↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬頭の探偵は黄昏に沈む世界で明日を夢見る事ができるか  作者: せんこう
犬頭の王様は黄昏を越えた未来で何時でも明日を夢見ていられるか
PR
102/115

犬頭の王様は黄昏を越えた未来で何時でも明日を夢見ていられるか⑧

「急な要請に応じ、此処にお集まりいただいた事に先ずは感謝を述べさせてもらう。これよりバルドル並びに連盟、鹿島、協会大公派、諸連合による対黄昏討滅作戦へと転じた『ラグナロク計画』の遂行検討会議を行わせていただく。私はこの度バルドル新会長、ベオ・バルドル氏より任命された本作戦統合対策本部、作戦総司令を務める鷹野トウコだ」

「並びに副指令、及び前線統括を拝命致しました、三上でございます。皆さま、改めて参集に応じていただき、誠に恐縮でございます」


第六階層都市ニザヴェリル。かつて訪れたリゾートホテル、シンドリは現在その姿を変えて、現在はまるで聳え立つ城といった有様である。

周囲には六月の戦闘の後、更地となっていた多くのエリアに新設された基地拠点、其処には多数のバルドル擁する兵器群、兵員に加えて、今は二機のフレスベルク級を揃え、恐らくは最初から密かに意図され、秘されていた要塞としての機能を最大限に発揮していた。

そしてその地下、スリュム強襲の際は臨時の指揮所であったフロアは、更に機能を増設され、他の各階層は勿論、外界ともリアルタイムで通信可能な通信、輸送システム、ビフレストのコントロールシステムが鎮座し、九界全ての情報処理を行う作戦指令室として機能している。


「では、先ずは現状の確認を行いたい。現在、今この時も第八階層ムスペルヘイムでは戦闘が継続されている。生産城塞都市ムスペルヘイムはその本領を発揮し、良く持ちこたえているが。質はともかく、残念ながら圧倒的な物量差によって、その突破は時間の問題だ」

「此方の映像をご覧くださいませ」


投影される映像には、ムスペルヘイムの地形、構造物と味方部隊の配置、そして現在侵攻している敵勢力位置、その構成についての情報が含まれている。

そして階層の全域で考えれば、現状三割。その面積が、敵勢力による支配領域を示す赤で染められていた。


「前線では当階層配置の戦乙女である浅間フミノ様、ムスペルヘイム総督ファラディオン様の陣頭指揮により、バルバロイを主力とする無人兵器群、各種拠点防衛兵装にて敵勢力に対し善戦しておられますが、何分九界に存在するバルドル全戦力を以てしても、この相対する敵兵力は圧倒的に多数。更に加えて、その構成には特に問題がございます」


三上の操作で前線の一部で撮影された映像がクローズアップされた。其処に在る様々な巨影、それはかつて、全身全霊を以て対峙し、紙一重でどうにか撃退してきた黄昏の先兵、巨人たちの姿で在った。


「これまで退けてきた巨人と呼称される敵対勢力、その主力の複製体とでも言えば良いのか。それが、敵の主力を構成している」


スリヴァルディ、スリュム、ボルソルン、フルングニルの四体、そしてその眷属たち。一体でもこの九界を滅ぼしかねない巨人が複製されて、群れを成して今、九界の全てを収穫せんと、その手始めにムスペルヘイムへと攻め込んでいるのだ。


「これら敵主戦力である巨人共との交戦記録、並びに判明している特性などの情報は各々、直ぐに共有させていただく。さて、これらも厄介だが、最大の問題はその遥か彼方。ムスペルヘイムと、第九階層ヘルヘイムとの空間浸食孔と思われる空間断裂の先、その向こうに存在する、推定での『黄昏の本体として顕現した最後の巨人』だ」


そして、ムスペルヘイムの地平線の向こう。歪み、引き裂かれた黒い空間の断層、其処に僅かに確認できる、おぼろげに黒い炎の揺らぎを纏う人型に輪郭。

望遠で荒い映像越しでもハッキリと分かる、その姿こそ、今回黄昏が、九界を収穫し尽くす為に選んだ終焉の顕現である姿なのだと、それだけでその場の全ての者たちには分かった。


