叶の想い
さて、発は叶と手をつないで、戦準備中の廊下をテケテケと歩く。
叶は、兵たちに笑顔でねぎらいの言葉をかけていくのを忘れない。
そんな風に、チアリーディング部である叶にとっては単純な動作を繰り返しているうちに、彼女はいつの間にか一月前の回想へと想いを巡らせていた。
叶が姉川の戦場へと足を運んだのは、織田に自分の気持ちを分かってくれる人を探すために他ならない。
浅井家に召喚された者はみな、戦国の定めに従って戦いを繰り広げていたが、叶にはそれが耐えられなかったのだ。
戦場全体を見渡せるところまで移動した叶は、そこから織田本陣の中まで見ることができた。
そこで気が付いたのだ、南蛮衣装を着ている人が、とても小さくしか見えないが、それでも兄に似ているということを。
興奮した叶、これを確かめるべく、戦場付近まで駆け下りる。
その時のことだった。
ふと、視界についこの前見たことのある衣装の男が、以前自分の目の前に突如現れた男に後ろから包丁で刺されたのが入った。
その時、自分の中から何か力を感じ、この後の一連の出来事により、自分自身の何かが変わったのかもしれない。その何かとは......
「母上」
ふと、今まで無言だった発が口を開き、回想から連れ戻される叶。
「どうしました? 疲れましたか?」
子供の前では、叶は落ち着きのある母親として振舞っている。それが、突如戦国に放り込まれた自分の存在意義を保つ方法の一つだと考えているからだ。
「母上は、父上のことを愛している?」
以前、茶々子が質問したことを繰り返す発。
「うーん、そうですねえ......」
その時は大慌てだったが、今回は耐性ができているようだ。あまり動揺していない。
「昔よりは好感持てるようにはなりましたね。あの人の信念も、少しは分かるようになりましたし」
「しんねん?」
発はまだ六歳である。さすがに「信念」は難しかったのかもしれない。
「絶対に守りたい想い、といえばいいのでしょうか?」
辞書的な意味は分からないので、秀介の場合に当てはめて答える叶。
「父上が守りたいもの?」
まだ、よく分かっていない発。
「まあ、そのうちあなたにも分かる日が来ますよ」
そう言って、微笑む叶。
「民と家族を守りたい」と思っているのは、秀介だけではないのかもしれない。
(この子たちのためなら、あの人について行っても良いかもしれないかな......)
そのように、心の中で呟く叶だった。
少し短いですが、きりがいいので。このへんで。
里見レイ




