戦乙女はその傍らに青い鳥の実在を信じる事ができるか⑮
開けた到着ゲート前の空間、目の前に広がる光景に海を幻視する。
それも陸から、大気と共に世界を二分する膨大な量の水たまりという俯瞰なんて詩的な表現などでは無く、現実に、一瞬にして深く海中に引きずり込まれたのではないかというビジョン。
勿論その光景は錯覚からの一時的な、実際の映像との整合性が取れるまでの短い間の事で、脳の誤解はすぐさまに解決される。
しかし、それでもなお。その光景は海中と見紛う幻想だったのだ。
後方にユグドラシル、それは九界であればどのような遠方からでも視認出来る巨木。巨大すぎるその幹は、此処まで接近すると果ての無い壁に近い。
そして天井から降り注ぐのは。日中の、それも晴天の今は自然光を取り入れる為に隔壁が解放されいる為か、透過性の高い特殊な強化ガラスから差し込む光の揺らぎが、陽光がこの海底に差すまでの間で青く深い彩へと変じ、初めて眼にしたときは馬鹿みたいに、ただ綺麗だなとはしゃいでいた事を今さらながら思い出す。
だから此処は海。それも深く、空を見上げても海面から差す頼りない光しか望めない。
ならば、其処に在るのは何か?
海中であれば、ありふれていて。地上であれば有り得ない。だからこそ、この空間を海と、海中と錯覚するそもそもの原因。それが、その群れであった。
「ふざけ、すぎだろうが・・・!」
これもまた、何時か所長との話の中で何となく聞いた話だったのだろう。
海洋を生活の場とする小さな魚は、単独で身を守る力が無い。より大きく、速い魚に対峙した時、運よく逃げ延びれないその殆どは腹の腑に収まり、生態系の一部としてその身を養う事になる。
が、その種を存続する生存戦略として、とある方法を取る魚が居るのだという。
その種はとにかく多産であり、一度の産卵で数億の卵を産み、外敵から攻撃を受け、総数が多く減る事を前提とする。それは個体が脆弱であるという事実を、単純に数で補う事で拮抗するという、死を内包する生存。
そしてその多くは予定通りに数を減らし、確率の分母内に収まった個体は成長し、それでもなお脆弱な自らを守る為に群れを作るのだ。
波打つ海面から差す光の揺らぎと、それを銀色の腹で受け、その小さく、弱いだけの体はまるで巨大な存在が鱗の一片であるかのように。
まるで太古のその同じ場所を、悠々と泳ぐ頂点捕食者。つまり、意図せず行われた記録の再現。遥かな過去に、滅んだはずの海竜の姿が其処には在った。
数多の過程と、選択の結果に得たその姿。それを俺は、単純に美しいと思った。
勿論、他の巨大な魚にとってはむしろ都合がよい。適当にその横腹を突けば、実際は小さな雑魚の群れである。海竜の姿はあくまでも見せかけで、他の小さな弱い存在と同じく、より大きい存在の腹の腑に収まる。
それでも、その姿を美しいと感じた。一瞬の幻想でも、ただそう見えるというだけの錯覚でも。
海竜は、確かに其処に在ったのだと。
そしてまた、此処が海であるのなら。空の無い、深い只中であるというのなら。其処に海竜は存在する。
その鱗は最も数の多いタイプSで造られている。よく見ると、個体の多くは体肢や外殻が欠けていた。これもまた選択の結果。この幻想を実現するためにより更に生産性を効率化し、要らぬと判断した要素を弾いた末の姿。成果として、あの死肉で作られた巨人よりも遥かに巨体を維持している。
成程、ナノハは言っていた。Harbingerの根本は増える事。それから、その目的を果たす為のひたすらな効率化。数を頼りとしていた群れは、彼らは竜という目的の為に、それ以外の全てを放棄したのだ。
他にもタイプT。肥大化した、本来は砲弾として撃ちだす棘は、今ではその牙と爪を兼任する。
あれほど縦横無尽に走り回る事は、もう出来はしまい。これもまた選択の果てに、群れという総体を個として再定義し、その上で生かすための結果だ。
それでも、彼らなりにかなり無理をした様だ。体部を構成するタイプSの合間には、翼持たぬタイプF、それから見たことの無いレギオンもある。これもまた、竜を容造る為の選択、また選択。
その果てに、この幻視の海に、海竜は顕現した。
彼ら、いや彼を名で呼ぶとすれば、前例に倣いタイプD。いや、その区分も不確かなモノで、その証明として。
頭部に相当する部分、中央に単眼の如く、そして何時かの巨人の内側に在った、脈打つ紅い心臓と同じ色彩の瞳。
