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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第三巻 接触

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51話 白と灰色

 第一陣が初級ダンジョンを六つ同時に攻略した日は、第二陣である自衛隊子弟のパワーレベリングが完了した日でもあった。
 第一陣の育成期間が一三日であったのに対して、第二陣の育成期間は二一日。
 自衛隊は、次郎が一夜に捕獲する一八〇匹分の経験値を、第二陣の質向上ではなく、総数拡大に注ぎ込んだ。
 第二陣の自衛隊の子弟は五五名で、全員がレベル三一に達している。
 そんな彼らは、第一陣の結果を参考に、攻略特典BからAを狙うらしい。
 政治家子弟は国内外に対する抑えの見せ札で気軽に使えないが、自衛官であれば任務として駆り出せる。

(俺は稼げたから良いけどな)

 アルバイトを全て終えた次郎の懐には、綾香の持参金とやらを省いても三〇億円を上回る大金が入っていた。
 美也も個別に一億円以上を持っており、綾香も持参金二七億円の他に特攻隊の一時金や生涯年金が支給されるため、真面目に働くのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
 次郎がよく読む小説サイトのファンタジー系小説において、ダンジョンは一攫千金だと異口同音に語られるが、現実でもその通りだったと実感した次第だ。
 稼ぎ過ぎて、働きたくない病を煩った次郎と異なり、第二陣はやる気に満ち溢れている。

 第二陣にも、第一陣より随分下がるが相応の報酬が生涯約束されている。
 第一陣よりも少ないのは、転移能力の支援を受けられずに一六日間魔物に襲われ続けた第一陣の困難さや、第一陣から転移での支援を受ける事、第一陣の検証を基に高い特典を獲得出来るようになった事などと比較しての差だ。
 それでも大金と厚遇が確約されており、彼らは意欲的だった。
 第二陣の育成完了時点で、残る初級ダンジョンは二四ヵ所。
 その全てを攻略すべく、彼らは四名から五名の一三個班に分かれ、転移能力を取得した第一陣から各班二名ずつの支援を受けながら、第二次特別攻撃隊として第二次攻撃を開始した。
 第二次攻撃の開始が一一月二五日、最深部突入が一二月一一日。
 第三次攻撃の開始が一二月一四日、最深部突入が一二月三〇日。
 これに機動隊と自衛隊の合同チームが攻略している場所を加えて、年内に全初級ダンジョンが攻略完了となる。

 次郎は太平洋戦争時の兵隊さんを見送る国民のように万歳を繰り返しながら、美也と共に上級ダンジョンの攻略へと戻った。
 地下三階のオーク達を二番煎じで串刺しにし、地下四階のリザードマンを美也が地下湖ごと沸騰させた一一月が過ぎ去った。
 一一月三〇日と一二月一日には、七村高校で期末テストも行われた。
 その後、地下五階のハーピーを鋭い石混じりのハリケーンでミキサーにかけて一週間ほど経った頃、次郎は広瀬大臣から呼び出しを受けた。

 広瀬大臣に呼び出された理由は、上級ダンジョンの環境破壊ではない。
 機動隊と自衛隊の合同チームが、四七都道府県の二四ヵ所目として攻略した新潟ダンジョンが、予想外の現象に見舞われたのだ。
 新潟ダンジョンは、ドーム状の巨大構造物が『灰色から白色に変化』した。
 そして中級ダンジョンである『多階層円柱への形状変化は起こらなかった』のだ。
 白いドーム内部に居たのは、相変わらずのコウモリであった。

『昨日未明、自衛隊と機動隊の合同チームによる新潟ダンジョン攻略が行われ、二四番目となるダンジョン攻略に成功しました。ですが新潟ダンジョンは、中級ダンジョンへの形状変化が起こらず、外壁が灰色から白色に変化しました。関係者によると、これは想定外の事態であり、政府は情報収集に追われているとの事です』

