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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第三巻 接触

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50話 大金星

 日本が冬支度の様相を呈し始めた、一一月二二日。
 期末テストまで二週間を切った七村高校では、生徒達がテストどころでは無いと、授業中と休み時間を問わず携帯端末で情報収集に明け暮れていた。

『本日は全ての番組を変更し、六県のダンジョンに突入した第一次特別攻撃隊の特別番組をお伝えしております。ただいまの時間は私、菅山雄大と』
『平山香奈がお伝えします』
『それではゲストの皆様をご紹介します。一人目は、時代劇や刑事ドラマではお馴染みの俳優、五井甚平さん。二人目は女優の柊亜寿沙さん。三人目は医師の千葉美冬先生。どうぞよろしくお願いします』

 紹介される度にゲストがそれぞれ、よろしくお願いします等と言ってお辞儀をする。
 期末テストが迫る貴重な休み時間であるが、携帯端末の音量を大にしてテレビを見ている中川や北村に文句を付ける生徒は居ない。むしろ聞き耳を立てるか、自らの端末でテレビを見るなどしている姿が方々に散見された。
 もっとも次郎たちのクラスで発生している現象は、今日に限っては日本中で同様に起こっている。
 何しろ今日は、全都道府県の半数以上に暮らす数千万人が、集団疎開をするか否かの決断を迫られる日なのだ。
 疎開が必要ない山中県であろうと、疎開の受け入れ先として他人事では無かった。

『先月発足した井口新内閣は、ダンジョン攻略に政治家の子弟を「特攻隊」と称して突撃させる作戦を発表しました。特攻隊となった中高生達は、与野党を問わず閣僚級や各派閥長などの大物政治家の血族から選ばれました』
『はい。全員が僅か二週間という僅かな強行スケジュールでレベルを上げられ、今月四日に地上に氾濫した魔物をチームごとに約五〇〇〇体ずつ倒した後、六日からダンジョンに突入しました。本日は最深部への突入予定日であり、遅くとも今夜までには結果が判明する見込みです』

 今回の作戦は、次郎の案を土台としている。
 彼は、野党時代の井口豊に「推奨は、レベル三五が四人以上」と語った。
 井口豊と広瀬秀久は、五対二、あるいは六対二まで数的優位を拡大させて、運用面でも三対一の側が決着を付けてから二対一の所に援護に向かうという、安全性と確実性を向上させた作戦を採った。
 特攻隊のレベルに関しては、タイムスケジュール的にレベル三五まで上げる事は出来なかったため、ボスよりも高い三一でレベリングを終了させた。
 但し、お披露目時の魔物退治と、ダンジョン内で総合評価を上げる為の魔物退治とで、実際の突入までにレベルの上積みを期待している。
 加えて特攻隊には、魔石を弾頭に用いた特殊対物ライフルを持たせた。先手を取って銃弾を浴びせ、ダメージを負わせてから戦闘を開始する予定だ。

 三二名は、次のように分けられた。
 東北地方の福島県、六名。
 中部地方の岐阜県、五名。
 近畿地方の三重県、五名。
 中国地方の岡山県、五名。
 四国地方の愛媛県、六名。
 九州地方の熊本県、五名。
 六名の県については、福島県は原発問題を抱えているため、愛媛県はブロック内に安全圏が一つも無いため、人数が増やされた。
 なお既に特典を持っている綾香は、攻略特典が高くなる可能性が高い五名の岐阜班に編制された。
 巨大カマキリの氾濫日が迫っているため、仮に各班に脱落者が出て四人に減った場合でも、作戦は中止せずに四人がかりでボスを一体ずつ倒す事になる。攻略を断念して撤退するのは三人以下になった場合だ。
 そうしたトラブルを極力避けるため、深部までの補助要員には、カマキリ対策要員としてレベルを上げさせていた自衛隊員から選抜された中隊規模の同行がある。
 各中隊は道案内、索敵、囮、火力支援、物資運搬、カウンセリングまで何でも熟しながら、特攻隊を可能な限り最深部の近くまで送り届ける役目を担う。
 その人数を超えると、階層間の魔物が来られない安全地帯に全員が入り切れなくなるため、実質的に投入可能な最大規模だ。
 出現から一年半も経過した初級ダンジョンでは、内部の調査が行われてある程度の地図が出来ている。
 また安全地帯には、食糧や水、医薬品なども集積されているため、到達予定日が遅れる事は、殆ど無いと考えられている。