唯一にして、他に類無きモノ。だからこそこの群れは群れでなく、単独の一つ。
スリュム・D。これこそがその巨人に相応しい名なのだと、迫る爪に腹を貫かれながら意味もなく理解した。
嫌な音を立てながら薄い煙を吹いて既に塞がりつつある腹を撫でながら、何処か他人事の様に、馬鹿みたいに冷静に回転する脳内で、この海竜をどうすれば殺す事が出来るだろうと考える。
視界の端。アヤナは今、不利を分かってもなお、俺の回復の時間を稼ぐべく全力でスリュムに攻撃を加え引き付けてくれているようだ。
そしてあれだけ大口を叩いておきながら、足手まといな自分と言えば貫いたままの軽い爪の一振りで紙屑みたいに簡単に、随分と遠く投げ飛ばされ、フェンリルという反則的な切り札を使ってもなお、ようやく動けるかどうかという所なのは情けない。
傷が癒えると共に明確に、ちりちりと首の上で狭まる熱を感じている。その範囲は初め、ぐるりと首を回る一本のグレイプニルが時間の経過とともに少しずつ消滅し、フェンリル開放を維持出来る残り時間と言えば良いのだろうか。その残量を表しているのだ。
これが完全に消失する前に、フェンリルを解除せねばならないと忠告したのは所長だった。それ以降もなお、こいつの開放を許したままにしていれば、戻れなくなると。
今更、その言葉に疑いはない。けれど、本当にそれでいいのか?
今、自分が戦えなくなってしまえばどうなる?
アヤナは強い。けれど今は状況が違う。如何に戦乙女といえ、その鎧も槍も無くては先程の自分と同じく、何時かはその身を捉えられ、容易く引き裂かれ物言わぬ肉塊と成るだろう。
その光景は、それだけは受け入れられない。自分から言い出したのだ。そう決めたのだから、弱いとか強いとかは関係無い。そんな事は許される筈がない。
であれば、自分に持てる全てを用いるべきだろう。例えそれが聖だろうが邪であろうが何であれ、この状況を覆す事の出来る力であれば何の問題が有るというのか?
そうしよう。この咢で、あの海竜を喰らってやればいい。
初めはあの黄金の王と魔女によって阻まれた。次の機会はメイガスとの戦いで無駄に浪費し、その結果その場で用いる事すらしなかった。
しかし今は、今回ならどうだ。どうやらあの黄金の王は静観を決めている。魔女は遠く、この地にその選択を阻む者など誰も居ない。
そうだ。そうするべきなのだ。たった一つ。これまでは別にして、二つ目の巨人を前にして、やっと一つ。それだけの事では無いか。
その果てに何が待っているか、どんな結末を迎えるかなど今は関係無い。守るべきモノも、そう願っていた誰かも今はどうでもいい。
飢えを満たせ、渇きを癒せ。その果てに、九つの世界と、太陽と月を飲み込む事になったとしても。
守ると誓った全てを腹の腑に収めてこそ、星無き宙、無人の荒野に立つ最後の独りとなる事で。今度こそ完全なる、星の終焉が来る。
幸いなる結実の時。言祝ぐべきかな、永き時の果てにようやく、収穫の時がやって来るのだ。
「ベオさん、ベオさん!」
ああ、クソ。やっぱり俺は弱いくせに馬鹿で、偉そうにナノハの事を言える立場では無い。
「馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿!かっこつけて、人にあんな事を言っておいて、情けないにも程が有る!」
自分で勝手に決めつけて、その果てに一人でなんとかしようだなんて決めつけていた思い上がり。
「貴方は確かに言いましたよね!?私をその気にさせておいて、言った傍から反故にしようだなんて、なんて無責任なんですか!」
うん、そうだね。おれは確かに、きみと約束をした。
「なら、一人でなんとかしようと思わないでください!だって、だって貴方は!」
そうだ、俺は。今でさえ、一人で無いというのに。
「私の事を、護ってくれるんでしょう!?」
だって此処には俺よりもずっと強い、それでもその傍にいて、護ると誓った彼女が居るんだから。
だからほんの少し前まで自分の意思だと勘違いしていた、誰かの囁きを遠く振り切って、勢いよく何時の間にか広がりつつあった頭部の毛皮を引き千切った。
理由なんてどうでもいい。この後どうするかなんて、一緒に考えればいいんだ。
俺は、一人ではないのだから。
「俺が、自分で言ったんだ。見苦しくても、情けなくったってそう在りたいって、心から願ったんだ!」
独りでは意味がない。これまでも、そしてこれからも。
だって俺は、もう決めたんだ!
