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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第三巻 接触

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57話 上級攻略

 二〇四六年の夏の盛り。
 山中ダンジョンの地下二〇階には、数千というケルベロスの死体の山が、うずたかく築き上げられた。
 魔物達は、ことごとく外来生物法に基づいた特定外来生物指定を受けており、環境省によって残らず駆除対象と認定されている。
 だが動物愛護団体がケルベロス殺害に至った動機を耳にすれば、怒りの余り抗議活動を起こしかねない。それは彼らの動機が、人間を襲う危険な生物を駆除する事では無く、一八歳になった一人の男のレベルを一〇〇に上げる事だからだ。

 いかにケルベロスの強さが概算レベル五五で、軍艦並の強さを持つマンティコアを正面から噛み殺せるほどの強大な力を持っていようとも、レベル九九の次郎にとっては何の脅威にもなり得ない。
 結局のところ戦いとは、相対的なものだ。いかに相手が強くとも、それ以上のレベルで対峙すれば負けようが無い。
 そんな一方的な攻撃が熱心に続けられた背景には、年齢と供にレベルが上がり難くなる事に加え、次郎たちが受験勉強のために活動を休止せざるを得なくなるという事情があった。
 そのため早々にレベルを上げてしまおうと、最後に徹底的な経験値の搾取が行われたのだ。そしてケルベロスの死体の山と引き替えに、次郎のレベルは八月半ばになって、ようやく目標だったレベル一〇〇に達した。
 レベル九九から一〇〇に上がるまでは三ヵ月以上を掛けており、しかも夏休みの半分まで費やしたため、次郎にとっては非常に長いレベル上げだった。
 特攻隊のレベル上げや、政府の用事に付き合わなければ、順調にレベルが上がって苦労はしなかっただろう。
 だが個人としては使い切れないほどの金銭報酬は得ており、山田太郎の政府協力者としての社会的名声や立場も確立されて官憲から狙われる事が無くなった為、対価としては妥当だっただろうかと納得した次第であった。

 綾香のレベルは一〇〇に届いていないが、彼女は未だ高校一年生なので、これからも機会はある。
 かくして三頭犬と戯れる日々は、ついに終わりを迎える事となった。

「このダンジョンが終わったら、次があっても無くても、本当に休止だからね」
「うい」

 結局ダンジョンが何なのか、次郎には分からず終いであった。
 だが、興味の赴くままに個人で行けるところまでは行ってみたという点は、次郎に一定の満足感をもたらしている。
 後は画竜点睛を欠かないように、最奥のボスを倒すだけだ。
 チュートリアルでは、ボスの強さが並のカマキリよりも一〇レベル高かった。
 また下級と中級では、同じくボスの強さが並の魔物よりも一五レベル高かった。
 その流れから考えれば、今回のダンジョンでは五五レベルのケルベロスよりも一五レベルから二〇レベル高いボスが、これまで通り二体出る可能性が高い。
 対する次郎たちは、美也の方針により徹底して過剰戦力である。
 最後に意思確認を行った三人は、最奥の真っ暗な空間へと足を踏み入れた。

「それじゃあ光を撃つよ。正面、右、左っ。正面、右、左っ」

 美也は上空の三方向に対し、手前と奥の二ヵ所ずつに、眩い光球を打ち出した。
 打ち上げられた強烈な光源は、空間の暗闇を明るく照らし出す。するとそこには、広い平原と傾斜の浅い丘が姿を浮かび上がらせた。

「黒い丘と平原か。チュートリアルが黒い草原、初級が黒床の闘技場、中級が黒い森、本当に自由な所だな」
「それに結構広いですよね」

 空間全体の広さは不明瞭だが、遙か彼方には黒色の壁が天に向かって伸びているので、流石に限界はあるのだろう。
 空は、ダンジョンの全二〇階層をぶち抜いたほど高い位置に天井があり、雲すら浮かびそうだった。