(綾香さえ無事なら、あとはどうでも良いんだけどな)

 特攻隊にパワーレベリングを施したのは次郎だが、両者は師弟ではなく、コンビニ店員と客くらいの関係だ。
 店員が経験値という名の商品を陳列し、客側が次々と商品を手に取っていく。お支払いは日本政府で、彼らは親が持つ買い物カゴに商品を入れる子供でしかない。
 もちろん作戦の成否は、日本に住む次郎にも少なからぬ影響を及ぼす。
 そのため綾香を除いた隊員の負傷に心を痛める事は無いが、全体的な作戦が成功して欲しいとは思っていた。

『なんとしても成功して欲しいですね。平山さん』
『はい。全員が無事に帰ってきて欲しいと思います。それではゲストの方にもご意見を伺いましょう。五井さん、今回の作戦をどう思われますか』
『そうですな。未成年の子供達を一六日間も魔物に襲われ続けるダンジョンに放り込み、疲労の極地で巨大女郎蜘蛛に挑ませるのは、大人としていかんと思います。それしか手段が無いとしても、駄目でしょう』
『それでは、どうすれば良いのでしょうか』
『巨大女郎蜘蛛との決戦時には、せめてレベルの高い自衛隊員を付けるべきでしょう』

 ご意見番の五井氏に口を挟む形で、女優の柊亜寿沙が割り込んでいった。

『でも大勢で入ったら、ボス以外の女郎蜘蛛が増えて大変になるんですよねー。それに一緒に入った大人が襲われたら、ボスに集中できなくなるじゃないですか。それで負けるなら、最初から一緒に入らない方が良いんじゃないですかぁ』

 得意気な様子の柊亜寿沙に、五井がしかめっ面を向けた。

『そんなに危険な場所なら、なおさら子供だけで行かせるのは駄目だろう』
『でも巨大カマキリが大量に出たら、都道府県の半分以上に人が住めなくなって、皆が困るじゃないですかー』

 柊のデモデモ攻撃に、五井のこめかみがヒクヒクと動く。
 柊の間延びした口調はともかく、主張の方は正論だ。
 突入する子供達が動揺して戦闘に支障が出る要素は極力排除すべきであるし、子供達を突入させないまま日本に巨大カマキリを放出させるわけにもいかない。
 ここまでの状況に持って来るだけでも、井口豊が極めて重要な時期に自ら次郎の調整に専従し、自身の孫娘を差し出すなど、多大な負担をしているのだ。
 井口総理と広瀬防衛大臣は、特攻隊を突入させると言う結論を出しており、より確実で時間的にも確実に間に合う対案が示されない限り、今回の作戦を中止することは無い。
 もっとも倫理面では、五井の発言も決して間違いでは無いが。

 なお圧倒的なレベルを持ち、政権交代直前に中級ダンジョンを攻略してみせた政府協力者の山田太郎氏は、第二次特攻隊のパワーレベリングを施していると政府が伝えているため動かせない。
 第二次特攻隊は、残る都道府県の攻略に欠かせない人員だ。
 それを育成している山田太郎氏を第一次特攻隊に加えるのは本末転倒であり、最初から解決策としては挙がらない。
 のほほんとしている次郎だが、世間的には最も苦労している事になっている。