「俺は独りきりの強さの為に、誰かと共にある事ができる弱さを、手放したりはしない!」
『うん。なら、もう少し頑張らないといけないね』
不意に懐の、ずっと無音で自分でもその存在を忘れていた通信機から聞こえた声は、何時もの皮肉まみれの意地の悪い響きでは無く。
アヤナを助けに向かう際の、試す様なそれに少し近いが、やはり違う。
それはやっと、自分で立ち上がった■■を見つめ、歩き出した小さなその背に掛ける■の言葉と同じ。
瞬間、その響きを疑問に思う間もなく、この深い海底に天から。落雷に似た轟音と共に、空間を裂いて眼前に立つのは銀の柱。
驚く間も無く、傷一つ無い、輝く柱の鏡面には真っ直ぐな亀裂が走る。それから砕けるように弾け、その内側から現れたのモノは。
アヤナにとっては、半身たる蒼の鎧と槍であった。それから、俺にとっては小さな、どう良く言っても一対の、ちんけなメリケンサックだったのだ。
「ふざけんじゃねぇ!こんなもんでどうしろってんだ、田舎のヤンキーじゃねんだぞ!?」
『ははは、文句言わずにさっさとタスラムを着けて、それからそのメリケンサックを手に嵌めると良い。きっとただでさえチンピラの風体が、よりキまって見えるぜ』
「ベオさん、会長に取り合わないで!三分でいい、起動の時間を稼いでください!」
そうだ、馬鹿にペースを合わせてふざけている場合ではない。これはきっと、シズマが要請していた救援の結果なのだろう。
兎にも角にも自分の役目は、最大戦力のアヤナがその機動甲冑を纏うまでの時間を稼ぐ。それだけだ。
「えらそうに言っといて、情けない話だな、クソが!」
頭部の復元は終了していて、新たな紐の消費は無い。
つまりこれからは、只のベオとしての戦いだ。あの爪に腕を引っかけられたら上半身ごと千切れ飛び、牙で捉えられれば腹の孔は塞がることなく流血、いや内臓がまろび出て、そのまま果てる。
「いいね、上等だ!」
それでもずっと気分が良い。俺は俺のまま戦えるし、最悪でも俺のまま死ねる。そんな事が堪らなく嬉しくて仕方がない。勿論、死ぬ気はさらさら無いけれど。
ベルの言うままに振舞うのは癪に障るが、残弾が空で、今では強化と、そもそもの静止の魔術が込められた、眼前の海竜を相手にするには少し余ってしまうタスラムを身に着ける。
それからメリケンサック。シンプルな鋼色の、サイズとしては大きいが、タスラム越しではぴったりと嵌る事から、まるで初めからこの形が正しいモノとでも言うように。
『よし、では起動』
まるでその瞬間を見ていた様に。指にはめ込む瞬間に呟くベルの声と共に突如として輝き、そして溶け出すメリケンサック。
「おいおいおい、何なんだこれは!」
『ふむ、想定の魔素許容量は10%、単純な強度に至っては30%高い。古い伝承体の欠片を用い、オーガスタの技術と知識を用いるとしてもだ。あの幼さのマイスターが造った代物が、バルドルの予想を大きく上回るこの出来とは。彼女、お母さんとは違ってこっちの分野に向いているのかな?ともかく、愛されてるねぇベオ』
グローブに沿って、這うように流れていく流体。まるで欠けていた部分を補うように、輝きはより増して、爆ぜる音を伴う。それはまるで、槌を振るう鍛冶の音。
「痛っ、てか熱い!」