 アナウンサーの音声と共にテレビに映し出されているのは、ドーム状のまま白化した新潟ダンジョンであった。
 政府の予想では、初級ダンジョンは攻略する事で中級ダンジョンである四段の多階層円柱に変わるはずだった。
 だが新潟ダンジョンは、攻略から丸一日経った今も白いドームだ。

「そこで、君の意見を聞きたい」

 テレビの音量を落とした広瀬大臣は、次郎を呼び出した要件を告げた。
 既に防衛省からは、様々な可能性を伝えられているのではないだろうか。それでも確信には至らず、次郎を呼び出したらしい。
 なぜ次郎に意見を求めるのか。
 それは次郎たちがチュートリアルダンジョン時代から様々な検証記録を集め、中級ダンジョンを攻略し、その先のダンジョンも攻略中という、日本で最もダンジョン経験が豊富な人物だからだ。
 自衛隊や機動隊といった組織から完全に独立しているため、組織の方針や慣習を気にせず自由な意見も述べられる。多角的に事象を捉えるべきだと大臣が判断したため、次郎が呼び出された次第であった。
 もちろん次郎たちが答えを知っているはずは無いのだが、それでも次郎と美也には独自の考えがあった。

「日本中の全てのダンジョンが中級になったら、難易度が高すぎて新規の人は攻略できなくなります。ダンジョンを出現させた相手は、ダンジョンを攻略させたいが為に、敢えて初級ダンジョンを一定数残したのかもしれません」
「その判断に至った理由は何かね?」
「新潟ダンジョンは、四七都道府県で二四番目の攻略で、丁度半分を過ぎたところでした。相手がダンジョンを攻略させたいのは、攻略特典を出す点から明らかです。第二次特攻隊が攻略する次のダンジョンも変化しなければ、私たちは相手のダンジョン攻略推進活動の一環だと考えます」

 断言する次郎に、広瀬は暫く考え込んだ。
 だが答えなど分かるはずも無く。やがて次郎の意見として受け入れたのか、次の疑問を口にした。

「新潟ダンジョンは、攻略後に白化してダンジョン外へ飛ばされた。だが内部への転移は可能で、最奥には何も出なかった。これはどう見るかね」
「もう調べたんですか」
「秘匿部隊にも、転移を持っている者が居るからね」
「それなら、ダンジョン外に飛ばされたのはボスを倒して攻略したからだと思います。白化は攻略済み、若しくはボスが居ない目印。内部への転移が可能なのは、形状が変わっていないから。ボスが出ない理由は、倒したから」

 若者故の柔軟さだろうか。それとも責任を負わずに済む立場故だろうか。
 次郎の回答は淀みなく、断定的で、自衛隊が徹夜で討議した結論よりも遙かに踏み込んでいた。また現状を有りの侭に受け入れた解釈で、多角的視点からの意見を期待していた広瀬は、有効な意見の一つだとして頷いた。
 だが防衛大臣の立場としては、様々な状況を想定しなければならない。

「では仮に、第二次特攻隊が攻略したダンジョンが中級に変化した場合は、どう判断するかね」
「その場合は、新潟ダンジョンが例外になりますので、他との差を考えますね。秘匿部隊が、相手の定める限度数を超えて同じ難易度のダンジョンを攻略した可能性。何らかの禁忌事項に抵触した可能性。俺の情報量が少ないので、そこは判断出来ません。まあ知りたくも無いですけどね」

 放言した次郎は、秘匿部隊の銃撃が大場政府から命令されただけだと理解している。新政府は殺害命令を解除しており、既に次郎たちは狙われていない。
 この問題に関しては、当時の防衛事務次官と統合幕僚長、緊急事態を布告された後に指揮命令権を有していた警察庁長官が政権交代に前後して引責辞任しており、対外的な幕引きは終わっている。
 もちろん次郎に対しての公的な補償は為されていないので、次郎は彼らの協力を拒む大義名分を有したままだ。それは次郎にとって少額の賠償金を貰うよりも都合が良いので、状況は継続したままとなっている。
 ダンジョン問題を抱える防衛大臣の広瀬としては、政府の命令であれば違法行為にも手を染める秘匿部隊がある方が色々と有り難い。
 また次郎が自分たち専任の協力者である状況も都合が良いため、次郎が何も言わなければ現状のままにするつもりだった。

