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犬頭の探偵は黄昏に沈む世界で明日を夢見る事ができるか  作者: せんこう
犬頭の王様は黄昏を越えた未来で何時でも明日を夢見ていられるか
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犬頭の王様は黄昏を越えた未来で何時でも明日を夢見ていられるか⑥

本当に、何と言えば良いのか。驚きで言葉を失う、という感覚は随分と久しぶりかもしれない。目の前のモニタに映る青年、新たなバルドルは今、立て続けにとんでもない事を言った。

まず現在、今は既に過去形ではあるが、バルドルと連盟の間で結ばれていた盟約を一方的に破棄すると宣言し、その上で彼の望む連盟との新たな盟約を結んで欲しいと言い出して。そしてその内容とは、前述が完全にひっくり返るくらいに、それくらいに理解に苦しむソレであったのである。


「いや、何度この条件を読み返しても君の考えが分からない。これでは、この条件では、あまりにも連盟に有利すぎる」


先代との盟約は、言ってみれば最低限の九界の情報を得る為に連盟が飲んだ、バルドル優位のモノだった。これにより連盟はバルドルの九界における実効支配を認め、九界で有事があった際も、バルドルの許可が無ければ何も出来ない。一応その対策として、緊急時には此方からの要請で第三者を含む話し合いの場を設ける事になったが、既に二度、その要請は何だかんだと理由を付けられて却下されていて、これは有名無実と化している。


僅かな成果と言えば、騎士を一人派遣できた事くらいで、其処から得られる僅かな情報が、ようやく連盟が引き出せた譲歩だったのだ。

流石にベル・バルドル、古い記録に在る様に老獪にして狡猾。と、悔しく歯噛みする思いも後の祭りである。


今は、そのベル・バルドルも既に亡く。後を継いだその息子は、黄昏という人類存続の危機に際して、事態に窮してようやく全てを連盟に打ち明けて、だというのに一方的に盟約の破棄を告げてきた。

それで、どんな無理難題をと、場合によっては以前に宣言した様に、今すぐにでも連盟の精鋭を束ねて九界に攻め込むべきかとも考えてすらいた折に、新たに提示された盟約の条件がこれである。


「申請処理と入界時の検査さえ受け入れれば、殆ど無条件に許される九界への騎士派遣許可。更には経営、運営に関わる社内機密を除く、バルドルの膨大なアーカイブへのアクセス権と、リアルタイムでの相互通報制度に脅威目標に対する情報共有。更には最終的な、九界の通常空間への復帰へ向けての協力体制の構築、ですか」


九界への複数人の騎士派遣許可、何よりもバルドルとの情報共有体制の確立は、喉から手が出るほどに欲していた事だ。幾ら条件を提示しても拒否され続けていたそれをバルドル自らが提示してきた、という事も理解できないが、何より目をむいたのは最後の一つ。


「・・・九界の通常空間への復帰とは、これはつまり、将来的にバルドルは、己の領域にして、領土でもある九界の解体を視野に入れている、という事なのですか?」

「ああ、そうだ。それも、今回の事を乗り切ってからになるけどな」


有り得ない。自分から、外部からの干渉を不可能とする完全無欠の異界であり己が支配する世界、九界を放棄するだなんて。

本当に、目の前の彼はおかしくなったのかと、そう口からこぼれそうにすらなって、不意に思い出したのは、現在唯一九界に在る同胞からもたらされたこれまでの報告であった。


「そう、でした。確かに、彼女からは、そう報告を受けていた」


ああ、そうか。期待が大きかった故に、つい数時間前に知った情報。彼が、先代の息子という事で、勝手に落胆して、勝手な先入観から思い違いしていたのは自分の方だ。


「・・・僕も、未だに未熟、という事ですね」


自分は連盟を統べる騎士長として。先ず何よりも、同胞たる騎士の言葉を信じるべきであったのに。


「ベオ君、先の非礼を詫びさせて欲しい。君は、心からこの状況を解決したいと、そう考えているのですね」

「ああ、そうだ。力不足で悔しいが、黄昏が始まれば、どう上手くいっても九界はともかく、外界にはバルドルの戦力を回せない。つまり、外の勢力で、信用できる確実な味方が必要になるんだ」

