覇王への覚悟
「まず、紀伊への道中にある大和を織田から奪い取り、そこで十分に物資供給と支配の安定化をさせた後、紀伊に全軍で進行する。足利将軍には、『大和の支配者は織田より浅井がいい』という触書を書かせるよう満腹を使者に送った。恐らく、我らが近江と大和の国境に到着するころには振れが十分に出回っているだろう」
高虎との会話からちょうど六時間後。主だった浅井の者たちを集めた秀介は軍議を開く。
「父上には、南近江の織田に動きがないか見張りをお願いします」
「あい、分かった」
「大和の攻略については、全軍を三つに分けて北から攻略していく。一つにまとまって長蛇になることを避けるためだ。通りすがりの小城は素通りし、郡山城の攻略を優先する。そこさえ落とせば、自然と周辺の城も降伏してくるだろう」
大和(奈良県)の地図を広げ、指で経路をなぞりながら説明をしていく秀介。その表情はいつもの軍議の時と変わっていない。
「高虎、何か不満はあるか?」
「めっ、滅相もございません! 殿はいつも通り軍事を的確に捉え、進めております」
「そうか、ならよい。では、出陣としよう。天下を取るのは織田でなく我ら浅井だということを証明するのだ!!!」
『はっ!!!』
秀介の号令で、家臣団は己の部隊へと戻っていった。
「さて。家臣たち、さらには元側近を務めていた高虎まで俺の案に反対しなかった。それでもお前たちは反対するか? 叶、黒木?」
高虎を含む戦国時代の家臣たちがいなくなった後、残った二人に秀介は問う。
「......いいえ。先輩の策には、確かに抜かりはありません」
苦虫を嚙み潰したような表情で応答する三郎。一方、叶は黙ったままだ。
「叶、どうなのだ? これでも、我が無謀な男に見えるか?」
見かねた秀介は叶に再度質問をする。
「私は、秀介様のように軍事を考えることはできません」
「ほう、なら我について来るがよい。確実に大和を落として見せよう」
叶の返事に満足する秀介、少々笑みがこぼれる。
「しかし、それはあくまで通常の戦国ならの話。特殊な魔術が使用でき、それらで戦況を決めるこの『造られた戦国』においては完全に愚策です!!!」
ここ一番で大声を出す叶。隣にいた三郎は思わずビクッとなる。
「......では、我にどうしろと申すか!? 批判ばかりでなく意見を述べてもらおうか、叶?」
ピキピキと顔を引きつらせながら、秀介は叶の反論を前に進める。ここが彼の自室なら、完全に大声で怒鳴り散らしていたレベルだ。聞きつけた家臣がこちらに戻ってこないようにしている。
「お、織田と同盟を結び、共同で紀伊に侵攻します。カラスには、お兄ちゃんを含めて私たちの時代の人たち全員で倒して......」
「黙ってもらおうか」
直後、秀介の槍の先が叶の首元に触れる。ほんの一瞬で槍を捌いたのだ。
「お前はまだ甘い考えをしているのだな。織田と手を組むなど、家臣も民も賛成するわけないだろう。人数が多ければ勝てるという考えもだ。ったく、少しでも意見を聞いた我が愚かであった」
凍り付いた秀介の目が、叶の動きを完全に封じる。
「お前は我の戦略に盲従していればよい。戦国の妻とは、大半が夫に服従するのだからな」
「先輩! いくらなんでも、それは言い過ぎでは......」
「主に逆らうか、遠藤直経?」
「ひっ!」
秀介に反論した三郎を、独裁者の威厳で抑え込む秀介。
「いいな。我が雑賀を滅ぼし、我が天下を統一する。そのためには、敵とみなした者に情けなどかけてはならぬのだ。そして、邪魔する奴にも容赦はしない......」
最後に言い放った秀介の一言は、自身に襲い掛かるすべての苦しみにあらがい続ける覚悟を示したものだった。
次からサイドを移します。ボチボチ、織田と浅井以外も書かないとマンネリ化しますので。
里見レイ




