戦士の対談
丹羽長秀。「米五郎左」「鬼五郎左」という異名を持ち、信長の姪を妻にした信長の懐刀。戦でも内政でも力を発揮し、柴田勝家に並ぶ織田家の筆頭家老である。
長秀として召喚された雷光寺歩もまた、信長役の少年リョウの親友であり、織田家のまとめ役をしている。
ただ、今まで彼が戦場に出てくることは今までなかった。いつも本陣にいたのである。
そんな彼が今、戦場の、しかも最前線で刀を構えている。相手は、三郎だ。
「……」
三郎は、必死に歩の様子をうかがっている。
先ほど、歩は散らばっていた二十人程度の兵を一瞬で片づけたのだ。その技量は、竜牙を上回ると考えていいだろう。
狂戦士化しなければ、竜牙と互角に渡り合うことができなかった三郎である。現在の状態では、歩に手も足も出ないはずだ。
「あ、そうそう。戦う前に君に伝えておくべき事があったんだ」
歩、長刀を構えたままで話し始める。表情から悪意は感じられない。
「聞いておきましょう」
三郎、竜牙より信頼に足る人物だと考え続きを促す。
「君の幼馴染、中山優姫は生きている」
淡々と、事実のみを伝える歩。今は私情を挟む状況ではない。
「それは、本当ですか?」
淡々と確認作業をする三郎。ここで動揺しては戦いに支障が出る。
「ああ、今は岐阜の城に捕らわれている。そして、浅井に戻るか織田につくかで悩んでいる」
「! 優姫が、織田に?」
三郎、今回ばかりは動揺を隠せない。もしここで優姫が織田に寝返ってしまっては、今までの三郎の行動が水の泡となってしまうからだ。
「何か、脅しでもしたんですか?」
耳を疑いつつも、確認作業を進める三郎。まだ、同じような切り札がこちらには残っている。
「熱心に説得はしたが、彼女に心身共に傷つける行為はしていない。これは誓えるよ」
「雷光寺、毎日行ってたもんな。あの女のとこ」
歩の回答に、補強証言をする竜牙。半分呆れ顔である。
「ま、僕も似たようなことしてますけど」
三郎、向こうの話が一区切りついたところで話題を変える。このまま向こうのペースになるのは気分が悪いからである。
「ほう、聞いてみようか」
あっさり聞き手に回る歩。対応力の速さも、彼の武器の一つである。
「小谷には、戸谷華香が捕らえられている。僕も、彼女を説得中です」
「......まあ、予想はしていたが本当にそうだとはね」
三郎ほどは驚かない歩。彼の情報収集力は、桁違いだからであり、その事実を裏付ける話を何個か聞いているからである。
「それで、織田家の家老様が僕に一体何の御用ですか?」
三郎、歩がわざわざやって来た真意をまだ掴めていない。
「その、中山さんについてだよ。彼女は、君たちが生きている限り織田の味方をしてくれなくてね。降伏してくれるように頼みに来たんだ」
穏やかに提案する歩。元から三郎たちの命を取るつもりはないらしく、優姫を材料にして降伏をさせやすくしているらしい。
「僕たち浅井家が魔王織田軍団に降伏など、今の状態じゃ有り得ませんね」
表情を硬くし、拒否する三郎。彼の誇りはここにあるからだ。
「そう言うと思ったよ。まあ、だからこうして勝負しに来たんだ。受けてくれるよね?」
腰をかがめ、戦闘準備万端の体制をとる歩。彼が、説得に応じるとはもとより思っていない。
「ま、仕方ありませんね。先輩からの作戦も、こうして失敗してしまった訳ですし」
しっかりと斧を構える三郎。恐怖は、ない。あるのは闘争心のみ。
(ま、ここで死んでももういいや)
優姫が生きていると知り、自分の役目が終わったように感じる三郎。あとは、先輩である秀介の為に全力で戦うまでである。
正直、この一騎打ちで死ななかったとしても、処刑されるのは目に見えている。そして、今の三郎に勝ち目などない。
人は、死を目前にするとここまで清々しい気分になれるものなのかと考えながら、じわじわと歩との間合いを詰めていく三郎。
しかし、その崇高なる一騎討を最悪の形で始めさせる人物が、現れる。
「黒木三郎。その前に、少し時間をくれないか」
突如、白き霧が戦場の中央に現れる。その後登場したのは他でもない、陸だ。
首に布を巻いていていかにも苦し気だが、顔は大いに笑っている。
「これを見てもらえるかな?」
陸、肩に担いでいたものをポンと放り投げる。
「お、お前!?」
真っ先に反応したのは、歩。最近の陸の行動から推察し、真っ先に結論を確認する。
「マジ、なのか?」
いつになく絶句する竜牙。目の前の状況を信じようとせず、何度も目をこする。
「......き、貴様」
そして、三郎が口を開く。次第に目の色が失われていく。
陸が皆に見せたもの。それは、全身を十字槍で貫かれた、戸谷華香の死体だった。
ここから、シリアス具合に加速がかかると思います。
里見レイ




