撃ち込まれた亀裂
「よ、黄泉の国の軍勢だと!? それを装った小悪党ではないのか?」
沙恵が脅し半分で状況の確認を図る。
「ま、間違いありません昌景様! あれはこの世のものではありませぬ!」
若干怯えながらも、事実だということを使用人は主張する。
「......そこまで言うなら仕方ないな。沙恵、美樹。君たちの手で片づけてくれ。彼らをあるべき世界に戻すんだ」
ため息交じりに太一は迎撃命令を下した。
「そう来なくては!」
「畏まりました」
気合十分な沙恵と目が完全に戦士のものとなった美樹は勢い良く立ち上がる。しかし、
「いや、既に手遅れよ。太一......」
突如、使用人の後ろから声がして、
「ぐはっ!」
使用人はあっけなく後ろから倒された。代わりに現れたのは
「よ、佳乃姉さん......」
今までに見せたことのないレベルに、太一の顔面は硬直した。それを察して、すぐに露子が太一の手を握る。
「佳乃様、お一人で勝手に行かれないでください。物事、万が一があるのですよ」
そして、続けざまに一人の青年が廊下からやって来る。
「あ、兄貴!?」
それを見て、今度は沙恵の顔から血の気が無くなる。
「悪かったわね、虎和。私、もう居てもたってもいられなくて。だって、遂に長年の悲願が達成居されようとしているのよ! 下原の家を取り返すこの悲願が!」
右手に血まみれた小刀を持ちながら無邪気な少女のように笑う佳乃という女性。それを見て、太一たちの表情はさらに暗くなる。
「な、何で虎和まで!? 噂では、二人ともあの後死んだって......」
「そうね、私たちは社会的に死んだわ。けど、ここならやり直せるわ。ここで天下人になって私の下原家を再興させるのよ。そう、私と、虎和と、そしてこの子とね......」
そう言って、佳乃は後ろを指差す。
「......久しぶり、兄さん」
そこには、太一とよく似た一人の少年がいた。
「し、茂......」
太一は、もはや廃人同様の状態となっていた。あの日失った三人が、敵として自分を殺そうとしているのだから......
「た、太一様。あれが佳乃様なわけありませぬ! きっと、その黄泉の国とやらが映し出した我らを愚弄するための幻......」
一瞬の沈黙の後、沙恵は精一杯の力を込めて目の前の事実を否定する。
「いいえ、沙恵。妹である貴方にはわかるはずよ。これが本物の虎和だって」
冷静に沙恵を諭す佳乃。それを聞いた沙恵は、何も反論できなかった。
「し、茂様! 今までどこで何をしておったのですか!? 私に何も伝えず、すべてを放り投げていなくなって!!!」
ここに来て、あいるが制御不能になって叫ぶ。
「悪かった、あいる。君には今までずっと負担をかけさせただろう。だから、せめてここでは君と共に下原家を盛り立てていかないか?」
佳乃と同じく茂という少年も血まみれなのだが、彼からは静かなる気品を感じられた。
「ああ、あなたは本当に茂様なのですね......」
手元の資料を落として、あいるは泣き出す。
「お、落ち着いてよあいる! たとえ彼が本当に茂様でも、今は太一様の敵なんだよ!!」
いち早く冷静さを取り戻した露子は、急いであいるを諭す。
「相変わらず頭が冴えているわね、露子。けど、選択権はあいるにあるのよ。私たちだって名目上は死者の軍勢だけど、本質はあなたたちと同じ召喚された被験者。この実験場で勝者になって、造られた世界での第二の人生を送ることが目的だもの」
露子に対し反論する佳乃。しかし、太一たちはその内容のほとんどを理解できていない。
「とにかく、太一様を除けばお前らはどちらにせよこちら側に着くこととなる。それが生者か死者かの違いだ」
続けて虎和が発言する。口調は荒いが、話自体には何やら理性的なものを感じる。
「姉さん、茂、虎和。俺を殺したいのか?」
太一はここで一気に話を前に進める。
「ええ、それがこの実験場に私たちを召喚させてもらうための条件なんだもの。ごめんなさいね」
佳乃が即答した。再び沈黙が訪れる。
「......分かりました。私は茂様の御味方をいたします」
あいるがその沈黙を破った。そして、なりふり構わず茂のもとへと駆け寄る。
「君ならそうしてくれると信じてたよ、あいる。君も、生者の道を選ぶんだな」
涙ぐんだ少女をしっかりと抱き寄せ、茂は満足げな表情をした。
「兄貴、済まないがそれはできない相談だ。私は太一様に忠誠を誓った身、たとえ兄貴への罪悪感が残ってたとしても裏切ることはできないな」
そして沙恵は、あいると正反対の答えを出す。
「ま、俺を社会的に抹殺した時点で想像はしてたよ」
笑い飛ばすような顔をして、虎和は妹の宣言を聞き流す。
「太一様、ここは私と沙恵で食い止めまする。太一様は露子と共にお逃げ下され」
様々な過程を飛ばして、美樹は既に鎖鎌を構えた。
「露子、あんたの頭脳はここで使うべきじゃない。逃げ延びて、意地でも太一様のお役に立つんだぞ!!」
沙恵も槍を持ち、戦闘態勢に入る。
「......」
「太一様」
しかし、太一も露子も、その場を離れられなかった。
「まあ、あんたにも見せてやるよ。私たちの力があんたの何倍も上だということをな、太一!!!」
それを見て、佳乃は右腕を大きく振り下ろす。周囲から魔性めいた兵士が次々と現れた。
さあ、戦いの火蓋が切って落とされた。
えっと、次こそ戦闘シーンです!
明日こそ、戦闘シーン書きます!
すみません。
里見レイ




