家族対談
・前回までのあらすじ
三人の子供、満腹、茶々子、発を子飼い(事実上の養子)として浅井家に加えた秀介。父がいれば母もという自然な流れで再び市(叶)と対面することになる。
「長政様、市でございます」
「ああ、入れ」
数日前にも同じような光景があったが、そのときより、両者の緊張が和らいでいるようだ。
「お市の方様、どうぞ」
二人だけではなく、三郎がいるためだろうか。いや、それ以上に......
「母上、お初にお目にかかります。私、長男の満腹でございます」
「長女の茶々子でございますー!」
「次女の発。よろしくお願いします」
深々と礼をする三人の幼子。秀介が見込んで引き取ったわけだが、三人とも秀介を父として慕い、市を、つまり叶を母として慕おうとしている。
「な、長政様?」
叶、思わずタジタジになる。まあ、見知らぬ子に「母上」と言われたなら当然の反応だが。
「高虎から聞いたであろう? こいつらを引き取ったと」
「え、ええ。まあ......」
「で、母であるお前に会いたいと言ってな、こうして引き合わせたわけだ」
叶、頭では理解しつつも心がついていけていない。
「父上、私たちは母上の負担なのでしょうか?」
叶の表情を読み、秀介に尋ねる満腹。
「ま、ただ驚いているだけだろう。案ずるな」
満腹の頭をなでながら答える秀介。
「そうなら良いのですが......」
「あ、案ずるでない。妻は初対面の者に弱いだけだ」
「父上がそこまで仰るのなら、そうなのでしょう」
「ま、まあな」
正直、叶の困惑の理由をそのまま話すわけにはいかない。冷え切った夫婦子供は大変だと内心で実感する秀介。
「あのう、父上と母上の間に、愛はないのですか?」
突然、突拍子な質問をする茶々子。
「えっ!!?」
あまりにもの質問だったので、硬直してしまう叶。
「わ、私はまだ彼に本名すら明らかにしてないし、愛なんて全くないというわけではないけど、どうせ、わ、私なんて......」
大慌てで、子供たちを混乱させるような言葉を言い出す叶。
「夫婦は愛だけで成り立つものではない。俺は妻を妻としてしか見とらんぞ」
一方の秀介は満腹の疑問の時点で予想がついていたので、冷静に説明。先に向こうが慌てた分、回答をまとめる時間もあったためだろう。
「では、父上は、茶々子のことを愛してくれないのですか?」
なぜか涙目になる茶々子。
「え! なんでそうなんだよ!? お前は完全に俺の娘であってだな、茶々子のことはちゃーんと娘として愛しているからな! そこは絶対だぞ! もちろん、満腹も発のこともおれはちゃーんとちゃーんとあ、愛していて......」
今度は秀介が焦りだす。必死に弁明しようとするが、まず秀介は茶々子の言っている意味は分かるようで分かっていない。
「先輩、子供の泣き顔は苦手だからなあ......」
三郎は、ものの見事に、蚊帳の外。
「妻を愛さずに子を愛すことはできないのでは?」
「できる! 子供への愛はあくまで家族愛のみで簡単に成り立つのだよ!」
「しかし、茶々子は家族みんなで愛のある生活を送りたいでございます!」
「いや、そんなこと言われてもなあ......」
「第一、父上は母上を愛していたからご結婚なさったはずでは?」
「断じて違ーう!」
「しかし、父上は母上のお顔ばかり見ておられますぞ。惚れている証拠なのでは?」
「え! いや、別にそんなつもりは無くてだなあ。確かに妻が美人だというのは客観的に見れば万人が認める事実ではあるが、だからって惚れるとは限らんだろう。そもそも、妻とは家の方針を巡ってことごとく対立してしまい水入らずの時間も過ごせず......」
秀介、もはや何を言いたいのか自分でも分からなくなってしまっている。
それを見て。
「......フフッ。それじゃあ、満腹、茶々子、発。母に会いたかったらいつでも来るのですよ」
いつの間に立ち直っていたのだろうか、叶は微かに笑いながら、三人の子の頭をなでて立ち上がる。
「あ、そうそう。秀介様、これからは私のことを叶って呼んでも構いませんよ。名字のほうは、またの機会でお願いしたいですが......」
ふすまに手をかけなががらニッコリして秀介に言う叶。そして、また返事を待たずに出て行った。
「......叶っか。やっと言ってくれたか。にしてもこの名前、どっかで聞いたことあるような?」
少し笑いながらも、また眉間にしわを寄せる秀介。
彼の疑問に答えを出してくれる者は、この部屋にはいない。
ようやく叶は秀介に本名の一部を明かしました。名字のほうは結構な鍵になりますので、覚えておいてください。それでは。
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里見レイ