『千葉先生はどう思われますか』
『第一次特攻隊は、政権交代直後とカマキリ出現間近のために人数が揃えられませんでした。ですが第二次特攻隊以降は、転移能力を使えばもっと大人数で、安全に攻略出来るのでは無いでしょうか』
『なるほど』
『最も過酷なのは、第一次特攻隊の皆さんです。転移が使えず、一六日間も魔物が襲ってくるダンジョン内を進まされれば心身共に疲弊します。そんな疲れ切った子供たちだけで、軽トラックサイズの女郎蜘蛛たちの巣に入るなんて、想像を絶します』

 千葉の発言に対して、画面の端に映っている五井が力強く頷いた。

『身柄を徴用された第一次特攻隊への対価は、報酬と好きな進路への無条件合格だと聞きますが、子供達に命と時間を差し出させる以上、恩恵を受ける日本が対価を支払うのは当たり前です。せめて政府は、充分な報酬を出してあげて欲しいです。一ヵ所に付き、一県と一〇〇万人以上が救われるのですから』
『そうですね。ではここで現地と中継が繋がってい…………』
「おい、ナカさん。フナヤマンが来たぞ」

 生徒たちが、一斉に座席へと戻りだした。
 次郎も慌てて戻り、何事も無かったかのように教科書とノートを取り出して机の上に並べていく。
 起立、礼の号令に合せて身体が条件反射的に動き、着席の後に授業が始まった。
 とはいえ、手慣れた生徒は机の中に起動済みの携帯端末を隠し入れ、教師の隙を窺って覗き見ている。また壁際や窓際の上級者は、ワイヤレスイヤホンを片耳に取り付けて情報を収集している。

「速報だっ。岐阜県が、多階層円柱に変化したって!」

 突然立ち上がった中川が、覗き見ていたニュース速報を大声で伝えた。

「「おおおおっ」」

 待ち望んでいた報告にクラス中がどよめき、拍手と歓声が一斉に鳴り響いた。
 綾香の担当する岐阜ダンジョンが無事攻略された事で、次郎もやや安堵した。彼女のレベルは、次郎が初級ダンジョンを攻略した時よりも高いが、促成栽培のお坊ちゃまお嬢ちゃまに足を引っ張られる可能性は完全には拭えなかったのだ。
 中川の大騒ぎは、担任が歩み寄って頭上から拳骨を落とすまで続けられた。

「いてぇ」
「隣のクラスに聞こえるだろうが。大林先生が授業中なんだから静かにしろ」
「えー、フナヤマン、立場弱すぎー」
「やかましい。ほら、他の奴等も携帯仕舞え。授業が終わってからにしろ」
「体罰―、体罰―」
「仕舞わなければ、携帯を一日預かるぞ」

 何人かが大慌てで携帯を仕舞い込んだ。
 携帯端末を没収されては、堪ったものでは無い。
 素直に五〇分間の授業を受けた生徒達は、授業が終了すると一斉に各自の端末などからテレビを見始めた。
 次郎と美也が覗き込んだ端末には、六県の中継映像が流れていた。そのうち福島、岐阜、三重、愛媛、熊本の五県が、既に多階層円柱に変わっている。
 すると案の定、クラス中が大騒ぎを始めた。
 特攻隊の作戦成功が六県中一県であるのと、六県中五県であるのとでは、今後の作戦がまるっきり変わってくる。
 六県中五県成功するのであれば、このまま特攻を続けさせれば、日本中の初級ダンジョンが巨大カマキリの氾濫前に攻略できるのだ。
 戦略が『全都道府県にカマキリ以降の魔物を氾濫させないようにする』で、戦術が『育成した特攻隊を投入してダンジョン攻略させる』である以上、第一次攻撃の戦果は上々と言えるだろう。

「同じ時間に一斉突入したのか?」
「こんなに短時間で一度に変わっているなら、そうじゃないかな」
「ふーん。残りは岡山県か」
「時間を合わせて突入したなら、五〇分も経って岡山が変わっていないのは、あんまり良くないね」
「…………そうだなぁ」