「前会長の残した資料により、この存在が世界を焼き尽くすという炎の巨人、『スルト』であると推定。これの完全なる討滅を、本作戦の最終目標として設定する」


群れ成す軍勢の向こう。敵の首魁、戦うべき敵は目の前に、既にその姿を晒しているのだ。ならば問題は、これにどう対抗するかという事だが。


『一番の問題はこれ程の存在を、どう討滅するかという所だけど。バルドルにはその術が有るというのかしら?』


誰もがその脳裏に在った、本作戦において最も困難な目標。これについてそう尋ねたのは鹿島の代表である。


『あら、皆さん黙ってしまって。どうにも冷や水を差してしまったようで失礼。だけどその点、作戦を主導するバルドルには考えがあるのかしら?今まで滅ぼす事の出来たという巨人とは違い、正直言ってアレだけで、この異界、九界を焼き尽くせそうな勢いだけど』


彼女は鹿島を率いる現代表の一人、から指定されたその代理であるという。詳細は分からないが、何でも外の世界では多くの逸話で語られ、勇名を馳せる魔女というが。成程、その指摘は鋭い。


「その質問については、俺から説明させてもらいたい。良いかな、トウコさん」


視線で了解を得て、ゆっくりと立ち上がる。映像越しではあるが、各勢力の有力者から注がれる視線は重く感じられて。

それだけに、この返答は重く、本作戦の根幹に根差す事であると再確認出来たから、やはり俺自身で、その答えを述べなければならないだろう。


「改めて、バルドル新会長に就任した、ベオ・バルドルだ。このスルトに関しては最優先で情報収集を行っていて、現在、その根本的な対策を検討中という事になる」

『つまり、このままでは出たとこ勝負って事?あら、事前に聞かされていた話では、貴方はあのベル・バルドルの後継であり。そして月読、いえ、月夜見の子飼いというという事だったから、いい意味でも悪い意味でも随分と期待していたけど。新しいバルドルは思ったより、頼りに出来ないベイビーなのね』

「この、無礼ではないか鹿島機関・・・!」


反論してくれようとするトウコさんを笑顔で抑えて礼を述べる。鹿島の代表からの指摘は最もで、出たとこ勝負という言い方は、今のままではハッキリ言って的を射ているのだから言い訳もできない。

それに、ベイビーという言い方も、彼女の意図はともかく実は正解なのだ。


「言いたいことは分かるよ。この世界の存亡を懸けた、負けたらすべて終わりの戦いで、不確定の要素だらけで一戦やらかそうっていうんだから。それでも、この作戦には確実に勝算が確かに有る。それはああして、黄昏がその本体を、一つの巨人というカタチとして顕現した点にあるんだ」


それは、ベルの残した資料と、ベルの協力者であったという二人の人物からもたらされた情報であった。


「これは、ベルとその協力者の長年に渡っての研究成果になるが、黄昏が本来、世界を滅ぼす終焉を再現する際は、その殆どがそれこそ抗いようのない、天災みたいな現象としてその姿を現すらしい」


ベルの対黄昏の為に行われた研究結果の一つ。複数の多元宇宙観測の結果、確認出来た黄昏による収穫の痕跡は多岐にわたる。

だがそのどれもで、黄昏は唐突に現実として現れ、文字通りに抗えぬ終焉としてその世界を滅ぼしてきた。そもそも黄昏の収穫とは、前提としてその事実すら其処の在る生命体に感知できない現象なのである。


「それが今回では、黄昏が本格的に収穫を始めた今でさえ、此処にいる俺たちは生きている。そして巨人たちの再生や複製なんか些細な事で、何より手が届く場所に黄昏の本体が存在している。これだけで今まで行われていた世界の収穫と、その前提が全く違っているんだよ」

