桜庭丸と、一人の少女
鈴木桜庭丸の一日は、非常に早い。朝起きたら、スケッチをする時間を取るからだ。
二十一世紀にいたときはタブレット端末やキャンパスを使っていたが、今は水墨画しかできないため、妥協している。
絵のテーマは、その時に気分次第。部屋の間取りを描くこともあれば、頭に描いた自分の家から見える風景を思い出してスケッチすることもある。決まっているのは、現状に囚われずに自由に描くこと。なぜなら、これこそ彼が戦国で自分を見失わないためのプロセスになるからだ。
「さて、今日のテーマは何にしようか......」
朝日が昇る前に完全に目を覚ました桜庭丸は、いつものように楽しく絵の題材を悩み始めた。
「たまには、肖像画でもやってみるか。では、誰にするか?」
頭の中に、ゆかりのある人たちを順に思い浮かべていくが、なかなか定まらない。
「じゃあ、私を描いてよ。あなたが私をどのように捉えるか、非常に興味があるわ」
すると、後ろから何となく聞き覚えのある声が聞こえる。
「誰だ!?」
今まで気配すら感じなかったので、驚いて桜庭丸は振り向く。
「お久しぶり、私を出し抜ける人。あれから大けがをしてなかったことは安心しているわ」
そこに立っていたのは、ツインテールの少女だった。見た目は中学生程度だろう。
「......あの時、俺を助けた人か?」
桜庭丸は隕石の墜落で死にかけたときに聞いた少女の声を思い出す。彼女は、まさにその声だ。
「ええ、そうよ。けど、感謝はしなくていいわ。私のエゴでやったことだもん」
「お前、何者なんだ?」
桜庭丸は、彼女が命の恩人だとしても警戒を解かなかった。彼の直感がそう警告しているからだ。
「そうね。今のあなたの理解の範囲で言うと、『黄泉の国の軍勢の関係者』になるかしらね」
「! まさかもう連中がこっちに!?」
立ち上がって、そばに置いてある刀に手をかける桜庭丸。
「大丈夫、貴方たちと戦う気はないわ。ただ、今のところだけど。もし、黄泉の国の軍勢を貴方たちが破ることになれば、ついに私とあなたの知恵比べが始まるわけだけど」
「......んじゃ、これはその前のご挨拶ってことか?」
「そうね。貴方にちゃんと私を意識して欲しかったのよ。それには、戦いの前じゃなきゃいけないでしょ?」
少女は無邪気に笑う。手元に凶器の類いは一切持ってない。
「名前は教えてくれるのか?」
桜庭丸は若干警戒を緩めつつ、情報を引き出そうとしている。
「うーん、いいわ。あなたにだけ教えてあげる。私は春海。苗字はまだ秘密ね」
あっさりとこの少女は情報開示をする。不意を突かれる桜庭丸。
「言っとくけど、私はあなたが最後の戦場に出てくれることを信じているわ。あの戦国研究会会長や平和主義な天才信長に勝ってくれることを、私は願っている。そこ、覚えといてね」
にっこりして春海は手を振る。直後、彼女の姿は消えていた。
「......織田と俺たちは現在同盟を結んでいる。けど、彼らに勝ってほしいと願っているということは、この同盟も信用できなくなるかもな......」
彼女の残した言葉を深く考える桜庭丸。
松平に広がった波紋は、とどまることを知らなかった。
まだ、松平・武田サイドで進みます。ただし、近々織田・長曾我部戦も書いていきたいです。よろしくお願いします。
里見レイ




