長政VS半兵衛
坂本の戦場にて、秀介と陸は一騎打ちを始めようとしている。
手出ししようとする者は、いない。
そのことが、本人の誇りを傷つけることをよく知っているからだ。
「なあ、井田。大切な人を殺された気持ちって、分かるか?」
手元で包丁をクルクル回しながら、秀介に尋ねる陸。
「分からないな。分かってしまったら、立ち直れなくなるだろうから」
槍を構えながら答える秀介。
「なるほど、お前はマジで戦国に染まってるんだな。この残虐と裏切りの世界に」
陸の目は、遠い空を見ており秀介を見ていない。
「別に、戦国はそれだけじゃないぞ。力と知恵でのし上がれる世界だし」
秀介は、怒ってはいない。その質問は、現代でよく言われるからである。
「それに、意味のない殺しが全くない時代でもあるぞ。近代兵器のような、大将だけが手柄になる戦争ではないしな」
秀介にとって戦車や毒ガス、原爆のような誰の手柄か分からない兵器のほうが、よほど残虐に見える。
人を殺した上に人がいるというのは、命のやり取りの有無に関わらず存在するのだ。
「ふーん。じゃあ、君を殺せば俺は人生華やかになるかな?」
ニヤリとする陸。
「戦場で包丁を持つというのは俺の志向には合わないが、まあ言っていることは合ってるだろうな」
秀介は、やはり包丁で戦場を駆けるということには納得がいっていない。
ただ、以前ほどに怒りは感じない。人それぞれに合う武器があることを実感したためだろうか。
「そう。じゃあ、死んでもらうぞ」
再び陸の周りを霧が包む。
「......」
秀介、一歩も動こうとしない。ただ、首を左右に振り続けるのみである。
「ふっ、死を受け入れたのか? あがいてくれたほうが、殺し甲斐があったんだけどよ!!!」
陸、音もなく秀介の後ろに回り込み、姉川の時のように秀介の腰に包丁を突き刺す。
ガンッ!!!
包丁は、腰に命中した。しかし、前回のような鈍い、刺した音ではなかった。
そう、何かが割れる音......
「速水、お前は立派な殺人鬼さ」
秀介、痛がる様子なく陸に話しかける。
「けど、戦士や傭兵、騎士たちと殺人鬼は別物なのは知っといてくれ。俺たちはな、殺すのを楽しんでいるわけではないのさ。お前らと違ってな......」
「い、井田?」
陸、何が起こっているのか全く理解できない。
ブンッ! ザクッ!!
「えっ......」
陸、信じられないような目で自分の首元を見る。
そこには、刃渡り数センチの刃物が刺さっていた。
これは、秀介の子飼い、発の作った「刃物わらじ」である。中身はその名の通り。わらじの内側に遠心力をかけると飛び出てくる刃物が仕込まれているのだ。
「俺達には、使命があるんだよ。守るべきもののため、笑顔にしたい人のために戦ってる。殺すことに喜びを感じたことは一回もないんだよ」
普通のわらじに履き替え、腰から茶々子お手製の腹巻を取り外す秀介。
すると、バラバラと木片が落ちていく。満腹が集めたものだ。
そう、坂本へ来る途中に秀介が子飼い衆に用意させた「対半兵衛用秘密兵器」とは、これなのである。
腰に陸の包丁が来るのを予測し、それを防ぐための木片を腹巻により固定。向こうが驚いたところで、後ろから飛び出る刃物で攻撃したのだった。
なお、首には防御加工をできなかったので、ひたすら動かして標的から外させたということだ。
「お前の負けさ、速水。命が惜しけりゃさっさとテレポートしな」
すぐにとどめを刺さず、逃げる猶予を与える秀介。知り合いをむやみに殺したくないのは、人類普遍の心理である。
「ふっ、後悔すんなよ......」
陸、首に感じる痛みに耐えながら自身を霧で包んでいく。
「ま、石山の件がなければ、もう少しすがすがしい戦いができたのかもしれないけど」
陸の残した包丁を眺めながら、秀介はそう呟く。相手を殺すかどうかはともかく、秀介は戦いを楽しむことができるのだ。
「父上、『半兵衛を撃退した』と言いふらして参ります!!」
満腹、タイミングよく登場。事前の打ち合わせ通りのことを実行に移そうとする。
「ああ、頼んだ」
まだ戦は終わっていないと思い出し、許可を出す秀介。
こうして、織田家のチート軍師、竹中半兵衛こと速水陸は敗走したのだった。表舞台では。
結構ボリューム多くなりましたが、楽しめるようにはなったと思います。
一話の量については、二千字は超えないようにしたいです。
里見レイ