『・・・分からないわね。物理的な現実改変能力に、時間遡行と殆ど全人類に対する認識歪曲としか説明できない伝承の収奪という現象。それだけの無茶苦茶をやれるっていう黄昏という存在が、今回はどういう訳で、単純な大軍で圧倒するだなんて手間のかかる事をしているの?』

「これは推定にはなってしまうが、約一万年前、ベルの世界においてその収穫を完成できないまま世界最後の一人、ジウスドゥラとしてのベルを生かし続けた事による、何らかの消耗が黄昏には有ったんだろう。だからこそ直接的な現実への改変も行えないで、こうして物理的な侵攻という低コストな方法での収穫を選択した、としか、この事態を説明出来ないな」

「付け加えさせてもらえば、現在、黄昏による外界への影響は全く観測されていない。これは協会の総意であり、確実な事実だ。つまり現状、状況は九界内部にて管理出来ている、という事になる」


そう言って説明を補足してくれた、協会の代表としてその場に在るオルターからの提言は、現状なんとか黄昏の影響を九界の内部で、あくまで観測できる、この世界のルール内での現象として、黄昏をコントロール出来ているという事実を示している。

つまり今までの様に、いきなり映画の魔法みたいに、黄昏の都合よく世界を書き換えるなんて盤外の戦術は、今行われているこの勝負においてのみ許されてはいないのだ。


「更に、協会盟主、大公殿下よりお言葉を預かっている。『分はどう見ても悪いが、勝てぬ賭けをそもそもバァルはせぬ。それだけで我らには、未だ活路を見出す希望が残っている』と。協会全体の足並みが揃わない事は申し訳ないが、少なくとも協会の最大派閥である大公派は総じて、バルドルに懸けると結論を出した。実際、下手な横やりを入れられぬよう、傘下と同盟関係にある組織の全てに協力、又は不可侵の約定を、大公自らが既に結ばせている。勿論、敵対勢力にも手出し無用との脅迫文を、ご自身が送りつけられておられるな」

『・・・あの偏屈爺、そんなに長く話す、というより積極的に動く事があるのね。とっくの昔に人の容をした植物か鉱物にでも成り果てているのだと思っていたけど』

「殿下に対する不敬はともかく、目の前に手の届く敵が存在している。それだけで過去の例と比べても、十分に勝算は有る戦いだ。何もせず、今のままでも世界が終わるなら、分の悪い賭けでも張れるだけマシだと思わないか?」

『別に、鹿島としても作戦の参加に異論はないわ。この国と、其処に生きる無辜の人たちを護る事こそが、私たちの鹿島機関の存在意義なんですから。ただ、戦旗を並べて、命がけで共に戦うのなら、その相手くらいは見定めておきたいってのが人情よ』


じろりと視線を戻して、此方を見る鹿島の代表の目線は鋭い。其処にはどうにも不満というか、不審の眼差しが含まれていた。


『それで、ちょっと聞いておきたいんだけど。この世界が終わるかもしれない戦いの中で、バルドルの将兵はともかく、貴方は何処に在るというのかしら?まさか先代から受け継いだ、音に聞く悪趣味で快適な会長室とやらで、椅子を尻で磨いているのが自分の役目だって言わないでしょうね?』


