始まりの静寂
定期的に食事は来るが、この牢屋には長い間訪れていない人物がいた。
本来ならそれが普通なのではあるが、今まであったことが無くなる事は慣れないというもの。
そんな状況の中、磯野員昌役である中山優姫の心境は、複雑を極めていた。
「来てほしい、かもしれない。けど、噂を信じたくない。でも、今まで来ないのは噂が本当だということ。今来てもらっても、何も言えない」
優姫はこの独り言を何度も口に出している。それしか言えないと表現するべきかもしれない。
「......」
優姫は黙って天井を見上げる。答えは、未だ見つからない。
「......中山さん。報告がある。聞いて欲しい」
しかし、時は望まなくても進んでいく。
歩は遂に優姫の前に現れた。
「......そうですか。華香はやっぱり」
「うちの速水がその亡骸を戦場に持ち込んできた。それで黒木君を挑発したんだ。姉川の後彼女を世話していたのは彼だからね」
「三郎も、雷光寺さんと同じことをしたんですね。あいつも少し成長したのかな」
懐かしそうな目になる優姫。幼馴染の変化をかみしめている。
「それで、ここからは提案だ。中山さん、どうか織田の侍大将として戦ってくれないか? 黒木君も井田もそれぞれの道を歩き始めている。君を縛るものはもうないんだよ。残念なことだけど......」
俯きながら、歩は以前と同じ提案をする。伝えなければならないことを言い終え、安心する様子はない。
「先輩には叶がいる。三郎は華香のために泣いている。そして私は......」
「......」
「雷光寺さん。その提案を受け入れる際、少し無謀な条件を付けてもよろしいでしょうか?」
「......聞いた上で判断しよう」
今までと違い目力の入った優姫の視線を歩は真顔で受け止める。
「一つは井田秀介か黒木三郎が私の帰参を望んだ時、どちらに付くかを私が決めること」
「まあ、君は捕らわれの身だからね。不都合は多いだろうから俺は構わないよ」
「もう一つ、私の住居なのですが......」
「速水の屋敷をそのまま使ってもらおうと考えてる。君が率いるのは、あの男の部隊だからね」
「あなたの屋敷に居候でよろしいでしょうか?」
「ゲフ!?」
優姫の提案に歩は思わずむせ返る。彼の人生で類のない驚きぶりだ。
「何となくです。私は浅井からの裏切り者、いつ暗殺されるか分かりませんので。例え織田家にも、私を嫌う人が出てくると思います。ですので、あなたの保護を受けたいのです。今まで通り......」
優姫は顔を下に向け、モゴモゴと話す。彼女周囲の気度が少し上がった。
「......責任は、果たさないとね。庇護者として」
頭を掻きむしり、小さく返事する歩。
辺りに広がる静寂は、この決断をどのように見ているのだろうか。その意見が賛成でも反対でも、二人の未来が前途多難なことに間違いはないだろう。
......予想道理かもしれません、この二人の展開は。フラグは出番のわりに一番多かった組み合わせだと思いますので。ただ、単なる「甘さ」だけではないように心がけています。
他の人たちよりは甘いと思いますけど。歩も優姫も積極性は高めですので。
そ、それでは次の話で。織田のシーンはまだ続きます。
里見レイ




