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犬頭の探偵は黄昏に沈む世界で明日を夢見る事ができるか  作者: せんこう
犬頭の王様は黄昏を越えた未来で何時でも明日を夢見ていられるか
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犬頭の王様は黄昏を越えた未来で何時でも明日を夢見ていられるか⑩

「ムスペルヘイムの完全放棄準備、並びに人員の段階的撤退の状況はどうなっている?」

「はい。負傷者を優先、更に同時進行のニヴルヘイム民間人避難を含めて、凡そ四割の進行状況となります」

シンドリの作戦指令室にて、トウコが副官から報告を受けて時計を確認すると、時刻は十六時に差し掛かる所であった。

ムスペルヘイムは想定以上に健闘してくれている。それは主目標である炎の巨人、スルトの動きが思ったより鈍い事にも起因しているが、その殆どは現場で防衛に当たる職員の奮起、そして何より担当する戦乙女、浅間フミノと、あの名実共に不穏分子の筈であった都市総督のフィリオが陣頭に在って健闘してくれているという点に尽きる。


現状、フル稼働で運行しているユグドラシル特別便でのムスペルヘイム発、ニヴルヘイムを経由し、ニザヴェリルを目的地とする運行も、ムスペルヘイムの防衛と並んで今が最大の佳境だ。収容施設への負傷者、民間人の輸送も、巨人の軍勢がユグドラシルに到達していない今しか使用できない。計画の一部ではあるが、そうなってしまえば階層間の人員移動は二機のフレスベルク級でしか行えなくなってしまうため、車両の損耗は度外視で、上の階層も下の階層もひっきりなしで運航しているのだから、各階層の駅統括などは現在過労死寸前で有るだろう。


「そもそもあのボンクラでなければ、敵勢力によるユグドラシルの占領を前提とした作戦などそもそも立てないのだろうがな」


ラグナロク計画、そのプランBとは、ベル・バルドルが生前にその協力者と共に発案した、ニヴルヘイムを決戦の場としつつ、ユグドラシルを経由して、九界全体を戦場として想定したとんでもないモノであった。


その始まりはユグドラシルの開通していない第九階層ヘルヘイムより、接続する第八階層ムスペルヘイムへ攻め寄せる黄昏の侵攻に対し、可能な限りの遅滞戦闘を実施。敵戦力を損耗させ、何よりもその軍勢を率いる黄昏の顕現、最後の巨人の情報を収集する事を第一とする。


その後、段階的に人員の撤退を行いニザヴェリルにて戦力を再編成、敵がユグドラシルに到達するまでに各階層での都市防衛準備を行い、なにより決戦の地となるニヴルヘイムのサードと呼称される無人地帯と、都市部の緩衝地帯であるセカンド外縁に防衛線を設置。その一帯に前線拠点と防塁を突貫で築き、此処で敵主力を迎え撃つ。


さて、第八階層都市が突破され、敵がユグドラシルに達した際に。黄昏は接収したユグドラシルを橋頭保として、各階層、更にはセントラルゲートに軍勢を派遣して突破を試み、その上で外界への侵攻ルートとする事が予想される。

そうなると一見、状況は複数拠点を同時に攻められるという此方の不利に見えるが、これによる戦力分散こそが、本計画における最重要点である。


何故なら黄昏そのものとも言える、最大目標であるスルトは、その巨体と特性からユグドラシル内を移動出来ない。故に、他の巨人たちとは異なり、スルトのみは一つ一つ階層の接続部分を突破して外界へと目指す事が想定されるが、その先兵として、他巨人と眷属は移動可能なユグドラシルを経由して先んじての侵攻を試みるだろう。

その為に生じる戦力の分散、それが、この戦いにおけるこちら側の最大目標、スルトへの直接攻撃、撃破へと繋がる唯一の道筋となるのだ。


勿論、各階層への同時進行、これに対応する為にバルドルも戦力を分散させねばならないが、恐らくそれを初めから想定していたのであろう、第八階層で異常なほどに生産、備蓄されていた兵器群。そして階層に割り当てられた治安維持と言うには過剰戦力である階層守備隊に、何よりも特筆すべきは九界の最強戦力である、各階層に存在する戦乙女たち。

