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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第四巻 選択

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60話 大学生活

 二〇四七年四月、次郎は大学に進学した。

 入学生の総数は全学部で二五〇〇人を越えており、在校生は一万人を大きく上回る。
 全校生徒合せて六〇人に満たなかった三山中学、八四〇名を抱えていた七村高校と順調に生徒数が増えていき、ついに大学では一万人以上の生徒数となった。
 少子高齢化と田舎暮らしで感覚が麻痺していたが、日本は九五〇〇万人が暮らす大きな国である事を改めて実感させられた日であった。

 もっともキャンパス内は緑豊かで、あまり都会という印象がない。
 エルムの森、ポプラ並木、北一三条門のイチョウ並木、その他各所に大量の木々が生えており、大野池があって、サクシュコトニ川が流れているため、次郎が当初イメージしていたビルが建ち並ぶ狭い都会の印象からは掛け離れていた。
 学内は緑と建物の調和が見事に取れ、整然とした一つの綺麗な街のようであった。その中には殆どの学部と共に学生生活に必要な施設が概ね纏まっており、非常に利便性が高い。
 興味深かったのは北大のキャンパス内に放送大学まであった事で、どういう経緯でそうなったのか、誰か知っている人が居れば教えて欲しいと思った次第であった。
 他には病院や農場、研究所や寮もあり、北二〇条辺りからは北キャンパスと呼ばれる研究所や研究機構があって、散歩コースとしても上々である。

 そんな環境で新生活をスタートさせた次郎には、早速何人かの同級生が出来た。
 長谷空海(すかい)、大熊騎士(ないと)、穂刈翔馬(ぺがさす)の三人である。
 都会のネーミングセンスと見比べれば、山中県七村市の田舎者達は、少なくとも名付けに関しては大人しい方だったのだと戦慄せざるを得ない。
 もしも堂下次郎が『堂下空海』や『堂下騎士』だった場合、今とは性格が全く異なっていた恐れもある。

「おいジロウ。講義が終わったらサークル見学に行こうぜ」
「了解。別の学部に幼馴染みが居るんだけど、もう一人誘っても良いか」
「おう、どんどん誘え」

 長谷が朗らかに宣言したので、次郎は彼らの誘いに乗ってサークル見学に赴く事にした。
 入学式の日に先輩達が待ち構えており、新入生にサークル案内チラシを配りまくっていたが、アピールに来ていたサークルだけでも数十はあった。
 全体では活動しているサークルが一二〇団体もあるらしく、運動系は次郎のレベル的に選択不可能だが、文化系に限っても選択肢は沢山ある。

「それで、空海はどこを見に行きたいんだ」
「面白そうなサークルがある。ダンジョン研究会だ。ナイトとベガも候補に入れている」
「おおう、マジか」

 差し出されたチラシには、コウモリを虫取り網で捕まえるユニークなイラストが描かれている。
 実際の巨大コウモリに比べると、デフォルメされたコウモリは随分と愛らしい姿だった。
 思わず苦笑した次郎に構わず、長谷は説明を続ける。

「他にもあるぞ。ダンジョンウォーカー、UMAクラブ、北大魔導師連盟、北大冒険者ギルドの四つだ。ダンジョン一般公開後、一気に増えたらしい」
「マジで、そんなサークルがあるのか」

 都会の凄まじさに、田舎者としては最早笑うしかなかった。

「ダンジョンウォーカーは気合いの入った探索集団で、入場許可証を持ってない学生は募集外らしい。ジロウと幼馴染みは、入場許可証を持っているか?」
「持っている。ダンジョンにも入ったし、レベルも上げた」
「よし、選択肢が増えたな」
「ナイス次郎」

 次郎が財布から入場許可証を出して見せると、長谷に続いて大熊まで褒めてきた。

「次郎は何を覚えたんだ。やっぱり魔法だよな?」
「ああ。コウモリと戦って怪我をしたから、咄嗟に光魔法を覚えて回復した」
「そうか。オレは最初に火を選んだぞ。一七歳のうちにレベルを上げないといけなかったから、遠距離攻撃一択で。一浪してでも上げまくろうかと思ったほどだ」
「へぇ、熊さんって、レベルいくつだ」
「受験前にレベル五まで上げた。そして親にマジギレされた」
「それは大変、ご愁傷様です」