『よしよし、ドヴェルグシステム全行程完了。ナノマシンの変質と固定化も終了、ぶっつけ本番にしては完璧じゃないか佐山君。後で開発局にはボーナスを出さないとね』
「ナノマシンだぁ!?」
急にSFじみて来やがった。とすればこれも、目の前の海竜の再現に近い。群れは一つの目的の為に一となり、規模は小さいが、この手にその結果が宿る。
『ふむ。せっかくバージョンアップしたのにそのまま魔拳タスラム、なのは少し洒落っ気がないな。では、ベオ』
まともに返事をしている暇はない。ベルの声を聞きながら、輝きと熱が。
空を照らす神意、雷光に変った瞬間に。
最大の脅威と判断し、真っ先にアヤナを狙う海竜の咢目掛けて。天より地に向けて、では無く俺の拳から手前の顎に向かって。
『銘を魔槌ミョルニル。とある言葉で粉砕するもの、という意味だ。カッコいいだろう?』
ジョーの決め技のそれと比べると少し不格好にはなるが、一度見ただけで見様見真似の左ストレート。
拳は銘に違わず、スリュム・Dの巨大な顎を砕き、灼きながら稲妻は弾けた。
海中を舞う雷光。敵はその巨体故、構成する極一部と、表面を焦がすのみのが一撃の結果といえば正しい。それでも彼は、ベオさん拮抗している。海竜を前に、一歩として退かず。その末に、ようやくにその時が来た。
「ヴァルキュリアNo7起動。エンジン・ブルーバード、予備駆動から通常起動行程を省略、超過駆動へ」
この鎧纏う自らの姿を始め、どうにも思ってはいなかった。そう在る機能、ただその延長。違いと言えば、背が少し高くなる。飛べば景色が広がる。せいぜいそのくらい。
それが何時からか、疎ましく思う事も有った。この姿に向けられる視線の理由と意味を知り、それが何かのきっかけで、たった一人、彼からも同じ視線が向けられるのでは無いかだなんて、勝手に恐れていて。
「ほんとうに、ばかみたい」
ああ、そうなのだ。人の事は言えない。自分で勝手に決めつけて、突き放した結果に失うかもしれなかった。
「けれど、そうはならなかった」
ならば、もう迷う事は無い。この身に纏うのは、あの人の為に羽ばたく翼であると。今、鷹野アヤナは理解した。
「・・・ブリュンヒルデ、超過駆動。上級執行官権限により最終安全弁破却、超々過駆動!!」
翼の名は、蒼のブリュンヒルデ。他と同じく求められた役割が存在し、その戦乙女に求められたコンセプトは圧倒的な火力で対象を粉砕し、撃滅する事に在る。
しかしその反面、過剰な機体への負荷と駆動に要するエネルギーの観点から、通常の共通する兵装以外に備えられた彼女専用の特別な兵装は一つのみ。
それも、その埒外な破壊力から間違っても人口過密地帯で用いられないよう、基本的にはその担当階層であるニヴルヘイムでは使用を禁止されている兵装である。
その槍は、通常用いる電磁誘導砲の二倍の、持ち主に同じく深く蒼い砲身を持つ。その上で、その銃口より放たれる弾丸が直撃すれば、世界貫く巨木たるユグドラシルすら折れると、そう予想される威力を誇っていた。
アヤナ自身も試射での一度しか使用の経験が無く、今回で二度目。
今回は目標は小さく、巻き添えを防ぐために効果範囲を極限までに限定、それ故に威力は二乗し、ともすれば一度の射撃で砲身は融解し、二射目は初めから想定していない。
背部に展開する機動に用いる両翼は今は飛行ではなく、本来の役目である、周囲の魔素の収拾、圧縮、そして加速を実行している。
