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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第三巻 接触

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54話 デモンストレーション

 二〇四六年五月一日、次郎は一八歳となった。
 現代では十八歳は成人年齢であり、相応の権利と義務を与えられる。
 それが少子高齢化社会での労働人口の確保や、低所得労働階級の維持、増収などを目的とした過去の短絡的な政策の結末であろうとも、次郎にとっては保護者の同意が不要になった点に何よりも価値があった。
 もはや自分が稼いだ約三一億円を、親に采配される恐れはない。渡された現金は法的に源泉徴収済みとなっているため、未成年者として親だけが問題だった。
 もちろん現在は、レベル上げに勤しむために成人の権利を行使する暇は無い。
 だがレベルを最大まで上げ切って、塔型円柱も攻略した暁には、使う余裕も出てくるのでは無いかと考えている。
 但し、派手に使う際の大金を得た言い訳は、ろくに思い付いていないが。

 そのようにあぶく銭を手に入れた新成人が欲に塗れた夢を思い描いていた頃、日本全体でも新たな夢が次々と描かれていた。
 次郎の誕生日と同日、ダンジョンの入場許可証を得るための申請書類一式が、政府の告知通り各行政機関のウェブ上へと一斉公開された。
 時期的にゴールデンウィーク直前とあって、若者達は大いに盛り上がった。
 マスコミも、ダンジョンのある都市で通行人への街頭インタビューを行うなどして、連日に渡って入場許可申請の話題を取り上げている。
 ゴールデンウィーク中の今日も、男子高校生と思わしき制服を着た二人組が、インタビューに答えている様子がテレビに映っている。

「ダンジョンへの入場申請は、行われましたか?」
「勿論です」
「当然出しました」
「いつ申請されましたか?」
「五月一日の夕方です。家に帰ってから直ぐに用意しました」
「俺も同じです。家のプリンタでPDF化しました」
「ええっ、当日に申請されたのですか」

 女性リポーターが大げさに驚いて見せた。だが彼らのように当日申請を行った者は、全国でかなりの数に上った。
 何しろ事前調査の結果、許可申請を行いたいと回答したのは男子生徒の六割、女子生徒の三割で、検討中と回答したのは男子生徒の三割、女子生徒の三割にも上ったのだ。
 一二歳以上四〇歳未満の国民は、約三〇〇〇万人。
 男性の六~八割と、女性の二~六割が申請する場合、想定される申請者数は最低でも一〇〇〇万人を大きく上回り、高い場合は二〇〇〇万人を越える可能性まである。
 申請の事務処理が先着順で、許可する総数は不明瞭。
 さらに初動の遅れが数十万人から数百万人もの差になると考えれば、一日でも早く申請したいと考える人が多くなるのも無理からぬことであった。

「早い方が良いと思って。診断書と顔写真は先に用意しておきましたし」
「いつ連隊本部に呼ばれても良いように、戸籍謄本も住民票もパスポートも、全部揃えてありますよ」
「凄いですね。もしも許可が出たら、レベルを上げてどんな能力を取ろうと思いますか」
「風魔法が欲しいです。最終的な目標は魔法で空を飛ぶ事ですね」
「断然、身体能力です。それ一本に絞れば、山田太郎みたいに超高レベルに成れると分かっていますし。俺は特典まで目指しますよ」

 テレビはその後も何組かのインタビュー映像を流した。
 やがてインタビュー映像が終わると、その様子を見ていたスタジオで司会者とゲストたちが、ダンジョン開放後の国民のレベル上げについて色々と意見を交わす。
 政府がダンジョンを公開する名目は、国民の自衛手段獲得だ。
 国民が自衛手段を獲得する事に関しては、数万人の死者と数十万人の被害者を出した魔物氾濫に対する危機感や、未だに残るダンジョンへの不安から、世論は概ね肯定的に捉えている。
 その他にも医療費抑制や、魔法研究で消費エネルギーの転換、魔法を用いた特殊部品の製造など、資源の乏しい国として様々な夢を見た結果、各界からの圧力が行政の重い腰を後ろから蹴飛ばし、左右から前に引きずる勢いで前に押し出している。
 国内メディアの報道も、各所が押す力の一端だ。
 また政府側でも、メディアを介した様々な広報活動を展開している。
 そんな数多ある広報活動の一つが、群馬ダンジョン前で行われていた。

