逆襲の風が吹く前に 中編
今回は武田です。
・前回までのあらすじ
姉川の戦い後、恐怖に支配されて何もできなかった雪は誠二の言葉に動かされた。さて、次に動くのは......
「本当に、戦わないで引いて良かったのでしょうか?」
甲斐、躑躅ヶ崎館。武田信玄として召喚された少年、下原太一は家臣からこう尋ねられた。
「勢いのある火の中に飛び込むのは自殺行為。このまま無傷のまんま松平にプレッシャーかけとけばいいのさ」
淡々と答える太一。そばに座らせている武田四天王の少女たちに微笑む。
「しかし......」
それでも渋い顔をする四天王が一角、馬場信春役の京羅美樹。太一の家の執事の娘で、運動神経抜群。高い動体視力を持つ太一のボディーガードである。
自身が戦うことができずに不満なのだ。自身の武器、鎖鎌を手入れする動きが雑になっている。
「まあ、そう焦んな。私たちの出番はまだまだあるのだから」
そう言って美樹をなだめるのは山県昌景役の小渕沙恵。太一の会社の専務の娘でよく通る声をしている。戦闘にはあまり向かないような、赤を基調とした露出の多い服を着ている。
性格の一致もあり、美樹とはかなり仲がいい。
「はい、美樹さんお茶です! 温まれば気持ちも和らぎますよ」
抹茶を差し出すのは高坂昌信役の春日部露子。メイド長の娘で料理、裁縫、掃除を得意としている。
なぜか出陣の時も今もメイド服で、はたきを常備。前に出て戦わず、常に太一のそばにいる。
「あの......みなさん、報告してもよろしいでしょうか?」
手に書類を持ち、周囲を見渡しながら発言するこちらの少女。名を九度山あいる、内藤昌豊として召喚された。太一の父の秘書の娘で、彼女たち武田四天王のまとめ役。戦闘時は、個人で暴れ放題の他三人にブレーキをかけるのが彼女の仕事だ。
「ああ、どぞ」
若干疲れた表情をするあいるに対し、発言を促す太一。手には、露子からもらった饅頭がある。
「間者によりますと、松平はしばらく出陣の気配はないそうです。私たちと同じく、内政に力を注いでいる模様。織田は、度々出陣してくる朝倉への対応に続き、各地で一向一揆が発生。それらの処理に力を注いでいるようです。なお、一向一揆を裏で指揮しているのは足利殿、つまり四谷雪さんとのこと」
「あの、臆病娘がついに動いたってわけか。なるほど」
これは、沙恵の発言。彼女は一乗谷での雪の言動から雪を完全に見下していたのだ。
「浅井は?」
信長包囲網の最後の一翼、浅井について尋ねる太一。
「まだ、動きはありません。今のところ、前当主久政殿が指揮を執っているようですが......」
言葉を濁らせるあいる。浅井の情報はちっとも入ってきていないのだ。
「ったく、まだ怖気づいてんのか?」
と美樹。彼女は非常に短気である。
「井田殿が死んだとなれば無理もあるまい。催促するのは酷だろう」
口調などは似ているが、沙恵は美樹と違い忍耐強い。
「近々弔問の使いでも出すか。情報がないなら直接行くしかないからなぁ」
ため息をつく太一。
彼は、情報収集に非常に力を入れている。現代ではかわいい女の子を探すための活動だったが、戦国では政策決定の生命線となっている。なお、それにはもう一つ目的があるのだが。
彼が突如出陣を切り上げたのも、織田と松平の全軍を武田が相手するのは無理だと情報から考えたためである。
「あ、あのう......」
ここに来て、何も意見していなかった露子が口を開く。
「どうした、茶葉が切れたか?」
優し気な表情で続きを促す太一。
「いえ、もしかしてなんですけど......」
「早くせい!」
一方の美樹はイライラゲージが高くなっている。
「井田さん、まだ生きているのではないでしょうか? 表立った動きが何もないっておかしくありません?」
驚きの表情をする一同。
戦いは、まだこれからである。
しばらく、投稿が空きそうです。
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里見レイ




