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犬頭の探偵は黄昏に沈む世界で明日を夢見る事ができるか  作者: せんこう
戦乙女はその傍らに青い鳥の実在を信じる事ができるか
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戦乙女はその傍らに青い鳥の実在を信じる事ができるか⑯

「ベオ達がやったぞ!スリュム・レギオンの核が発信する信号が消えた!」

「なら直ぐに撤退する!二人は無事か!?」


目標を達したとしても。現場の指揮官として、トウコはこれで一安心という訳にはいかない。

帰るまでが遠足。撤退の完了、人員、装備の確認。それから引継ぎを行うまでが軍事作戦である。


「ファック、なんて事だ!核の最後っ屁か何か知らないが、崩壊の瞬間に全てのレギオンに暴走コードを発信しやがった!残る個体の全てが外部からのアクセスを完全拒絶、このままでは残った兵隊が総出で手当たり次第に破壊活動を始める事になるぞ!」

「だとすれば尚更二人は、クソ。私が回収に向かう。ジョー、博士。今すぐに車両で石動と合流次第敷地外まで退避しろ!場合によってはそのまま先に撤退を」


最悪のケースを想定しつつ判断を下し、そう告げ終える事も出来ないままに、空間を震わせる衝撃の後、良く知る轟音が響いた。


「・・・これは、フレスベルクの艦砲射撃!」


祝砲が意味するのは、つまり本社からの増援。少し到着が早い気もするが正直助かった。

確認の為に屋外に出て見上げれば、空に黒鉄の両翼を広げる大鷲。次元潜航艦フレスベルクの姿と、制圧射撃の後に背部ハッチから降下し始めているバルドル本社の精鋭部隊が確認出来た。

其処までは、当初予想出来ていた増援部隊の規模として問題ない。完全な制圧は不可能でも、少なくとも自分達が撤退する間の援護を受けられる筈だ。

しかし、トウコであっても予期し得なかった想定外が二つ其処には存在している。


「・・・何故、お前が此処に居るのだ、三上!」


一つは、遠く上空にあって、実際は人間サイズ程しかない。

だとしても、その存在を知っている者には見間違う筈はない。太陽と見紛う、黄金の輝きを自ら放つ、最強の戦乙女。

剣の銘は黄金のアルヴィト。身に纏うは現・戦乙女筆頭にして、バルドル本社代表取締役社長。

ベル・バルドル不在の際は全権を委任される、この九界のNo2が、彼女が第一階層アースガルズを離れる事は、通常では考えられない。

そして、トウコは直ぐにその異常の本当の正体について理解してしまった。

想定外の二つ目にして最大の異常事態。バルドルの規格とは異なる、自立して飛行する降下艇に刻まれたその存在の象徴たるシンボルを認識し、トウコは一瞬だが、未だ予断許さぬ戦場であってもその事実に完全に思考を停止した。


「なんだ、あの降下艇の紋章は?剣を携えた、灰色の竜?」

「ああ、クソ。なんて事だ」


ナノハの疑問の答えをトウコは知っている。つまり、その象徴は、其処に彼が存在するという証であった。


「・・・騎士修道会連盟総代騎士長。最新にして、最後の真竜」


彼の残した化物じみた経歴は数多あるが、特にその名を馳せた原因となる、時代が時代であれば伝説にも、おとぎ話にも語られる偉業。

それをもって彼は味方から、そしてその敵であっても、賞賛と畏怖を以てそう呼ばれる。


「灰の乗り手を滅ぼした男にして、灰の騎士」


この事実だけで、後に千年語られる事になるだろうその名は。


「あれは、アルトリウス・A・バルクホルン。違いなく、この時代で最強の個人だ」





「初めまして、僕はアルトリウス・A・バルクホルンといいます。フルネームだと長いのでどうか、アルトと呼んでいただければ嬉しいです」


ネイティブと言って良いほどに流暢な日本語だが、明らかに日本人離れした輝くような天然の金髪に、理想として造られたギリシャ彫像すら見劣りする程の体躯。

欠けた右腕は彼自身にとって何のハンディでも無いかの様に見える。自然に纏う温和な雰囲気も、今の光景を見れば、とてもそのままに受け入れることは出来ない。例えるなら、ひたすらに分厚く、重い剣であった。


「続けて失礼を、拙は三上・ヴィクトリカ・シズルと申します。ベオ様にはどうぞ末永くお見知りおきを。鷹野様はどうも、オショウガツ以来ですね。お久しぶりでございます」


対して彼女は冴えを究めた刺突剣だろうか。その美貌故にやや冷たい印象を受けるが、発する声は透き通るように良く響き、丁寧な言葉は、その端にそれだけで静かな知性を感じさせる。