更には、二機のフレスベルク級の本格稼働により現実となった特務、エインヘリヤルを遊撃隊として活用する事で、この本来であればどう考えても無理筋な敵の大軍を前にして、計算ではどうにか防衛は可能である、との試算であった。

懸念であった外界の備えも新会長の奮闘により、騎士修道会連盟と鹿島機関を含む主要組織との協力体制確立に至り、之にて全ての準備は万全となったのである。


「・・・全て、前会長の想定通りという事か」


そう思うと、どうにもあのニヤケ面が思い出される。

何時も父の研究所を訪れると其処に居て、厭味ったらしく皮肉を言って来て。

だけど時折見せる真面目な顔を見ると、何時もそんな風にちゃんとしていろと。そんな風に振り返ると、そんなに悪くない思い出になってしまった相手が。今はこの世界の何処にも居ないという事を、少しだけ寂しく想う。


さて、他階層の備えはともかく。問題は、今回の計画で最も激戦区となるであろうニヴルヘイムの配置である。何しろ今の理屈で言えばニヴルヘイムは他と異なり、階層の接続部分を突破してきた敵主力に加えて、ユグドラシルからも現れる敵を同時に相手にしなければならない。つまり、初めから挟み撃ちにて攻められる形で戦いが始まるのだ。


「元々のニヴルヘイム警備局戦力に、保安部の一個大隊。臨時の現地登用も幾らか想定できるが」


黄昏の再演という縛りから干渉を防ぐため、今から連盟や鹿島機関の援軍を九界に招くわけにはいかない。

ラグナロクの開始時点で現存している九界のバルドルのみで戦力を捻出し、また非戦闘員の多く居住する他階層の備えも万全とする為、ニヴルヘイムの配置として考え得る限りでどうにかひねり出したバルドルの正規戦力と、未知数であるが既に幾らかの参加表明があった現地登用の戦力。しかしそれらで行えることは、精々防衛まで。

最大目標である最後の巨人、スルトを討滅する為には有効打も決定打もまるで足りていない。


「やはり最後に敵の首魁を討つ役目は、彼らに頼る事になってしまうな」


本人が自らその任を負ってくれているとはいえ、この九界の、そして世界の命運を数人に託すことになってしまうとは。自分が本調子であればと、そうであれば自ら先陣をかって出ると、今そう言えない事がただ口惜しく思う。


「撤退作業と並行しつつ、最大目標である最後の巨人、スルトの情報収集を急げ!小さな事でも良い。僅かでもスルトの綻びを見つけ、戦場においてこれに当たる勇者たちの助けとなる事こそが我らが今、唯一出来る事だ」


なればこそ、今この役目を全うせねば。これより最も過酷な戦場へ赴く彼らに申し訳が立たない。

そう考えて次の作業へと取り掛かろうとしていると、遠慮がちであるが、決意した様子で副官が声をかけてくる。


「あの、総督。宜しければ今のうちに少しご休憩なさっては?かれこれ半日は働き通しで、食事もちゃんと取られていませんし」

「・・・ああ、そうか」


そんなことしている場合かと怒鳴りかけて、よく考えると彼女の指摘は確かに正しい。副官の提言のタイミングは絶妙で、今を逃せば戦況分析は佳境のまま本格的な開戦へと直行するだろう。