「それで、騎士修道会連盟にその役目を任せたいと?」

「うん、その通りだ。だけど、それは連盟にも多くの犠牲を求める事になる。なら俺が、バルドルがどう報いる事が出来るかと考えた時、せめてこうやって誠意を示す事しか思いつかなかった」


そう説明する彼には、若いバルドルには迷いが見える。だからこそ最善を、共に命を賭して戦う事になるのなら、せめて出来る事を今、形として示したい。というのが一見では連盟有利としかならない、その新たな盟約に含まれた本音なのだろう。


「勿論、物理的な補填も必ず行う。だから今はどうか、バルドルの作戦について確認してもらって、どうにか連盟には協力してもらいたい」

「・・・少し意地の悪い言い方になりますが、それはバルドルにとって都合が良すぎるとは思いませんか?これまで秘密主義を貫いておいて、どうにもならなくなったから協力してくれだなんて事は、少し勝手が過ぎるのでは?」


勿論、これは自分の本心からの言葉ではない。

だが、彼がこれから、真にあのベル・バルドルの後継としてバルドルを率いるというのなら。こういう事がこれからも起こる事を知っておくべきだと。自分も今は一つの組織を率いる身として、勝手な老婆心から経験しておくべきであると考えた。


「何よりも、バルドルがこれまで様々にこの世界にもたらしてきた災いは、九界という異界を完成させるに必要とした犠牲は。黄昏をいう世界を滅ぼす存在を秘匿し続けた事実は、そして今、その為に世界を滅しかねない災禍を招いた罪の所在は。君がその名を名乗るのなら、バルドルと受け継いだ者として、これにどう報い、償うべきと考えているのです?」


その全てに、彼には償うべき罪も、負うべき罪も、果たすべき責任も無い。そんな事は一人の人間にその個人の責として問える筈も無く、敢えて言うなら既に終わってしまった、どうしようもない事なのである。

だが、彼がバルドルの名を継ぐのなら、これからその理不尽とも言える問いを多く投げかけられる事になるだろう。ならば今、その間違いを正す事は、かつて同じように。偉大過ぎる父について迷い苦しんだ一人として、そうせねばならないと感じていた。


「・・・勿論、理解しているよ。バルドルの名を継ぐという事は、その罪も受け入れる事だ。ああ、だけど。申し訳ないけれど、それをどう返していくかって事について、俺は今、上手く答える事が出来ない」


ベオは言葉を選びながらでも、迷いなく。その答え様のない問いにを投げかけた自分に、逃げる事無く真っ直ぐに視線を向けた。


「ああ、そうだ。どれだけ迷っても、どんなに悩んでも。俺は、絶対にその問いから逃げない。どうすれば良いかって考え続けて、どうにか皆が納得できるような、そんな答えを探していくよ」


ああ、本当に。これでは、余計に心配になってしまう。

だって期待以上というのも、ある意味では大きな問題なのだから。


「ああ、もう。そんな事はしなくても良いんだよ。こういう場での無理難題ってのは、それだけで交渉材料なんだ。相手はどうにかして自分に有利な条件を引き出そうとして好き勝手するんだから、これだけ無理な事を吹っかけられたら君は、まともに相手をせずに、のらりくらりと躱して、適当にやり過ごすのが本当なんだよ」


これでは人の事を言えないじゃないか。だけど仕方がない。この場では一度立場を忘れて、どうにかしておせっかいをしてやらないと、自分の方が悪者だ。


「いいかい、ベオ。世界の問題は、世界でどうにかすると、そう考えるべきだ。つまり一人の人間にその責任を押し付けるのは明らかな間違いで、一人でどうにかしようと頑張っても、そんなものはどうしたって不幸で、間違った結果にしかならないんだよ。そしてその結果は、君だけじゃなく、君が大切に想う人たちも悲しませてしまう事になる。だから君は、そんな選択を絶対に、選んではいけないんだ」


