一騎打ちと計略
「ふん、所詮お前の力はこの程度だったか」
戦場の最前線にて、三郎の攻撃をことごとく受け流す竜牙は余裕にそう挑発する。
「ウウウウウウウ......」
三郎、唸り声をあげて力いっぱい斧をぶつけるも、竜牙にはちっとも通じない。
「どうした? もう終わりか?」
なんとなく、竜牙は悪役口調になっている。妹の仇をとるのなら、もう少し正義の味方っぽい言動をするべきではないのだろうか。
まあ、とらえ方によっては気さくな兄貴の口調と考えることができるわけだが。
「......退く」
三郎、ボソッとそう言うと、勢いよく後ろに下がりそのままダッシュ。
「逃げる気か!?」
竜牙、急いで三郎の後を追う。これで逃げられたら、自身のプライドが持たないのだ。
それに対し三郎は、ただひたすら走った。プライドを捨て、感情を捨て、作戦を実行する機械となったのだ。
「伏兵第一陣、行け!!」
全速力で逃げながら、大声で指示を出す三郎。それに呼応し、バラバラと足軽たちが姿を現し、竜牙の前に立ちはだかる。
「雑兵は失せろおおお!!!」
竜牙、複数の兵を槍の一振りでなぎ倒す。一騎打ちを再開させ妹の仇討ちを成し遂げるという思いが、いつも以上に竜牙に力を与える。
「二陣・三陣、一気に行け!!」
三郎、竜牙を足止めすべく、一騎打ちの作法そっちのけに指示を出し続ける。
竜牙さえ倒せば、三郎に立ちはだかる敵はもういない。ただ竜牙を倒すためだけの存在としてふるまっているのだ。
「あと、二十メートル」
三郎、前方を確認し作戦地点への距離を確認。呼吸の乱れを抑えつつ、全力で走る。
「どこまで行く気だあ!」
竜牙は、着々と三郎との距離を詰めていく。元々の運動神経で差が大きく開いているのだ。
「あと、十メートル......」
三郎の頭が熱を帯び、思考を妨害し始める。それでも、足がフラフラしないように精神を注ぐ。
「つ、着いた......」
そして、ついに作戦地点にたどり着く三郎。竜牙には、追いつかれなかった。
「ゆ、弓隊......か、構!!!」
地面に倒れこみそうになるのを必死に耐え、作戦実行の合図をする三郎。すると、彼の周りの空気がかすかに動き出す。
「あ? 何言ってやがる?」
竜牙、三郎より後方五メートル地点に到達。何人もの兵を一掃し、ここまで差を詰めたのだ。
「お前もここまでだな。念仏は唱えなくていいのか?」
完全に肩で息をしている三郎を見て、思わず笑みをこぼす竜牙。
「......終わりなのは、お前だ」
三郎、ようやく息を整えて竜牙に返事する。そして、バッと腕を振り上げる。
それに呼応し、敵味方入り乱れる人ごみの中から二十人ほどの弓を持った兵士が現れて、竜牙を数メートルの距離を置いてぐるりと取り囲む。
そう、秀介が授けた作戦とは、竜牙を全方位から弓矢で仕留めるということだったのだ。
これにより、形勢は一気に逆転。竜牙の表情に焦りが見え始める。
「くそ、謀りやがったか」
舌打ちまでする竜牙。さすがの彼でも、二十発以上の矢をかわし切ることはできない。
「素直に降伏してくれれば、浅井家家臣として扱いますよ」
安堵した表情で話しかける三郎。追いつかれてしまうかと内心ひやひやしていたのだ。
「即死までは、いかないだろ......フン、かかってこい!!!」
そう言って、槍を構えなおす竜牙。降伏という選択肢は、彼にはない。
「そうか。ならば、少々痛い思いをしてもらおう」
三郎、上げていた腕を前に下ろす。各場所で弓兵たちが矢を放とうとしたその時だった。
「俺の同級生に、手出ししないでもらおうか!」
竜牙の後方の弓兵たちがバタバタと倒れ、そのままドミノ倒しのようにほかの兵たちも崩れていく。
あっという間に三郎の用意した伏兵たちが全滅し、三郎と竜牙の間に一人の剣士が割って入る。
「織田家家老、丹羽長秀役。雷光寺歩、ここに推参。黒木三郎、ここからは俺が相手する」
そのまま、長刀を構える歩。応じて、斧を構えなおす三郎。何となく、二人から距離を置く竜牙。
さて、三郎の戦いは、ここからが本番である。
三郎は、これからおおいに苦しみます。ご注意ください。
里見レイ