自覚すれば多少腹の減り具合を感じて、同時に一つ、後回しにしていた事が頭をよぎる。


「そうだな、十分ほど、時間を貰おう。その間の指揮を頼めるか?」

「勿論です。何かあればお声かけしますので、十分と言わず、三十分程はお休みになって下さい」


その声に背を押され、指揮官用の仮眠スペースに入り、ベッドに腰掛けると個人用の端末を起動する。

幾つかの通知を確認した後、トウコが真っ先に連絡した相手は、ワンコールも彼女を待たせる事なく、その通話口の向こうに出た。


「私です。ええ、すみません、心配をかけてしまって。あの子は?」


先程までの厳しく鋭いソレとは打って変わって、トウコのその柔らかい声色を耳に出来る人間は少なく、九界では数人ほど。

一人は間違いなく、彼女の義妹であるアヤナであった。そして今、端末の向こうに居る相手は、アヤナでは無い。


「良い子にしていますか。はい、安心しました。こちらは大丈夫ですから、貴方は自分の安全と、あの子を、タクトの事をどうか、よろしくお願いします」


恐らくはアヤナでもきっと、今のトウコの顔に浮かぶ感情を知らないだろう。それは彼女が、その夫と子にだけに見せる、母としての顔であるのだから。


「・・・愛していますよ、あなた。私が必ず、あなたも、タクトの事も、護ってみせますからね」


そう短く通信を終えて、トウコはしばし、その端末に笑顔で映る夫と子、二人の家族の姿を目に焼き付ける。

そして結局、トウコは味気ない戦闘食をコーヒーで流し込んで、七分ほどで指揮所に戻る事になった。





ニヴルヘイム・ターミナル。階層の中心部であり、通常であれば多くの人が行きかう夕暮れ時に、代わりに忙しく走り回っている人影は皆、殆どがバルドル警備局、そして保安部の装甲服を纏っている。

既に民間人の避難は終了し、特別便に間に合わず取り残されてしまった市民はシェルターに避難誘導を始めた。バルドルの人員はその誘導と収容を除くと、殆ど全てがこのターミナルか、サード境界に分かれて、築かれつつある防衛拠点の補強作業に追われている。


「こう言う事が有るって分れば、最初っからこういう目的で、ターミナル周辺と、サードは造られてたのかねぇ」


聳え立つユグドラシルを見上げて、警備局捜査官、春日タクミは独り言ちる。

ターミナル周囲は、元よりエントランスからロータリーへと広くスペースが設けられており、その周囲には囲むようにバルドル所有のビルが並び立っている。封鎖された駅公舎内部には非常用の防衛設備に加えて、緊急時に解放される通路が網目のように張り巡らされていた。

それらは今、敵を引き込む為の陣地として、そして殲滅する為の殺し場としての機能を増強されているのだ。


駅構内、その内部は今、大量の無人兵器、主にバルバロイが運び込まれ、その警備を担っていた。

それに加えて多数の防火障壁を利用する事によって発生する迷路の如き構造と、先に述べた防衛装置のフル活用。これだけで多くの敵を足止め、そして殲滅する事が可能だ。仮にこれらを突破したとしても、その唯一の出口であるエントランスを目指し、這い出した敵が目にして、その身に浴びるのは圧倒的な銃口と、反撃不能な高所から放たれる鉛玉の雨だろう。


エントランスを望む、多くのビルには突貫作業で至る所に銃座が取り付けられていた。更に、ロータリーへと続く順路にも、大量の地雷を埋設。これを最大限運用できれば、かなりの時間を稼ぐことが出来、それが結果、主戦場となるサード境界線に展開する友軍の背を護る事に繋がるのだ。そう考えると、今自分が埋設している対戦車地雷一つ、無駄に運用しまいと思う。

何故ならば、明かされたサード境界線の配置、その激戦地でも特に危険に身を晒すであろう、本命の最大目標討伐班。其処に、自分が良く知る人の名が有ったからで。


「・・・旦那が貧乏くじ引くの得意って知ってるけどさ。何もこんな時まで、何時も通りじゃなくても、良いのに、よ」


自分や、警備局の職員の多くはターミナル防衛に回されていた。これは、ハッキリ言って完全な戦闘部隊ではない警備局では正面から戦う戦力として用いるに不足、という事なのだろう。


「ああ、クソ」


歯噛みすると同時に、最初は少し安心してしまった自分が恥ずかしい。それは更に、先の主戦場の配置、そして討伐班に記された名を知ってから強く、こびりつく様に脳裏から離れない。

