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日本にダンジョンが現れた!  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第三巻 接触

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53話 最終学年

 世間がダンジョン入場許可申請で大騒ぎになっていた頃、次郎たちは高校三年生となった。

 クラスメイトの顔触れは全く変らないが、図書文芸部には八人の新入部員が入っており、否が応でも自分たちが最上級生になったのだと自覚させられた。

 部員は三年生五人、二年生一一人、一年生八人の計二四人という大所帯となっており、入学時に廃部の危機だった面影は何処にもない。

 しかも新一年生には男子が三人も入ってきたため、男女比も一対一五から四対二〇まで改善されて概ね軌道に乗った形だ。

 もっとも部員獲得に奔走したのは、部長の絵理と次期部長の浜野亜理寿であり、その件に関して次郎は特に何もしていない。頑張ったのは、ロッカー運びくらいだろうか。


「いやぁ、ロッカーの調達が間に合って良かったよ」

「二段ロッカーになったのは惜しいですけど、幅は広がりましたね」


 部室である旧視聴覚室の壁には、三月までは四連ロッカーが四台置かれていた。引退した一年上の先輩を計算すると、一七人の部員に対してロッカーは一六人分であり、一名分足りていなかった。

 新学期に部員が増える事で再びロッカーが不足する事は明白だったため、絵理が顧問の大林先生を介して学校側と交渉し、部室の四連ロッカー四台(一六名分)と、学校側にある三連二段のロッカー五台(三〇名分)を交換したのだ。

 教師側は、教員用に冬物コートも入れられる長いロッカーが欲しい。

 図書文芸部は、狭くても良いから全部員の個人ロッカーが欲しい。

 互いに必要な物が異なっていたために交換が成立し、図書文芸部は部員二四名分のロッカーを獲得できた。なお四台を出して五台もらえたのは、今年度で定年退職する顧問の大林に高い発言力があった為である。


「問題はパソコンだけどね。亜理寿が三年になった時に入ってくる部員が六人以上なら、今の台数だと足りなくなるから」


 図書文芸部に置かれているパソコンは二四台で、現在は不足していない。

 だが次郎たち三年生五人が出て行った後に、来年度の新入生が六人以上入ってくれば、不足する事になる。


「絵理先輩、卒業生からの寄付はいつでも受け付けていますよ」

「残念ながら、ボクは常に同人活動に投資するから全然お金が足りないんだ。金持ちな先輩は、そっちにいるじゃない」

「って、俺かい」


 得意気な絵理の視線の先には、ロッカーの設置を終えて自分の仕事は終わったとばかりにナロー小説を読んでいる次郎が居た。

 確かに次郎は、世間一般から見れば金持ちの世帯に属している。

 自身では生まれた家が標準なので自覚が薄いが、実家が会社を経営し、山や駐車場・アパートなどいくつもの不動産を所有し、一般人の生涯年収よりも多い預金や株式を保有する家は、確かに平均よりは上だろう。


 もっとも超ど田舎の堂下家では、長男が全てを受け継ぎ、次男以降は家を出るという昔の日本人さながらのオールオアナッシングな考え方を持っている。

 長男が田んぼを受け継ぎ、次男以降は商人や職人に弟子入りでもして……という、家の資産を分けない田舎の農家の伝統的な方式だ。法定相続人などの現代的な常識は、もちろん通用しない。相続放棄の制度は、そのためにあるとすら思っている。

 もちろん進学費用は問題なく、子供が親から受けられる世間一般的な支援は享受できる。

 そして実家の財産を継承できない代わりに、将来の親への仕送りや介護の手間なども一切不要だ。家を出た時点で独立扱いのため、実家が困難になっても支援しなくても良い。

 だが、それ故に実家の資産と自分の資産は同一視しておらず、次郎は自身が金持ちだと言う感覚は持っていなかった。少なくとも、春先までは。

 現在は、綾香の持参金なるものを省いても約三一億円という大金を収納空間に貯め込んでいる。また美也も一億円以上を稼いでおり、そちらへ支援する必要も無い。

 そのため次郎は、絵理たちの認識する金持ち像と実態が一致していた。


「まあ、俺と美也の寄付分で二台なら良いけど」

「本当ですかっ!」


 次郎は安易に請け負ったが、これは次郎たちと入れ替わりで卒業した先輩たちも寄贈していたからだ。ちなみに先輩たちは、パソコンが良く分かっていない大林先生の隙を突いて、色々と便利なソフトもインストールしていた。