 次郎と美也は暫く端末を眺めていたが、岡山県のドーム状の巨大構造物が多階層円柱に変わる映像は見られなかった。
 そのうち英語の女教師がやってきて、無情にも教卓を出勤簿で叩いた。
 既にチャイムは鳴っており、現在は授業中である。

「先生-、今大事なところなんですよー」
「帰ったら何度でも再放送しているから、家に帰って見なさい」
「鬼―悪魔―独身―」
「鳥内君、それは宣戦布告ですか」

 三〇代の女教師が、鋭い目つきになって威圧を始めた。
 鳥内は宣戦布告文である『四捨五入』は口に出さず、渋々と生放送を諦めて端末を机の中に放り込んだ。
 その後、生徒達は英語を含めた二つの授業をやきもきしながら聞き流し、午後に入ったところでようやく吉報を耳にした。
 全国の半数にあたる二三都道府県の初級ダンジョンが攻略され、特攻隊員は全員が無事生還を果たした。

 後日次郎が聞いたところに寄れば、攻略が遅れたのは、脱落者が居た為であるらしい。三二名中二名が、ボス部屋突入以前の精神面による問題で脱落した。
 地下一〇階以降の魔物達を目の当たりにして、パワーレベリングで楽をしていた反動が出て耐えられなくなったのだ。大量の巨大蜘蛛が蠢く地下一五階あたりを歩けば、精神に負荷が掛かっても仕方が無い部分はある。
 戦闘中に他の隊員の足を引っ張るくらいなら、最初からボス部屋に入れない方がマシというのが現場の判断だ。二人は本人の辞退という形で自衛隊と共に留まり、多階層円柱への形状変化と共に外へ出されている。
 パワーレベリングを受けておきながら、周囲の足を引っ張っただけで終わった。
 二人分のレベル三一に上がるだけの経験値を他に回せば、他の隊員のレベルが一つ上がったかもしれない。
 その分は推薦者が特攻隊の立場を擁護するなど、自ずと責任を負う事になる。
 なお特攻隊への対価である『好きな進路への無条件合格』や『一時金と特攻隊年金』も、作戦から降りた事で貰えない。そして何より、ボスを倒していないため、ダンジョンの攻略特典が得られない。
 脱落組は、未成年者として顔出しや氏名の公表が無かった点が救いとなり、単に病気療養していた形で医師の診断書を添えられて復学した。



 結果としては、四名班一個、五名班四個、六名班一個での攻略となった。
 ただし総合評価は、同じ班でもバラバラに分かれた。

 福島班、六名。総合評価『D、C、D、D、D、C』
 岐阜班、五名。総合評価『B、B、B、B、B』(綾香は自己申告)
 三重班、五名。総合評価『B、B、B、B、C』
 岡山班、四名。総合評価『A、A、B、B』
 愛媛班、五名。総合評価『C、C、C、C、B』
 熊本班、五名。総合評価『C、C、C、C、C』

 六名が悪く四名が良い結果なのは、『対ボス戦の人数』の影響だろう。
 また愛媛班は、Bの一人だけが休憩時間も熱心に魔物を倒し続けており、逆に三重班は一人だけがサポートに集中して魔物撃破数が少なかったため、『各魔物の一定数撃破』があると予想された。
 熊本班は自衛隊の調べた最短コースを進んでおり、『フロア踏破率』が影響したと思われた。他にも機動隊と自衛隊の蓄積から、『レベル』も影響すると判明している。

 総合評価Bは、『能力加算+八』、『転移能力(一回/二日)』、『収納能力(一〇フィートコンテナ分)』からの選択だ。
 総合評価Cは、『能力加算+四』、『転移能力(一回/四日)』。
 総合評価Dは、特典が得られない。

 六名班で突入して、個々の魔物退治が不足して評価Dになった四名は、とても残念な結果となった。
 だがいずれにせよ第一次特攻隊三〇名は、日本を救う英雄となった。
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