東の開戦
「で、何でお前がここにいんだよ。鈴木桜庭丸?」
美濃(岐阜県南部)と信濃(長野県)の国境に集まった織田家第二軍。そこには、使者として岐阜城に訪れていた桜庭丸の姿もあった。しかし、彼が岐阜にいたという話を質問した本人石山竜牙は聞いていなかったのだ。
「ああ、丁度用事があって岐阜にいたものでして」
桜庭丸は深く事情を語らない。ここで話すべきことではないからだ。
「ああ、そうかい。ここで死んでも文句は言うなよ」
竜牙も深くは問い詰めない。聞いたところで事実は変わらないからだ。
「......華香が、死者を率いている。死んだはずよね。死んだのに、恨んで蘇ったってこと? それに、石山先輩と速水先輩もいるってどういうこと? ああもう! 何が何だか分かんないよ!」
彼らの傍で喚いているのは、優姫だ。今回、亡き親友が軍を率いていると聞いて歩とは別行動をとっている。
「中山、少しは落ち着けよ。俺だって、果理奈が敵だって信じたくはねえけどよ......」
優姫は竜牙にとってその妹を殺した張本人の一人ではあるのだが、今は味方と割り切っている。よって、かける言葉は侮蔑ではなく励ましだ。
「あの磯野員昌が現在織田の人間になっていたとは。死んだと噂されていたので、これはかなりの幸運ですね」
彼女を見て、桜庭丸は笑みを溢す。敵であった分、優姫の力を桜庭丸は正確に認識しているのだ。
「色々あったんだよ、鈴木」
同級生に対し、優姫は少し不機嫌に答える。彼女は未だに、歩と心理戦を繰り広げていたことを意識しているのだ。
「さてと、情報によると間もなく例の軍勢と鉢合わせするはずなんだが......」
第二軍の大将である竜牙は、ここでいったん雑談をやめて現状の確認を図る。
辺り一面山に囲まれているが、確かに大勢の人の気配はしている。
「むこうも、それなりに大軍らしいですからね。奇襲を仕掛けようにも何らかの気配があるはずです。となると、近くで待機している状態でしょうか?」
優姫は、この軍では軍師ポジションである。状況の把握に余念はない。
「気が付けば後ろに居たってパターンもよくありそうですけどね」
兵を一人もつれていない援軍である桜庭丸、気楽に発言をする。
「あり得るかもなあ、この不思議な戦国においては」
竜牙も桜庭丸の意見を肯定する。自身が炎を纏わせた槍を扱うことができるのだ、無理もない。
「......少し、周囲の散策に行ってきます」
ここに来て、優姫が突然離席をお願いする。表情は、気まぐれにいったとは思えない目つきだ。
「......気を付けろよ。あと、夜には軍議を開くからそれまでには戻ってくるように」
少し間があったが、竜牙はそれを許可した。一礼をして、優姫は陣幕より外に出る。
「石山先輩。何かの誘いに乗っかったように見えますけど? 罠にわざわざ行かせてどうするんですか?」
優姫を見届けた後、桜庭丸が竜牙に問う。
「ああ、ここであいつは簡単には死なんよ。それに、俺も俺で相手せにゃならん奴が来たようだし」
「? なんか、テレパシーでも受信したんですか?」
桜庭丸は、よくある不思議な現象の例を挙げる。
「中山の場合はそうかもな。俺はただの直感だが。あと、あいつの場合は登場前に霧が出ることが多くてね。ほら、あそこ」
竜牙が指差した先には、確かに今までなかった霧があった。
「よう。久しぶりだね、義兄さん」
その霧が消えた後には、両手に包丁を持った少年が立っていた。そう。竜牙がこれから戦う相手、竹中半兵衛役の速水陸である。
はい、ついに陸が再登場です。予想していた方もいらっしゃると思いますが、バリバリの敵役です。まあ、優姫が織田側についた時点である程度は予想できたかもしれませんが、だんだん各陣営が統合されていきます。お楽しみに。
里見レイ