 その恩恵を享受してきた次郎としては、身バレしない範囲で先輩に貰った程度は後輩に返しても良いと考えた。

 一方、堂下家の時代錯誤など全く知らないアリスは、お金持ちの先輩が後輩にプレゼントをしてくれるのだと単純に考えて喜びを露わにした。


「それならオフィスソフト全部入りで、お絵かきソフトとペンタブ、文章校正ソフトもお願いします」

「程々にな」

「えっ、ソフトと付属品も良いんですか!?」

「ちょっと、ちょっと、ジローくん。何それ、ボクも欲しいよ」


 割り込んできた絵理に対し、次郎は芸人が突っ込みを入れるような手刀を作ると、空気をベシッと叩いて見せた。


「絵理は、自分のパパに買って貰いなさい」

「パパー、マルチタッチディスプレイ買ってー」

「誰がパパやねん。指差すのやめい」


 次郎と絵理が漫才を繰り広げている間、アリスは美也に確認を取っていた。

 美也に確認を取ったのは、次郎が美也の寄付分として一台を加えると言った為であり、付け加えるなら誰が次郎の手綱を握っているのかを知っているからでもある。


「美也先輩。堂下先輩がああ言っていますけど、本当に大丈夫ですか?」

「卒業する先輩からの置き土産として、パソコン二台分だよね。予算的に駄目そうな分は却下するから、部活で使う機材やソフトで欲しい物の案を出してみて。あと、他の部には内緒ね」

「分かりました」


 財務大臣の承認を得た亜理寿は、部員の一部を集合させて指示を出し始めた。


「皆、色々調べてみて。麗緒奈レオナ由姫ユフィ仁美ひとみ、本体を探してみて。デスクトップでもノートでも良いから」

「アタシはアメリカ製のハイスペックマシンを探せば良いんだよね」

「ちゃんと日本語で使えるのを選んでね」

「最近は韓国製も優秀ですよ」

「それなら由姫はそっちを探してみて。見比べてみたいから」

「私は常識的な物を探すわ」

「それじゃあ仁美は、安い方で候補を出して。高い方は、あたしが探すから」


 アリスは、アメリカ人ハーフと韓国人ハーフに多角的な視点から探させる一方で、ドジ優等生には国内標準型を調べさせる事にした。

 さらに自身も担当の一人に加え、他の部員にも指示を出していく。


「梨々りりか久美江くみえ紫苑しおん、使用するソフトと機材のリストアップはそっちで検討してみて」

「うん、分かったよ。使いたい物を探してみるね」

「意外に安くて良いのは色々あるから、沢山挙げてみるね」

「二人に任せまーす」


 同人誌描きとオタ女には、ソフトと機材を探す指示が出された。

 なお同調型は、グループとして二人に組み込まれただけのようである。


「で、なんで清水が此処に居るんだ?」


 次郎の隣には、椅子を引っ張ってきた二年の拝金主義が座っていた。

 彼女はアリスの呼び掛けとは別に動き、興味深げに笑っている。


「いえー。ちなみに予算は、おいくら万円なのかなぁって思いまして」

「内容次第だろう。美也が『部活で使う機材やソフト』と説明したとおりだ。多ければ優先順位が付くんじゃ無いか」

「周辺機器には、レーザープリンタも入りますか?」

「予算を測ろうとするな。それに学校の支給品以外を使っても、インク代が高いから持続しないと思うぞ」

「流石にインク代までは駄目ですかー」

「買ったときに付いてくる分だけあっても、直ぐに使えなくなると思うぞ」

「ですよねー。ちなみに寄贈してくれるのはいつですか」

「卒業の時には置いていくよ。先輩が使っていて、不要になった中古品なら目立たないだろ。それに今渡すと、引退したみたいで居辛くなるからな」

「いえいえ、いつ来て頂いても良いんですよ。お金持ちは大歓迎です」

「そりゃどうも」

「ちなみに先輩って、大学はどこで何学部へ?」

「…………手堅い普通の所だ。ちなみに俺は、医学部とかに行く予定は無い」

「二五歳未満で年収一〇〇〇万円を超えたら連絡してくださいね」

「しねぇよ!」


 まるで蛇が獲物のネズミを狙っているかのように笑いながら、拝金主義は次郎の元から離れていった。

 その頃にはアリスの方も、各部員への指示を終えていた。

 なお一年生の方には声が掛かっていないが、そちらは入部したばかりだからだ。


「ねぇパパー、買ってー」

「やかましい。ベシベシ」


 拝金主義が去った空間に入ってきた駄々っ子に向かって、手刀が軽快に振るわれる。

 ちなみに「町やネットで知り合ったパパに買って貰いなさい」などと親父系のギャグでは返さない。ここは二〇匹の山羊が暮らす山羊舎で、次郎はマイノリティな羊なのだ。あくまで関西人のような分かりやすいボケと突っ込みで健全に回避する。