ああ、そういう事か。彼女のその指摘で、その不信の理由をようやく理解する。

つまりこうだ。こんな終焉の只中で、誰もが死力を尽くして戦おうというのに、お前は何をするのだと。

そういえば、三上さんやトウコさんが色々と本作戦におけるその役職を述べる中で、バルドルを率いる立場の筈の俺が、何もその立場について言及しないのは確かにおかしい。

もしかすると彼女には、俺が臆病に後方へと逃れて、安全な場所で引きこもっているつもりなのかと、そんな風に勘違いさせてしまったのかもしれない。


「ああ。そういえば、言ってなかったな。この戦いにおいて、俺の配置はその終着とされる最前線に位置している」


そもそもこの作戦において。俺には、名乗るべき役職など何もないのだ。


「俺が、最後の決戦の場で、ニヴルヘイムで。黄昏の顕現である最後の巨人、スルトとぶつかる。その状況を作る事が、本作戦の最大の目標なんだ」


敢えて言うなら鉄砲玉とでも言えば良いのか。そんな俺の自らの立場を示す返答に、初めて鹿島の代表は、その形の良い眉をはっきりと困惑と驚きの形へと変えた。


「元々どうしてベルが、これまでずっと黄昏や九界の事。そしてラグナロク計画について、その殆どを秘密裏に行ってきたのか、それにはちゃんとした理由が在るんだよ」


そもそもラグナロク計画は、終焉に寄生する不定の存在、それも普通には認知する事も出来ないような相手をどうすれば対処する事が出来るのか、という点から始まった。

その認識が広がれば広がる程に、黄昏の影響する範囲と対処は変化する。その為に、計画の詳細を知る人間は片手に満たず、最終的に黄昏を引き込む為に用意した神樹であるユグドラシル、舞台としての九界、そしてそこで再演される終焉の物語が選定されたのだ。


「そして、最も重要なのが、終焉の導き手である黄昏の器に在る。これは、これまでのどの収穫においても唯一共通する事で、その開始と共に、終焉を決定づける存在に黄昏が具現化するというルールが存在しているという事だ」


これが過去の様に、大津波の水しぶきの一つだとか、空から落ちてくる隕石だとかならどうしようもないかもしれないが、この物語においては巨人という、明確な終焉の原因となる災厄が存在している。それこそが、ベルが最終的にこのシナリオを選んだ理由である。


「今回の場合、その対象は二つ存在していた。一つは今、ムスペルヘイムに出現した世界を焼き尽くすという炎の巨人、スルト。それから、もう一つ」


このもう一つの終焉の容、これが、ベルが俺に犬頭を乗っけていた理由であったのだ。


「それが、魔狼フェンリル。つい数時間前まで俺の頭でもあった、何時か世界を飲み干すだろうと神々に予言され、実際にその終焉の折に主神すらその咢に懸けて、飲み込んだという巨大な巨人とも表現される狼だ」

『・・・分からないわね。貴方、ベル・バルドルの息子なのよね?別に他人の親子関係をどうこう言うつもりは無いけれど、どうしてそんなややこしい事になっているの?』

「それには、俺の出自が関係しているんだよ。俺は言ってみれば、ベルの世界の取り残し。詳しくは省くが、つまり俺が死ぬことがその、ベルが在った世界を収穫するための最後の条件だったんだ。だから生まれてしまえば、その瞬間に何らかの形で殺されていただろう俺を死なせないためにベルは、その『黄昏の器候補』っていう、物語の進行において絶対に途中退場できない、そんな重要な配役を充てる事にしたんだろうな」


この事実を知った時、始めは俺がベルの不死を担保する存在であるからそうしていたと考えていた。

そして今は、それが間違いであったという事も知っている。


「話を戻すが、結局黄昏はその器にスルトを選んだ。そうして出来上がった炎の巨人という容は、確かにこの世界を焼き尽くして、滅ぼすに足りる存在なんだろうな。だけど、其処に黄昏の意図しない例外として、別の意味で俺の存在が。今、既にこの場に在る為に、逃れようがない筈であった終わりの結末に干渉できるという、その可能性が生じたんだよ」


終焉の候補として一方が選ばれたのなら、残るもう一方がどうなるか。

諦めて今度こそ、黄昏の糧になる事を選ぶのか。それとも全てを投げ出して、外の世界へと逃げだすか。それも一つの、ベルが残してくれた選択肢の一つではある。


「だけど、そうじゃない」


ああ、そうじゃないと。今なら、誰に問う事も無く、自分の意志でハッキリと応える事が出来る。


「だから俺たちは、その選ばれなかった終焉。魔狼フェンリルという容を使ってスルトを、黄昏を屠る。そうして、この誰から始まって、何時から続いているかもわからない。そんなクソったれな、ありがた迷惑の連鎖を終わらせてやるんだ」


そんな風に、更に困惑で眉を顰める鹿島の代表に臆することなく、俺はそう言い切った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。