「ところで白いダンジョンは、魔物を放出すると思うかね」

 それは現政府にとって、最重要な問題である。
 次郎は少し考えてから、先ほどよりも自信なさげに答えた。

「分かりません。でも攻略しても魔物が出るのであれば、攻略の推奨効果が下がります。楽観論だと、出ないと思います」
「楽観論で無ければ、どうだね」
「リセットされてコウモリから出る可能性と、リセットされておらずカマキリから出る可能性の二パターンですね。一月四日には、白いダンジョンに全ての特攻隊を揃えた方が良いかもしれません。八五名も特攻隊が居るなら、二四県に三人ずつ置けますよね」
「成程、参考になった。ところで君の話は、ダンジョン専門家である山田太郎氏の意見として世間に公表しても構わないかね」
「…………別に良いですけど、責任は持てませんよ」
「勿論だ。意見を聞いてどうするのかは政府が決める。今日の報酬は和馬君から受け取ってくれ」
「どうもです」

 その日のうちに記者会見を行った広瀬大臣は、目下調査中である事を告げた上で、予てよりの情報提供者にして政府協力者の山田太郎と相談した結果として、次郎との話を残らず紹介した。
 そして広瀬大臣は、一一日の第二次攻撃の結果を見守りたいと締め括った。
 現状に対する認識と、対策の発表があったことで、混乱していた世間は第二次特攻隊の攻略結果に注目した。

 翌々日、第二次特攻隊が攻略したダンジョンが続々と白化した。
 その結果によって、人々は不安を完全に払拭する事は出来ないものの、概ね安堵した。
 世間では、ダンジョンを生み出した存在がおり、その存在がダンジョンを攻略するように望んでいるという説が最有力視されている。
 その根拠は、次郎が示したとおり攻略特典が付くからであり、他にもチュートリアルダンジョンが出た点、日本語のステータスが出る点、レベルが上がる点、BPが付く点、日本の四七都道府県の駅前にダンジョンが出た点などが挙げられる。

 その後、政府は予定通り三回目の特攻を行わせ、次郎たちは冬休みに入った。
 ハーピーをミキサーにかけるのに飽きてからは、地下六階のオーガーを季節外れのバーベキューにして、地下七階のホブゴブリンをゴブリン同様にドラキュラ伝説の再現に用いた。
 上級ダンジョンの森林を、大規模な焼き畑農業で次々と使い潰し、引き替えに美也と二人で膨大な経験値を独占する。
 森という食糧庫を失った魔物たちは、それでも不思議と活動出来ていたものの、同族を襲うなど殺伐としていた。

 やがて年が明けて、カマキリ出現が予想されていた一月四日の夜、広瀬から再召喚された。
 今回も、大規模な森林破壊に関する苦情では無い。
 いつの間にか政府公認にされたダンジョン専門家である山田太郎氏に対する意見聴取が目的である。

『この時間は番組を変更し、繰り返し臨時ニュースをお伝え致します。本日午後三時頃、全国各地の全ての初級ダンジョンの外壁が、白色から灰色に再変化しました。その後、午後四時五六分、高知ダンジョンのみが白色に再変化し…………』

 二〇四六年一月四日。
 日本の全てのダンジョンから魔物が出なかった。
 その時点で、政権交代を行った与党四党と、協力した労働党の小林派、国民党の決断が功を奏した結果となり、彼らに権限を与えた国民が日本を救う大勝利をもたらした事となった。
 しかし、勝利宣言は未だ為されていない。
 それは白化していた二四県の初級ダンジョンが、一月四日に再び白色から灰色に戻ったからだ。その際には、内部に居た自衛官や警察官が、一斉に転移でダンジョン内から追い出されている。
 但し、ダンジョン内への転移は相変わらず可能で、最奥には再びボスが発生していた。高知ダンジョンが白色に戻ったのは、政府が確認の為にボス部屋に行かせたからだ。
 そして前回の発言が的中していた次郎が、再び呼び出された。

