チートと小心者
まず先に攻撃を仕掛けたのは武器の長さでリーチの長ある歩だった。
(どんなチートだと言われても、俺はできる最善の攻撃を仕掛けるしかない!)
そう念じながら刀を思いっきり振り下ろす。次はないとばかりの勢いだった。そして、剣先は違いなくコウモリの首元への直撃ルートを取った。
しかし、言われた通りのチートが発動される。
「甘い! スキル発動『倍速旋風』!」
コウモリは急に移動速度を上げ、歩の一振りを寸前でかわす。そして、一気に歩の裏側へと回り込んで勢いをつけて回転。右の直刀が歩の後頭部を直撃、しようとしたが。
「安直な技の決め方は、対策されやすいんだよ!」
すでに歩の姿は無かった。前方に大きく転がり込んでコウモリと距離を取っていたのだ。その際、邪魔な長刀は投げ捨てている。
「はっ! 武器を自ら捨てるってのは降参とイコールなのを知らないのかよ!? 『三倍速十字切り』!!」
コウモリはさらに速度を上げた攻撃を展開する。
「頭で考えるだけじゃ埋まらない力量の差を思い知れ!!!」
胸元に構えた両剣が一度に歩へと襲い掛かる。
「......俺も、下手な特殊能力を貰ったもんだな」
ふいに、歩がボソッと呟いた。そして、俯きながら口元を緩める。
「ああ? 俺たちゃその刀に変な機能は入れ込んじゃねえぞ? 戦闘を公平にとか考えてないからなあ! それとも何だ? そう言って俺を動揺させる小賢しい作戦か?」
勝利を確信しているコウモリは、勢いそのままに歩に聞く。
「製作者が自覚してないってのも問題だよね、これ。もう呪いレベルで困ってんだけどさあ......」
歩は頭をかいて顔を上げる。そのままおもむろに右腕を前に出す。
直後、豪速で細長い何かが歩の右手にはまり込む。そして空気を割くような一筋の剣筋が歩とコウモリの間を通過した。
「な!?」
突然の出来事に、コウモリは立ち止まることができずに頭から崩れ落ちる。
「はあ、チートに頼る人って思いの外脆いんだね。まあけど、これで織田領内での大量虐殺が無くなると考えればそれでいいか......」
歩がそのままコウモリに攻撃を仕掛ける。その両手には、投げ捨てたはずの長刀があった。
「え、ちょっ......」
形勢逆転。コウモリは大慌てで二刀を置き去りにして這うように逃げ出す。
「何で、お前刀持ってんだよ!?」
「えーとね。俺、この刀を何回も邪魔だと思ったんだよ。積極的に戦場で戦うポジションじゃなかったかし、いざ戦う時も味方を傷つけそうだったから。で、一回置いていったはずのに気がつくと右手にあってさ。その後無意識に振りかざしてたんだよ。まるで『お前はこの俺を使ってで戦うんだ』て刀が言っているようにね」
長刀を二度三度振りながら説明する歩。そう、坂本決戦前のあの出来事である。
「さて、君たちの非人道的な実験に関しては俺たちは何も干渉することはできない。けど、ここが戦場ならある程度はできるんだよね。確認だけど、君が長曾我部元親なんでしょ?」
「あ、ああ」
「じゃあ、兵を引いてよ? 命は取らないから四国に帰ってくれないかなあ? 織田家は今のところそっちにまで兵を出す余裕はないんだよね。ここで引いてくれれば同盟だって考えてもいい。もし拒否するのなら、ここで君を殺すまでだけど」
「......俺のチートが、ただ高速移動するだけだと思うなよ! スキル発動『反撃式仕切り直し!!』
コウモリは、突如歩の足元から姿を消す。そして、彼から数メートル後ろに現れた。
「なんでもかんでも英語読みすれば良いってことじゃないんだけどなあ」
あまりにも俗物的なスキルの数々に、歩は思わず突っ込みを入れてしまう。
「今回はほとんど意味はなかったが、このスキルには体力回復機能も付いている。つまり、仕留めたと思って油断するとまさにやり直しとなってしまう訳だよ。はっはっは!」
自分でチートと言っておきながら、どや顔を繰り出すコウモリ。
「はいはい。で、まだ戦うの?」
彼の小心者ぶりに、歩は戦闘意欲をどんどん失っていく。
「もちろん。お前を殺すまで戦いは終わらんぞお!」
続投宣言を世界一かっこ悪く言うコウモリ。歩の表情はますますダルそうになる。
シリアスが抜けかけている西の戦場に対し、東では重苦しい展開が将来の読めに待ち受けていることを歩はまだ知らなかった。
これに伴い、前に投降した「信長と長秀」に加筆修正をしました。よろしくお願いします。
里見レイ