「ジャポンテレビです。皆様、本日はよろしくお願いします。こちらは撮影スタッフと、高ノ宮プロダクションさんです」

 壮年の男性は軽くお辞儀をすると、テレビクルーとタレント事務所を紹介する。機材を抱えたテレビクルーは一礼し、事務所の男女は自己紹介を始めた。

「高ノ宮プロダクションと申します。この度は当プロダクションをご指名頂き、誠にありがとうございます。こちらは弊社所属タレントの片山真暖(マノン)です」
「はじめまして。Sylphidシルフィードの片山真暖(マノン)です。よろしくお願いします」

 プロデューサーの名刺を渡したスーツ姿の青年と、世界的に知名度の高いアイドルユニットのリーダーが、丁寧にお辞儀をする。
 Sylphidは四人組の女性アイドルユニットで、全員がハーフ若しくはクォーターだ。内訳はフランス人クォーター、フィンランド人ハーフ、トルコ人ハーフ、中国人ハーフと国際色も豊かである。
 彼女達は、沖縄県で芸能活動中だった一昨年の七月、米軍が大量に撃ち落としたコウモリの群れに襲われた際、一気に経験値を稼いでレベルアップを果たした。ある意味、パワーレベリング体験の第一人者でもある。
 そんな彼女たちは、有名人として初めてテレビの前で魔法の実演を行った事で、世界的な知名度を得るに至った。
 今やSylphidは国内外で引っ張りだこであるが、今回依頼を出したのが日本政府であった為、事務所は無理をしてスケジュールを調整してやってきた。今回の依頼はリーダーのみであるため、スケジュールの調整が効き易かったのもあるが。

「広報官の安井です。今日は、よろしくお願いします」

 撮影内容の打ち合わせは、事前に終わっている。
 責任者の連隊長は顔見せのみ行い、後は広報官の安井が引き継いだ。
 やがて撮影場所の案内が終わり、タレントの準備が整うと撮影が始まった。

「皆さんこんにちは。Sylphidシルフィードの片山真暖(マノン)です。ついにダンジョン入場許可申請が始まりましたので、今日は関東ブロックの申請先の一つ、群馬ダンジョン駐留連隊本部にやってきました」

 片山が両手を身体の右側に伸ばすと、その先に群馬ダンジョンの正面が大きく映し出された。ダンジョンは白いドーム状で、政府見解で安全である事が分かる。
 入り口は塞がれて連隊本部も置かれているが、ドームの白化とダンジョン公開の方針が定まって以降、連隊本部は内部から出てくる魔物対策から、外部から来る人々に対する門番的な設営に造り替えられつつある。

「今日ご案内してくださるのは、自衛隊の安井さんです。安井さん、今日はよろしくお願いします」
「陸上自衛隊の安井千紘広報官です。こちらこそよろしくお願いします」

 安井は二十代前半の若い女性で、一般市民への印象が少しでも柔らかくなることを目的として説明役に選ばれた。
 彼女は笑顔で、ダンジョンを公開するにあたっての説明を始めた。

「それではダンジョンの入場許可申請の手順について、簡単にご説明しますね。基本的には三つです。書類を出して、審査を受けて、合格なら入場許可が貰えます」
「凄く簡単そうですね。実際にはどのような手続きが必要なのでしょうか」
「はい、必要な手続きをご説明します。あちらの群馬駐連本部へお越し下さい」
「分かりました。ではこれから、群馬ダンジョン駐留連隊本部へ行ってみたいと思います」

 片山と安井は、群馬ダンジョン駐留連隊本部に向かって歩き出した。
 実際に使われる映像ではカットか早送りにされるであろうが、二人が雑談をしながら歩いて行く間も撮影は全撮りで続けられる。
 やがて二人は連隊本部の屋内に入ると、入り口から右手側の一番の窓口の前で立ち止まった。

「はい、ここが窓口です。ここでは皆さんが第一段階でデータ送信された書類の原本と、第二段階で必要な書類を、A四サイズの茶封筒に入れて持参して頂きます。茶封筒には、申請者の郵便番号・住所・氏名・第一段階の申請時に表示された受理番号を記載して下さい。真暖さんは、全部持って来られましたか?」
「実は私も書類を整えて、群馬ダンジョンに入場許可申請を出しました。こちらです」
「はい、受け取りました。それでは中身を確認させて頂きます」

