満腹の知らせと二人の苦難
「父上! ただいま戻りました!」
浅井軍が小谷城を出ておよそ半日後、足利に使者として出向いていた満腹が戻って来た。
「満腹、よく戻った。足利将軍は何と言っていた?」
秀介はこの小さな少年にねぎらいをかけ、状況の確認に移る。
「それが、足利将軍様は現在触書を書けない大変な状況になっておりまして......」
「ふむ。まあ、足利家には家臣が少ないからな。他家の手伝いをするほど人員がいないのだろう。別に触書がこの大和攻略の必須条件ではない。大事ないぞ、満腹」
「そ、そうではないんですよ!!!」
報告に落胆せずに落ち着きを払っている秀介に対し、満腹の焦り具合は尋常ではない。
「な、何があったのだ? 思ったままに述べてみよ」
彼の焦り具合を見た秀介は、自由に報告するよう促す。
「ほ、本願寺が畿内周辺に一揆を呼びかけ、足利将軍家と朝倉家に宣戦布告致しました!!!」
「なんだと!? 奴らはこちら側のはずでは......」
秀介は絶句して後の言葉が続かない。そして、浅井軍全体に大きな動揺が走った。
これは、浅井軍出陣の丁度一日前のことである。
「分かったわ、満腹ちゃん! 使用人たちに命令して一万枚書かせるってお父さんに伝えて」
浅井の使者に自信満々に答えているのは足利義昭役の四谷雪。姉川前後とは打って変わった、彼女本来の元気ぶりである。
「ふう。井田、じゃなくて長政殿も元気そうで良かった。彼は一気に色々あったから、雑賀が出てきて精神が完全に壊れたかどうか心配だったんだよ」
隣でコメントしてたのは、朝倉義景役の伊藤誠二だ。第二回包囲網会議の後、越前の安全が確保されていたのを確認できたので雪の手伝いをしている。
「父上は、本気で雑賀衆を滅ぼそうとしています。そして、その後は織田に戦いを挑み、完膚なきまでに滅ぼされるつもりです。お二人が父上と共に戦って下さることを満腹は大変うれしゅうございます」
うれしそうに頭を下げる満腹。
「......そうね。あいつなら、そうなるわよね。」
それを聞いて、雪は少々しんみりとなる。戦う気はあっても、彼女にはリョウたちを殺すまでの覚悟はできていない。
「よつ、じゃなくて義昭殿。もう織田との和平の道はないんだよ。彼がそう決めた時点でね」
誠二は彼女の心境を読んで軽くなだめる。ただ、表情は若干暗めだ。
「それでは、私はこの辺で失礼します。父上にすぐ報告をしたいので」
さすがの満腹も、時代が違う人の秘密なる心境まで読み取ることはできず、そのままお暇宣言。
「ああ、うん」
「気を付けてね、満腹ちゃん」
この時代の人間がいることを思い出した二人は、気分を強制的に切り替えて挨拶をする。
と、その時だった。
「申し上げます! 石山本願寺が足利・朝倉両家に突然の宣戦布告! 将軍様が先導していた一揆勢力と抗争を開始しました!」
トライアスロン直後の選手のようにバテバテの状態で、一人の使用人が雪たちに衝撃的な報告をもたらしてきた。
「なんで!? 本願寺って織田の敵でしょ?」
「ちょっ、僕たち何か彼らに悪いことした!? お坊さんを怒らせちゃうって......」
「誠二! そういう問題じゃないでしょ! ど、どうしよう。私のとこ戦力無いわよ」
「僕だって戦いばかりで兵士たちはヘトヘトだよ。い、井田に援軍を......」」
「馬鹿! その井田に協力を頼まれてたんじゃない! ......あっ、まだ満腹ちゃん居るんだった。えっと、満腹ちゃん。このことをお父さんに伝えて。こっちはヤバイって」
「あ、えっと。分かりました」
こうして、信長包囲網の他メンバーたちにも試練が降りかかる。
行きつく先は、闇しか見えない。
お待たせしました。とりあえず、雪と誠二も最終決戦の舞台に上げました。もう少し二人を描いた後に、武田・徳川へと進めていきたいです。
里見レイ