だが彼女も同じく、先程の光景を彼と作り出した張本人であり、見たままが本質である筈が無い。

二人の自己紹介が終わっても、俺もアヤナも何といえば良いのか分からなかった。

スリュム・Dを倒した後、周囲のレギオンが一斉に暴走を始め、二人して背を合わせながらその囲いをどう突破するか結論を出す前に、溢れかえるレギオンのその全てを一瞬で殲滅したのが目の前の二人だ。

その破壊の光景を、例える言葉は思いつかない。何というか、眩しいと感じて目を細めた次の瞬間には全てが終わっていた。


「総代、周囲の制圧は完了致しました。ご協力に心から感謝を、会長が直接お礼をお伝えしたいとの事ですので、宜しければこのままシンドリまでご同道願えますでしょうか」

「では、僕のガルガリンで向かいましょう。お二人も一緒に如何ですか?乗り心地は少し悪いですが、とにかく速さには自信があります。察するに随分とお疲れでしょうし、直ぐに休みたいでしょう」

「「・・・あ、はい」」


辛うじてどうにかそう答えて、後から合流したトウコさんも、アヤナでさえ見たことの無いという、何と表現すれば良いのか分からない顔をしていて。

そういう訳で、突入班は誰一人欠ける事無くホテルへと帰投したのだった。


「ああ、お帰りベオ。色々大変だったみたいだね」


優雅にコーヒーを啜りながら新聞を読み、横目で適当な言葉をかけて迎える相変わらずなベルを、最早殴りつける元気も、文句を言う気力すらない。

時刻は丁度、正午を回った所だ。朝どころか昨日からまともに食事をしていなかったけれど、空腹を感じる間もなく、疲労感と睡魔に襲われて、俺は自室のベッドへと倒れ込んだ。

見ると、置き忘れていた携帯端末に通知ランプが灯っている。

通知件数は数十件。階層を隔てている為、定期便の到着で半日の時間差の後に届いたメールの殆どは、アリスが送り主である。

それだけはどうにか確認出来た。其処までが、本当の限界だった。


「・・・後で、ちゃんと、返信するから」


誰に聞かせるわけでは無いが、そう言い訳だけ残して。そういえば飯どころか丸一日半は眠っていなかったなと思いつつ、波の様に寄せる睡魔に身をまかせながら、今回の騒動もどうにか一段落ついたなと、俺はそう、やっと安心することが出来たのだった。





「・・・概ね、状況は理解しました。大異変の後からこの十年、連盟の査察を撥ねつけ続けた理由。そして今更受け入れた事情。成程、記録に残るそのまま、貴方の手管は確かに老獪だ。この状況で、連盟はバルドルの申し出を拒絶する事が出来ない」

「話が早くて助かるよ。では契約書を、いや、君たち誇り高き騎士様にはそんなモノ無粋だったかな?」

「いいえ、書面に残す事は大事です。謀が有れば、憂いなく口実として攻め入る事が出来ますからね」

「ははは、戦争に体面が必要だなんて世界の守護者を自称するのも大変だねぇ。協会の引きこもりや権威主義で凝り固まった教皇派のお歴々にも見習わせたいくらいさ」

「どうぞお気遣いなく、神樹を利用する者に碌な人間も神も居らず、用心に過ぎる事は無い。叶うならば今すぐにでも連盟の全戦力を以って九界に攻め入り、あの神樹、ユグドラシルを伐採したいくらいですよ」


シンドリ地下シェルター、人工神殿内部。この瞬間、全ての空間から独立している其処で行われた首脳会談は、一応の合意に至った。


「契約の証、連絡員として、一人騎士を送らせてもらいます。場所は、第七階層都市ニヴルヘイム。其処が、彼の住む街なのでしょう?」

「・・・察しが良すぎてムカつくねぇ。君、本当にあの年中血まみれの武装集団の長なのかい?それにしては頭が廻り過ぎるんだけど」

「誉め言葉として受け取っておきます。さて、此処まで良いようにされた意趣返しとして一つ、会長にお尋ねしたい。勿論、答えたく無ければ返答も要りませんし、嘘を言っていただいても構わない」