 すると駄々っ子は、次郎の定位置を占拠するかのように、机の上に沈み込んで見せた。


「きゅう」

「わざとらしいわ」


 次郎は渋々と、空いている島に移住を開始した。

 部室には八つのテーブルの島があり、そのうち六つの島にパソコンが四台ずつ置かれている。

 そんな列島の端に陣取っていた次郎は、押し寄せてきた駄々っ子侵略者から逃れるべく、海を渡ってパソコンが置かれていない広い新天地を目指したのだ。

 ちなみに暇つぶしの物資である文庫本は、隣の大陸である図書室から幾らでも借りて来れらる。

 だが新天地には、既に原住民が陣取っていた。


「堂下先輩、ちっす」

「おう、不思議ちゃん。ちっす」


 第一原住民、不思議ちゃん。

 一年生で学年トップの成績でありながら、ちっとも秀才そうに見えない、常にマイペースなオカッパの女子である。

 不思議ちゃんは移住者を確認した後、そのまま自習を再開した。


 なお次郎が勝手に付けた新一年生八人の属性は、次の通りである。

 一、不思議ちゃん。二、お嬢。三、中国人ハーフ。四、宝塚。五、乙女。六、お嬢の幼馴染み。七、ギャルゲ主人公の友人枠。八、ナチュラル。

 ちなみに一~五が女子で、六~八が男子だ。

 山羊舎の混沌は著しいが、被害は三匹の若い羊が入った事で緩和されている。三年女子(九割方は絵理)が被害を与えるのは次郎、二年と一年の女子が被害を与えるのは一年男子で、住み分けが為されている。

 次郎が新天地に居座ると、不思議ちゃんに代わってお嬢がやって来た。

 お嬢は、自然に恵まれた七村市に巨大なホテルを作り、旅行客を迎える観光業を行っている創業者の一族だ。

 七村市民に対して結婚式やパーティ、回忌などの各種イベント会場としてホテルを提供しており、テレビCMも流している事から、ホテル名を伝えれば大抵の七村市民には名前が通じる。

 ホテルの建設費だけで次郎が現在持っている現金の倍以上は掛かっており、堂下家が富裕層だとすれば、お嬢は超富裕層に位置している。

 ちなみに堂下家は、所有する土地の一部をホテル用の駐車場としてお嬢の実家に安値で貸しているという繋がりがある。


「先輩の家の会社って、結構儲かっているんですね。宴会でも、いつも良い部屋取ってくれますし」

「まあな」

「では後輩として、遠慮無く頂きます。ありがとうございます」

「どういたしまして」


 不思議ちゃんとお嬢に移住の承認を得た後は、様子を窺っていた他の一年生が話しかけてきた。


「図書文芸部は先輩からの寄付、結構やっているんですか」

「いや別に。今年の三年でパソコンを寄付するのって、五人の中で多分俺だけだろ。俺が入学した時に卒業していった先輩達は、同人活動で上手くいって、かなりの金があったらしいからな」

「同人活動は、儲かりますか?」

「絵理も人気ジャンルで金儲けに走れば、儲かるはずだけどな。でも趣味に走って凝るから、クオリティは上がっても儲からないんだよなぁ」

「成程分かりました」


 中国人ハーフが引き下がるのと入れ替わりに、今度は宝塚がやってきた。

 彼女は非オタ女で、同人誌を作る輩の隣で芥川賞作家の小説を読むような凄い女だ。


「先輩。やっぱり無理なら、どうとでも止められますよ」

「おうサンキュー。先輩から貰った分を後輩に渡す感覚だから良いぞ。部の予算も足りないしな」

「それは失礼しました」

「いやいや。常識的な後輩が入ってくれて助かるよ。俺達が卒業した後もよろしく」

「随分気が早いですね」


 宝塚との接触はそれで終わった。

 他にも個性的な一年生ばかりが揃ったが、絵理とアリスはよくそんな連中を引き込んだものだと改めて感心する次郎だった。

 こうして新たな後輩を迎え、高校の最終学年が進み始めていた。


「パパー、買ってー」

「もう移住してきたんかい」


 なお客観的に見て、部内で一番騒がしい山羊と羊は、この二匹であった。

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