人質たち
上から辛うじて差し込んでくる日の光のより、昼夜だけは何とかわかる。
冷たい木の床も、ひと月座っているとぬくもりを感じ、部屋の広さも頭に叩き込まれていく。
無表情な顔の裏には、あらゆる想いがしのぎを削りあっていて、いつまでたっても決着がつかない。
その原因の人物が、今日も優姫のもとを訪れる。
「そろそろ決断はできたかい、中山さん?」
彼の名は雷光寺歩。織田家の重臣、丹羽長秀として召喚された。そして、優姫が織田に仕えるようにと毎日説得に来ている。
覚えている方がいるか分からないが、姉川の時に信長役の少年の隣に立っていた長髪の少年である。
「あなたもお人よしですね。姉川の後に大けがの私を手当てして、この岐阜まで連れてくるなんて。それでいてスカウトだなんて、本物の長秀顔負けの頭の柔らかさと優しさですね」
「ありがとう。最高の誉め言葉だね」
穏やかな笑みを溢す歩。その魅力に思わず優姫は倒れそうになる。
しかし、優姫には浅井でともに戦っている秀介と叶、そして幼馴染の三郎がいる。彼らの生死も分かってないのに、自分だけ安穏と織田に寝返ることはできない。
「浅井長政、お市の方、そして遠藤直経の生死について調べていただけませんか? もしみんな死んでいたら、私は織田につきます」
ひと月も沈黙したままでは流石に歩に悪いと考え、条件を出す優姫。
「分かった。浅井に関しては情報がかなり錯綜しているが、できる限りのことはする。他ならぬ、君のためだからね」
笑顔で答える歩。そしてすぐ作業に入るべく、立ち去る。
(みんな元気にしているのかなあ......華香も)
ぼんやりとそんな事を考える優姫。その瞼の裏には、歩の笑顔が焼き付いている。
ところ変わり、こちらは小谷の牢屋。戸谷華香は出されたご飯を食べながら、今日もある少年の相手をしている。
「僕は君の力を必要としているんだ。それに、君を死なせたくない。このままでは、君は敵将として処刑されてしまう。これでは優姫に顔向けができない。だから、早く浅井につかない?」
三郎である。毎日やって来て、この話ばかりする。
「優姫は、生きてんのかよ?」
あまりにも毎日しつこいので、ついにしてはいけない質問をする華香。
「......分かんない」
声を沈めて答える三郎。ここに来ない時点で、帰って来ていないことは確実である。優姫が親友の華香に顔を出さないはずがない。
「優姫が死んだと分かっても、説得を続ける気か?」
「うん。弔いになるから」
結構きわどい質問をしたつもりだが、三郎は即答する。内心、優姫は死んだと考えているからかもしれない。
「じゃあ、優姫があたしを殺そうとしたらどうする?」
「それはないよ。君は優姫が僕によく話すくらいの親友なんだから」
「もしもの話だ! お前は優姫のためにあたしを助けようとしているのかって聞いてんだよ!!!」
つい、怒鳴ってしまう華香。彼女には三郎の気持ちが分からないのだ。
「......」
黙り込む三郎。
「ど、どうなんだよ?」
突然の沈黙に、少々慌てる華香。彼女にとって三郎は人生最大の謎になっている。
「君を苦しめたくないからやめておく。どっちにしろ、君は満足しないだろう?」
そう言って、三郎は立ち去る。表情は、やはり暗いままだった。
「何なんだよ、あいつ......」
華香には、何も分からなかった。