ただし、その真意はこの眼が見抜く。灰に染まった、灰の騎士たる由縁。その右目がそう告げていた。


「君に嘘なんてつかないさ。意味もないしね。で、その質問というのは?」

「勿論、あの神樹が招くモノの正体です。あの神樹でバルドルは一体何を招くつもりで、いや、何を招いたのですか?」


その問いで一瞬、黄金の王の顔に張り付けていた薄ら笑いの表情が消失する。

虚飾が取り払われたその虚無とも呼べる貌に対峙しても灰の騎士は少しも動じず、王の側に控える黄金の戦乙女は、勝ち目が全く無いと分かっていても騎士に対する殺意を抑えきれず溢れさせた。


「・・・いいんだ、三上君。そうだった、バルクホルン君は一度、別の神樹が招いたモノと対峙した事が有るんだったね。ならば、警戒するのも無理は無い」


制しながらベルはまた、何時ものようにその笑顔を纏う。だがそれも、アルトは既に欺瞞以外の何物でも無いと理解している。故に、その口から放たれる言葉が嘘か真か、見定めるべく目を細め、続く言葉を待った。


「ユグドラシルが招いたモノ。それはね」


そうして一瞬だけ、この目の前の男が。何故か、酷く疲れ果てた老人に見えたから。


「君たちが最大の討滅目標とする、かの乗り手をはじめとする終末伝承。それすら児戯と思える程に完璧な、一つの世界の終り。時が来れば『黄昏』と呼ばれる予定の、外来種さ」


アルトはその返答が疑いようのない真実である事を、そう理解してしまった。





「そうか、シズマはもうバルドル本社に戻るんだな」

「ええ、このままフレスベルクに搭乗させてもらいます。他に加賀見博士とジョーさんも一度、メディカルチェックの為に同行するらしいですよ。失踪していたとはいえ籍はバルドルに残っていて、彼女達は今でも社員の扱いですから」


一夜明けた朝。応援の部隊に後始末を任せ、ベル達は先に本社に戻る事になったらしい。つまり、それに同行する事になる、今回共に戦った彼らとはここでお別れになる。


「・・・本当にお世話になりました。それに、これまでの非礼を詫びさせてください。私を含め、バルドルが今回の難事を無事に切り抜ける事が出来たのは、ベオさんのお陰です」

「そいつはお互い様さ。それに、俺も何時も銃を突きつけ合う仲のアンタらと話が出来て良かったよ。次は流石に鉄火場でない場所で再会できたらいいな」


あのステーション突入の折、シズマが外部に展開する部隊に対して行った陽動と、バルドル本社への応援を要請してくれなければ機動甲冑とミョルニルは間に合わず、最後の戦いはどうなっていたか分からなかった。

特務とは何かと突っかかる事も多かったが彼の人柄を知って、その中にも話が分かるやつもいると知れた事は大きい。これから何かあれば、場合によっては協力する事も出来るかもしれない。


「ああ、すみません。何か通知が」


ステーションの機能がある程度復旧したお陰か、一部のバルドル職員が持つ高速通信が可能になったらしい。その通信にシズマは応答しているようだ。


「はい石動。ああ、相馬くんか。今から本社に帰る所やけど、どないした?うん、うん?」


そういえば彼は関西の出身らしい。身の回りにそういった知り合いが居なかったので、実際に誰かが関西弁を話す所を見るのは初めてだ。


「は?んな、アホな。ボクの遺書が本部に転送されてるて、タグのデータ送信は着用者のバイタル停止に連動しとるっちゅう話やないか。ボクはピンピンしとるで」


その話し方だけで随分と印象が変わる。会話の相手が気心知れた相手だからかも知れないが。


「はぁ?一瞬オフラインになった影響で、誤作動やて。おい、直ぐ差し止めしてくれ!特に室長、いやフェイと山城らには絶対に気取られたらあかんぞ!」


彼には悪いがその慌てる様子に堪えられず笑ってしまった。今度はその、シズマの同僚ともゆっくり話してみたいと思う。


「すんません、ベオさん。ボクはこれで、おい相馬!あのアホどもの勝手にさせたらいかん!え?室長が電話代わってくれて、ああ、腹痛なってきたわ・・・」


走り去る背に手を振ってその場を離れると、丁度ナノハとジョーも連れだって、此方へ向かって来ている所だ。


「シズマに聞いたぜ。二人もバルドルに戻るんだってな」

「そうだ。何にしても一度、佐山のおっさんと話をしとかないといけないからな。その後どうするかは分からないが、今回の騒動も含めてバルドルにはデカい借りが出来た。出来る事で返していかないと」

