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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第三巻 接触

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59話 大学へ

 ダンジョンを作ったらしき女性が接触したのは、次郎のみであったらしい。
 完全に寝耳に水だった美也は、次郎から聞き出して概要だけは掴めたものの、又聞き故に判断に迷った。
 差し当って二人が直面したのは、その話を綾香と共有するか否かだった。

 綾香に情報を伝えた場合、背後の大人達が右往左往して、データを渡さないために綾香のレベル上げをストップさせる可能性が考えられる。そして次郎たちを研究して病気への罹患や老化を抑える研究が進むかも知れない。
 逆に伝えなければ、オリジナルは次郎や美也と同様にダンジョン製作者側にデータを取られ、老化を遅くされる。そして一蓮托生となり、コピー体は異世界で次郎たちと共に程々に無双である。

「綾香に伝えるのは、絶対に却下。先ず立場を同じにしないと、信用できないよ」
「まあ、そうだな」

 美也の意見には次郎も賛同した。
 利己主義者の二人にとって、自分たちが人体実験に供される事は断固拒否すべき未来である。そのため広瀬大臣らに伝えるという想定は、最初から有り得ないものだった。
 次郎が心配したのは、レベルを得る事で身体の成長の方向性が変わるらしき点だが、現時点で一二歳以上の入場許可者は続々とダンジョンに入っており、既に後の祭りだ。
 それに一二歳以上であれば、概ね生殖能力はある。
 三年間の実証試験中には、成長期の伸びが半減している事に多くの人が気付くであろうし、次回の第二次申請から最低年齢を一四歳以上くらいに引き上げれば、とりあえず被害は限定的になる。

「次郎くん、異世界に綾香ごとコピーされる事はどう思う」

 元和歌山県民を自称した『此方の調整者』は、コピーされる他所の場所として異世界を例に挙げた。

「転移とか収納は、便利だよな。レベル一〇〇なら強さも充分だし、味方に居た方が良いんじゃ無いか」
「…………条件付きで良いよ」
「条件って何だ」
「最大の譲歩が、この世界と同条件」
「うい」

 美也にとって綾香は、競争相手であると同時に協力体制を敷ける仲間でもある。
 他所がどのような環境であるのか分からないという不安が後押しし、綾香の存在を承認へと至らしめた。
 次郎の側には特に否定的な理由は存在せず、結局二人は綾香に対して同じ立場になるまで沈黙を守る事にした。
 最初から選択肢を提示して自主的に選ばせるのが良識的なのだろうが、そのために犠牲になる気は無いというのが、二人の判断だった。

「でも、凄く疑問があるんだけど」
「何だ?」
「日本って、千数百万人がダンジョンに入り始めたし、これから生まれてくる子供も入るから、将来的には挑戦者が何億人になるでしょ」
「ああ、日本人の子供の半分がダンジョンに入るとすれば、何百年後には億単位だよな」
「それなら、一四歳になるまで魔素体じゃなかったレベル一〇〇の人間なんて、いずれ何万人でも出ていると思うけど、どうして先着にするんだろうね」
「ああ。なるほど」

 その疑問には、次郎も同感だった。
 二人が自力でレベル一〇〇に達成したと言っても、厳密には次郎は最終段階で美也の支援を受けているし、美也も初期段階では次郎の支援を受けている。
 さらに綾香のようにパワーレベリングでレベル一〇〇に達しても良いのであれば、それくらいの人間は今後いくらでも出てくるだろう。
 データ化して便利に使いたいだけならば、最初に到達したから価値があるとも思えない。他にもたくさんのデータが集めるまで待てばいいのだ。
 次郎は暫く思考を巡らせ、唯一見出した可能性を口にした。

「最後に、早くしないと間に合わないとか言っていたけど」
「それって、ダンジョンを出現させられる時間かな。若しくはレベルを上げるための魔素の資源的な問題とか、他所と競争していて攻略特典の交付に上限があるとか、滞在時間が迫っているとか」
「うーん、全く分からん」

 次郎は言葉では投げ出しつつも、思考自体は続けた。

「唯一分かっているのは、最上級ダンジョンを攻略すれば何かに間に合うっていう事だな。まあ受験が優先だけど、俺は大学に入った後はまた潜ってみる」
「うーん、答えを得るにはそれしかないよね。わたしはどのくらい手伝えるのか分からないけど、困ったら言ってね」
「それじゃあ、その方針で」

