陸の能力、竜牙の誤算
「久しぶりって訳でもないのに、何か遠くなった気がするな。速水」
長槍を手にして椅子から立ち上がりながら、竜牙は陸に挨拶を返す。
「ま、俺自身お前らを裏切ったって自覚はあるからね。敵になれば距離も遠くなるだろ?」
いつものように包丁をクルクル回しながら陸は答える。顔つきは、前と全く変わっていない。
「......ほとんど初めましてですよね? 速水陸先輩?」
「おやおや、二年のボッチ君ではないか。ここでは松平の家臣だったかな? いやー驚いたよ。あの馬鹿力娘を他の奴にぶつければ露払いは完了したとばかり思っていたのでね」
「大丈夫です。貴方が一騎打ちを望むなら俺は手出ししません。卑怯な手でなければの話ですが」
腰に下げている刀を確認して、桜庭丸はそう宣言する。
「ふーん。お前、結構な口を利くじゃないか。まあ、弱いものほどよく吠えるっていうから気にしないけどよ!」
眉間に皴ができるが、まだ陸の表情には余裕がある。
「んじゃ、竜牙。勝負と行こうか? この戦国、勝つのは俺たちなんでね......」
二つの包丁を小刀のように振りながら、陸は竜牙に宣戦布告をした。
「ちょい待ちな。その前に、いくつか確認しとかなきゃならねえことがある」
竜牙は左手を前に突き出し、一度陸を制止する。
「まず一つ。お前、死んだって訳じゃねえんだろ? 死霊術師の能力も身に着けたのか?」
「いやいや。俺の特殊能力はテレポートのようなエスパーもの。死霊魔術は専門外だ。死者の軍団は、借り受けているだけさ」
質問には淡々と答える陸。
「次。香里奈と戸谷がお前と一緒にいるってのは本当か?」
「ああ。戸谷は既に行動を起こしているし、果里奈も次期にお前らの兵の虐殺を始めるだろうよ!」
そう答えながら、陸は竜牙へ突進を始める。
「ちっ、気が短けえんだから! とりあえず、最後の質問だ。お前らの黒幕は誰だ?」
ステップを踏んで陸と一定の距離を保ちながら、竜牙は重要な質問をする。
「そればかりは教えられないねえな! 何せ、あの人との契約違反になっちまうからな!」
薄気味笑いを浮かべて右の包丁を竜牙の肩を目掛けて振り下ろす。
「まあ、そりゃあ当然か。仕方ねえ、割れる口がもうねえなら潰すしか選択肢はねえ!」
竜牙は地面を大きく蹴り上げて一気に陸と距離を取る。
「お前の残虐を愉しむ精神、自分の事しか考えねえ肝。一気に燃やして灰にしてやらあ!」
直後、竜牙の長槍の先端に赤い炎がともる。
「ふん、あれから結構練習もして必殺技ってのも出来上がったんだ。お前をその必殺技の最初の犠牲者にしてやるから、あの世で泣いて喜ぶんだなあ!」
「へえ。井田に続いて竜牙も開眼、か。まあ、システム上そろそろだと言われてたけど......」
「炎の中で、悔いて果てよ! 『火炎一本槍』!!!」
竜牙は渾身の力を込めて炎に包まれた長槍を陸に向けて投げつける。周囲の気温は跳ね上がり、槍が通過する際に熱風が舞う。その速度は音速にも匹敵し、槍は違うことなく陸へと襲い掛かる。
「ったく、気が早いんだから。それでは、さっさと死んでもらいましょうか。『ワームホール』」
平然と両手を槍に向ける陸。すると、緑色に光りながら直径二メートルほどの円が登場する。そのまま竜牙の投げた槍は円の中へと突撃していき、円と一緒に消えた。
「は、速水。お前テレポートだけじゃねえのか!?」
あまりにも意外な防御技に、竜牙は着地時に若干よろめく。
「さよなら、俺の義兄さんになるはずの人。俺らの祝言は、この地獄の中で行うから来なくていいよ。まあ、お前も怒りで蘇り、俺の下僕になるなら話は変わるけどな」
淡々と別れの挨拶を言って陸は竜牙に背を向ける。そのまま、振り返りもせずに歩きだす。
直後、
「グアアアアア!!!」
竜牙の全身が炎に包まれ、頭から足まで血まみれになる。見ると、彼の頭の上には例の緑の円があった。速すぎて分からなかったが、竜牙は自身の投げた槍を頭上から直撃されたのだ。
「! 噂に聞いてはいたが......速水陸、なんて次元違いの能力を繰り出すんだ。これじゃ、戦闘もへったくれもない。こんな連中ばかりなのか、死人の軍勢は」
途中から離れて様子を見ていた桜庭丸は、陸に気付かれないようこっそりと陣を脱出する。彼はまだ、死ぬわけにはいかないからだ。
はい、竜牙がほぼ噛ませ犬です。彼の処遇については一切計画していなかったので、行き当たりばったりで殺されました。今後についても一切未定です。なぜなら、彼は本来秀介を罵倒する予定だったのに全然出会わなかったからです。
すみません。竜牙はスルーして次は優姫のシーンに入ります。
里見レイ