「ナノハはこんな風に気負う癖がありますから、俺が見ていないといけませんしね」


彼らが望まずとはいえ、関わってしまった事で今回の事件が起きてしまった事は事実だ。

けれどその表情は明るい。ナノハもジョーもようやく暗い穴倉から解放されて、日の当たる場所へと戻ってこられたのだ。

そして自分たちの意思で、自らの行いに向き合うというのなら、応援しないとな。


「ああ、そういえば俺、本職は探偵なんだ。何かあったら遠慮せず連絡してくれよな。特別価格で請け負うぜ」

「アンタが探偵?ハ、いいね。ならボクが幾らでも役に立つ小道具を作ってやるさ」

「ベオには本当に大きな借りが出来た、という言い方は友として無粋ですね。だから助けが必要な時は先ず連絡を、必ず力になりますよ」


ジョーはまた、左手を差し出して。俺も自然に応える。


「元気でな。ナノハ、ジョー。騒がしいバカンスになったが、二人と出会えた事、そしてどちらも失わなかった事は最高のエンディングだ!」


幾度もそうなってしまう可能性は有ったが、それも過去の話。今はただ、二人の未来が明るい事を、友人として祈っている。





「おや、ベオ。見送りに来てくれたのかい?」

「そうじゃねぇ。コレだ、ミョルニルだよ。どうやって外せばいいんだ?」


帰ってしまう前に話を付けなければと探していると、昨日の様に呑気にコーヒーを啜りながら寝ぼけた事を言うベルに問う。

確かにこいつのお陰で助かったのは確かだが、こんな良く分からないばちばちと光る危険物を押し付けられたままなのは落ち着かないし、なによりアリスの送ってくれたタスラムを魔改造したままにしておいたら彼女に悪い。


「んん?言ってなかったっけ。一度定着したドヴェルグは二度と変質しない。取り外しは不可能だよ」

「おい!?こいつはアリスが作ってくれたんだぞ!」


俺の心配もどこ吹く風というか、大して気にもしない様子でベルは眠そうに適当な返事をしていやがる。


「まあ良いじゃないか。随分と便利になった筈だぜ?本当なら代金を貰いたいくらいだね」

「此方だって今回の騒動で被った労力に対する代価を要求したいくらいだ!一応休暇中だぞ俺は!」


へらへらと笑うベル。相変わらず、こいつだけは分からない。

まあ、それは置いておいて、本題の方を尋ねる事にする。


「・・・で、二人はどうなるんだ。確かにやらかした事は大きいかもしれない。だがな、状況を鑑みて本人達が償う機会を作ってやるのが責任者ってもんじゃないか?」


自分で言っておいて、随分と都合がいいと話だとは思う。

けれど大事な事だ。場合によっては、そして必要になるなら、俺は今度はバルドル相手にもう一戦やらかすつもりなのだから。


「ふふ、また他人の事ばかりだね君は。勿論、手厚く対応するよ。希望するなら外界へ出してやってもいいが、彼らにとってはバルドルの庇護下の方が安全だろうし、それを望むだろう。安心してくれ。同じ事は、二度と起こらないようにする」