ベオが選ぼうとしているそれは、かつて自分に名を与えてくれた友と同じ生き方で。その辿る末路は分かり切っているのだから、どうしても見たくはない。

ああ、前言撤回だ。彼は実父であるベル・バルドルとは、その性質からまるっきり違う。

前者が唯一にして孤高の頂点に君臨する絶対の王者であった事に対して、息子たるベオはその対極に位置する場所に立っている。


「そう、なのかな」

「そうなんだよ、勿論。散々失敗してきた僕が言っているのだから、間違いない」


だというのに、その姿は間違いなく王のソレであった。王の極地たる存在の対極とは、また別の極地に位置している。つまりベオとは、まだ成長途中にあるが、その様な王として完成しつつある稀有な存在なのである。


「ああ、そういえば。一つ、聞かせてください。今回の会談において君は九界に派遣されている、君と親しいはずのヴァレンシュタイン卿ではなく、北米支部の秘密協力員であるバナー氏のルートを使って連絡を取ってきましたね。それは、一体どうして?」


これは、最初から感じていた違和感である。ただ、これまでの会話で、その理由も幾らかは察しがついていたが、やはり確認として、そしてこの会談の結びとして。彼の口から直接、その答えを聞いておきたかった。


「・・・バナーさんには悪かったと思ってる。だけど、俺も結局、単純な人間だから。どうしても、大切な人を優先してしまう」


少しばつが悪そうに目を逸らして、それから視線を戻したベオは弁明としてではなく、事実としてその理由を話してくれた。


「マグノリアに、悩んだり苦しんだりしてほしくなかったんだ。ほら、彼女は、すごく真面目だから」

「・・・成程」


餞として送った言葉は、正しく現実と成ったようだ。同胞たる花の名を持つ騎士には、旅立ったその先で、本当に良い出会いがあったようだ。


「ありがとう、ベオ君。彼女の誇りを守ってくれて」


この善性は、今の人の世で自然には生まれようがない。恐らくはベル・バルドルの思惑もあったのだろうが、より純粋な特質は、古い人類としての魂のカタチから生じたモノであると言えば良いのか。

ならばこそ、失ってはいけない。これを護り、その影響が九界の外に及ぼす何かを見定める事は、ある意味ではこの黄昏という世界の終焉を乗り越える事よりも、連盟が目指す未来にとって意義のある事なのかもしれないのだから。


「・・・うん、本当に良かった」


その言葉の意味が、バルドルという巨大な力を受け継いだ個人が善良であった事に在るのか。それともこの、純粋な魂が己の道行きを誤った方向に見定める前に、僅かでも影響を与えられる立場に連盟が在った事か。


もしくは個人的に、互いに大きすぎる父親の存在を抱えながら、それを越えていこうと努力する新たな友人としての出会いを幸いに思ってか。


「誓約は此処に。バルドルと連盟の新たな盟約は、確かに結ばれた。連盟は、バルドルに協力し、この世界の危機に対して全力で当たる事を約束します」


まさか、あのバルドルと轡を並べて戦う事になろうとは。初めにこの九界を訪れ、ベル・バルドルとの盟約を結んだときは考えようも無かった事だ。


「この剣を以て、共に世界の明日を切り開いて見せましょう」


では、大きな戦いを前にして。先ずは一つ、この将来有望な若者の為に。自分も先達として頼りがいのあるところを見せてやらねば、というところだろう。





「流石に、疲れた、な」


通信を終えて、自然と椅子から緊張で汗をかいた尻がずり落ち、冷えた床にへたり込む。

以前と違って画面越しであったのに、連盟の総代騎士長、アルトリウス・A・バルクホルンの放つ威圧感は尋常で無く、どうにか平静を保って見せたつもりだが、結局全てが見透かされていたように感じている。