 まるで都市全体が巨大防壁に囲まれた、箱庭都市の中に入り込んだかのような錯覚を覚えざるを得ない。
 あるいは未来の恒星間移民船団の中だろうか。
 ダンジョンの壁は何故か全く傷つけられないので、檻の中に囚われた動物園の動物のようにも感じられる。

「これはワンちゃんが走りやすそうだな」

 様々に妄想を巡らせた末、目下直面している現実問題としてその点を顧みた。
 今回の丘と平原は、三頭犬の群れが大量に駆け回れそうな広さだった。

「正面奥、右奥、左奥、一一っ、…………左右の奥に、一頭ずつ居たよっ」

 目視で丘の向こうに犬の頭を発見した美也が、次郎に判断を促す。
 かなり遠方のために正確な大きさは不明瞭だが、四トントラックあるいはティラノサウルス並の通常ケルベロスに比べても三倍くらいは大きい。
 全長三〇メートルを超える白亜紀の首長竜が首を三本に増やし、頭部と口を巨大化させ、四肢を太く発達させたような巨大生物が、上級ダンジョンのボスだった。

「…………映画に出てくる三本首の巨大怪獣じゃん」
「翼は生えていないよ」
「ですが火炎は吐きますし、数も二体も居ますね」

 上級ダンジョンのボスの強さに関して、次郎たちはレベル七〇程度と考えていた。
 推定の根拠は、初級ダンジョンと中級ダンジョンだ。
 初級ダンジョンでは、雑魚の強さが最大一五、ボスの強さが三〇であった。
 中級ダンジョンでは、雑魚の強さが最大三五、ボスの強さが五〇であった。
 そして上級ダンジョンの雑魚が最大五五であった為、ボスは七〇だと考えたのだ。

 その見積もりは、おそらく大きくは違っていないだろう。
 しかし巨大ケルベロスの巨体を見た瞬間、レベル以外の要素で脅威度が上方修正された。
 通常ケルベロス三体くらいであれば、同時に噛み殺すくらい容易そうな巨大な顎と大きな牙、そして長くて太い首である。
 もしも巨大ケルベロスがダンジョンから地上に出れば、戦車を踏み潰し、戦闘ヘリを薙ぎ払い、核兵器でも撃ち込まなければ止める事は出来ない大怪獣の出現となるだろう。
 そんな巨大ケルベロスが首だけを覗かせている丘からは、一〇メートル級のケルベロス達が無数に姿を現わし始めていた。
 通常サイズのケルベロス達であれば、ダンジョン内でグループ行動していようと、次郎たちを殺せるほどの脅威は無い。
 しかし数百体も同時出現すれば、ボス戦では相当の脅威となる。

「花子は右側のボスを倒してくれ。綾香は両方の雑魚の殲滅。俺は左側のボスを倒して、ついでにレベルも測ってみる」
「じゃあ、行くね」
「分かりました」

 右手側上空に、赤い光線が複数同時に打ち上げられ始めた。
 まるで打ち上げ花火の火薬弾が、空へと打ち上げられる様に伸びていった後、光線はケルベロス達の上空に達して炸裂する。
 まずは光が分裂し、花火の下半分だけが広がったかのように伸びていき、円では無く地上まで飛んでいって次々と炸裂を始めた。
 炸裂した魔法攻撃で、地上が明るく輝き出す。炸裂にやや遅れて爆音が轟き、その中にケルベロス達の悲鳴にも似た咆吼が響いてくる。

 そんな自衛隊の戦闘車両が一斉に砲撃を始めたかのような攻撃は、右方向のみに留まらなかった。
 左右両側のケルベロスに向かって、地上スレスレから緑の光線が、数十本纏めて伸びていく。
 緑の光線は、高射砲が空の敵機に向かって伸びていくように次々と打ち出され、敵機への着弾前に炸裂した。
 しかし、炸裂の爆風は激烈だった。
 炸裂の衝撃を浴びたケルベロス達は、次々と巨体を弾き飛ばされ、ハリケーンに飲み込まれた自動車のように軽々と後方へと転がっていった。

