坂本にて
なんとか史実をモチーフにしたいんですが......
近江、坂本。
史実では、近い未来に織田家重臣、明智光秀が、坂本城を築き、織田の近江征討の拠点となる場所となっている。
ただし、この時期はまだ比叡山の門前町である。
歴史の教科書に載るほど有名な「信長の比叡山焼き討ち」からも分かる通り、比叡山は信長包囲網の一派だ。
先日、足利将軍の四谷雪の働きかけにより、比叡山も信長との戦いを本格的にすると宣言。各地の門徒に声をかけ、一向一揆を仕掛けている。
そして、浅井も比叡山の協力を得て、織田方の城である宇佐山城を攻略しようとしているのだ。
知らない人も多いだろうが、この一連の流れは、ほぼ史実通りである。
姉川の戦いは、本来ただの小競り合いという学説があり、姉川の戦いの後、浅井はすぐまた進軍を開始しているのだ。そして、もうしばらく織田と浅井の戦いは続く、というのが史実なのだ。
ただ、もはや史実はあてにならないことを、秀介は思い知らされることになる......
「織田軍三万八千が宇佐山城に!?」
軍を坂本で休ませながら、偵察を送った秀介。史実と大きく異なる事実に唖然となる。
史実では、この「坂本の戦い」では、宇佐山城は兵千人ほどしかいないはずだった。
第一、あちこちで一揆が起こっているというのに、どうやってここまでの兵を一か所に動員できるのかが分からない。
「はい、信長をはじめ、明智光秀、丹羽長秀、前田利家、竹中半兵衛など、織田の主力武将のほとんどが集結しているそうです」
知らせに付け足しををする偵察隊長。
「一向一揆は?」
「滝川一益が全地点を担当している模様」
「あー、そういうことか......」
頭を抱える秀介。
滝川一益とは、史実では、有名な「伊勢長島一向一揆」を平定した、織田家重臣。
信長は、彼に一揆への対応の全権委任をしたのだろう。
「はあ、これは全面衝突だな」
ため息をつく秀介。目を閉じ、これからの方針を練り直す。
「......野戦だな」
秀介、宇佐山城近くの平地で真っ向勝負をすると決める。
もとより、姉川で辛酸なめられた相手である半兵衛役の速水陸と、利家役の石山竜牙への作戦は、できあがっている。それを大軍用に変更するだけだ。
「高虎!」
「何でございましょう?」
呼ばれて飛び出てなんとやら。高虎はすぐに秀介の招集に応じる。
「明日の朝、軍議を行う。その後、出陣だ。織田とこの場でけりをつける」
「かしこまりました。主要な武将の方々に伝えてまいります」
と、そのまま走り去ろうとする高虎。
「あ、待て! お主にはまだ伝えることがある!」
慌てて呼び止める秀介。
「今回の戦、お前に磯野員昌の部隊を率いてもらう。仮ではあるが、お前も武将に昇格だ」
「え!? よろしいのですか?」
突然の人事に、大いに驚く高虎。
優姫が行方不明になってから、彼女の部隊は秀介が預かっていた。小競り合い程度なら別に良かったが、さすがに野戦となると軍の機動力が落ちる。
そこで、未来の大名、高虎に部隊を指揮させようというのだ。
「本来、お主は武将であるほうが性に合っている。雑務は満腹たちにやらせるから、心配ない」
「い、いや、しかし......」
それでも戸惑う高虎。
彼は、数か月前までただの足軽だったので、破格の出世である。しかし、それゆえに家臣団の和が乱れないか心配しているのだ。
「家臣の才能を活かすのが主君の務め。遠慮なく働いてくれ!」
秀介は、そのような空気を作らせるつもりはない。今大事なのは、有能な家臣に能力にあった地位を与えることなのだ。
「は、はい! この高虎、長政様の大恩に報いるべく、全力で武将の務めを全ういたします!!!」
その言葉に、昇格を受け入れ、地面にひれ伏す高虎。
そして、側近の最後の務めを果たすべく、去っていった。
「父上、母上が呼んでおります」
高虎と入れ替わりにやってきたのは、新しい雑用係にして秀介の子飼い、満腹。おそらく、話しかけるタイミングをどこかでうかがっていたのだろう。
まだ、正式に家臣の前で発表はしていないが、この子はすでに務めを果たしている。
「そうか......今行く。案内してくれ」
秀介は、坂本についてから、妻役の叶に会っていない。そして、どこにいるかも知らないのだ。
「こちらです」
堂々とした足取りで進む満腹。八歳とは思えない大人ぶりだ。
一方の秀介、
(一体何の用なんだろう? 心当たりは一切ないぞ。はてはて)
と、要件のことで頭がいっぱい。目の前の柱にぶつかってしまう有様だったとさ。
結局、史実とは比べ物にならない大決戦になりそうです。
ま、物語はまだ全然終わりませんけど。
里見レイ