 流石の騎士様も、領主には弱いらしい。

「だがしかし、合格後にアイシャルリターンでレベル六まで上げた」
「やだー、熊さんってガチ系じゃないですかー」
「でもなー、おいちゃん一八歳になって、レベルが上がり難くなってたんよ。もうアカンわ」
「なんで関西弁やねん」

 ベシッと突っ込みを入れた次郎だったが、大熊は気にもせず、レベル六の我が身を誇らしげに自慢している。
 だが実際に次郎と同学年でレベル六に達している進学組は、そう多くはないだろう。
 何しろダンジョンが正式に公開された二〇四六年九月は、次郎たちが高校三年生の二学期だったのだ。
 四月から九月五日までに生まれた約半数は一八歳になっており、世間では一八歳になると二十倍以上の経験値が必要だとされている。
 下半期の者がレベル六までにコウモリを一〇三体倒せば良いのに比べると、上半期の者は二〇六〇体も倒さなければならず、半数は最初から重すぎるハンデを背負っている。上半期の者がレベル六に到達するのは、下半期に比べると極めて困難なのだ。

 また下半期の者も、受験勉強とレベル上げを天秤に掛けなければならない。
 従って次郎たちの学年で進学希望者は、三月が誕生日の者を除いて、皆がそれほど高いレベルではない。

 但し例外として、ダンジョン外でレベルを上げた者の存在がある。
 それは次郎たちが高校一年生だった二〇四四年七月以降、日本の各ダンジョンから溢れた魔物を倒した者達である。
 初級ダンジョンは二〇四六年一月に特攻隊が白化するまで、二ヵ月に一度、九回に渡って合計数十万匹の魔物を放出した。総数は約四〇〇万体であり、それらを倒した者はダンジョン内部に入らずともレベルを上げている。
 だが自衛隊や警察、大人、レベルが欲しい外国人などが魔物の大半を倒してしまうため、こちらは運次第である。その最たる例は、Sylphidシルフィードの四人組だろう。

「空海と穂刈は?」
「我は四也」
「僕は三。道外は遠すぎだよ。それで堂下君は、レベルいくつなの」
「俺と幼馴染みは四だ。山中県はコウモリが集まる森があって、夏休みに狩れたからな」
「そうなんだ。それならダンジョン関係のサークルには問題なく入れそうだね」
「マジか。とりあえずガチ系のウォーカーは、ちょっと無理っぽい。来年度の後輩とのレベル差が開き過ぎるし、幼馴染みも医学部だから付いていけない」
「よし。それならダンジョン研究会、UMAクラブ、北大魔導師連盟、北大冒険者ギルドを回るか。全部第五サ館にあるらしい」

 次郎は日本の多々ある素晴らしい点の一つに、名は体を表わすという言葉が実践されている事が挙げられると考えている。
 動植物や海洋生物など、欧米人は母国語で聞いても首を傾げるものが多いが、日本人が和名を聞くと大雑把には想像できる命名が為されている。
 だが大学のサークルは、そういった実践が為されて居なさそうだった。
 はたして『北大冒険者ギルド』とは、何をするサークルであるのか。名称から活動内容を推察する事は困難だった。
 そんなどうでも良いことに悩みながら講義を受けた後、次郎たちは美也と合流してサークル会館へと向かった。

「いや、暫し待てジロウ」

 しかしその歩みは、合流後の自己紹介から次郎が歩き出した直後に止められる。

「なんやねん」
「関西ネタはもう良い。それよりも幼馴染みが女子とは聞いていなかった。少しばかり説明を要求する」

 説明を求められた次郎は、美也のことを何と説明しようかと迷った。
 幼馴染みは、紛れもなく事実である。
 家が川を挟んだ向かいで、幼稚園から大学まで一緒だった。
 また校外でも祖母同士に引き合わされ、中学二年からは二人でダンジョンに潜ってきた。
 だが長谷が聞きたいのは、結局のところ二人の関係であろう。
 次郎が予想するに、コピペされた異世界では…………。

