逆襲の風が吹く前に 後編
秀介出ます。
・前回までのあらすじ
四谷雪が民衆を扇動して織田の足止めを行う中、太一たち武田軍は様子見を決め込んでいた。特に、浅井の情報が錯綜しているためである。それを受け、四天王の一人春日部露子は秀介生存説を言い......
「俺が戦国に生まれてたらどこまで出世できてたと思う?」
他愛もない放課後のひと時、戦国研究会部室で秀介が優姫と三郎にこんな事を尋ねたことがある。
「反逆罪で処刑される」
あきれ顔で答える優姫。
「武士にすらなれない」
三郎もなんか面倒な表情をする。
「......せめて、『五万石の大名にはなれると思います』くらい言って欲しかったのだが」
あまりにも辛辣な後輩のコメントに冷や汗を流す秀介。
「五万石って大谷さんですよねぇ、先輩には無理無理」
追い打ちをかける優姫。隣で三郎もうなずいている。
「なんでそんなに言うのさー!!!」
もうこう言う事しか出来ない秀介。
「だって先輩......」
そう言いながら笑顔になる優姫と三郎。
「守ってくれなかったじゃないですか......」
二人は足元からキラキラと光りながら消えて行ってしまった。
「お前ら!!!」
ガバッと起き上がる秀介。
夢だった。体中から汗が出ている。
「俺、生きてんのか......」
ここは小谷の秀介の部屋。五感は意識を失う前と同様に働いている。腰にあるはずの刺し傷もない。
しかし、秀介は姉川で竹中半兵衛役の少年、速水陸に腰から包丁を刺されて死んだはずだった。
なぜ生きている。
「誰かいるか!」
部屋の中には誰もいないので大声を出して呼んでみる。ここは自身の居城、その辺の遠慮はいらないはずだ。
「長政様! お目覚めになられたのですね!!!」
案の定なのかお約束なのか、こういう時に真っ先に現れるのは側近の藤堂高虎だった。
秀介が声を出してから一秒もたたずにふすまが開いたので、ずっと外に控えていたのだろうか。いや、それならふすま越しに彼の大柄な影が映るはずである。そんなのなかった。はてはて。
「今はいつだ?」
とりあえず、現状把握を始める秀介。
「姉川での戦いから一週間後でございます」
「なぜ俺は生きている? 浅い傷ではなかったはずだろ?」
「奥方様が、『南蛮医術』というもので一瞬で治されました」
「え、えーと。つまり......」
秀介、こんがらがる頭の整理を始める。
「妻は姉川にいたのか?」
小谷と姉川はそれなりに距離がある。妻の市が小谷にいたら秀介はその道中で死んでいたはずだ。
「はい、陣中見舞いに近くまで来ていたそうです。そして、長政様が倒れるのを近くの丘の上から見て、慌てて医術の用意をして駆け付けたとのこと」
「ふむ、なるほどな」
とりあえず筋は通っているので無駄な詮索をしない秀介。先に進もうと決める。
「武将格の者で生きているのは?」
「行方不明となっている員昌様、直経様以外はご存命です」
(中山、黒木。お前ら本当に俺を置いて......)
後輩たちが安否不明と聞き、さっきのが正夢なのかと考える秀介。しかし、ここでクヨクヨしてはいけない。自分のやるべきことをやるまでだ。
「我は死んだという噂を流せ。我が目覚めたという事は父上とお主、そして家老たちのみの秘密とせよ。家老衆は秘かに軍備をして、父上にはおどけたふりをして時間を稼いでもらう」
「そ、その間、長政様はどうするのです?」
いきなり頭を働かせる秀介に対し、すぐに対応をする高虎。
「情報を集める。あと、味方になりそうなものをお忍びで探す。今我らに必要なのは人材だ。それを忘れるな!」
「はっ! すぐにお伝えしてまいります!!!」
「あ、あと、市をここに呼んできてくれ。もちろん秘密でな」
「かしこまりました!!!」
再び風のように去っていく高虎。
これは、誠二が雪のもとを訪れる二週間前のことである。
ここから、しばらく戦シーンありません。ご了承ください。
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里見レイ