「元の色に戻ったという事は、ダンジョンがリセットされたんじゃないですか。もしかすると、再来月の四日には再び魔物が出てくるかも知れません。相手の意図は、攻略の催促とか、魔物退治をサボるなとか。あるいは、攻略特典の再取得チャンスとか」

 攻略特典は、各ダンジョンのボスを最初に倒した者しか得られない。
 そして次郎のように山中県と北海道の二ヵ所を攻略するような者が居れば、他の者は特典の獲得機会が減らされる。
 新規参入者のために初級ダンジョンを残すのであれば、ボスを復活させる事もその一環となるのではないか。それが白色から灰色に戻った初級ダンジョンに対する次郎の考えだった。

「催促なのだとすれば、魔物が氾濫しない中級ダンジョンはどう考えるかね」

 広瀬が指摘した中級ダンジョンは、魔物の氾濫が起こっていない。
 山中ダンジョンは、二〇四四年八月二七日から二〇四五年一〇月一日まで、七回もの魔物氾濫日に魔物が放出されず、次郎たちに攻略されて塔型円柱に変わった。
 また沖縄と鹿児島でも二〇四四年一二月の攻略から、二〇四六年一月現在で魔物の未放出期間が七回目を迎えている。
 何れも灰色で、最奥にはボスも存在している。

「中級は初級に比べて、難易度が高いです。今の特攻隊でも、綾香以外はボス部屋にすら辿り着けません。ですから催促も、初級より長いスパンなのだと思います」
「充分に有り得るな」

 広瀬の納得する様子に、次郎は今回も満足する答えが返せたらしいと考えた。
 しかしふと思い付き、念のために自らの懸念を伝える。

「恐いのは、初級ダンジョンがどこまでリセットされているのかです」
「と言うと?」
「各初級ダンジョンは、カマキリが出る直前でした。このまま放置した場合、次の氾濫日には、コウモリから順番に再出現ではなく、いきなりカマキリが出てくる可能性もあります」
「確認するにはリスクが大きいな。敢えて人口の少ない一県だけを未攻略で残して、戦力を集中させて確かめるか。それとも危険を避けて、黙々と攻略し続けるか。流石にそれは、総理に諮らなければなるまい」

 それは防衛大臣であろうと、一人で決断できない問題だろう。
 だが政府がいずれの道を選ぶにしても、充分な対策は為される。
 共和党との間で相互利益を享受する次郎としては、労働党が巻き返しを図る機会が出ては困るので、頑張って対策して欲しいと考えた。

「今回も助かった。報酬は和馬君から受け取ってくれ。それと、もう一つ頼まれて欲しい」
「何でしょうか」
「再出現したボスを倒しても、総合評価が付くのかを検証したい。高レベルの君と綾香君に、特典取得の可能性がある者を一人ずつ付けて、何カ所か確かめたい。最奥までの移動には、転移能力者を付ける」
「…………機動隊とか言わないですよね?」
「地図作りと第一次攻撃隊の護衛をさせた、秘匿部隊とは無関係な若手自衛官だ」
「それだったら良いですけど」
「そうか。再取得が可能ならば、第三次以降の特攻隊候補者にも特典を与え、中級攻略を進めさせる。君たちは綾香君と共に、上級と予想されるダンジョンの攻略を続けてくれれば助かる」
「分かりました」

 その後、次郎と綾香が選抜者を連れて複数のダンジョンで検証した結果、初級ダンジョンの初攻略者は総合評価が表示されて、特典も得られる事が判明した。
 そのため灰色化した初級ダンジョンは、特典の国外流出や混乱を避けるために転移で白化しつつも、第三次以降の特攻隊が育てば攻略させて特典を与える事が内々に定められた。
 そしてこの頃から、政府の大胆な新計画が動き始めた。
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