 片山は、予め撮影用に準備されていた見本の茶封筒を提出した。
 それを受け取った安井は、見本品をカウンター前に順番に並べていった。
 連隊本部に提出しなければならないのは、第一段階で送信した、申請書・誓約書二枚・同意書二枚・宣誓書・保証書・申請日から三ヵ月以内の健康診断書、そして第二段階で必要な、マイナンバーカード表裏両面のA四サイズコピー、パスポート顔写真部分のA四サイズコピー、戸籍謄本、住民票、通知用のハガキに自分の住所先を記載したものである。
 これらをA四サイズの茶封筒に入れて、茶封筒に自分の郵便番号・住所・氏名・第一段階申請時に表示された受理番号を記載して提出する必要がある。
 揃えるのは手間だが、日本国籍のパスポートとマイナンバーカードを手に入れられる人であれば、第二段階までの申請は出来るようになっている。

「提出物と茶封筒で合計一四点、確認しました。それでは確認の為に、パスポートとマイナンバーカードを見せて下さい」
「こちらです」
「提出されたコピーと同じ物ですね。そして提出者は、片山真暖さん本人に間違いないようです。はい、第二段階の申請を受け付けました。まずはパスポートとマイナンバーカードをお返しします」

 パスポートとマイナンバーカードを目視で確認した安井は、それを直ぐに片山へ返却した。

「はーい。パスポートとマイナンバーカードを返して貰いました」
「もしも受付担当者が返し忘れたら、皆さんその場で直ぐに言って下さいね。この後は七月以降に、申請の受理ないし不受理の返信ハガキが届きます。受理されら本人がハガキと顔写真入りの身分証明書を持って、入場許可証を受け取りに来て下さい。お疲れまさでした」
「ありがとうございました」
「続いて、受け付けた側の手順を一部お見せします。受け取った連隊本部では、このように処理します」

 安井は、その場で受理番号が入ったバーコードシールを発行して、ハガキと封筒にそれぞれペタペタと貼り付けた。
 そしてバーコードをスキャンで読み込むと、表示させていた片山のデータに入力して紐付けする。

「ここまでが第二段階でした。真暖さん、疑問に感じた事はありましたか」
「国籍が日本でなければ受け付けないという話について、質問してみたいです。私が所属するSylphidシルフィードは、ハーフとクォーターの集まりです。入場許可は、どこまでが認められるのですか」
「はい。ダンジョン法案では、日本国籍のみを持つ方が対象となります。フランス人の祖母を持つ片山真暖さんは、ご本人は最初から日本国籍のみですから大丈夫です。但し、日本国籍と外国籍を同時に持っている場合、あるいは二〇四六年以降に帰化された方の場合、今回は不受理になります」
「両方の国籍を持っていて、日本国籍を選択した場合はどうなりますか」
「はい。このようになります」

 安井広報官が机に立てかけた説明のボードには、二重国籍者の扱いが記載されていた。
 それによれば、国籍法第一四条第二項に基づき外国国籍の離脱を行った者は受理、離脱できず日本国籍の選択宣言を行った者は不受理と記載されている。

 日本政府は、提出された外国国籍喪失届ないし日本国籍の選択宣言を確認することは出来るが、提出も宣言も一切されていない多重国籍者を把握する事は出来ない。
 もちろんアメリカでの出生届を領事館経由で提出されているような場合は、アメリカ国籍を持っている多重国籍者だと分かるが、基本的には分からない事の方が多い。
 そのため両親の片方が外国人で自動的に他国籍が得られる場合は、外国国籍喪失届が提出されていない限り多重国籍者であると「見做し」されて、入場許可申請が却下される。
 これで完全に多重国籍者を省けるわけでは無いが、これ以上は現実的な選別能力の限界で、どうしようもないとされた。
 どうしようもないで済むのは、この制度を導入した目的の一つが「日本政府は他国の戦争や犯罪に加担しない」という名目を得るためだからだ。
 ここまでやれば「日本では制度的に他国籍者・多重国籍者がレベルを得る事を禁止していたが、虚偽申告した者が日本を騙した」と主張できる。
 他国に魔法技術の特許を先行取得されないためという目的もあるが、禁止していたレベル上げで勝手に国際特許を取得する国があれば、レベル上げの機会から当該国を省くなどの対応を取れる。
 差し当たって、国民に広くレベルを取らせて様々な技術発展を促す事と、他国にそれを奪われない事の現実的に妥協できるラインが、この辺りにあったわけだ。
 将来的に緩和される可能性はあるが、日本の国益の為に他国民の入場を認めるのはなるべく遅らせたいというのが政府の本音だ。
 そのために大場政権時代から続いているアメリカとの『沖縄ダンジョン共同調査』は継続されており、アメリカの拒否権があるため国連は身動きできないでいる。俗に言うダブルスタンダードだが、国益優先でアメリカと妥協ラインを綱引きしている井口総理の強かさには、アメリカすらも舌を巻いていた。
 そういった強硬手段を採れるのは、国内に膨大な原油が埋蔵しているが如く、ダンジョンが日本国内のみに存在している圧倒的有利な立場と、現与党の対抗勢力が無いために外国勢が工作できないためであるが。
 片山は暫くボードを撮す時間を置いた後、質問を口にした。