 そうして結論を出した二人は、一先ず受験生に戻った。
 学校祭が終わった七村学校は、生徒会長が北村から二年生に交代した。
 当選したのは昨年立候補していない二年の男子で、しかも北村の土下座を真似て当選した事から、七村高校では生徒会長選挙で土下座をすることが禁止されてしまった。
 そんな馬鹿馬鹿しい選挙が終わり、高校生活がラストスパートに突入していくなかで、周囲の空気に飲まれた次郎も真面目に勉強に取り組み、大学受験を行った。

 受験先の候補はいくつかあったが、次郎と美也の二人が地元から離れたかった事や、次郎の偏差値の都合、今後は完全魔素体として同じ立場の仲間になる綾香との距離的な事情などを総合的に鑑みて北海道になった。
 成績で合格できる大学を受験先に選んだからだろうか。
 結果として二人は、特に何の問題もなく大学へと合格した。
 しかも美也は受験先のレベルを下げた為なのか、学費の減免対象になった。
 祖母には次郎と同棲して、学費はアルバイトで稼ぐので支援は最低限で良いと伝えていた美也だったが、減免によって祖母をより安心させられた事は素直に喜んでいた。
 次郎の方にはそのような特別な条件は一切無かったが、口うるさい父親が課した人生最後の条件を達成できた事は安堵した。
 そんな父親との進路に関する最後の話し合いは、合格という結果からすんなりと纏まった。

「学費とは別に、生活費は家賃を合せて月一五万。それとは別に三〇〇万やるから、後は自分でやりくりしろ。足りなければアルバイトでもすれば良い」
「了解」
「将来は弁護士にでもなるのか」
「いや。手堅い学部だから、公務員にでも何でもなれるだろ」
「そうか。お前の進学と入れ替わりで、一郎が家に帰ってくる。お前の就職先はどこでも好きにしろ。それと高畠さんの孫娘と付き合いがあるそうだが、家を出るお前にまで相手の出自はとやかく言わん。それも自由にすれば良い」

 高畠とは美也の祖母の苗字であり、母親の旧姓でもある。
 大地主の血筋という時代錯誤な考えを植え付けられている次郎の父親は、代々の小作人である高畠家の美也との付き合いに好意的では無い。嫡男である兄の一郎であれば、おそらく付き合いは認められなかったに違いない。
 だが家から出る次郎には、付き合いを認めるそうである。
 生まれて以来、いい加減に父親の受け流し方に慣れている次郎は、相手の主義主張を右の耳から左の耳へと聞き流し、要点だけを口にした。

「分かった。進路も相手も好きにする。あと四年間生活するアパートとかマンションだけど、ネットで探してみても良い?」
「おかしな所で無ければ、保証人のハンコは押してやる」
「それなら、生活費の範囲内で大丈夫そうなところを探してみる」

 淡泊に話し合いを終えた次郎は、四年間暮らす大学付近のマンションをネットで探した。
 北海道札幌市は山中県と異なり、検索に引っ掛かる賃貸マンションが異様に多い。
 大学や大型ショッピングモールからも徒歩数分で、二LDKながら家賃七万程度の物件がゴロゴロと転がっていた。次郎たちの地元では絶対に有り得ない選択肢の多さだ。
 次郎はマンションを決めると、足早に山中県を後にした。

 兄と入れ替わりで実家から出た次郎は、もう自分は山中県には帰らないだろうと思っていた。
 資金的には、美也に一〇億円を渡し、綾香の持参金を別枠としても未だ二六億円以上があるため、適当に店のオーナーにでも成るか、株式投資でもして世間体を保ちつつ、美也の医学部から研修医、医師への流れに付き合うのも悪くないと考えている。
 美也は祖母が残っているため、山中県から去る事には後ろ髪を引かれる思いがあった。
 だが祖母は七村市を終の住処と定めており、その遺産は元母親が虎視眈々と狙っている。何しろ美也は母親と法的に縁を切ったが、祖母は母親と縁を切れていない。
 母親に一切関わり合いたくない美也は、遺産相続の争いから逃れるべく、山中県からは大きく距離を置いた。
 成人した二人にとって、そろそろ祖母離れして箱庭を移す頃合いだったのだ。
 二人とも二〇四七年の三月中に住民票自体を動かしており、既に七村市民では無い。