「逆に、それが良かったのかもしれないけど」


だから人を相手に、というよりは何か大きな存在に対して語り掛けるという異常な状況に感じられて、誤魔化しのない本心で話が出来たのだと思う。その結果、連盟はバルドルに対して、全面的な協力を約束してくれた。これで取り敢えず、人間同士で戦う最悪の事態を避ける事が出来たのだから、苦労も報われるというモノである。


後は外界の有力組織として、日本で最も強力な対伝承体の組織である鹿島機関、加えて裏の世界では特にメイガス達に強い影響力を持つという協会との交渉になるが、アルトはその場において、連盟が全面的にバックアップしてくれることを約束してくれた。

先代のベルならともかく、そのどちらとも全く面識のない俺にとってはこんなにも心強い事は無い。このまま上手くいけば、どうにか外界での準備は計画通り、問題なく行う事が出来るだろう。


「・・・うん?」


ふと、通信室の扉の向こうから匂いを感じる。

犬頭が無くなって、その状態に慣れてきたせいなのか。それだけで今、其処に誰が居るのかが手に取るように分かるようになってきた事を、普通な事だと慣れるまでにどれくらいの時間が必要なのか。

まあ、そんな事は今はどうでも良いか。


「心配、かけちゃったかな」


それはそうだ。何しろたった今、その扉の向こうでハラハラしている誰かの、直接の主と直接的な交渉を行い、結果、下手をすれば全面戦争という恐れも有ったのだから。


「・・・やあ、そんなところでどうしたんだい?」


だから自然に、何時もの様に、挨拶でもするみたいに。急いで物陰に隠れるが、まるっきり失敗してしまっている彼女に声をかける。


「お、おほほ。奇遇、ですわね?」


その彼女、マグノリアは初め、平然を装って笑顔で俺の声に応えたが。


「・・・う、えう。えうう」


最早懐かしいと思えるくらいに久しぶりに。あの夏の夜、二人きりの雨の打つテントで見せた、あの泣き顔で。つい先ほどの俺の様に、緊張の糸が切れたみたいにへたり込んで泣き出してしまった。





怖かった。本当に、怖かった。

それは、九界に派遣される事になった折、始めから言い含められていた事だ。

バルドルが世界に仇を成す存在であると判断した場合、連盟は即座に九界へと攻め入り、その存在を滅ぼす。これは、ある意味では連盟らしい決定であった。


我らは目標として主に伝承体や悪しきメイガスを相手にするが、必要とあればその対象を拘らない。つまり長たる総代騎士長が判断すれば、九界を滅ぼす事すら意に介さないという、そんな想定があった。

勿論、その目標であるバルドルを滅ぼす際に、そのバルドルそのものといっても良い、九界に対してどれ程の犠牲が出ようとも。例えその異界を、その全てを滅ぼす事になっても。


其処には何も知らない人々の生活が在って、何の罪も無い営みが有っても。それを本来守るべきであるのに、人が、人の営みを護り導く事が連盟の使命であり、存在意義で在る為に。多数を生かす為に、少数を切り捨てる。

幸いにも自分はそのような選択を迫られた事が無かったが、連盟の長い歴史を振り返ればそのような事は確かに在ったのだ。だから偶々、その役目が自分に与えられたとして。愚かにも、深く考える事も無く、それが当たり前なのだと信じた。


「もし、進むべき道に迷った時には。君は、君の信じる正義を掲げなさい。それで僕たちが互いに戦う事になったとしても、僕も、他の騎士たちも決して君を、恨んだりはしないから」


旅立つ前日、総代はそんな事を言った。それは自分の未熟を戒める言葉であると思っていたが、今では違うと理解できる。


自分がこの九界で見てきたモノ。出会った人々、感じてきた全て。それを自らが護るべき善であると信じ、ソレを滅ぼそうとする存在と戦う事が正義であると己に掲げるのであれば、その結果に連盟に弓引き争う事になっても、それでも良いのだと総代は伝えたかったのだ。