「制度的に国籍を離脱できない国もありますよね。そのような方はどうなりますか」
「はい。ダンジョン法案では対象外ですが、法律が変われば認められるかも知れません」
「分かりました。ありがとうございます」

 日本政府はダンジョン公開にあたって、血統ではなく、国籍を基準にしている。
 純血の日本人でなければならないという間違った誤解が無いようにするには、ハーフやクォーターの有名人に許可を出すのが手っ取り早い。但し同時に、クォーターやハーフに一律で許可を出すわけでは無いとも説明しなければならない。
 今回その部分を周知する事こそが、Sylphidの片山真暖が呼ばれた理由であった。

「ではここからは、七月にハガキが届いて入場許可証を受け取った後についてご説明します。審査が終わると、ハガキに受理もしくは不受理のハンコが押されて郵送されます。このような形です」

 安井は先程受け取ったハガキに受理とハンコを押し、片山に手渡した。

「ありがとうございます」
「そのハガキと、顔写真入りの身分証明書を持って、再び連隊本部に来て下さい。窓口は申請窓口ではなく、受け取り窓口です。そちらでハガキと受取証へのサインと引き替えに、入場許可証が貰えます」

 引き替えに消印の入ったハガキを受け取るのは、届け出された住所への郵送で本人に届くかの確認。受取証へのサインと印鑑は、間違いなく本人へ渡した証拠となる。
 片山が受取証に日付と氏名を書き、印を押して安井に渡す。
 すると安井は受領証と引き換えに、事前に用意していた入場許可証を手渡した。

「開放日以降にこちらの許可証を持参すれば、片山真暖さんは関東ブロックの群馬・栃木ダンジョンに入れます。入場許可証の有効期間は、二〇四六年九月から、二〇四九年八月までの三年間です。但し、ダンジョンが白化していない時は入場できませんので、ご注意下さいね」
「はーい、分かりました」

 入場許可証は、日本で三〇年の実績を持つマイナンバーカードと同じ仕様だ。
 年数分だけ様々な問題を修正しており、全国には読み取り機が配備済みで、カード自体の生産体制も確立されている事から、すぐさま安定した運用が見込める。
 当初の構想としては、マイナンバーカード自体にダンジョンの入場許可の有無も載せるというものがあった。しかし有効期間の差があるために、独立したカードとして作成する事になった経緯がある。
 そのためマイナンバーカードと入場許可証には互換性があり、日本の行政機関に幅広く置かれているマイナンバーカードの読み取り機から、内蔵のICチップで本人の顔写真や有効期間を簡単に読み込める。
 また入場許可証はマイナンバーと紐付けされており、マイナンバーに入った情報の一部を読み込むこともできる。
 片山に渡された入場許可証は、政府が事前に作成した本物のカードだった。
 既に各連隊本部では、審査さえ終われば入場許可証を発行できる状態に至っている。

 繁々とカードを見つめる片山に、安井はレクチャーを行っていく。
 ダンジョン内部で遭難しても、自衛隊はダンジョン内の捜索は行わない。そのため事前準備を怠らず、なるべくグループで行動する事が推奨されている。
 自衛隊や警察の指示を厳守する事や、命を大切にする事などが改めて語られた後、編集された映像が全国放送された。
事前予告の連投は、今回分まででした。
ペースは落ちますが、これからもよろしくお願い致します。
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