信長と長秀
「浅井は四万の兵で北の平野に陣取ってるそうだ。こちらを誘い出そうとしているのだろうね」
ここは、宇佐山城の一室。丹羽長秀として召喚された長髪の少年、雷光寺歩は、偵察からの報告を主君に伝える。
「四万ね......」
腕を組み、考え込む信長役の少年。その眼は傭兵のように鋭い。
「浅井長政、つまり井田秀介はなお存命。彼の働きかけで、農民たちが義勇兵として参戦しているらしい」
続けて報告する歩。織田家は、情報戦において他家を圧倒しているのだ。
「勝てると思うかい?」
少年が尋ねる。
「井田がどこまで対策しているのかが分からないからね。慎重に動くに越したことはないよ」
歩の耳にも、秀介の戦国武勇伝は耳に届いている。姉川でも、松平がいなければ敗北していたレベルであろう。
「仕方ない、僕たちも前に出よう」
少年、淡々と大胆発言。
「おいおい、俺たちが前に出たら織田の指揮系統が混乱するぞ!」
口調を強める歩。大将が軽々しく前に出たら失敗が大損害になる。
「井田とけりをつけるのさ。君もあの娘の幼馴染と一戦したらどうだい?」
「おまえなあ......」
頭をかく歩。何かと痛いところを突かれるのだ。
「人というのは大抵個人の感情で動くもんだろ。君も素直になればどうだい?」
「そう言うお前だって、奥方にたいして態度がはっきりしてないだろ。妻なんだから相手してあげるのも大名の義務だろ?」
「僕はあの人に好意はひとかけらも持っていないよ。君と違ってね」
「ああ、もう......」
歩は親友に一度も敵ったことがない。
「ま、そういったことよりも先に石山と速水が戦うだろうね。彼らは井田たちに憎悪を持っている。僕が命じてやめさせることすら不可能だろうね」
「彼らで大丈夫なのか? 対策されてると思うぞ」
「やられる寸前に僕たちとバトンタッチさ。死なせはしないよ」
「それで、全体の指揮はどうするんだ?」
「松野に任せる。彼なら問題ないさ」
「一騎打ちの相手を見つけなければね......」
着々と作戦を立てていく歩と少年。織田家の方針は、いつもこの二人で決めている。
「大丈夫、井田を降伏させれば僕たちの勝ちさ。信じてほしい」
「ったく、お前がそこまでこだわるとはな」
「一度、彼と本気で戦ってみたいんだよ」
子供みたいな笑顔をする少年。
「天才のお前が、秀才のあいつと戦う。おもしろいかもな」
つられてニッコリする歩。親友がこんなに楽しそうな顔をするのは、戦国に来てから初めてだろう。
「じゃ、石山と速水呼んでくるよ。念のため、くぎを刺しとかなきゃいけないからね」
立ち上がる歩。家臣を集めて方針を伝えるのも、彼の任務だ。
「ああ、頼んだぞ歩」
「すぐ戻るから心配すんなよ、リョウ」
笑顔で答え、部屋の外へと出る歩。
「俺が本当にこの刀を使うとはね」
手に持った一メートルにも及ぶ刀を見て、ふと呟く歩。
この時代に召還したときから手元にあり、以後持ち歩いていたものだ。
今までは、戦の時は本陣にいてばっかだったので抜いていないが、あの狂戦士相手なら、抜かざるを得ないだろう。
「ま、何とかなりそうだけど。この刀は死んでも俺のもとから離れそうにないしね」
その言葉が口から出てきたのは、自分の体に眠る力を認識したためなのだろう。そして、その長刀のおかしな能力を認識しているからである。
「何で、置いてきたはずのに気が付いたら手元にあるのかねえ......?」
そう、彼はこの戦の前に邪魔くさいこの長刀を岐阜に置いてきたのだ。しかし、坂本に進軍して間もなく、右手に何かがはまった感覚がしたと思って確認すると長刀があったのだ。
「勢いあまって刀振りかざして、近くにいた兵を殺しそうになるのはホントに怖いよな。俺の立場からして使いどころがなかったと思ったが、あの子相手ならむしろ好都合か。さてと、この戦いはいったい何が起こるのだろうねえ......」
それから数時間後、織田軍は全軍で北へと向かう。
歩と少年の最大の賭けが、始まろうとしていた。
キャラが多いと、必要な会話シーンも多くて大変です。
里見レイ