九界にやってきてから、本当に毎日が楽しかった。おじい様との思い出や、連盟で己を磨いたこれまでの日々が色あせてしまったわけではない。けれど、それと比べられないくらいに、本当に素晴らしい時間だったのだ。

挫折を経験して、それを乗り越えて。自分が進むべき道を見つけた。その誓は今でもこの胸を暖かく照らして、少しも陰ることなく輝いている。

新しい友達が出来て、楽しい思い出が出来た。最初はいずれ戦うべき相手と思っていた人は、話してみると楽しくて、今では最も古い友人と同じくらいに大切な人たちだ。


そして、これが一番自分でも驚いた事だ。こんな感情が、自分の心の片隅に存在していただなんて。知ってみれば、もう見ない振りは出来ない。自分も、ありきたりな良くある少女の様に。そんな風に、誰かに恋をするだなんて。

だから、それを失う事が怖かった。だから、ベオさんと総代の話し合いが上手くいかなくて。その結果に、バルドルと連盟が戦う事になっていたら。もしかすると、自分は。

その日々を護るために。今まで信じてきた、自分の人生そのものと疑わなかった、連盟と戦う事を、決意してしまうかもしれなかったから。


「私、私はやっぱり、弱い人間なのです・・・!」


そうならなかったという安堵は深く。故に、自身に対する失望は同じくらい深い。

自分の人生の殆どを占めていた騎士としての生き方は、たった数ヶ月で覆されるくらいに脆く、弱いモノであったのだ。ソレがどんなに惨めで、悲しい事なのか。

命を懸けて、その生き方を示した祖父がこの姿を見れば何というか。この期に及んで悩み迷う己を見て、何と言って嘆くのか。

何より、例えそうなったとしても。こんな状況で、世界の終焉たる黄昏と対峙して、最後まで諦めないと奮い立つ彼に。ベオに、今の今まで揺れていた自分が、どう顔向けすれば良いと言うのか。


「ごめんなさい、おじいさま。ごめんなさい、べおさま。わたくし、わたくし」


どちらかに振り切ってしまえば、こんなに悩むことは無いというのに。どちらも捨てられず、どちらも諦められず。

世界を救う為に犠牲を厭わぬと信じる連盟の理念に殉ずる事も。全てを救うべく、僅かな可能性を引き寄せる為に足掻くベオを、そんな彼が率いるバルドルに拠って立つ事も出来ない。こんな中途半端な今の自分が、どうして彼に。


「どうして貴方に、かっこいいだなんて、言ってもらえるでしょうか?」


ああ、これだ。あれから自分は何かに成れたと勘違いしたままで、まるで成長してはいない。

今度こそ、どうしようもないと失望されて。あれから遠回りした、何時かの答えが彼から下されようとしている。


「そんなわけないだろ、ばか」

「・・・ふぇ?」


想像していた言葉とは違って、彼の口から聞こえていたソレは、思わず聞き返してしまうくらいに想定外で。


「君は、弱くなんて無い。かっこ悪い所なんて、少しも無いよ。きっとその迷いも、間違いなんかじゃ無いんだ。だから何処の誰がなんて言ったって、俺だけは違うって言い続ける」


姿かたちは変わっても。ベオは何も変わらない、瞳に映るだけで安心する様な、何時までも見つめていたいと願ってしまう様な、その笑顔で告げる。


「俺にとって君は。何時だって、眩しいくらいに輝いている、かっこいいマグノリアだよ」





気楽なチンピラ暮らしでは知り様も無かった。いろんなモノに板挟みとなる立場となって、ようやく気が付いたことが有る。

正しさはきっと、一つではない。今回であれば、バルドルにはバルドルの、連盟には連盟の信じる正しさがあった。

特に、今回の様に世界を終焉へと導きかねない黄昏に対峙するにあたって、そのやり方がそれぞれに違っている事なんて、やはり当たり前なのだ。それも、それが正解か、誤りかはやってみるまで分からない。

やり直しは効かない。チャンスは、一度しかない。だからこそみんな、自分の正しさが一番良いものだと信じて、それを成す為に頑張っている。頑張っているのだから簡単には譲れなくて、ぶつかり合う事だって有るだろう。