 次郎が見るところ、二人はボスのレベルを測るために手加減をしている節がある。
 然もなくば、全ての花火をボスに向かって真っ直ぐ伸ばし、至近で一斉に爆発させたはずである。

「えーこちらは、山中ダンジョン地下二〇階の花火大会会場です。八月一二日、日曜日。雲一つ無い打ち上げ日和の本日、二体の巨大ケルちゃんと沢山の通常ケルちゃんを観客に迎えまして、午後四時一七分より一斉に打ち上げ花火が始まりました。それではインタビューに行ってみましょう」

 花火の観覧中にインタビューするという非常識な宣言を行った次郎は、既に暗闇が広がる花火会場の中を、左の巨大ケルベロスに向かって走り始めた。
 爆風が向かい風程度にしか感じられない男は、緑の光線の直撃を浴びないようにだけ気を付けながら進み、右手に生み出した太い石槍を両手で抱え、跳躍しながら巨大ケルベロスの犬頭の一つに向かって突き出した。

「こんにちは。本日はどこからいらっしゃいましたか!」
「ギャワンッ」

 次郎の胴体ほどもある太い槍が、ケルベロスの頭の一つを、下顎付近から口の中に向かって突き刺した。
 最低のインタビューアーである。
 ちなみに巨大ケルベロスのサイズ的には、太い槍も爪楊枝が下顎から突き刺さった程度でしかない。
 しかし、爪楊枝には先端に抜けない反しが付いており、闇魔法の毒素も塗られていた。それをレベル一〇〇の男が力尽くで深く突き刺し、魔力二四の出力と闇属性八の毒素を注ぎ込んだ攻撃である。
 どれくらいの威力を持つかというと、レベル四九の毒蛇たるバジリスクや、レベル五二でサソリの尾を持つマンティコアなどは、次郎の毒槍を受ければ数分で瀕死に至る。
 毒を受けて嫌がり暴れる犬頭の一つに向かって、次郎は平然と宣った。

「ええっ、態々そんなに遠いところから山中県までお越しになられたのですか。山中県は山と海と田んぼしか有りませんよ。空気と水は澄んでいますけどね。では次の方に聞いてみましょう。こんにちは、今日はどこからお越しになられたんですか」
「ギャワオンッ」

 次郎は三つ並ぶ犬頭の真ん中に向かって跳躍し、二本目の太い毒槍をマイク代わりに突き出した。
 次郎の速度自体が銃弾を撃ち込まれたかのように高速で、真ん中の犬頭は避ける事もままならずに槍を下顎から突き刺される。
 しっかりと突き刺した次郎は、仰け反る犬頭の下顎を蹴って地面まで素早く退避し、わざとらしく右手でマイクを持つような仕草をしながらお茶の間に向かってリポートを続けた。

「なんとご兄弟で火星のタルシス平原から来られたそうです。タルシス平原と言えば、マリネリス峡谷の西に位置する火山平原として有名ですね。道理で皆さん、先程から火を噴いているはずですねっと」

 最後の犬頭が巨大な炎を吐き出したのを見た次郎は、高レベルと巨大な魔力で生み出した乱雑な風魔法と水魔法の障壁で防ぎながら、素早く跳び去って回避した。
 レベルや魔力が高いので、直撃を浴びても死ぬわけでは無い。
 しかし次郎が持っている服では、何を着ていようと一撃で駄目になる。
 装備品が魔物の攻撃に耐えられないのは、全ダンジョンのあらゆる魔物に共通する問題だ。自衛隊の三三式迷彩帽や防弾チョッキ三型改であろうと、中級ダンジョンの魔物には耐えられない。
 そのため次郎は、装備品の使い捨てで経済的に苦しんだ。
 美也が遠距離魔法に特化した理由も、次郎を補う以外では経済問題が挙げられる。
 これから日本人が大挙してダンジョンに入っていく事になるなかで、装備品の問題は直ぐに着目される事になるだろう。
 より高レベルの魔物の皮を剥いで防具にすれば問題は解決するのだが、魔物を倒すために、より強い魔物を倒してその皮を剥がなければならないのは本末転倒だ。
 後続組は先行者から売って貰えば済むが、先行者は売って貰える相手が居ない。

