静観していた捜査官に、車両から荷物を運び出す様に指示を出す。


「これらは連盟から送りつけられた荷です。運び込むまでは仕事の内ですから、物の配置は他の者に適当に指示してください。ああ、ベオさんは此方に」


有無を言わさずがっしりと腕を組まれ、その場からぐいぐいとアヤナに引き離された俺は、出来るだけ平静を保っていたのだが。


「どうしてあの女と一緒に?貴方は、あれがどういった存在なのか分かっているんですか?」

「し、仕事の一環でちょっとその辺を案内していただけさ。危ない事なんて何もない、ですよ?」

「誤魔化しても無駄ですからね。あちこち傷だらけで、隠しているつもりかもしれませんがそのぎこちなさは肩にも怪我しているでしょう」


うん、完全にバレている。


「いや、こいつはちょっとした行き違いというか、えっと、うん。転んで怪我した、みたいな?」

「ベオさん、相手はその辺の犯罪者や変異生物とは訳が違うんですよ。騎士修道会連盟とは裏の世界では泣く子も黙る暴力装置として有名なのです。彼らに眼を付けられれば墓の中まで追いかけられて、その執拗さは掘り返した死体にすら杭を打ち込んで息の根を止めたか確認する程なのですから。しかも相手はその中でも上位戦力、条件次第で戦乙女とも渡り合えるという最高幹部の一人です!ああ、もう!ベオさんの頭の事とか、何かあらぬ疑いをかけられでもしたら・・・!」

「ああ、その辺は大丈夫さ。取り敢えず色々あったけど、互いの誤解は解けているから」

「やっぱり既に色々あったんじゃないですか!」


こうやってアヤナが心配してくれている事は純粋に嬉しい。しかし、マグノリアの人柄を知った今は、その様な心配も杞憂であると思える。


だなんて、その安易な考えが大きな誤りであった事を理解させられるのにそこまで時間は必要でなく。

それはコーヒー片手に寝ぼけ眼で電源を入れたテレビ画面に、センセーショナルな見出しと共に飛び込んで来た臨時ニュースのテロップを眼にした翌朝であった。

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