言い方は悪いがベルは、バルドルは最初からズルをしている。

ソレがバルドルにとっては正しいと信じていたとしても。多くの事を知っていたのに、それを隠して此処までやってきて。それが他の全てを巻き込んでしまう事が分かっていたのに、後に引けなくなってようやく頼ってくるだなんて、連盟にとっては寝耳に水どころでは無いだろう。

だというのに連盟は、その長であるアルトさんはちゃんと話を聞いてくれた。ベルの計画や、俺の話に納得してくれたかどうかは別にして、話し合った結果に。最後は互いにそれが最善に繋がると信じて、今は力を貸してくれようとしてくれている。


「純粋に、すごい人たちだって分かるよ。今更だけど君は、そんな人たちと一緒に、今までずっと戦っていたんだよな」


今日は何だか、偉そうに世界を救うだなんて事を何度も言っているが、俺の知る世界は九界の内側の、それも一部でしかない。その外に広がっているという世界。其処に生きる人たちと、その営み。それを護るという責務がどれ程に重く、貴い事であるのか。


「そんな大事な役目と、俺たちを天秤にかけて。君は真剣に悩んでくれたんだ。しかもその問いから逃げないで、ちゃんと答えを出そうとしてくれていた。一体それの何処が、かっこ悪いって言うんだい?」


何時もまっすぐな君だから。気を使ったつもりが心配をかけてしまったけれど、結局はお互いにちゃんと答えを出せた。

だから、うん。やっぱり少しもカッコ悪くなんて無い。それどころかもっと、ずっと素敵な君だ。


「だから何も変わらない。それどころか君は、出会った時よりもずっと、何時でもかっこいいマグノリアだよ」





「・・・そうでした。貴方は、そういうお方、でしたわね」


あれこれと悩んだ自分がばかみたいだ。この人は、出会った時からずっと、変わらないでいてくれているのに。

まあ、そうおだてられて。先程までの沈んだ気持ちが嘘みたいに晴れていく様な想いでいる自分なんて、単純で分かりやすいと、自分でも思う。


そういえば、気が付いたことが一つ。どうして私は、この人の前でみっともなく涙を流してしまうのか。

それは多分、彼の前だから、という理由で。

この人の隣であれば、弱さを見せても大丈夫という信頼と、その弱さを笑い飛ばして、これからも前へと進む力を、きっと自分に分けてくれるという無意識の甘えから。


自覚するとちょっと子供っぽいかもしれないですけれど、うん。まあ、ソレも一つの愛のカタチという事で。


「・・・ベオさま。貴方はきっと、これからもそう生きていくのでしょう。ニヴルヘイムの探偵であった時から、バルドルの新たな王となった今でも。本当に不器用で、眩しいくらいに真っ直ぐに」


ああ、だからこそ。未だに未熟なままでも、自らに課した責任を果たす為に。その身に一心に受ける、貴方からの期待に応える為に、これからも懸命に、私はがんばっていくのだ。

そう考えると、黄昏という世界の終焉ですら、その苦難の始まりに過ぎない。だというのに、この身だってまだまだ未熟なのに。そんな事も関係ないくらいに、今度はこちらの方が貴方の事を心配になってしまう。


「騎士として掲げる誇りと、振るう剣は連盟に預けましたが。一人の人間として、女として。その想いと、心は何時までも、貴方の傍に」


貴方の前でだけ、涙が溢れる理由を知ったこれからはずっと。進むと定めた道は、今も貴方と同じ足元に在って、そしてその未来に続いていると、何の疑いも無く信じる事が出来るから。


「改めて、誓は此処に。騎士マグノリア・ヴァレンシュタインは、この命の果てまで永遠に、貴方と共に在り続ける事を誓約し。そして、そう在る事を、何よりも希望いたしますわ」


だからもう、何も迷いはない。自分の為に、貴方の為に。私はこの戦いの終わりでも、きっと勝利を掲げて見せる。


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