「というか、俺が売れば儲かるよなぁ。この巨大ケルベロスの牙なんて、武器として強そうだし。まあ硬すぎて、加工は物凄く大変だろうけど」

 既に大金を得ている次郎は、売買に関してそこまで執着しているわけではなかった。
 売るのは難しそうだと判断した次郎は、ケルベロスの牙を収納で確保して、自宅の杉山の地下に穴でも掘って埋めておこうかと思い直した。
 政府に渡せば感謝されるかというと、現状ではそうでも無い。
 広瀬大臣から次郎への要請は情報だけであり、次郎の暫定レベル付けと、美也の暫定魔物形態・特性評価だけでも充分すぎるらしい。
 それは単に優先順位の問題で、実際に地上に出て国民に被害を与える魔物を研究するのが最優先で、それだけでも手一杯だからである。
 今後はダンジョンを公開して、膨大な民間人が魔物の素体を持ち帰るので、初級ダンジョンに関しての研究は爆発的に進んでいくだろう。
 中級や上級の研究は、初級で成果を出した企業と協力して進められるようになるかも知れない。

 差し当って次郎は自分の仕事として、上級ダンジョンのボスの強さを、暫定的にレベル七〇ほどと見積もった。
 それは槍を刺した感触による防御力や反応速度、対毒性、反撃の炎攻撃などから総合評価しての体感的なものであるが、全魔物の暫定レベルを付けてきた男としては、大きくは違っていないと自負した。
 いずれ必要になるであろうボス戦の映像も綾香がカメラで撮影しているため、手抜かりは無い。
 仕事は済んだと判断した次郎は、飛び上がって仕上げに掛かった。

「最後の方にも聞いてみましょう。ハロー、ユーはどこからイナカ・ジャパンに!?」
「ギャオオンッ」

 次郎が突き刺した石槍が、最後の犬頭の下顎に深く突き刺さる。
 下顎を蹴って飛び退いた次郎は、もう一度高らかに跳躍して手に馴染む普通のサイズの石槍を生み出すと、今度は上空で次々と三つの犬頭に向かって投げ始める。
 最優先で狙うのは、巨大な六つの瞳。次いで大口を開けたときに覗く巨大な舌。
 次々と生み出される石槍は、強大な力で空気を振動させながら巨大ケルベロスの頭部に投げ続けられ、閉じた瞼の上から眼球に突き刺さり、鼻の穴に入って内部に刺さり、嫌がって開けた口から口内に突き立てられていった。

「そうですか、三人ともご兄弟でしたか。宇宙人の方が、地球への訪星で日本を選んで下さって、日本人としては嬉しいですね。ところで皆さん、火星大使の方でしょうか、それとも個人旅行でしょうか。個人の方でしたら、まずは国交樹立までお待ち下さい。お帰りは、転移かワープを使用して自力でお願いします」

 石槍で三つの針山を築いた次郎は、次に石の長刀を生み出すと、針山の一つに乗った。
 次郎は魔力二四、土属性一三、闇属性一一であり、二つの属性魔法を同時に全力で込めた武器を創り出し、刃や毒素を補充し続けられる。
 彼が生み出した長刀は、刃と毒が魔力の続く限り回復し続ける、魔法の毒刃であった。
 その凶悪な長刀の刃を巨大ケルベロスの首筋に突き立てた次郎は、近接戦向けの割り振りを行ったレベル一〇〇の力で、首の骨が当たる深さまで無理矢理に刃を差し込んだ。
 そして首を駆け下りながら、まるで魚を捌くように首を力尽くで引き裂いていく。
 毒槍で感覚が麻痺したケルベロスは、ろくに抵抗もできず、ガリガリと首の骨を削られながら、血を吹き出してよろめき倒れ込んだ。
 首の付け根辺りまで裂いた長刀はそのまま方向を変え、真ん中の首に向かって今度は舌から駆け上がり始める。
 まるでカッターの刃が段ボールに差し込まれたまま引かれていくように、ケルベロスの首は骨ごと切り裂かれた。
 次郎は最後に残った首に飛び乗ると、やはり首を深く裂いていき、三つの頭を悉く潰し終えた。
 頭部を潰されたケルベロスは、座り込んだまま力尽きた。
 その胴体に向かって強烈な蹴りが入れられ、ケルベロスは横向きに倒れ込んだ。それから間を置かず、胸部に長刀が突き立てられて魔石を探り当てられる。
 既に死している巨大ケルベロスから長刀を伝い、魔石の力が次郎に流れ込み始めた。