悶々とした気分は晴れないままで。黙々と穴を掘り、地雷を埋めて、マーカーを記す。お前にはそれくらいしか出来ないのだから、それだけやっていろと、誰かにせかされる様に。


そうしていると、その主戦場へと向かう保安部大隊の車両と、人員が目に留まる。

その内の一つに、ベオ程ではないが、最近親しくしている人影が見えたので、思わずタクミは声をかけていた。


「シロウ!」

「ん?ああ、タクミか!」


その相手、浅木シロウは大声で応えると、一人戦闘車両から飛び降り、残る副官に先に進む様に命じて此方へと向かってきた。


「ああ、悪い。引き留めるつもりは無かったんだが、つい顔が見えたもんでさ」

「良いさ。お前は今、防衛陣地の設営中か。互いに正念場だな」


既に完全防備で右手に小銃を抱えるシロウは、今回の作戦において保安部大隊の総指揮を任されているそうだ。前ならともかく、今更彼の事をエリートだとか皮肉にどうこう言う事も無いが、タクミは一つ、疑問に思っていた事が口からこぼれた。

それはもしかすると、目の前の友とはこれが今生の別れとなってしまう事も有るのではないかと、そう思ってしまったからで。


「正直、シロウは離脱すると思ってたよ。ほら、お前も知ってるだろ。十年前の九界を形成した大異変、あれが、バルドルがやった事だってさ」


流石に民間レベルにはまだ知られていないが、新たな会長であるベオの方針で、これから戦闘の矢面に立つバルドルの職員には、殆どにその事実が知られている。その上で、離脱を希望する職員にはそれを許すとベオは言ったのだ。

九界を形成したきっかけ、大異変は多くの人間の人生を捻じ曲げて、自分にとっても人生を大きく変えた出来事だ。例えそれが世界を存続させるために必要だったとはいえ、それが個人レベルで許容できるかどうかは全くの別である。

実際、少なくない数の人員が職務を離れたのだし、親しくなってからその経緯を知って、バルドルに恩義を感じたからこそ保安部を志したシロウが、そもそもの原因がバルドルに在ったと知って。それでも戦い続ける事が出来るのかと、そうタクミは心配しつつ、彼がバルドルを見限らなかったと知った時には疑問にも感じていた。


「・・・悪い、こんな事俺から言われても、困るよな」

「いや、良いんだ。タクミがそう考えるのは最もだよ」


急にこんな事を言われたというのに、シロウの顔は、思ったより穏やかだった。それはとても、その事実を知った後で。その上でこれから九界を、そしてバルドルを護るために命を懸けなければならない戦場へと赴く男の顔には見えない。


「勿論、思う所が無いわけじゃない。世界がどうとか、九界がどうとか。そんな事を言われたところで、結局俺には、今でもちゃんとした答えが有る訳じゃないんだ」


だけど、と。シロウは続ける。その言葉には、きっと其処には、タクミ自身を含めた、多くの者が逃げ出さなかった理由が重なっていたのだと、そう思う。


「俺たちが生きていた世界を壊して生まれたこの世界には、やっぱり俺たちの人生が在ったんだよ。其処に大切な人たちが居て、帰りたいと願う場所が在るのなら。それは間違いなく、俺が戦う事を選ぶ理由だ」


ふと、この数か月を振り返る。あのニヴルヘイム行政本部での戦いの後、ベオを交えて、シロウと一緒に、この街で、騒がしく過ごした日々を。

それは本当に、楽しい日々で。それこそが、シロウの戦う理由だというのならば。やはりそれは、自分にとっても同じなのだ。


「・・・それにベオは、友達だからな」


バルドルの新会長にこんな言い方をいって良いのかと、そう遠慮がちに付け加えて、少し困った様にシロウは笑っていた。


「ああ、そうだよな」


なんだか、卑屈に考えていた自分が馬鹿みたいに思えて、何故だか此方も笑えてくる。


「ベオの旦那は、俺たちの大切な、友達だもんな」


きっと、それくらいで良いのだ。過去がどうとか、真実がどうだったかとか、世界がどうとか。そんな事よりもずっと単純で、分かりやすくて。だというのに、命を懸けても惜しくは無い。