「はぁ。やっと完全に自由だね」

 大学デビューのため、ツインテールからロングのストレートへと進化した美也が、次郎のマンションのリビングで大きく伸びをしながら、溢れ出す開放感をアピールした。
 色々と抑圧され続けていたことを、エリート幼馴染みの次郎は重々承知している。
 当初は髪型に強い違和感があったものの、自由民を自称する幼馴染みの有り様をそのまま侭に受け入れた。
 つまり触覚は消えてしまったが、美也は美也であった。

「まあ、ここまで長かったからなぁ」
「もう山中県には、帰らなーい」
「そうだなぁ」
「このまま北海道に住もうよ」
「そうだな。構わないぞ」
「ふふふーっ」

 いつになくご機嫌な美也がじゃれてきたので、次郎は子猫と遊ぶように左手を差し出して、適当に振ってみた。
 すると左手をバシッと掴まれ、軽く振り回される。
 実行している当人にもよく分からないコミュニケーションが成立する中、次郎は受験中に浦島太郎と化していた様々な状況の変化を振り返った。

 次郎たちが受験に追われている半年間、綾香は次郎たちが干渉せずとも北海道の中級ダンジョンで自主的にレベル上げを続けた。
 そして次郎たちが北海道に引っ越した頃には、既にレベル一〇〇に到達していた。
 美也と同様に接触は無かったようであるが、順当なペースで到達したため、おそらく登録されていると思われる。
 これで綾香も共通被害者であり、政府の人体実験から逃れ、コピペで方々を回る運命共同体となった……かもしれない。

 第一次特攻隊による初級ダンジョンの白化は順調で、これまでにダンジョンから魔物は溢れ出していない。
 問題は中級ダンジョンの方で、沖縄と鹿児島では二〇四四年一二月の攻略から、二〇四七年三月で魔物の未放出期間が一四回目を迎えた。
 政府は第二次特攻隊の一部をレベル五〇台まで上げつつ、彼らを用いて第三次特攻隊の育成も行っているそうだ。
 第三次特攻隊も順調にレベルを上げており、いずれ初級ダンジョンのボスを倒して攻略特典を獲得し、いずれ中級ダンジョン攻略にも参加するらしい。

 国民の自衛力も、徐々に向上している。
 一般人からは、半年間でレベル一〇を越えた者も出始めているらしい。トップ集団になると、インプに匹敵するレベル一〇台半ばまで達した者もいるとか。
 チュートリアルダンジョンが自宅の敷地内に出た次郎ですら、レベル二〇に達したのは八ヵ月後であった。そのためダンジョンに潜っているレベルの最速者は、一体どのように生活しているのか非常に気になるところである。
 あるいは千葉美冬のように頭と金を使って飛び抜けたのかもしれないが。

 ダンジョン入場許可から漏れた海外からは、日本政府の方針に対する批判や非難声明も出ている。ダンジョンの全てが日本国内に在り、魔物の出現も日本に限定されているとは言え、日本の優位が看過できないのだろう。
 ダンジョンが封鎖されていた時点では、日本にさえ居れば湧き出してくる魔物を倒してレベルを上げられたが、今はダンジョンに潜る者しかレベルを上げられない。
 そんな海外からの不満に関して政府は、第一次入場許可の追加は行わないと明言している。いくつかの国は日本の方針を変えさせようと表で圧力を掛け、裏では政治家への個別接触も後を絶たないらしい。

 だが工作にも拘わらず、魔物被害が無くなった事と、ダンジョンを公開した事で、政府への支持率は高止まりしたままだ。
 それに経済的にも、魔法や魔石の利用で様々な可能性が見えてきた。
 魔法があれば電気ガス水道の代替が可能であり、光魔法の医療への応用も検討され始めた。また魔物の魔石は、エネルギー革命を起こしつつある。このままダンジョンを長く独占できれば、次々と新技術を生み出していけるだろう。
 日本はダンジョンが出現した頃の暗中模索から抜け出して、ようやく新たな環境での前進を始めていた。
三巻はここまでです。
次話から四巻になります。
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