「やっぱり、レベル七〇くらいだよな」

 力の吸収が終わると、空間の黒い床・壁・天井が一斉に白く変わっていく。
 次郎が左手側のケルベロスと戯れている間に、美也も右手側のケルベロスを倒していたらしかった。
 やがて周囲が全て白化した後、虚空に真っ白な背景と黒い文字が浮かび上がった。

 上級ダンジョン 総合評価S
 攻略特典を選択してください。
 一.能力加算S (BP+二四)
 二.転移能力S (二回/一日)
 三.収納能力S (四〇フィートコンテナ分)

 選択肢を保留した次郎は、一先ず美也と綾香と合流した。
 ダンジョンの入り口に飛ばされた後、もしも次のダンジョンが出ていたら中に入って転移できるように登録をしていくためだ。

「お疲れ様。ここは上級ダンジョンだったらしいな。評価はSだった」
「終わったね。わたしも評価Sだったよ。収納の二つ目を取るね」
「私もです。これで収納能力が得られます」

 何を取るか決めていた三人は、それぞれ能力を選択した。

 堂下次郎 レベル一〇〇 BP〇 転移S二 収納A 加算S
 体力一三 魔力二七 攻撃一一 防御一一 敏捷一二
 火六 風六 水六 土一五 光一〇 闇一二

 地家美也 レベル一〇〇 BP〇 転移S 加算A 収納S二
 体力八 魔力二六 攻撃七 防御七 敏捷八
 火一三 風一三 水四 土四 光一五 闇一二

 井口綾香 レベル九五 BP一 転移A二 収納S
 体力八 魔力二四 攻撃七 防御七 敏捷八
 火一二 風一二 水三 土三 光五 闇一〇

 それぞれ能力値が示された後、景色が一瞬でダンジョン前に移り変わる。
 入り口から全体像を見る事は出来ないが、壁が灰色では無く黒色で、明らかに前のダンジョンとは異なっている。
 上級よりも上位のダンジョンがあった事に、三人は驚きを示した。

「まだ次のダンジョンがあったのか。転移登録をするために入るぞ」
「うん。でもこの先は、受験が終わるまでは攻略しないからね」
「分かりました」

 次郎は、さらなる広がりを見せたダンジョンの階段に入った。
 それに美也も続くが、何故か綾香だけは後に続かなかった。

「待って。綾香が付いてきてない」
「…………どうした?」

 二〇段の階段を飛び降りたところで次郎は立ち止まり、入り口前の綾香に振り返って声を掛けた。
 綾香は入り口に向かって手を伸ばし、虚空を叩きながら答える。

「入れません。見えない壁があるみたいで、先へ進めません」
「どういう事だ」
「綾香の話が本当なら、人数制限か、レベル制限か、ダンジョン経験時間かも」
「綾香、どうしても入れそうに無いか?」
「…………はい」

 現在は八月一二日の日曜日、午後五時前だ。
 ダンジョン前には多くの人目があり、いかに変装していても長々と滞在したくは無かった。

「綾香は先に転移で離脱してくれ。俺と花子で入り口から中に入って転移登録だけして、綾香を同行させられないか試してみる」
「分かりました。すみません」

 そう話した綾香の姿が、すぐに転移で掻き消えた。
 見届けた次郎と美也は互いに頷き合うと、黒いダンジョンの内部に潜っていった。
+注意+
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