そんな理由が、確かに自分にも在った。


「ああ。なら、こんなとこで腐ってても、仕方ないよな」

「ふふ、その言い方で察しは付くが、警備局の職員がターミナル防衛配置に偏るのは、その近辺地理と防

衛施設に精通しているからだと聞いている。今回の戦いは、間違いなくこのニヴルヘイムの全てが激戦地となるだろう。何処に在っても楽が出来るとは思うなよ?」

「ははっ、上等だぜ!」


自然と、互いに手を差し出して、強く握手の形を作る。

これはきっと、別れの挨拶ではない。互いにこの戦いを生き延びて、再びまみえるという、再会の誓だ。


「死ぬんじゃねぇぞ、シロウ。祝勝会はベオの旦那の奢りだからな」

「お前もな、タクミ。生きてまた、この世界で夜明けを迎えよう」


果たして険悪だった出会いの頃に、互いに友と呼べるような、こんな関係に成ろうとは。そう思うと、人の縁とは奇妙だなと、また少し笑えて来る。

そう考えていると、ふと、手荷物が有ったために左手で握手したその指に硬質な感覚を感じた。見ると、シロウの左手の、それも薬指に、銀色に光るモノが見えた。


「・・・お前って、結婚してたっけ?」

「ああ、つい数時間前だがな。正式に書類も提出した。あいにく事務的な処理が為されるのは、この戦いが終わってからになると思うが」

「ええ!?あ、相手は?」

「うん、お前も知っている相手だよ」


というより他に居ないだろうとシロウは言うが。確かにタクミには、シロウの相手として思い浮かぶ相手というのが一人しか思い浮かばない。


「年貢の納め時、って言い方は良くないんだろうけどさ。良いのかよ、相手は特務だぜ?」

「良いも悪いも無い。元より、きっかけがこうなっただけ、というだけの事さ」


年齢はそう変わらない筈だが、そんなことを言うシロウが随分と大人びて見えてしまうのはどうしてだろう。そうして、彼は今度こそ去っていく前に、一つお節介めいた言葉を言い残していった。


「お前も、伝えるべき相手たちに、伝えるべき事はちゃんと済ませておけよ。これは友人としてというよりは、同じ男としての助言だ」


そんな事言われなくても、と言いかけて。タクミはその言葉を呑み込む。

小さくなっていくシロウの背に手を振って、それが見えなくなる頃。丁度ニヴルヘイムの地平には日が沈んでいくところで、もう間も無く夜が訪れようとしていた。


予定での作戦開始時間は日付が変わる0時付近と想定されている。なら、少しくらいの時間は有る。そう、長く悩んで、伝えられていなかった事を、その相手たちに伝えるくらいの時間は。


「タクミ、そろそろ日没だ。流石にこの辺で、少し休憩を入れないか?」

「そうですよぉ、もう地雷埋める穴を掘りすぎて、腕パンパンですぅ」


そんな事を考えていれば都合よく、その伝えるべき相手たちが向こうからやってきたのだから、もうタクミには逃げ場はない。そもそももう、何かから逃げる気なんて無いのだけれど。


「・・・ああ、そうだな」


これを伝えれば、怒られるか、呆れられるか。それとも、見損なわれてしまうのだろうか。

それでも、伝えないままでいるよりはずっといい。それが今、命を懸けた戦いを控えた前ならば、なおの事である。

そうなのだ。友の言葉を借りるなら、きっかけがこうなっただけ、というやつだ。


「二人に、聞いてほしい事があるんだ。少し長くなるかもしれないけど、良いかな?」


そう言って二人の、きょとんとした様子の彼女たちの顔を見る。

一つだけ深呼吸をして、タクミは長年抱えていたその言葉を、遂に口にしたのだった。


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