自身よりも大きく、高く広がる光翼は、最早独り空を往くためのモノでは無い。疑いも無くそう感じられる事が、こんな時だというのに何よりも嬉しく感じてしまう。
そうして砲身に、破壊の弾丸は装填された。あとは二人の敵を討つために、狙いをつけて放つのみ。
「ベオさん!」
「了解だ!」
ベオの上方からの打ち下ろしで床に縫い付けられる海竜。
その姿には、最早大海を流麗に泳ぐ群れでも無く、圧倒的な数で勝る利も無い。
強いだけの一つきり、数を見ても二体一。
ああ、笑ってしまうが。
数で圧倒され続けたこの敵に、今初めて数で優位にたっているのだなと、そう思った。
ならば。
「ならば私たちに、お前が勝てる筈はない!」
もう一つの半身たる、翼と同じ蒼の神槍。魔素圧縮加速投射砲、銘をグングニル。
空間を歪曲し放たれる蒼き破壊の渦は、通過する空間の音と光を飲み込んで、堅牢であった海竜の躰を容易く貫き砕き、不可逆な崩壊をもたらして、後方のステーション施設もついでに破壊しながら直進してゆく。
「そうでしょう、ベオ!」
しかし蒼の戦乙女は自らの戦果も、破壊によってもたらされる被害も、後の始末も今だけはどうでも良くて、残る首に向かう男の姿を眼に写し、決してその背を見失わない様にと微笑んだ。
「そうさ、アヤナ!」
ユグドラシルへの誤射を避ける為に、射角から僅かに外れた頭部を狙い、飛ぶ。
あれだけの火力を放って、彼女に何か問題は無いのかと少し心配をするがそれも杞憂。問う声に応えながら俺は走る。
落下する首。その中央に位置する、紅く脈打つ岩。話に聞く姿と違うが間違いなくそれこそが、このスリュム・Dの、かつて総体であったスリュム・レギオンの核である。
何故なら、ナノハやジョーの言った囁きとも呼べる意思が、肉薄したが故かこの核から直接この鼻に響く。
遠く、遠くへ。もっと遠く、何処までも、何処までも。
その意志は、きっとナノハが願いを込めたモノに近い。だというのに、あまりにもかけ離れて歪なモノだ。それ故にその更に奥に、別の明確な意図を感じている。何故ならば。
「お前の意思は、その願いは過程だけだ。その先で何を為すか、何を求めるか。そいつが決定的に欠けている」
それの何が悪いというのだ。そう望まれた、願われた。ならば答えるのが筋というモノ。
「いいや違うね。全く、勝手な曲解にも程がある!手前は過程の為に結果を磨り潰す。そんな意味の無い繰り返しの果てに、群れという利点と理想を放棄して、図体ばかりの一つになった行き止まりだ!」
適応力も可能性も捨てた究極の一。完成とは名ばかりの、後に続くモノが無い一。
そんなものには、未来もなにも有りはしないから。
「そんな事も分からないテメェに、俺達が負ける訳がねぇんだよ!」
振るった左。先程よりももうすこし、ましなフォームはどうにか及第点くらいならもらえそうだ。
今度こそ、魔槌がスリュムの核へと届く。雷光が、砕けた紅い、血潮の様な破片を欠片も逃さぬと灼いていく。そして、同時にあの煩い匂いも完全に消滅した。
「・・・やってやった、ぜ」
これは誰に対する呟きだったのか。それを考えるのは、まあ、後にしようか。
今はただ、受け身も取れずに床に墜落し、全身を打ち付けた自分を心配して、溶けた砲身の槍を投げ捨てながら此方へ駆け寄る彼女の姿を見ていたかった。