「そうかよ。ニヴルヘイムに密航させる手間が省けて助かるぜ」


強がりを言ってみるが、内心では安心している事を誤魔化せただろうか。

ふと、俺を見るベルの顔が穏やかになる。


「なんだよ、気持ち悪いな」

「んん?いや、君も随分成長したなと、そう思ってね」


またこれだ。本気なのか、からかっているのか。匂いが分からないってのは難しい。


「丁度一年と少し前、君はどう見たって薄汚いチンピラだったってのに。いまではもう少し、上等なチンピラってところだね」

「それ、全然褒めてないだろ」

「ふふ、なあベオ。一つ聞いてもいいかい?」

「あ?」


その問いに、どんな意味があったのだろうか。


「この旅は、楽しかったかい?」


いや、こんな事があって、死ぬかもしれない目にあったというのに、何を、こいつは。


「・・・少なくとも、忘れる事は無いだろうよ」

「うん、そうか。なら、よかったよ」


俺は唯一、ベルの匂いだけは分からない。だから、こういう風に分かりにくい反応をされると困る。

これ以上煙に巻かれる様な会話を続けて疲れるのは御免だと、適当に別れを告げる事にした。


「じゃあな、悪徳商人。精々手前の悪行で、恨まれて後ろから刺されないよう気をつけな」

「君もね、ベオ。残り一日、今度こそゆっくりと休暇を楽しむと良い」


まあ、分からないなりに。こんな性格破綻者で悪徳コーポの支配者であったとしても、その一言だけは多分、本心からの言葉だと思ってもいいんじゃないだろうか。





「ああ、ベオさん探しましたよ」


ベルと別れた後、トウコさんが俺を探していたのか、そう声を掛ける。


「今回は本当にお疲れさまでした。ニザヴェリルの職員全てに代わって感謝を」

「よしてくれよ。俺だって勝手ばかりで迷惑掛けたしさ。その、本当に何か手伝わなくて良いのかな?」

「これ以上甘える訳にも行きません。応援の人員も居ますし、ステーション機能が完全復旧する明日までは、どうかゆっくりと過ごしてください」


施設の多くが破壊され、少なくない人数の人が傷ついたニザヴェリルが完全に復興を果たすまでは時間が掛かるだろう。

それでもトウコさんが居れば、そう遠くない未来にそれは叶う筈だ。そうなった時、また此処を訪れたいと思う。


「そして何より、アヤナの姉として、あの子を救ってくれてありがとうございました。もうきっと、あの子は独りで全てを抱えようとはしないでしょう。それが、私には何よりも嬉しく思います」


初めにアヤナに聞かされたそのままの様子で、トウコさんは本当に嬉しそうに笑っている。俺も同じ想いなのは変わらないから、それを素直に言葉にすることにする。


「そいつは、俺も同じだよ。それはずっと、変わりはしないさ」


忙しい彼女を何時までも呼び止めておくわけにはいかない。俺は彼女に出会えたら尋ねようと思っていた事を今度こそ問い、トウコさんは嬉しそうに応えてくれた。


「アヤナは湖畔で貴方を待っています。どうか、迎えに行ってあげてください」





丁度、二日前と同じ時間に、俺は湖の畔を歩いている。

この辺りまでは防衛線の主戦場から外れていた為か戦いの被害が至っておらず、望む景色も美しいままだ。

目的の相手は直ぐに見つかる。白いワンピース姿の彼女は一人、ゆっくりとした足取りで、静かに遠くを眺めている様だ。


「アヤナ」


絵画の女神とも思えたその光景に一瞬見惚れるが、迷わず声を掛ける。彼女は直ぐに振り返り、想像よりずっといい、その笑顔を見せてくれた。

そうして暫く二人で並んで歩きながら、この二日間にあった事を色々と話す。


「本当に色々あり過ぎて、参ってしまいますね」

「そうだな。まあ、それでもさ」


失ったモノもある。俺もまた、一つ終わりに近づいた。

それでも、新しい友達と、なにより彼女を失わずに済んだ。なら、それで良いじゃないか。


「・・・俺はきっと、この旅を忘れないよ。ベルの野郎に問われたからじゃなくても、そして誰に聞かれたってこう答えるさ。色々あったけど、得ることの多い、楽しい旅だったってさ」


アヤナは、ベオさんらしいと呟いて、こう付け加える。


「だけど、まだ終わっていませんよ。後一日、きっと、もっと楽しい思い出にしましょう」


そう手を差し出してくれるから、弱い俺は、強い君の手をとって歩き出す。


「行こうぜ。二人一緒なら、どんな事だって楽しいさ!」


さあ、これから何をしようか。何時か思い出した時に、思わず微笑んでしまうくらいに。

どんな事でもいいけれど、今は取り敢えず並んで歩いていたいから。

二人歩幅を合わせて。少しでも長く、穏やかな速さで。


これにて二章終了となります。連休に合わせての投稿になりましたので、駆け足となってしまった事は申し訳ありません。

三章は間を置かせていただき、四月、遅くとも中旬の投稿を予定しております。私はSNS等や告知を全く利用しておりませんので、よろしければブックマーク等の通知を利用していただければ幸いです。

最後に、此処までのお付き合いに改めて感謝を。自分が作ったお話を読んでいただける、それだけでこんなに嬉しいと思える事はありません。

続けて、三章となります「騎士はその問いの果てに自らの進むべき道を見つける事ができるか」にお付き合いいただければと思います。


補足としまして、ストーリー内に登場しない人物名や出来事が出てくる場面があったかと思いますが、これは各章が物語の重要部分を抜き出している為に、いわゆる日常回に在った出来事は省略しているという点にあります。

これに関しては現在お話として投稿する予定がありませんので、もし気になる点や、ご指摘でも構いません。何らかの形を取って返答したいと思っておりますので、どうぞお気軽にお尋ねください。

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