「マイワイフ?」
「マイダーリン?」
「宜しい。コウモリに喰われ給え」

 およそ確信的な二人の回答に、長谷は馬鹿馬鹿しいとばかりに匙を投げた。
 もちろん匙を投げたのは大熊と穂刈も同様で、三人はバカップルへの質問を放り投げてサークル会館への歩みを再開した。
 新サークル会館の通称は新サ館で、別称は第五サ館。学生達はいずれかで呼ぶらしい。
 六階建ての新しい建物で、様々な共有施設も入っている便利な建物だ。
 大学のサークル一二〇に対して、新サークル会館の部室は六五室しか無いが、公認サークルのみを入れているため、公式には部室が足りているらしい。
 そしてダンジョン関連のサークルは全て公認を受けているらしく、ダンジョン研究会、ダンジョンウォーカー、UMAクラブ、北大魔導師連盟、北大冒険者ギルドの五つは全て新サ館に部室を持っていた。
 大学が国立である以上、ダンジョン研究推進という国策の影響を受けずにはいられないらしい。

 最初に見学に行ったのは、ダンジョン研究会である。
 ダン研の設立は二〇四四年。
 設立当初は巨大構造物研究会という名称だったらしく、大学の植物園に突如発生した巨大構造物を調べようと、沢山の学生が新設立のサークルに入会した。
 そして二〇四五年七月一三日。国会で広瀬大臣が巨大構造物を魔物の住むダンジョンであると宣言し、政権交代後にはダンジョンが正式名称とされた事を踏まえて、その年の暮れにはサークル名が現在のものに変わったそうである。
 但し大学生のサークルらしく、程々に遊んだりもする。
 北海道・東北ブロックの入場許可証は東北四県に入れるため、道外に赴くついでに旅行をしたり、ジンギスカンパーティや忘年会をしたりもする。そんな程々に緩いサークルである。
 現在の所属人数は、およそ七〇人。
 部室に対して部員が多すぎるために部室は部の荷物置場となっており、活動はパソコンが揃った講義後の空き教室を貸して貰っているらしい。
 兼部も可能で、敷居はそれほど高くない。
 説明して貰った次郎達はお礼を述べた後、一先ずダン研を後にした。

 次に訪ねたのは、UMAクラブだ。
 この部の設立も二〇四四年で、未確認生物の魔物を調べようというのが設立目的だ。
 UMAクラブでは独自に調べた魔物の情報を百科事典にしてネットに公開しており、北海道での出現分布図などは、公的機関でも活用されているらしい。
 但し活動には大学の研究会として限界があり、日本に現われた初級ダンジョン地下一階のコウモリから、地下九階のゲンジボタルまでの百科事典はそれなりに作れたものの、カマキリ以降は調べられないでいる。
 現在の所属人数は、およそ二五人。
 活動は週一回の例会で、月一回は泊まりでダンジョンに潜る。
 但し、潜れるダンジョンが道外にしかないため出費が大きくなり、使用済み魔石の寄付や企業からの寄付金などは受けているものの、個人が負担する年間費用は高くなるそうだ。
 UMAも兼部が可能で、可能であれば是非にと勧められた。

 三番目に赴いたのは、北大魔導師連盟である。
 名は体を表わすというが、このサークルは正にその名の通りであった。すなわち、北大生で魔法が使える者達の相互互助組織である。
 主な活動は魔法の研究で、実践を繰り返して技術を獲得しようとしている。
 また外部に対しては治癒魔法で北大病院や研究所、土魔法や水魔法で農学部に協力するなど、各所へも幅広く貢献しているそうだ。
 想像していたよりずっと建設的な組織であり、次郎と美也も好印象を持った。大学側に公認されているのも道理であった。
 現在の所属人数は、およそ九〇人。
 活動は週一~二回で、魔法の実践は野外、若しくは呼ばれた施設で行う。
 北魔連も兼部が可能で、同行した長谷らも悪くない反応だった。

 そして最後に赴いたのが、北大冒険者ギルドだ。
 活動内容は、情報共有とダンジョンアタック。
 同じ北大生同士でパーティを組みたい者達が集まり、日程を合わせてダンジョンに潜る。ようするにこのサークルは、冒険者の斡旋所である。
 一度限りの臨時編成から、中長期のパーティ結成まで様々だが、ダンジョンウォーカーと異なるのは、サークル全体ではなくグループ単位で挑んでいる事だろう。各自の都合と折り合いやすいため、挑戦頻度が高くなる傾向にある。
 現在の所属人数は、およそ七〇人。活動は各自次第だが、週一でギルド会がある。
 文科系のダンジョン関連サークルは全て兼部が可能らしく、掛け持ちしている学生も多いとの話であった。

 結局、次郎たちは揃ってダン研に所属し、長谷達はいくつかのサークルも掛け持ちした。
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